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第三十七節「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
~南に変、機に邪神の足跡~
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アメリカからの資材提供によって、アルクトゥーンが完全なる完成を果たした。
そのお陰で飛躍的に向上した性能はもはや以前とは比較にならない。
その主な改善点はと言えば、航行性能だ。
以前は重力制御による浮遊航行がメインで、自己推進力での航行は限定されていた。
連続出力は一時間程度が限度ともあり、ここぞという時にしか発揮出来なかったから。
でも今となってはその制限が完全に撤廃されている。
現状の命力供給量ならば、常時最大出力での航行が可能となったからだ。
正式互換部品の実装により、命力循環効率が格段に跳ね上がった結果である。
その成果は凄まじく、なんとこの二週間で世界一周を果たすほど。
それも、要請のあった国へとジグザグに駆け巡る様にして。
スペック上の話ならば、赤道付近を飛ぼうとも最速一日で世界一周が出来る計算だ。
もうグランディーヴァにとって地球上ですぐ行けない場所は無い。
要請があれば即座に赴く事が出来るだろう。
まさにひとっとびで。
そんな訳で、その性能を生かしつつ各国にて調査を続けて来た―――のだが。
その成果はと言えば、どうもイマイチ。
殆どが無駄足で、得られたものはと言えば一年程前の紫織を映した映像くらいだ。
後は日本政府から送られてきた紫織本体の詳細情報と、どうにもパッとしない。
結局、アルトラン・ネメシスに関する情報は一切無いままで。
一旦の補給も兼ね、一同は再びアメリカに舞い戻っていた。
その道中でも、とりわけ戦いになる様な事は起きず。
勇を除いた戦闘員組は比較的のんびりと過ごしていた様だ。
「キッピーちゃあん、どこ行ったの~?」
ともなれば、こんな声が居住街に響く事もある訳で。
ぷにぷにお肌を求めて歩き回る茶奈の姿がここに。
「まぁたキッピーの奴探してるのかよ?」
「うん。 目を離すとすぐどっか行っちゃうからぁ……」
そんな時、丁度通りかかった心輝が挨拶がてらに声を掛けてきて。
たちまち、事情を知る者同士で堪らず溜息を吐き散らす。
あのキッピー、小さい割に行動力だけは尋常じゃない。
気付けばすぐに姿をくらまし、翌日変な所に居たり嵌ってたりで騒ぎになる事もしばしばだ。
ただでさえ何を考えているのかもわからないのだから、行動パターンも読み辛いときたもので。
これだけは茶奈もさすがにお手上げの様子。
「こないだウチの親が居る家の戸棚の奥でハマってたぜ。 一体いつ、何でどうやって入ったんだっての」
「一昨日は食料備蓄用の冷凍庫の中で凍ってましたよ。 なんでそんな中でアイス盗み食いしてたんだろうって」
「リデルが捕まえようとしたら転がって逃げてったらしい。 あの羽根、何の役に立つんだろうねぇ」
そんな二人のすぐ隣には、いつの間にやらディックの姿も。
彼もキッピーには色々と面倒を掛けられた身として黙ってはいられなかった様だ。
と言っても、その様子はと言えば呆れ半分、笑い半分で。
こう冗談のネタにするくらいに愛されているという事なのだろう。
「さぁて、キッピー探しはここまでにしとこうか。 未来の旦那が管制室でお呼びだよい」
「えっ!? あ、インカム忘れてました……」
「やっべ、俺もだ」
しかしそんな冗談タイムもここで終わりを告げる事に。
ディックが現れたのはどうやら偶然ではなさそうだ。
うっかり気の緩みを見せた二人のおでこに、空かさず長い指のデコピンが弾け飛ぶ。
強者と言えど、やはり痛いものは痛い。
軍隊仕込みの一撃は、二人が悶絶してしまう程の威力を秘めていたらしい。
