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第三十六節「謀略回生 ぶつかり合う力 天と天が繋がる時」
~Cris de tonnerre rouge <灼雷咆哮> 心輝とアルバ③~
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再びアルクトゥーン、命力供給室。
休憩を続ける剣聖達の世間話を続ける姿が。
「―――で、お前の推しは誰なんだぁよ?」
自分ばかり訊かれるのは癪なのか、下唇をツンと突く様に上へ伸ばしていて。
とはいえこう返す辺り、剣聖も割と乗り気なのだろう。
「そうねぇ、私は―――心輝君かしらねぇ。 一番強いって思ってる訳じゃあないけど」
「ほぉ? 随分な入れ込み具合じゃあねぇか」
ただこの答えもなんとなく予想はしていたのだろう。
剣聖は「ヘッ」と鼻で笑いつつも、片笑窪を上げた笑みを見せつける。
ラクアンツェが称号をもたらした辺りから察しは付くもので。
加えてその理由も容易に想像出来るからこそ。
「当然よぉ、あの子と私の戦闘スタイルは似てるもの。 だからついつい教えちゃったぁ!」
「……アレをかよ。 えげつねぇなぁおめぇ」
しかし途端にその余裕そうな笑みも、たちまち苦虫を噛み潰した様なしかめっ面に。
二人の知る秘策とはそれ程までに強力な助言なのだろうか。
「で、会得出来たのかよ?」
「フフッ、そんな訳無いじゃなぁい」
でもどうやら何事も万事抜かり無く、という訳ではなさそうだが。
「【光破滅突】は格闘用骨格を持つ【ウーグィシュ】専用技みたいなものだから、あれを普通の人間が体現出来る訳が無いじゃない?」
「そりゃな」
そう、二人の言うアレとはすなわち、ラクアンツェの必殺技である【光破滅突】の事。
この技は本来、絶対破砕の威力を秘めている。
相手が余程特異的な能力を持っていない限り、防ぐ手段が無い程の威力を。
超速故の絶対回避不可。
真芯一閃故の絶対貫通。
その威力は相手がいくら強かろうが関係無い。
アルバの様な圧倒的防御力を誇ろうとも。
一撃の名の下に、全てを終わらせられる程の技なのである。
欠点があるとすれば、「充填時間」くらいだろうか。
ただそれは、ラクアンツェが纏う【ウーグィシュ】の特性があるからこそ。
格闘を行う為だけに創られた骨格だからこそ、その威力を体現出来るのだ。
そんな技をただの人間に真似する事は出来ない。
「……だから、その原理だけを教えてあげたわ。 後は彼なりに噛み砕いて、自分らしい形で成し遂げてみなさいって」
でも再現する事ならば事実上、可能。
後はどれだけ原理を理解し、自分の力をその領域にまで持っていけるか、ただそれだけだ。
そしてそこに至るという事はつまり―――
「ほぉ、なら楽しみじゃねぇか。 野郎なりに考えた一撃ってヤツがどんなもんかがよ」
―――剣聖が「ニタァ」と笑みを浮かべる程に、興味深い結論へと至るだろう。
こうして雑談も間も無く終えて、二人が再びポッドへ足を踏み入れる。
ラクアンツェが心輝に託した秘策。
それが結論に至ったかどうかは二人にもわからない。
だがもう二人には何の疎いも無い。
語り合った上で、もう何も心配する必要は無いと理解したから。
勇達はもう、剣聖達が認める程の戦士へと成長を果たしたのだから。
敗ける結果など、もはや見えてはいない。
◇◇◇
圧倒的な筋肉防御力を見せつけるアルバを前に、心輝の焦りは高まるばかりだ。
加えてトラウマ的存在であるギューゼルの幻影が重なり、一歩さえ踏み出せない。
