時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第五節「交錯する想い 友よ知れ 命はそこにある」

~来訪 決意 ふるいに掛けて~

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「んご……だいまるくん、それはとうふぃ……」

 朝に弱い瀬玲にとって、土日は安息の日だ。
 こうして日が昇ってもなお布団を抱き込んで寝言を呟く事が出来るのだから。

 一体何の夢を見ているのか、それは彼女にしかわからないが。

 既に時刻は八時過ぎ。
 日光がカーテンの隙間から射し込む程に外は明るい。

 その光が部屋の奥に備えられたクローゼットを照らし。
 扉に引っ掛けて吊るされた一枚の衣服の彩りを周囲から浮かばせる。

 それはいつだか勇に借りたパーカー。

 丁寧にアイロンが掛けられ、折れ筋一つ見られない。
 綺麗な様相を誇っていて、瀬玲の律儀さが滲み出ているかのよう。
 いつか返そうと整えたままなのだろう。

 でも本人はそれ程焦ってはいない様だ。
 何故なら、こうして休みの日になっても返しに行くどころか眠りふけている訳で。



 だがその時、家一杯に呼び鈴の音が鳴り響く。
 まるで無粋な安眠を妨げるかの如く。



 これには瀬玲も目を覚めさせざるを得ない。
 それというのも、この様に朝っぱらから訪れる者など一人しか思い浮かばない訳で。
 
「ん……まさかシン、またぁ?」

 その様子は当然の如く不機嫌そのものだ。
 眠りを起こされたのは当然の事、楽しい夢から醒まされれば気も悪くなるだろう。

 抱き枕と化した布団から身を離してベッドから起き上がり。
 未だ眠気を伴うトロンとした眼を擦る。

 そんな彼女の有様は家の外とは大違いだ。

 セミロングの髪が所々に寝ぐせで跳ね上がり。
 口元にはよだれの跡が僅かに浮かぶ。
 おまけに大きな欠伸をかくも、自分の部屋だからと口を塞ぐ事さえしない。
 ついでにボリボリと痒いお尻を掻くといった有様だ。

 誰もいない自室だからこそ見せられる痴態である。

 すると階下から誰かの階段を駆け登る足音が聴こえ。
 間も無く部屋の扉からノックの音が「コンコン」と響く。

 訪れたは瀬玲の母親だ。
 瀬玲には聴き慣れて久しい事もあって足音だけでも十分判別は付く。

「セリ、お客さんが来たわよ、ボランティアの」

「は……? ボランティア?」

 でもそんな母親の言った事が何なのかまではわからなかった様で。

 瀬玲はどうやらその「ボランティア」とやらに何の思い当たる節も無く。
 「んん?」と頭を抱えて思い起こそうとするも、全く見当も付かない様子。

 だがその間にも母親の「早く早く」と急かす声が聴こえて来ていて。
 
「なんなのよぉ~……ったく」

 堪らずそんな愚痴が口から漏れる。
 知らないという事もあってとても面倒臭そうだ。

 頭をワシャワシャと掻き毟ると、重い体を立たせて部屋を出る。
 人前に出るともあって、痴態を見せない様にと跳ねた毛を手櫛で整えながら。

 そうして階段の前へとその身を晒すと―――



 そこから見える玄関には、灰色のスーツを着込んだ一人の老人の姿が。



 その姿は見た事が無い様でどこか見覚えが。
 荒れた姿の瀬玲を前にしてもなお澄んだ表情を変えないまま堂々と佇んでいる。

 そして何より、その隣には勇が立っていて。

「おはようセリ。 いきなりで悪いんだけど、すぐに出かけるから準備してきて貰えるかな」

「……うん、わかった」

 それが瀬玲に何かがある事を察させたのだろう。
 返す声もどこか真剣味を帯びていて。
 たったそれだけで、彼女の動きをいつも通りの「クール&ビューティ」へと戻していた。





 勇の急かす様な一言は、瀬玲の行動を著しいまでに加速させる事に。
 ほとんど化粧する事も無く、必要な身支度だけを手早く済ませ。
 お洒落にも気を遣わずに着慣れた洋服へと着替え、再び勇達の前に姿を現す。

 何せ元々素顔ナチュラルでも平気な程に顔が整っている訳で。
 常日ごろ美顔を心掛けるという努力の賜物か。
 そこに自信があるからこその采配なのだろう。
 
「セリがボランティアに応募してたなんて聞いたからびっくりしたわよ。 頑張ってきてね」

「うん、行ってきます」

 隠し事の苦手な勇とは違い、瀬玲のそう返す姿はとても自然だ。
 あたかも、本当に何かのボランティアへ行くのだろうと思える程に。

 母親もそれで充分信じた様で。
 瀬玲達へ小さく手を振って送り出す。



 こうして瀬玲は勇と福留に誘われ、家の前に停まる白いワゴン車へ乗り込んでいき。
 彼等を受け入れた車はそのまま大通りへと向けて静かに走り去っていったのだった。
 




◇◇◇




 半ば勢いのままに車へと乗り込んだ瀬玲。
 しかし彼女は今、戸惑いを隠せないでいた。

 それもそのはず。
 自分の隣に心輝が座っていたのだから。
 もちろんあずーも一緒に。

 そんな瀬玲達の対面で座るのは勇とちゃな、そして福留。
 
 先日の勇と心輝の確執はまだ解決には至っていない。
 でもこうして突然呼び出され、得体の知れない老人の前に座らされている。
 その不思議な状況が不安を呼んでならなかったのだ。

 もちろんその心境は心輝も同じなのだろう。
 いつもの雰囲気は当然無く、神妙な面持ちで俯いたまま。
 目のやり場にすら困っている様で、落ち着きも無く視線を右往左往させていて。

