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第二十五節「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」
~今はただ彼女を託して~
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都内、東京大学付属病院。
勇達が特事部時代から幾度となく利用している提携病院だ。
ここには秘密裏に設置された魔特隊専用のフロアも有り、本部を移した今でも機能している。
レンネィも実は今ここに入院していて、リハビリの真っ最中。
実は亜月も事実上はここに入院中で、ブラジルから引き揚げた装備もまだここにある。
テストやデートがあるからと無理矢理飛び出しただけで、本来はまだ怪我人扱いなのだから。
ただ、それも間も無く本当の意味での怪我人として舞い戻る事となる。
「看護師さんッ!!」
「あ、こんばんは藤咲さ―――えっ!?」
それはその専用フロアでの事。
廊下を歩いていた看護師が声に気付いて振り向けば―――
そこには傷だらけの亜月を抱えた勇の姿が。
代々田公園からこの病院までは直線距離でおおよそ一〇キロメートル。
止まらず真っ直ぐ進めるならば、車でも一〇分程度で辿り着く事が出来る。
今の勇なら、ビルの屋上を跳ねる事で相応の事が実現可能だ。
そのまま病院屋上から入り、直接専用フロアに訪れたのである。
そんな素早い移動お陰か、亜月もまだ体力に余裕はある様子。
血みどろになりながらも、勇と共に看護師へと視線を向けている。
弱々しくも、「ごめんなさぁい」と言わんばかりの困り顔で。
「彼女をお願いします! 出血が酷くて、もしかしたら輸血が必要かもしれない!」
「は、はい、わかりました!」
とはいえ、出血自体はもう止まっている。
東京の空を飛んでいる間に自己治癒を施していたからだ。
看護師が急いで担架を用意し、亜月を連れ出していく。
さすがに魔特隊に関わる人物とあって行動が早い。
こういった時こそ気心の知れた人物が頼りになるというもので。
何も聞かずに連れて行った看護師に、勇も感謝を禁じ得ない。
とりあえず亜月を無事に病院へと託す事は出来た。
ならばやるべき事は、あと一つだけだ。
空かさずスマートフォンを取り出し、電話を掛ける。
当然、その通話先は―――
「福留さん、急いで都内を緊急封鎖してください!!」
そう、福留しか居ない。
魔特隊の元締めであり、政治事情にも詳しい彼しか。
電話が繋がった途端、病棟にそんな大声が響き渡る。
しかも必死さがすぐさま伝わる程の早口で。
ただ、いきなりの事となれば福留もすぐに反応する事は出来ない。
たちまち相手側から咳き込みが聴こえてきて。
それが勇に動転している事を気付かせる事となる。
つい、その手を口に充ててしまう程の驚きと共に。
『東京封鎖とは……一体どうしたというのですか?』
続いて聴こえて来たのは、いつものゆったりとした声色で。
お陰で勇がようやく落ち着きを取り戻す。
一つ深呼吸を挟み、息を整えて。
「先程、あずと代々田公園に行ったんですが、そこで驚くべき人物と遭遇したんです。 剣聖さん達と同じ三剣魔の、デュゼローという男です」
『……以前報告に有った方ですね』
「ええ。 ですが、デュゼローは俺達に対して敵意をぶつけて来ました。 それどころか、俺の知らない魔者の仲間まで引き連れていたんです……!!」
『ッ!? 魔者、ですか!?』
しかし、報告を耳にした途端に福留にも動揺の声が漏れる。
当然だ、東京に魔者が出たなど信じられもしなかったのだから。
福留および魔特隊は言わば魔者対策のエキスパートだ。
つまり、日本における魔者事情は誰よりも詳しいという事で。
だからどこに魔者が居るのか、住んでいるのかも常に把握している。
特に、福留に限っては政治的な関わりもあり、根底にも通じていると言っても過言では無い。
その福留が知らなかったのだ。
となれば驚愕は声以上に計り知れない。
『まさかデュゼロー氏が敵だとは。 ご無事で何よりです』
「いえ、無事では済みませんでした。 あずが負傷して、今病院に居ます。 命に別状は無さそうですが」
『そうでしたか……ふむ、わかりました。 封鎖までは出来ませんが、警察と自衛隊を動員して都内をくまなく調査するよう指示を出す事にします。 それで勇君、他に詳細がわかっていたら教えてください』
「魔者の名前はイビドとドゥゼナーという様です。 容姿を簡単に説明すると、豹とライオンみたいな魔者でした。 あと、彼等は明らかに俺達の事を知っていました。 恐らく活動内容も……!!」
福留が感情を押し留めて耳を傾ける中、勇の話は続く。
しかし言葉が連なる度に、一つの感情が沸々と湧き上がってくる様で。