「理解したかシンキボゥイ!? 俺の筋肉の素晴らしさを!! 理解したならば貴様も一緒にマッスルアップをしようじゃあないかあ!!」
対するアルバはもはや有頂天である。
心輝の連続攻撃に耐え、己の強さを証明して見せたから。
その上で自身の筋肉の自慢が出来た事が、この上無く喜ばしかったから。
そうして両腕を左右に広げて掲げる様は、もはや心輝を押し潰さんが如き圧力を秘める。
離れていようとも関係無く。
「―――ヘッ、お断りだね」
だが心輝は、それでいて―――妙に冷静だった。
それは決して虚勢では無い。
だからといって逆転出来る確証がある訳でもない。
それは単に、心輝がもう子供では無いからである。
昔の心輝なら簡単に取り乱していただろう。
動揺し、戸惑い、考える事を放棄していたかもしれない。
ここで諦めて、仲間に助けを求める事さえ有りえた。
でももう今の彼は不退転。
逃げた事で失われる物の重さを知ったから。
諦める事で掬い取れない願いを知ったから。
大地を突く足は、大きく開き。
両腕を、肘同士が付かんばかりに引き絞る。
そうして見せたのは―――笑み。
妹あずーがそうだった様に。
己の心がそう強く望む様に。
何事にも前向きに、明るくあれ。
情熱を忘れず、本気で取り組む。
これこそが園部心輝の真骨頂。
「わかったぜアルバさんよぉ……貫けねぇって自信はその強さじゃなく、過信にも近いアンタの理想から生まれたモンなんだってよ」
「ヌゥ!?」
その意思が、想いが駆け巡った時―――心輝の体に異変が起きる。
光が、消えたのだ。
彼を包んでいた命力の光が。
今まで迸らんばかりに体を覆い尽くしていたのにも拘らず。
「けどよォ、それは俺だって同じだぜ。 この拳に持ってる理想は、自信は―――何モンだって止められやしねぇ……!!」
いや、厳密に言えば消えたというのは違う。
左腕だけが、輝きを失ってはいなかったのだ。
まるで全身の命力を凝縮させた様に、煌々とした朱光を滾らせていたのである。
「だったら俺は貫く。 アンタも、デュランも、アルトランの策略も!! 何もかもブチ抜いて串刺しにしてやるッ!! それが俺の信念だッッッ!!!」
「だからそれは出来ぬとォ―――ッ!?」
しかしそう言い放とうとしたアルバの口が突如として押し黙る。
その時、見えてしまったのだ。
心輝のその自信の根源を。
利き手に輝く力の奔流を。
その姿―――刺刀拳。
しかもこれ程かというまでの命力が圧縮されたもの。
茶奈達が見せたフルクラスタや、ギューゼルが見せた命力拳のそれと同等。
でも何かが違う。
本来なら具現化した命力は個体の様に形状を維持している。
けれど心輝が撃ち放っているのは、どちらかと言えば―――
―――勇の命の剣と同じ様相。
触れただけで何もかもをも削り取る圧倒的力の放出。
それを心輝は拳から撃ち放って見せているのである。
決して【ラークァイト】を得たから無限の命力を手にしたという訳ではない。
加えて心輝の命力の質は以前からほぼ変わっておらず、その量も限りある。
なのにも拘らず、こうして体現出来ているのだ。
もしその本質を理解している者なら、誰しもが驚愕するだろう。
「何故心輝はそれだけの出力を体現出来ているのか」と。
だがアルバはそんな細かい事など考える男ではない。
「ふははは!! 拳で貫けぬから剣とは!! その様な小細工などォ!! 俺の筋肉の前には無意味だあッ!!!」
例え異様な様相の力を見せつけようとも、自信が崩れる訳ではない。
むしろ打ち込んでみろと言わんばかりに再び筋肉を見せつける程だ。
ただもう、そんな茶番に付き合うほど心輝に隙は無い。
今はただ静かに真っ直ぐ見据えるだけだ。