最後の敵が控えているとはいえ、こう緩んでしまうのも仕方のない事かもしれない。
デュラン達とのかつてない激戦を乗り越えたから。
そして人類同士の無益な戦いがやっと終わったから。
でもこうして呼ばれれば、彼女達はすぐさま戦士の素顔を取り戻せるだろう。
だから踏み出す足取りは揃って鋭く強く。
勇達が待つ管制室へと向け、足早に走り去っていった。
それから間も無く、管制室にグランディーヴァ隊員達が集まり始める。
召集が掛かったともあり、誰しもが不安を抱きつつ。
それもそのはず。
最初から居た勇や莉那達の様子が既に穏やかではないから。
管制室に映る外の光景が流れ動いている辺り、どこかに移動している様だ。
そうもなれば例え鈍くとも気付けるだろう。
しかも不安を抱いていた理由はそれだけではない。
この場に集められたのが、まさに関係者ほぼ全員だったから。
戦闘員である茶奈達は当然のこと、二軍である獅堂やバロルフも。
果てにはレンネィやアンディ、カプロやピネもがその場に居て。
本来戦いに関与しないリッダとアネットまでもが集められていたのだ。
居ないのは自由を許された剣聖とラクアンツェくらいか。
「みんな集まったな。 いきなりだけど、アルクトゥーンはこれから南米に向かう。 少し不穏な事が起きている様なんだ」
そして集まって早々に勇から打ち明けられたのは、まさに穏やかではない話で。
その切り口からか、茶奈達が思わず「ゴクリ」と唾を飲む。
「この二週間、各国を飛び回って来て色々な問題に直面したと思う。 魔者の待遇に対する抗議行動とか、仲違いの現場とかさ。 国は違っても魔者問題はどこでもまだ燻ってるってわかったんじゃないか?」
そこから続いたのは魔者関連の話だ。
それもタイムリーとも言えるこの二週間の出来事。
となれば当事者である茶奈達も思う所があるのだろう。
勇のそんな問いに頷きを見せていて。
「そうですね。 やっぱり皆、どこか互いに怖がりあってるって気がします」
「うむ。 例え融和を目指していても、すぐに蟠りが消えるとは限らないからな」
世界各地の魔者問題は基本的にもう殆ど片付いていると言っても過言ではない。
魔導兵装の実装により、敵意を持つ魔者はほぼ殲滅させられたから。
残っているのは大人しく降伏したか、元々敵意が無かった者ばかりだ。
皆、現代の情勢に従って融和勢として地域に根付きつつある。
しかし、人心とはそう上手くいくものではない。
そうなれば今度は色々と不満が出て来るもので。
人間に合わせた生活基準は、時に魔者へ不都合をもたらす事がある。
例えば家の大きさだったり、食文化だったり、衣服だってあるだろう。
周りからの好奇な目もあれば、狭い場所に集められる事への不遇を感じる事だって。
そんな事に対して抗議する者も少なくはなく。
この二週間で勇達も幾つか対応に追われたものだ。
しかし、それにはなんと例外があったのである。
「でも、この二週間の間に、南米大陸では一切の問題が起きてなかったんだ」
「一切……全然って事?」
「ああ、一切だ。 不自然なくらいにな」
そう、南米では何も起きていないのだという。
南米の国々は先進国と比べてしまうとどうしても犯罪率などで見劣りしてしまう所がある。
時には犯罪組織が自治体を牛耳っていたりなど、実はそれほど清潔な場所ではない。
魔者が寄り添って暮らし始めた今でもその風習は変わらず残り続けていて。
一部では魔者が犯罪に手を染めたりしている例も少なからずあったのだとか。
チリなどで共存街が生まれている一方では、その様な黒い一面も浮き彫りになっている。
でも、そんな国々から突然魔者の話が聴こえなくなった。
問い合わせても、口を揃えて「不思議な事に、全く何も起きてない」と返って来たのだ。
しかも、不穏を感じた理由はそれだけではない。
「それともう一つ。 さっきブラジル政府から今しがた通信があったんだ。 オッファノ族達の姿が消えたってな」
「「「えっ!?」」」