遂には空いた手が強く握り締められる。
悔しかったのだ。
魔特隊という秘密組織を、敵とも思える相手に悟られてしまった事が。
例え不可抗力とはいえ、自分達の努力を踏みにじられた気がしてならなくて。
「後、俺達の行いが〝無知の罪〟だとかそんな事を言っていました。 何の事だかさっぱりわかりませんでしたが」
『ふむ。 無知、罪、ですか。 つまり彼等は何かを知って、ここに訪れたと。 剣聖さんの絡みとなれば恐らく、例の【フララジカ】についてでしょうか』
ただ、その悔しさも今は何の意味も成さないだろう。
だからこそ、勇もただひたすら抑えて福留との会話に集中しなければならない。
こうして状況を克明に伝え、万全を期す為に。
「俺がハッキリとわかるのはそれくらいです」
『わかりました。 では亜月さんは治療後、病院で待機してもらいましょう。 病院への連絡は私の方がしますので、勇君は今すぐ魔特隊本部へ向かってください』
そのお陰で状況はしっかり伝わった様で。
間も無く通話が途切れ、「ツーツー」と虚しい音が耳に届く。
そうなれば後はもう、そのスマートフォンを降ろして―――成すべき事を成すだけだ。
「どうやら面倒事が起きたみたいねぇ」
するとそんな時、聴き慣れた声が不意に背後から聴こえて。
ふと振り返れば、そこにはあの人の姿が。
「あ、レンネィさん……」
そう、レンネィである。
現在リハビリの真っ最中で車椅子での登場だ。
どうやら勇の声に気付き、病室から出て来たらしい。
―――となれば、もう説明は不要だろう。
「そうだ、レンネィさん。 あずが怪我をして今治療中なんですが、戻って来ても病院から出ない様に伝えてください」
「余程の事が起きたのね。 わかったわ。 あの子の事だから、今の私が止められるかどうかは怪しいけど。 やるだけの事はやってみる」
「ありがとうございます! じゃあ俺は行きます!!」
例え命力を失っても、その影響力や統率力までは失われていない。
レンネィならば向こう見ずな亜月でも制止出来るだろう。
だからこうして託す事が出来る。
もう戦って欲しくないから。
これ以上傷付いて欲しくないから。
だから安心して、勇は再び夜の街を跳ぶ事が出来る。
暗闇に消えた勇をレンネィが見送る。
自身にまだ力があればと、悔しさを滲ませながら。
彼女はこうなってもまだ戦士だから。
まだ戦えるはずなのだと、諦めていないから。
例えそれが戦闘行為に限らなくとも。
勇とレンネィの想いが重ならなくとも交錯する東京の夜。
二人の想いは、そして亜月の想いは、なおも輝きを失ってはいない。
勇達が特事部時代から幾度となく利用している提携病院だ。
ここには秘密裏に設置された魔特隊専用のフロアも有り、本部を移した今でも機能している。
レンネィも実は今ここに入院していて、リハビリの真っ最中。
実は亜月も事実上はここに入院中で、ブラジルから引き揚げた装備もまだここにある。
テストやデートがあるからと無理矢理飛び出しただけで、本来はまだ怪我人扱いなのだから。
ただ、それも間も無く本当の意味での怪我人として舞い戻る事となる。
「看護師さんッ!!」
「あ、こんばんは藤咲さ―――えっ!?」
それはその専用フロアでの事。
廊下を歩いていた看護師が声に気付いて振り向けば―――
そこには傷だらけの亜月を抱えた勇の姿が。
代々田公園からこの病院までは直線距離でおおよそ一〇キロメートル。
止まらず真っ直ぐ進めるならば、車でも一〇分程度で辿り着く事が出来る。
今の勇なら、ビルの屋上を跳ねる事で相応の事が実現可能だ。
そのまま病院屋上から入り、直接専用フロアに訪れたのである。
そんな素早い移動お陰か、亜月もまだ体力に余裕はある様子。
血みどろになりながらも、勇と共に看護師へと視線を向けている。
弱々しくも、「ごめんなさぁい」と言わんばかりの困り顔で。
「彼女をお願いします! 出血が酷くて、もしかしたら輸血が必要かもしれない!」
「は、はい、わかりました!」
とはいえ、出血自体はもう止まっている。
東京の空を飛んでいる間に自己治癒を施していたからだ。
看護師が急いで担架を用意し、亜月を連れ出していく。
さすがに魔特隊に関わる人物とあって行動が早い。
こういった時こそ気心の知れた人物が頼りになるというもので。
何も聞かずに連れて行った看護師に、勇も感謝を禁じ得ない。
とりあえず亜月を無事に病院へと託す事は出来た。
ならばやるべき事は、あと一つだけだ。
空かさずスマートフォンを取り出し、電話を掛ける。
当然、その通話先は―――
「福留さん、急いで都内を緊急封鎖してください!!」
そう、福留しか居ない。
魔特隊の元締めであり、政治事情にも詳しい彼しか。
電話が繋がった途端、病棟にそんな大声が響き渡る。
しかも必死さがすぐさま伝わる程の早口で。