己に秘めた激情を爆発させるその瞬間まで。
「……関係ねぇよ」
「ははは―――は?」
「俺のこの一撃は、お前の意思なんざ何の意味も成さねぇ」
この心輝の豹変ぶりは、アルバの有頂天さえも掻き消す事となる。
たちまち互いが押し黙り、一触即発の睨み合いが互いの間で火花を散らす。
「ならばやってみるがいい。 俺の筋肉は貴様には貫けぬ。 この肉体の強靭さは不動なり」
それでもアルバの自信は揺るがない。
その体を「ギリリ」と擦り鳴らしながら、目の前の敵に対して迎え撃つ。
こうして見せる姿は、強大な重圧を伴うもの。
心輝の頭上を覆い尽くさんばかりに。
その姿勢、もはや隙一つ無し。
「そうだな。 でもな、そういう意味じゃあねぇんだよ」
その様な相手を前にしてもなお、心輝はもう怯まない。
渾身の一撃を撃ち放つ覚悟が、決意が、一切の迷いを消し飛ばしたから。
隙の無い防御網を前に、心輝の【命眼】が結論を導き出す。
ピアノ線の様に見えない程の細い軌跡を辿りながら。
そうして見えた先は―――確信。
「俺が貫くってぇのは―――壁じゃねぇーーーッッッ!!!!!」
その時、遂に真の紅雷光がその場に顕現する。
まさに稲妻。
まさに雷光。
紅色の閃光がまるで無軌道に軌跡を刻む。
とめどなく、規則なく、思うがままに。
アルバの掲げる防御の中を、光が突き抜けたのだ。
今までならば簡単に身体が砕けていた雷光瞬進。
それも今や何の抵抗さえ無い。
慣性さえ掻き殺し、意思のまま自由に動き、時間を与えない。
もうその速度、捉えられる者無し。
「速いだけではァーーーーーーッ!!!」
そんな心輝へ巨大な両腕が襲い掛かる。
まるで全方位から包む様にして。
だがそれも―――【命眼】の予測範囲内。
懐に飛び込む事だけを考え、その答えは導き出された。
ありとあらゆる可能性を掴み取る為に。
ありとあらゆる危険性を、躱すのではなく突き抜ける。
そう、突き抜けたのだ。
圧し掛からんと襲い掛かる指と指の間を。
まるで通った心輝が縮んだのかと思える程に狭い間を。
そんな信じられない光景がアルバの目に映る。
自身の眼前を跳ねる心輝の姿を。
その姿がアルバに咄嗟の頭部防御を取らせる事となる。
こう出来る筋肉もまた伊達では無いからこそ。
それも―――【命眼】の予測範囲内に過ぎないが。
だからこそ、心輝は立つ事が出来る。
何物をも遮らない、筋肉の鎧の前に。
アルバの懐という、一撃を見舞うのに最もふさわしい場所に。
「なんだ―――とッ!?」
その時、アルバは見下ろす事しか出来なかった。
既に懐へ潜り込んでいた心輝を目前にして。
防御する為の筋肉が、肉体が、それ以上の動きを拒否していたのだ。
だからアルバは耐える事を選んだ。
己の腹筋に全てを懸けて、心輝の一撃に備えるのみ―――
「関係ねぇと言ったあッ!!! 防御も肉体も何もかもッ!!!」
ここまでに心輝が描いた軌跡―――それは螺旋。
でもただの螺旋では無い。
左拳を常に最大回転させ、その回転力を高める為だけの旋回軌道である。
つまり、本命の拳は常に回転慣性を極限にまで受け続けている。
一切留まる事無く。
そこから導かれた突撃力はかつての拳を桁違いに超した。
そこにもはや防御など―――無意味。
想いを篭めた獄炎が。
意思を伝えられた雷光が。
今一つに混ざり合い、最強最高の一撃を体現する。
これぞまさに、灼雷の咆哮。
「俺の一撃は全てをブチ貫くッ!!! ラティスタン・ロアァーーーーーーッッッ!!!!!」
そして光拳がアルバの腹部を貫いた時。
その瞬間凄まじい光が迸り、鍛えられた肉体全てを包み込む。
真の意味で。
