時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十七節「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」

~虚に驚、真に巨黒の正体~

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 アメリカ、ワシントンD.C.東海岸部、洋上。
 そこにようやくアルクトゥーンが到達する。

 アメリカ国内のグランディーヴァに対する悪印象も既に収まり始めていて。
 政府からの事前通達もあり、特に混乱する事は無く。
 ほんの少し反対運動も見られるが、規模はと言えば数人程度で正統性は皆無だ。

 やはり救世同盟の大元を抑えた影響は大きかったらしい。

 国内放送でもこれといった批判も無く、むしろ関心は薄め。
 『グランディーヴァ再来訪』と報じられた程度で深く突っ込みはしない。
 それが政府の采配なのか、世論の反映なのかは定かでは無いが。

 そしてアメリカに着けば、最初に執り行われるのは当然―――



 ―――大統領官邸ホワイトハウス訪問である。



 アメリカ戦直前に行われた会談では、ほんの少しだがブライアン大統領を不快にさせた。
 政敵であったエイミーとの会合を優先とした為である。
 その事もあって、今回はしっかりと優先度を重要視したという訳だ。

 政治とはこの様な面倒臭い側面を持つだけに、配慮するのは仕方のない事で。
 グランディーヴァも政治団体ではないのだが、力を借りている以上は無下にも出来ない。

 そんな訳で今、勇はホワイトハウスを歩いている。

 もちろん正式に会合約束アポイントメントをとって、堂々とだ。
 今度は後見人として福留が付いているので安心だろう。

 ただ、もう一人の随伴者は少し不安が残る訳だが。



「ご苦労様であぁる!! さすがシークレットサービスゥ!! 良き筋肉であるゥ!!」
 


 この様な場所であろうともこんな叫びを叫べるのはあの人物しか居ない。
 筋肉こそ全てのあの黒煌巨人しか。

 そう、アルバである。
 実は彼、アルクトゥーンにちゃっかり乗り合わせていたのだ。
 
 とはいえこれは彼がグランディーヴァに移籍したという訳では決してない。
 ただ移動する際に丁度良かったからなだけで。

 というのも、アルバは祖国であるこのアメリカで反抗勢力鎮圧行動を始めるつもりだったから。

 先日の会議で人員移籍の話が立ち消えて、作戦予定人数を超えた。
 ならばとアルバをこうしてアメリカに先んじて送り込み、物理的に予定を早める事にしたのだ。
 祖国ならば何かと動きやすいだろうと踏んで。

「いいのかぁアルバ、ここがどこかって事くらいわかってるよな?」

「大丈夫だぁ!! 問題無きッ!! 俺の筋肉がそう言っているゥ!!」

 ……このアルバだとどこでも関係無く動き回れそうなものだが。

 世に名高いホワイトハウス内でもこの調子。
 これには勇も福留も苦笑いで困惑するばかりである。

 とはいえ、それでもアメリカ国内で行動するなら約束を取り付けなければならない。
 とすれば最高司令官でもある大統領のお目通しは必須だ。
 特に、グランディーヴァ・救世同盟関係者とあればなおの事な訳で。



 そんな賑やかさを纏いつつ、ようやく勇達が大統領執務室へと足を踏み入れる。
 屈強なシークレットサービス達によって見守られる中で。

「おぉ来たかミスターフジサキ!!」

 そして間も無く豪気を含んだ大声が部屋一杯に響き渡る。
 ブライアン当人による歓迎の一声が。

「お久しぶりです、ブライアンさん」

「ああ。 よく来てくれた。 さて、君達シークレットサービスは外してくれ」

 勇達と話を交わすという事は、いわば国家間の対話にも等しい。
 そこに護衛者の介入は不要だ。

 その事は彼等もわかっているのだろう。
 理由も無いブライアンからのたった一言で部屋から去っていく。
 そのまま扉を閉じて福留が鍵を掛ければ、世界最高峰の密室が完成である。

 となれば、勇達の姿勢も自然と軟化するもので。

「ふぅ……先日のフランス潜入手引きの件はありがとうございました」

「ハハハ! 気にしないでくれ。 あれは我々にも利があってやった事だからね。 特に君のコスプ―――偽装には力を入れたつもりだ!」

「は、はは……」

 元々こうして自然体で話す事を好むブライアンだからこそ、こうして余計な者を締めだしたのだろう。
 それは先日の勇との会合の時と変わらないスタンスだ。
 ただその一発目の話題はと言えば、勇にとってはちょっと複雑な話だったが。

 あのメキシコ人風の変装に何の意味があったのか、と。

 それが真面目な采配だったのか、ブライアンの遊び心なのかはわからない。
 というかちょっと仄めかしているけど、追求するのもなんだか億劫で。
 楽しそうに笑うブライアンを前に、勇もただただ苦笑で返すばかりである。