「ウロンドとも連絡が付かないらしいんだ。 それで現地調査班が集落へ向かった所、誰一人居なくなっていたらしい」
それがオッファノ族の失踪。
オッファノ族と言えば、勇達を知略を以って退けたウロンド率いる森の民だ。
その後もブラジル政府と連携し、相互理解の下で共存していたのだが。
それがこうも突然消えれば不穏に思わない訳が無い。
加えて何の連絡も無いのだからなおさらだろう。
そしてその状況が示す理由を勇達は知っている。
幾度と無く魔者との戦いを経て、消えた所を観て来たから。
「まさか、あのウロンドが死んだとでも言うのか!?」
「可能性が無い訳じゃない。 相手が人間じゃなければ、な」
「うっ!? じゃあもしかしてッ!?」
もし仮にオッファノ族が消滅して居なくなったのだとしよう。
仮に、ウロンドが何者かに倒されたのだとしよう。
あの慎重で知略に優れたウロンドが簡単に殺されるはずがない。
曲がりなりにも魔剣使いであり、力こそ劣れど勇を退けた事もあるのだ。
それこそブラジル政府が何か気付ける程の激しい戦いがあってもおかしくないだろう。
それさえ起きないという事はつまり。
起きない程の格上の相手と対峙した可能性がある、という事に他ならない。
「ああ。 もしかしたら、ウロンドはアルトラン・ネメシスと相対したのかもしれない」
それ故に、勇はアルトラン・ネメシスの影を感じたのだ。
ぼんやりとした確信から紡ぎ得たものより。
つまり、南米アマゾンで【創世の鍵】を通して気配を感じ取った、という事である。
『何が起きていたのかは私にも感じ取れません。 しかしその話を聞いて意識を向けてみた所、僅かですがアルトラン・ネメシスの気配の残滓を拾ったのです。 本当に意識を集中させないとわからないくらいに薄い残り香でしたが』
「って事は、もしかしたらアルトラン・ネメシスの奴は南米に居るかもしれないって事かよ!?」
「そう、かもしれない。 でも違うかもしれない。 だからそれを確かめに南米に行くつもりだ。 ただ、シンの言う通りアルトラン・ネメシスが潜んでいたのなら―――」
もしその残滓が本当にアルトラン・ネメシスの物なのならば。
もし南米にまだ居るのならば。
ならば紡ぎ出される結論はただ一つ。
「―――これから起きる戦いが俺達の、最後の戦いになるかもしれない……!!」
その一言が、たちまち茶奈達の背中に「ゾクゾク」とした感覚を呼ぶ。
きめ細かな電気が走り廻ったかの様な快感が。
そう。
最後の戦いになるかもしれないのだ。
アルトラン・ネメシスを見つけだし、倒せれば。
そして世界が救われる。
誰しもがその一言を前に期待を抱かざるを得なかった。
ここまでが長く辛い道のりだったから。
早く訪れて欲しいと思って止まなかったから。
この瞬間をどれだけ待ち侘びてきた事か。
『でも油断は禁物です。 アルトラン・ネメシスを逃がしてしまえば、また見つけられる可能性は薄いでしょう。 彼にとってこの戦いは、ただ逃げるだけで勝てる出来レースに近いのですから』
「そうだな。 だから慎重に事を運ぶぞ。 これから戦闘可能な人員総動員でアマゾンに降りて調査を行う。 アンディ、お前にも力を借りるぞ!」
「はい、師匠!!」
だからこそ万全を期す。
グランディーヴァが持つ全ての力を駆使して。
その為にアンディも呼ばれたのだから。
実はアンディはそれなりに前から戦闘復帰訓練を行っている。
命力の通わない左腕も、魔剣【レイデッター】さえあれば使える事がわかったからだ。
ただしナターシャ随伴というハンデはあるが。
そんな事もあってエイミー軍との戦い前くらいには訓練を開始。
食堂で料理修行に励みつつも、影では訓練を続けていたというのだから驚きだろう。
元々根性があったのと、ナターシャとの一件で吹っ切れたからか、その伸び代は群を抜いていて。
昔取った杵柄もあり、今では二軍メンバーよりも高いポテンシャルを誇っている。
つまり、ハンデさえ克服されれば充分な程に即戦力クラス。