魔剣すらも通り越し、体を纏う命力壁すらも貫いて。
その先で打ち放たれた紅烈閃がアルバの全身から噴き出したのだ。
そう、これは内部からの閃光爆焼。
全ての防御を無視した烈貫爆拳。
今、アルバはまさしく、全身くまなくを超烈光によって焼き尽くされたのである。
心輝が生み出した光剣は決して剣ではなく。
貫くという意思が具現化しただけのただの飾りに過ぎない。
ただその意思はもはや壁すら無為とする程に鋭利重貫。
相手の防御を構成する分子結合や命力の隙間さえも縫い、貫いて。
そしてそこから放出された紅烈光が全身くまなくを焼き尽くす。
ラクアンツェから教えてもらった【光破滅突】の原理を生かし。
心輝なりの命力充填方法を確立し。
紅雷光の軌跡を利用して突貫力を強化させた。
その上で、更に進化させたのだ。
その集大成たる一撃を前にすれば、もはや如何な信念さえも無意味。
あらゆる想いもブチ貫いて、何もかもをも内側から焼き尽くす。
その特性、物理を貫く稲妻が如し。
その威力、万物を焼く業炎が如し。
これこそが【灼雷の咆哮】。
情熱と激情を力に換える心輝の―――最強最高の必殺拳である。
この一撃を前に、もはやアルバとて耐えきれる訳も無かった。
たちまち全身から黒い煙が上がり、その意識さえも煙の様に消える。
でも死んでは居ない。
それだけ彼の肉体と精神は強靭だったという事なのだろう。
これには心輝も堪らず苦笑いを浮かべずにはいられない。
「アンタすげぇよ。 この一撃を受けてもまだ立っていられるなんてよ」
心輝の言う通り、アルバはまだ立ったまま。
意識を手放しても、戦いに負けたとしても。
彼はまだ―――愛する筋肉に負けさせてはいなかったのだ。
こうして二人の戦いは終わりを告げ、心輝の勝利で幕を閉じた。
でももう心輝はこれ以上戦うつもりは無い。
後は信じる仲間達に委ねて体を休めるのみ。
自分が信じられた様に、彼もまた信じるだけだ。
休憩を続ける剣聖達の世間話を続ける姿が。
「―――で、お前の推しは誰なんだぁよ?」
自分ばかり訊かれるのは癪なのか、下唇をツンと突く様に上へ伸ばしていて。
とはいえこう返す辺り、剣聖も割と乗り気なのだろう。
「そうねぇ、私は―――心輝君かしらねぇ。 一番強いって思ってる訳じゃあないけど」
「ほぉ? 随分な入れ込み具合じゃあねぇか」
ただこの答えもなんとなく予想はしていたのだろう。
剣聖は「ヘッ」と鼻で笑いつつも、片笑窪を上げた笑みを見せつける。
ラクアンツェが称号をもたらした辺りから察しは付くもので。
加えてその理由も容易に想像出来るからこそ。
「当然よぉ、あの子と私の戦闘スタイルは似てるもの。 だからついつい教えちゃったぁ!」
「……アレをかよ。 えげつねぇなぁおめぇ」
しかし途端にその余裕そうな笑みも、たちまち苦虫を噛み潰した様なしかめっ面に。
二人の知る秘策とはそれ程までに強力な助言なのだろうか。
「で、会得出来たのかよ?」
「フフッ、そんな訳無いじゃなぁい」
でもどうやら何事も万事抜かり無く、という訳ではなさそうだが。
「【光破滅突】は格闘用骨格を持つ【ウーグィシュ】専用技みたいなものだから、あれを普通の人間が体現出来る訳が無いじゃない?」
「そりゃな」
そう、二人の言うアレとはすなわち、ラクアンツェの必殺技である【光破滅突】の事。
この技は本来、絶対破砕の威力を秘めている。
相手が余程特異的な能力を持っていない限り、防ぐ手段が無い程の威力を。
超速故の絶対回避不可。
真芯一閃故の絶対貫通。
その威力は相手がいくら強かろうが関係無い。
アルバの様な圧倒的防御力を誇ろうとも。
一撃の名の下に、全てを終わらせられる程の技なのである。