ただ、いきなりの事となれば福留もすぐに反応する事は出来ない。
たちまち相手側から咳き込みが聴こえてきて。
それが勇に動転している事を気付かせる事となる。
つい、その手を口に充ててしまう程の驚きと共に。
『東京封鎖とは……一体どうしたというのですか?』
続いて聴こえて来たのは、いつものゆったりとした声色で。
お陰で勇がようやく落ち着きを取り戻す。
一つ深呼吸を挟み、息を整えて。
「先程、あずと代々田公園に行ったんですが、そこで驚くべき人物と遭遇したんです。 剣聖さん達と同じ三剣魔の、デュゼローという男です」
『……以前報告に有った方ですね』
「ええ。 ですが、デュゼローは俺達に対して敵意をぶつけて来ました。 それどころか、俺の知らない魔者の仲間まで引き連れていたんです……!!」
『ッ!? 魔者、ですか!?』
しかし、報告を耳にした途端に福留にも動揺の声が漏れる。
当然だ、東京に魔者が出たなど信じられもしなかったのだから。
福留および魔特隊は言わば魔者対策のエキスパートだ。
つまり、日本における魔者事情は誰よりも詳しいという事で。
だからどこに魔者が居るのか、住んでいるのかも常に把握している。
特に、福留に限っては政治的な関わりもあり、根底にも通じていると言っても過言では無い。
その福留が知らなかったのだ。
となれば驚愕は声以上に計り知れない。
『まさかデュゼロー氏が敵だとは。 ご無事で何よりです』
「いえ、無事では済みませんでした。 あずが負傷して、今病院に居ます。 命に別状は無さそうですが」
『そうでしたか……ふむ、わかりました。 封鎖までは出来ませんが、警察と自衛隊を動員して都内をくまなく調査するよう指示を出す事にします。 それで勇君、他に詳細がわかっていたら教えてください』
「魔者の名前はイビドとドゥゼナーという様です。 容姿を簡単に説明すると、豹とライオンみたいな魔者でした。 あと、彼等は明らかに俺達の事を知っていました。 恐らく活動内容も……!!」
福留が感情を押し留めて耳を傾ける中、勇の話は続く。
しかし言葉が連なる度に、一つの感情が沸々と湧き上がってくる様で。
遂には空いた手が強く握り締められる。
悔しかったのだ。
魔特隊という秘密組織を、敵とも思える相手に悟られてしまった事が。
例え不可抗力とはいえ、自分達の努力を踏みにじられた気がしてならなくて。
「後、俺達の行いが〝無知の罪〟だとかそんな事を言っていました。 何の事だかさっぱりわかりませんでしたが」
『ふむ。 無知、罪、ですか。 つまり彼等は何かを知って、ここに訪れたと。 剣聖さんの絡みとなれば恐らく、例の【フララジカ】についてでしょうか』
ただ、その悔しさも今は何の意味も成さないだろう。
だからこそ、勇もただひたすら抑えて福留との会話に集中しなければならない。
こうして状況を克明に伝え、万全を期す為に。
「俺がハッキリとわかるのはそれくらいです」
『わかりました。 では亜月さんは治療後、病院で待機してもらいましょう。 病院への連絡は私の方がしますので、勇君は今すぐ魔特隊本部へ向かってください』
そのお陰で状況はしっかり伝わった様で。
間も無く通話が途切れ、「ツーツー」と虚しい音が耳に届く。
そうなれば後はもう、そのスマートフォンを降ろして―――成すべき事を成すだけだ。
「どうやら面倒事が起きたみたいねぇ」
するとそんな時、聴き慣れた声が不意に背後から聴こえて。
ふと振り返れば、そこにはあの人の姿が。
「あ、レンネィさん……」
そう、レンネィである。
現在リハビリの真っ最中で車椅子での登場だ。
どうやら勇の声に気付き、病室から出て来たらしい。
―――となれば、もう説明は不要だろう。
「そうだ、レンネィさん。 あずが怪我をして今治療中なんですが、戻って来ても病院から出ない様に伝えてください」
「余程の事が起きたのね。 わかったわ。 あの子の事だから、今の私が止められるかどうかは怪しいけど。 やるだけの事はやってみる」
「ありがとうございます! じゃあ俺は行きます!!」
例え命力を失っても、その影響力や統率力までは失われていない。
レンネィならば向こう見ずな亜月でも制止出来るだろう。
だからこうして託す事が出来る。
もう戦って欲しくないから。
これ以上傷付いて欲しくないから。
だから安心して、勇は再び夜の街を跳ぶ事が出来る。
暗闇に消えた勇をレンネィが見送る。
自身にまだ力があればと、悔しさを滲ませながら。
彼女はこうなってもまだ戦士だから。
まだ戦えるはずなのだと、諦めていないから。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
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