ほぼ現役時代に近い形へと仕上がっているのである。
いや、もしかしたらそのひたむきさ故に、以前以上となるかもしれない。
「アンディ、でも無理はしちゃ駄目よ?」
「わかってるよママ。 けどね、俺も無理くらい突き抜けてみせるって。 ナッティや竜星を守る為にもさ」
「オイオイ、どっかで聞いた様な台詞だなぁ?」
アンディももう気力充分だ。
今日この日の為に仕上げて来たと言っても過言では無いのだから。
義理両親を前にしてここまでの気概を見せればもう何も言う事は無いだろう。
これには心輝もレンネィも微笑まざるを得ない。
「これは僕らの戦闘デビュー戦も近いね。 大丈夫かいバロルフ?」
「フン、俺は貴様の様な急ごしらえとは違う。 このバロルフ様の力を見せつけてやろうではないか」
もちろん、だからと言って獅堂やバロルフも負けてはいられない。
二人もまたこの日の為に力を付けようと血反吐を吐いて来たのだから。
めきめきと強引に実力を上げつつある獅堂。
伸び代が少なくとも必死に食らいつくバロルフ。
どちらも想いに殉じ、その身を粉にする気概で挑むのみ。
「歯がゆいな。 私にも力があれば数に加われたのにな」
「必要なら魔剣くらいは用意してやるのネ」
「ズーダーさんは操舵手として充分優秀じゃねッスか……」
一方で、ズーダーがそんな彼等を羨望の眼差しで覗き見る。
戦いから退いたとはいえ、やはり心残りではあった様で。
もっとも、今こうして南米に向かえていられるのは彼の操縦があってこそ。
皆揃ってそれを認めているから、安心して話し合えるのだ。
各々の想いが映すのは様々な色模様。
戦いに挑む激情と。
そこに加わりたい羨望と。
全てが終わった後への期待と―――不安。
突如として見え始めた光明に縋ろうと、彼等は飛ぶ。
これが全ての解決に繋がる事を信じて。
僅かな可能性に全てを賭して。
だが彼等はまだ気付いていない。
星の裏側で何が起きているのかを。
そして南米で何が起きているのかを。
世界は間も無く騒然とするだろう。
想像を遥かに超えた異常事態が起きている事を遂に知ってしまうのだから。
そのお陰で飛躍的に向上した性能はもはや以前とは比較にならない。
その主な改善点はと言えば、航行性能だ。
以前は重力制御による浮遊航行がメインで、自己推進力での航行は限定されていた。
連続出力は一時間程度が限度ともあり、ここぞという時にしか発揮出来なかったから。
でも今となってはその制限が完全に撤廃されている。
現状の命力供給量ならば、常時最大出力での航行が可能となったからだ。
正式互換部品の実装により、命力循環効率が格段に跳ね上がった結果である。
その成果は凄まじく、なんとこの二週間で世界一周を果たすほど。
それも、要請のあった国へとジグザグに駆け巡る様にして。
スペック上の話ならば、赤道付近を飛ぼうとも最速一日で世界一周が出来る計算だ。
もうグランディーヴァにとって地球上ですぐ行けない場所は無い。
要請があれば即座に赴く事が出来るだろう。
まさにひとっとびで。
そんな訳で、その性能を生かしつつ各国にて調査を続けて来た―――のだが。
その成果はと言えば、どうもイマイチ。
殆どが無駄足で、得られたものはと言えば一年程前の紫織を映した映像くらいだ。
後は日本政府から送られてきた紫織本体の詳細情報と、どうにもパッとしない。
結局、アルトラン・ネメシスに関する情報は一切無いままで。
一旦の補給も兼ね、一同は再びアメリカに舞い戻っていた。
その道中でも、とりわけ戦いになる様な事は起きず。
勇を除いた戦闘員組は比較的のんびりと過ごしていた様だ。
「キッピーちゃあん、どこ行ったの~?」
ともなれば、こんな声が居住街に響く事もある訳で。
ぷにぷにお肌を求めて歩き回る茶奈の姿がここに。
「まぁたキッピーの奴探してるのかよ?」
「うん。 目を離すとすぐどっか行っちゃうからぁ……」
そんな時、丁度通りかかった心輝が挨拶がてらに声を掛けてきて。