欠点があるとすれば、「充填時間」くらいだろうか。
ただそれは、ラクアンツェが纏う【ウーグィシュ】の特性があるからこそ。
格闘を行う為だけに創られた骨格だからこそ、その威力を体現出来るのだ。
そんな技をただの人間に真似する事は出来ない。
「……だから、その原理だけを教えてあげたわ。 後は彼なりに噛み砕いて、自分らしい形で成し遂げてみなさいって」
でも再現する事ならば事実上、可能。
後はどれだけ原理を理解し、自分の力をその領域にまで持っていけるか、ただそれだけだ。
そしてそこに至るという事はつまり―――
「ほぉ、なら楽しみじゃねぇか。 野郎なりに考えた一撃ってヤツがどんなもんかがよ」
―――剣聖が「ニタァ」と笑みを浮かべる程に、興味深い結論へと至るだろう。
こうして雑談も間も無く終えて、二人が再びポッドへ足を踏み入れる。
ラクアンツェが心輝に託した秘策。
それが結論に至ったかどうかは二人にもわからない。
だがもう二人には何の疎いも無い。
語り合った上で、もう何も心配する必要は無いと理解したから。
勇達はもう、剣聖達が認める程の戦士へと成長を果たしたのだから。
敗ける結果など、もはや見えてはいない。
◇◇◇
圧倒的な筋肉防御力を見せつけるアルバを前に、心輝の焦りは高まるばかりだ。
加えてトラウマ的存在であるギューゼルの幻影が重なり、一歩さえ踏み出せない。
「理解したかシンキボゥイ!? 俺の筋肉の素晴らしさを!! 理解したならば貴様も一緒にマッスルアップをしようじゃあないかあ!!」
対するアルバはもはや有頂天である。
心輝の連続攻撃に耐え、己の強さを証明して見せたから。
その上で自身の筋肉の自慢が出来た事が、この上無く喜ばしかったから。
そうして両腕を左右に広げて掲げる様は、もはや心輝を押し潰さんが如き圧力を秘める。
離れていようとも関係無く。
「―――ヘッ、お断りだね」
だが心輝は、それでいて―――妙に冷静だった。
それは決して虚勢では無い。
だからといって逆転出来る確証がある訳でもない。
それは単に、心輝がもう子供では無いからである。
昔の心輝なら簡単に取り乱していただろう。
動揺し、戸惑い、考える事を放棄していたかもしれない。
ここで諦めて、仲間に助けを求める事さえ有りえた。
でももう今の彼は不退転。
逃げた事で失われる物の重さを知ったから。
諦める事で掬い取れない願いを知ったから。
大地を突く足は、大きく開き。
両腕を、肘同士が付かんばかりに引き絞る。
そうして見せたのは―――笑み。
妹あずーがそうだった様に。
己の心がそう強く望む様に。
何事にも前向きに、明るくあれ。
情熱を忘れず、本気で取り組む。
これこそが園部心輝の真骨頂。
「わかったぜアルバさんよぉ……貫けねぇって自信はその強さじゃなく、過信にも近いアンタの理想から生まれたモンなんだってよ」
「ヌゥ!?」
その意思が、想いが駆け巡った時―――心輝の体に異変が起きる。
光が、消えたのだ。
彼を包んでいた命力の光が。
今まで迸らんばかりに体を覆い尽くしていたのにも拘らず。
「けどよォ、それは俺だって同じだぜ。 この拳に持ってる理想は、自信は―――何モンだって止められやしねぇ……!!」
いや、厳密に言えば消えたというのは違う。
左腕だけが、輝きを失ってはいなかったのだ。
まるで全身の命力を凝縮させた様に、煌々とした朱光を滾らせていたのである。
「だったら俺は貫く。 アンタも、デュランも、アルトランの策略も!! 何もかもブチ抜いて串刺しにしてやるッ!! それが俺の信念だッッッ!!!」
「だからそれは出来ぬとォ―――ッ!?」