 あの元気なあずーですら、その雰囲気を前に黙りっぱなしだ。
 何かがあるという空気をしっかり読んでいる様子。

 しかも未だ行き先も説明も何もかもが無いまま。
 勇もちゃなも何も言わずに黙ったままなのである。

 その間も車は走り続け。
 とうとう彼等が良く知るショッピングモールの横を過ぎ去っていく。

 するとそんな時、福留が「そろそろいいでしょう」と小さく呟き。
 勇がそれに応える様に小さく頷きを見せていて。

 心輝達もまたそれに気付いて視線を向ける中、勇が遂に沈黙を解き放つ。

「二人共、俺が何してるのかって知りたがってただろ? だから少しこの人に無理を言って、事情を話せる様にお願いしたんだ」

 そしてその手がそっと福留に向けられ、三人の視線を集める。
 とはいえ、三人ともやはり浮かない表情のままだ。
 相変わらずの笑顔も、疑いの目を前には疑心暗儀しか呼び込まない様で。

「どうも皆さん初めまして。 わたくし、福留と申します」

「「「どうも……」」」

 紹介を済ませて会釈し合うも、心輝達は相変わらず眉間にシワを寄せたままである。

「さて、ここからは私が説明させて頂きます―――が」

「……が?」

「まず手始めに注意事項から。 これからお伝えしようとしている話はいわゆる他言無用の類でして。 もしもこの話を聞いたら皆さんは漏れなくとなられます」

「か、関係者……」

 関係者。
 つまりは秘密を知る人間として扱われるという事。
 しかも得体の知れない老人が隠す程の秘密である。

 この一文を前に、心輝も瀬玲もあずーも揃って動揺するばかりだ。

 だがそれでも構う事無く福留が続きを語る。
 まるで三人を戒めるかの如き厳しい言葉を連ねて。
 
「えぇそうです。 それでもしも関係者となられた場合、不用意に無関係の方々へその内容を漏らした場合……そうですねぇ、それ相応の罰が与えられる場合があります」

「罰って……」

「はい、罰です。 しかも場合によっては今後の生活あるいは人生に影響が出るかもしれません」

 これはもはや脅しにも近い。
 そう語る福留の瞳には妖しさが帯び、ただならぬ雰囲気を醸し出していて。

 それが心輝達に多大な怯えを呼び、首すらも引かせる。

 彼等にとってはそれだけ恐ろしく感じていたのだ。
 今こうして話を交わす事すら憚れる程に。

「もちろんここまでで聞くのを辞退する事も出来ますので、決めてください。 ここならまだ徒歩で帰る事も出来る距離ですから」

 車はまだ隣町に入ったばかりで、ここから家までならまだ歩いて三十分程度。
 でもこうして悩んでいる間にも車は走り続け、彼等の帰路を延ばすばかりだ。

 もしも話を聞く事を拒否するのであれば、だが。

 しかし事情を知らされないままの三人にとって、この決断はとても重い。
 真実を知って隠して生きるか、それとも二度とその事へ触れずに生きるか。
 不安が、戸惑いが、彼等に判断を迷わせる。
 自分達がこんな事を決めて良いのか、と。

 三人とも精神的には大人に近くなってきているとはいえどもまだ子供で。
 こんな決断をした事など一度もあるはずが無い。
 ならばとこの様に迷ってしまうのも当然だ。



 だが、心輝だけは違った。



 どうしても勇の秘密を知りたいという想いがあったからだろう。
 加えて、もあったからこそ―――

「―――わかった、俺は聞く」

 拳を「グッ」と握り締め、想いの強さを姿・言葉で体現する。
 そう言い切った以上、その意思にもう躊躇いは無い。

 ただ、そんな心輝の心情など知らぬ瀬玲は気が気ではなく。 

「ちょ、シン!?」

 安直に決めたとすら思える程の回答の速さに狼狽えを見せる。
 普段から軽い心輝を知るのだからなおさらだ。

「おにいが聞くなら私も聞くー!」
「あ、あずー!?」

 しかもあずーまでもが。
 これには瀬玲も慌てるばかりで。

「ちょっと! そんな簡単に決めて良い事じゃ―――」
「ならお前だけ帰れよ。 俺はもう決めたからな」

 瀬玲の説得も虚しく、心輝は相変わらずの強情さを見せつけるのみ。
 断固として引こうとはしない。

 彼の性格上、こういう時にやたらと強気になるのはいつもの事で。
 言っても聞く事さえしないあずーは論外である。

 こうもなれば二人を止める事は叶わないのは瀬玲の良く知る所だ。
 だからこそ、ただただ呆れ果てて溜息しか出ない。

 でも放っておく事の出来ない彼女だからこそ―――

「んもぅ、わかったわよ……私も聞きます」

 こう答えざるを得ない訳で。

 とはいえ、こうして三人とも話を聞く事に。
 完全な自意識での決断とは言い難いが。

 それでも福留にはそう決断出来た事だけで十分だったのだろう。
 「ウンウン」と頷いて優しい微笑みを向けていた。
 


 福留がそう脅しにも近い話を仕掛けたのも、もちろん理由がある。
 勇達の秘密を知るからには断固とした意思を持つ必要があるからだ。
 絶対に他人へ秘密を漏らさないという強固な意思が。

 もしも決断を決めあぐねる様であれば、適当な事を言って降ろすつもりだった。
 拒否する様であれば強権を行使して勇達から引き離す事すら吝かではなかった。

 でも三人はこうして聞く事を選んだ。

 だから福留は三人を認めたのだ。
 彼等が信頼に値する人物達であるという事を。

 勇が信じてもいいと思える人物なのだと。


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