たちまち、事情を知る者同士で堪らず溜息を吐き散らす。
あのキッピー、小さい割に行動力だけは尋常じゃない。
気付けばすぐに姿をくらまし、翌日変な所に居たり嵌ってたりで騒ぎになる事もしばしばだ。
ただでさえ何を考えているのかもわからないのだから、行動パターンも読み辛いときたもので。
これだけは茶奈もさすがにお手上げの様子。
「こないだウチの親が居る家の戸棚の奥でハマってたぜ。 一体いつ、何でどうやって入ったんだっての」
「一昨日は食料備蓄用の冷凍庫の中で凍ってましたよ。 なんでそんな中でアイス盗み食いしてたんだろうって」
「リデルが捕まえようとしたら転がって逃げてったらしい。 あの羽根、何の役に立つんだろうねぇ」
そんな二人のすぐ隣には、いつの間にやらディックの姿も。
彼もキッピーには色々と面倒を掛けられた身として黙ってはいられなかった様だ。
と言っても、その様子はと言えば呆れ半分、笑い半分で。
こう冗談のネタにするくらいに愛されているという事なのだろう。
「さぁて、キッピー探しはここまでにしとこうか。 未来の旦那が管制室でお呼びだよい」
「えっ!? あ、インカム忘れてました……」
「やっべ、俺もだ」
しかしそんな冗談タイムもここで終わりを告げる事に。
ディックが現れたのはどうやら偶然ではなさそうだ。
うっかり気の緩みを見せた二人のおでこに、空かさず長い指のデコピンが弾け飛ぶ。
強者と言えど、やはり痛いものは痛い。
軍隊仕込みの一撃は、二人が悶絶してしまう程の威力を秘めていたらしい。
最後の敵が控えているとはいえ、こう緩んでしまうのも仕方のない事かもしれない。
デュラン達とのかつてない激戦を乗り越えたから。
そして人類同士の無益な戦いがやっと終わったから。
でもこうして呼ばれれば、彼女達はすぐさま戦士の素顔を取り戻せるだろう。
だから踏み出す足取りは揃って鋭く強く。
勇達が待つ管制室へと向け、足早に走り去っていった。
それから間も無く、管制室にグランディーヴァ隊員達が集まり始める。
召集が掛かったともあり、誰しもが不安を抱きつつ。
それもそのはず。
最初から居た勇や莉那達の様子が既に穏やかではないから。
管制室に映る外の光景が流れ動いている辺り、どこかに移動している様だ。
そうもなれば例え鈍くとも気付けるだろう。
しかも不安を抱いていた理由はそれだけではない。
この場に集められたのが、まさに関係者ほぼ全員だったから。
戦闘員である茶奈達は当然のこと、二軍である獅堂やバロルフも。
果てにはレンネィやアンディ、カプロやピネもがその場に居て。
本来戦いに関与しないリッダとアネットまでもが集められていたのだ。
居ないのは自由を許された剣聖とラクアンツェくらいか。
「みんな集まったな。 いきなりだけど、アルクトゥーンはこれから南米に向かう。 少し不穏な事が起きている様なんだ」
そして集まって早々に勇から打ち明けられたのは、まさに穏やかではない話で。
その切り口からか、茶奈達が思わず「ゴクリ」と唾を飲む。
「この二週間、各国を飛び回って来て色々な問題に直面したと思う。 魔者の待遇に対する抗議行動とか、仲違いの現場とかさ。 国は違っても魔者問題はどこでもまだ燻ってるってわかったんじゃないか?」
そこから続いたのは魔者関連の話だ。
それもタイムリーとも言えるこの二週間の出来事。
となれば当事者である茶奈達も思う所があるのだろう。
勇のそんな問いに頷きを見せていて。
「そうですね。 やっぱり皆、どこか互いに怖がりあってるって気がします」
「うむ。 例え融和を目指していても、すぐに蟠りが消えるとは限らないからな」
世界各地の魔者問題は基本的にもう殆ど片付いていると言っても過言ではない。
魔導兵装の実装により、敵意を持つ魔者はほぼ殲滅させられたから。
残っているのは大人しく降伏したか、元々敵意が無かった者ばかりだ。
皆、現代の情勢に従って融和勢として地域に根付きつつある。