しかしそう言い放とうとしたアルバの口が突如として押し黙る。
その時、見えてしまったのだ。
心輝のその自信の根源を。
利き手に輝く力の奔流を。
その姿―――刺刀拳。
しかもこれ程かというまでの命力が圧縮されたもの。
茶奈達が見せたフルクラスタや、ギューゼルが見せた命力拳のそれと同等。
でも何かが違う。
本来なら具現化した命力は個体の様に形状を維持している。
けれど心輝が撃ち放っているのは、どちらかと言えば―――
―――勇の命の剣と同じ様相。
触れただけで何もかもをも削り取る圧倒的力の放出。
それを心輝は拳から撃ち放って見せているのである。
決して【ラークァイト】を得たから無限の命力を手にしたという訳ではない。
加えて心輝の命力の質は以前からほぼ変わっておらず、その量も限りある。
なのにも拘らず、こうして体現出来ているのだ。
もしその本質を理解している者なら、誰しもが驚愕するだろう。
「何故心輝はそれだけの出力を体現出来ているのか」と。
だがアルバはそんな細かい事など考える男ではない。
「ふははは!! 拳で貫けぬから剣とは!! その様な小細工などォ!! 俺の筋肉の前には無意味だあッ!!!」
例え異様な様相の力を見せつけようとも、自信が崩れる訳ではない。
むしろ打ち込んでみろと言わんばかりに再び筋肉を見せつける程だ。
ただもう、そんな茶番に付き合うほど心輝に隙は無い。
今はただ静かに真っ直ぐ見据えるだけだ。
己に秘めた激情を爆発させるその瞬間まで。
「……関係ねぇよ」
「ははは―――は?」
「俺のこの一撃は、お前の意思なんざ何の意味も成さねぇ」
この心輝の豹変ぶりは、アルバの有頂天さえも掻き消す事となる。
たちまち互いが押し黙り、一触即発の睨み合いが互いの間で火花を散らす。
「ならばやってみるがいい。 俺の筋肉は貴様には貫けぬ。 この肉体の強靭さは不動なり」
それでもアルバの自信は揺るがない。
その体を「ギリリ」と擦り鳴らしながら、目の前の敵に対して迎え撃つ。
こうして見せる姿は、強大な重圧を伴うもの。
心輝の頭上を覆い尽くさんばかりに。
その姿勢、もはや隙一つ無し。
「そうだな。 でもな、そういう意味じゃあねぇんだよ」
その様な相手を前にしてもなお、心輝はもう怯まない。
渾身の一撃を撃ち放つ覚悟が、決意が、一切の迷いを消し飛ばしたから。
隙の無い防御網を前に、心輝の【命眼】が結論を導き出す。
ピアノ線の様に見えない程の細い軌跡を辿りながら。
そうして見えた先は―――確信。
「俺が貫くってぇのは―――壁じゃねぇーーーッッッ!!!!!」
その時、遂に真の紅雷光がその場に顕現する。
まさに稲妻。
まさに雷光。
紅色の閃光がまるで無軌道に軌跡を刻む。
とめどなく、規則なく、思うがままに。
アルバの掲げる防御の中を、光が突き抜けたのだ。
今までならば簡単に身体が砕けていた雷光瞬進。
それも今や何の抵抗さえ無い。
慣性さえ掻き殺し、意思のまま自由に動き、時間を与えない。
もうその速度、捉えられる者無し。
「速いだけではァーーーーーーッ!!!」
そんな心輝へ巨大な両腕が襲い掛かる。
まるで全方位から包む様にして。
だがそれも―――【命眼】の予測範囲内。
懐に飛び込む事だけを考え、その答えは導き出された。
ありとあらゆる可能性を掴み取る為に。
ありとあらゆる危険性を、躱すのではなく突き抜ける。
そう、突き抜けたのだ。
圧し掛からんと襲い掛かる指と指の間を。
まるで通った心輝が縮んだのかと思える程に狭い間を。
そんな信じられない光景がアルバの目に映る。
自身の眼前を跳ねる心輝の姿を。