「さて早速話をしたい所だが―――その前にちょっとだけ野暮用を済まさせて欲しい」

「野暮用って……?」

 するとそんな時、ブライアンの視線が勇からそっと逸れる。
 その背後に立つ人物へと向けて。

「さぁ、まずは聞くとしようか。 『コードネーム・アルバ』、報告してもらおう」

「ハッ!!」

「えっ!?」

 その視線の先に居た者こそ、あのアルバ。
 しかもブライアンの一言に驚いて勇が振り返って見れば―――



 ―――そこには鋭い敬礼を構えたアルバの姿が。



「『コードネーム・アルバ』、ロバート=ウィルズ少尉ただいま帰還しました!!」
「いいっ!?」

 何の迷いも無くビッチリと伸びた掌を額に充て、その巨体をまっすぐ伸ばす。
 そうして見せたのはまさに、敬服すべき司令官を目前とした軍人のあるべき姿。
 それはとても様になった敬礼だった。

「ハハハ、実はね、ロバート少尉アルバは我々が送り出した秘密諜報員スパイだったのだよ。 いち早くフランスの不穏な動きを察知してね、彼を送り込んだのさ」

 これには勇も驚きだ。
 まさかあのアルバがアメリカ政府のスパイだったなどと誰が予想しただろうか。
 福留も片笑窪の上がった神妙な面持ちを浮かべてる辺り、この事実を知らなかったのだろう。

 気付けば二人揃って身を引き、敬礼を続けるアルバを見上げていて。

「いつかミシェルを通して渡した画像があっただろう? あれは全てロバート少尉が極秘裏にリークした証拠写真が元だったのさ」

「そうか……なるほど」

 いつだかに勇がミシェルから預かった画像データの事を覚えているだろうか。
 勇が奮起して小嶋由子を追い詰めるキッカケとなったあの証拠写真の数々を。

 小嶋とデュゼローの会合写真を始め、デュランやアルディとの接触もがしっかりと収められていて。
 どれも決定的な画像と認知され、今では日本政府ともその情報を共有している。

 それはなんと全てアルバが撮った物だったのだ。
 そんな事実がわかってしまえば、誇らしげな筋肉スマイルを前に勇達が感心するのも無理は無い。



 だが勇はもう一つ驚くべき事実を見逃している。
 今アルバが言い放った、衝撃とも言える事実の断片を。



「ついでに言うと、ロバート少尉は私の甥だ」



 その事実がこうして明かされた時、勇の思考はガチリと凍結する事となる。

「へっ? えっ?」

 ただただ事実を認識出来なくて。
 視線を双方の顔へと行ったり来たりさせるばかり。

 そんな時背中から見せるアルバのサムズアップが無駄に輝かしい。

「ちなみに歳は今二八だから君と五、六歳くらいしか違わないぞ」

「それは嘘ですよね? さすがに嘘ですよね!?」

 残念ながらこれも事実だ。
 実はあのデュランともほぼ同年齢タメという。
 このボディビルダー真っ青の超大筋肉を有しているのに。

 人は筋肉―――もとい、見た目ではわからないとはよく言ったもので。

「プライベートでは私以上に砕けている所が珠に傷だがね」

「あー……うん」

 しかも中身ともなれば、もはや言わずもがな。
 勇が思わず納得するのも無理は無い。

 どうやらあの楽天的なノリは筋肉特性では無く、生まれ持った特性だったらしい。
 そこに筋肉が加わったので余計拗れてしまったのだろう、きっと。

 よくよく見てみれば、どちらも体はしっかりとしていて似た者同士で。
 顔付きも角張っている所がほんの少しの面影を感じる。
 さすがに血筋が大きく別れている所為か、ソックリとは言い難いが。

「さぁ余談はここまでにして……ロバート少尉、聞かせて貰おうか。 君のを」

 しかし、そんな緩い雰囲気も盛り上がる事無く立ち消える。
 ブライアンがこう静かに切り出した事によって。

 いや、実際は最初からだったのかもしれない。

 今の会話に緊張感が伴っていたのは。
 
 考えても見れば、アルバはここに訪れてから全く無駄話をしていない。
 正体を明かしてからはずっと腕を裏に回した待機姿勢を保ったままだ。
 ほんのちょっとだけお茶目感は見せていたが。

 それは彼だけが緊張していたからだろう。
 目の前に居る人物が誰なのか、他者よりもずっとわかっているだろうから。

 でもそれは相手が大統領だから、というだけではない。

 それはアルバの持つ使命が故に。



「私としましては、弁解の余地も御座いませんッ!! の罪は甘んじて受け入れるつもりでありますッ!!」



 彼の行いが祖国への裏切りだったからこそ。


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