しかし、人心とはそう上手くいくものではない。
そうなれば今度は色々と不満が出て来るもので。
人間に合わせた生活基準は、時に魔者へ不都合をもたらす事がある。
例えば家の大きさだったり、食文化だったり、衣服だってあるだろう。
周りからの好奇な目もあれば、狭い場所に集められる事への不遇を感じる事だって。
そんな事に対して抗議する者も少なくはなく。
この二週間で勇達も幾つか対応に追われたものだ。
しかし、それにはなんと例外があったのである。
「でも、この二週間の間に、南米大陸では一切の問題が起きてなかったんだ」
「一切……全然って事?」
「ああ、一切だ。 不自然なくらいにな」
そう、南米では何も起きていないのだという。
南米の国々は先進国と比べてしまうとどうしても犯罪率などで見劣りしてしまう所がある。
時には犯罪組織が自治体を牛耳っていたりなど、実はそれほど清潔な場所ではない。
魔者が寄り添って暮らし始めた今でもその風習は変わらず残り続けていて。
一部では魔者が犯罪に手を染めたりしている例も少なからずあったのだとか。
チリなどで共存街が生まれている一方では、その様な黒い一面も浮き彫りになっている。
でも、そんな国々から突然魔者の話が聴こえなくなった。
問い合わせても、口を揃えて「不思議な事に、全く何も起きてない」と返って来たのだ。
しかも、不穏を感じた理由はそれだけではない。
「それともう一つ。 さっきブラジル政府から今しがた通信があったんだ。 オッファノ族達の姿が消えたってな」
「「「えっ!?」」」
「ウロンドとも連絡が付かないらしいんだ。 それで現地調査班が集落へ向かった所、誰一人居なくなっていたらしい」
それがオッファノ族の失踪。
オッファノ族と言えば、勇達を知略を以って退けたウロンド率いる森の民だ。
その後もブラジル政府と連携し、相互理解の下で共存していたのだが。
それがこうも突然消えれば不穏に思わない訳が無い。
加えて何の連絡も無いのだからなおさらだろう。
そしてその状況が示す理由を勇達は知っている。
幾度と無く魔者との戦いを経て、消えた所を観て来たから。
「まさか、あのウロンドが死んだとでも言うのか!?」
「可能性が無い訳じゃない。 相手が人間じゃなければ、な」
「うっ!? じゃあもしかしてッ!?」
もし仮にオッファノ族が消滅して居なくなったのだとしよう。
仮に、ウロンドが何者かに倒されたのだとしよう。
あの慎重で知略に優れたウロンドが簡単に殺されるはずがない。
曲がりなりにも魔剣使いであり、力こそ劣れど勇を退けた事もあるのだ。
それこそブラジル政府が何か気付ける程の激しい戦いがあってもおかしくないだろう。
それさえ起きないという事はつまり。
起きない程の格上の相手と対峙した可能性がある、という事に他ならない。
「ああ。 もしかしたら、ウロンドはアルトラン・ネメシスと相対したのかもしれない」
それ故に、勇はアルトラン・ネメシスの影を感じたのだ。
ぼんやりとした確信から紡ぎ得たものより。
つまり、南米アマゾンで【創世の鍵】を通して気配を感じ取った、という事である。
『何が起きていたのかは私にも感じ取れません。 しかしその話を聞いて意識を向けてみた所、僅かですがアルトラン・ネメシスの気配の残滓を拾ったのです。 本当に意識を集中させないとわからないくらいに薄い残り香でしたが』
「って事は、もしかしたらアルトラン・ネメシスの奴は南米に居るかもしれないって事かよ!?」
「そう、かもしれない。 でも違うかもしれない。 だからそれを確かめに南米に行くつもりだ。 ただ、シンの言う通りアルトラン・ネメシスが潜んでいたのなら―――」
もしその残滓が本当にアルトラン・ネメシスの物なのならば。
もし南米にまだ居るのならば。
ならば紡ぎ出される結論はただ一つ。
「―――これから起きる戦いが俺達の、最後の戦いになるかもしれない……!!」
その一言が、たちまち茶奈達の背中に「ゾクゾク」とした感覚を呼ぶ。