その姿がアルバに咄嗟の頭部防御を取らせる事となる。
こう出来る筋肉もまた伊達では無いからこそ。
それも―――【命眼】の予測範囲内に過ぎないが。
だからこそ、心輝は立つ事が出来る。
何物をも遮らない、筋肉の鎧の前に。
アルバの懐という、一撃を見舞うのに最もふさわしい場所に。
「なんだ―――とッ!?」
その時、アルバは見下ろす事しか出来なかった。
既に懐へ潜り込んでいた心輝を目前にして。
防御する為の筋肉が、肉体が、それ以上の動きを拒否していたのだ。
だからアルバは耐える事を選んだ。
己の腹筋に全てを懸けて、心輝の一撃に備えるのみ―――
「関係ねぇと言ったあッ!!! 防御も肉体も何もかもッ!!!」
ここまでに心輝が描いた軌跡―――それは螺旋。
でもただの螺旋では無い。
左拳を常に最大回転させ、その回転力を高める為だけの旋回軌道である。
つまり、本命の拳は常に回転慣性を極限にまで受け続けている。
一切留まる事無く。
そこから導かれた突撃力はかつての拳を桁違いに超した。
そこにもはや防御など―――無意味。
想いを篭めた獄炎が。
意思を伝えられた雷光が。
今一つに混ざり合い、最強最高の一撃を体現する。
これぞまさに、灼雷の咆哮。
「俺の一撃は全てをブチ貫くッ!!! ラティスタン・ロアァーーーーーーッッッ!!!!!」
そして光拳がアルバの腹部を貫いた時。
その瞬間凄まじい光が迸り、鍛えられた肉体全てを包み込む。
真の意味で。
魔剣すらも通り越し、体を纏う命力壁すらも貫いて。
その先で打ち放たれた紅烈閃がアルバの全身から噴き出したのだ。
そう、これは内部からの閃光爆焼。
全ての防御を無視した烈貫爆拳。
今、アルバはまさしく、全身くまなくを超烈光によって焼き尽くされたのである。
心輝が生み出した光剣は決して剣ではなく。
貫くという意思が具現化しただけのただの飾りに過ぎない。
ただその意思はもはや壁すら無為とする程に鋭利重貫。
相手の防御を構成する分子結合や命力の隙間さえも縫い、貫いて。
そしてそこから放出された紅烈光が全身くまなくを焼き尽くす。
ラクアンツェから教えてもらった【光破滅突】の原理を生かし。
心輝なりの命力充填方法を確立し。
紅雷光の軌跡を利用して突貫力を強化させた。
その上で、更に進化させたのだ。
その集大成たる一撃を前にすれば、もはや如何な信念さえも無意味。
あらゆる想いもブチ貫いて、何もかもをも内側から焼き尽くす。
その特性、物理を貫く稲妻が如し。
その威力、万物を焼く業炎が如し。
これこそが【灼雷の咆哮】。
情熱と激情を力に換える心輝の―――最強最高の必殺拳である。
この一撃を前に、もはやアルバとて耐えきれる訳も無かった。
たちまち全身から黒い煙が上がり、その意識さえも煙の様に消える。
でも死んでは居ない。
それだけ彼の肉体と精神は強靭だったという事なのだろう。
これには心輝も堪らず苦笑いを浮かべずにはいられない。
「アンタすげぇよ。 この一撃を受けてもまだ立っていられるなんてよ」
心輝の言う通り、アルバはまだ立ったまま。
意識を手放しても、戦いに負けたとしても。
彼はまだ―――愛する筋肉に負けさせてはいなかったのだ。
こうして二人の戦いは終わりを告げ、心輝の勝利で幕を閉じた。
でももう心輝はこれ以上戦うつもりは無い。
後は信じる仲間達に委ねて体を休めるのみ。
自分が信じられた様に、彼もまた信じるだけだ。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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