きめ細かな電気が走り廻ったかの様な快感が。
そう。
最後の戦いになるかもしれないのだ。
アルトラン・ネメシスを見つけだし、倒せれば。
そして世界が救われる。
誰しもがその一言を前に期待を抱かざるを得なかった。
ここまでが長く辛い道のりだったから。
早く訪れて欲しいと思って止まなかったから。
この瞬間をどれだけ待ち侘びてきた事か。
『でも油断は禁物です。 アルトラン・ネメシスを逃がしてしまえば、また見つけられる可能性は薄いでしょう。 彼にとってこの戦いは、ただ逃げるだけで勝てる出来レースに近いのですから』
「そうだな。 だから慎重に事を運ぶぞ。 これから戦闘可能な人員総動員でアマゾンに降りて調査を行う。 アンディ、お前にも力を借りるぞ!」
「はい、師匠!!」
だからこそ万全を期す。
グランディーヴァが持つ全ての力を駆使して。
その為にアンディも呼ばれたのだから。
実はアンディはそれなりに前から戦闘復帰訓練を行っている。
命力の通わない左腕も、魔剣【レイデッター】さえあれば使える事がわかったからだ。
ただしナターシャ随伴というハンデはあるが。
そんな事もあってエイミー軍との戦い前くらいには訓練を開始。
食堂で料理修行に励みつつも、影では訓練を続けていたというのだから驚きだろう。
元々根性があったのと、ナターシャとの一件で吹っ切れたからか、その伸び代は群を抜いていて。
昔取った杵柄もあり、今では二軍メンバーよりも高いポテンシャルを誇っている。
つまり、ハンデさえ克服されれば充分な程に即戦力クラス。
ほぼ現役時代に近い形へと仕上がっているのである。
いや、もしかしたらそのひたむきさ故に、以前以上となるかもしれない。
「アンディ、でも無理はしちゃ駄目よ?」
「わかってるよママ。 けどね、俺も無理くらい突き抜けてみせるって。 ナッティや竜星を守る為にもさ」
「オイオイ、どっかで聞いた様な台詞だなぁ?」
アンディももう気力充分だ。
今日この日の為に仕上げて来たと言っても過言では無いのだから。
義理両親を前にしてここまでの気概を見せればもう何も言う事は無いだろう。
これには心輝もレンネィも微笑まざるを得ない。
「これは僕らの戦闘デビュー戦も近いね。 大丈夫かいバロルフ?」
「フン、俺は貴様の様な急ごしらえとは違う。 このバロルフ様の力を見せつけてやろうではないか」
もちろん、だからと言って獅堂やバロルフも負けてはいられない。
二人もまたこの日の為に力を付けようと血反吐を吐いて来たのだから。
めきめきと強引に実力を上げつつある獅堂。
伸び代が少なくとも必死に食らいつくバロルフ。
どちらも想いに殉じ、その身を粉にする気概で挑むのみ。
「歯がゆいな。 私にも力があれば数に加われたのにな」
「必要なら魔剣くらいは用意してやるのネ」
「ズーダーさんは操舵手として充分優秀じゃねッスか……」
一方で、ズーダーがそんな彼等を羨望の眼差しで覗き見る。
戦いから退いたとはいえ、やはり心残りではあった様で。
もっとも、今こうして南米に向かえていられるのは彼の操縦があってこそ。
皆揃ってそれを認めているから、安心して話し合えるのだ。
各々の想いが映すのは様々な色模様。
戦いに挑む激情と。
そこに加わりたい羨望と。
全てが終わった後への期待と―――不安。
突如として見え始めた光明に縋ろうと、彼等は飛ぶ。
これが全ての解決に繋がる事を信じて。
僅かな可能性に全てを賭して。
だが彼等はまだ気付いていない。
星の裏側で何が起きているのかを。
そして南米で何が起きているのかを。
世界は間も無く騒然とするだろう。
想像を遥かに超えた異常事態が起きている事を遂に知ってしまうのだから。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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