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第三十八節「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」
~今、死地へと翔ける~
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恐ろしい速度で、明空の中を雲が流れていく。
それだけ凄まじい速さでアルクトゥーンが航行しているのだろう。
相変わらず振動や慣性は一切感じないが。
だからこそ怖いものがある。
今は海しか見えないけれど、気付いたら北米大陸に到達していそうで。
壁に備えられた画面に魅入られれば、降下タイミングさえ逃してしまいそうだ。
そんな一抹の恐怖を煽る様に、備えた腕時計が少ない秒数を減らしていく。
最初の降下部隊に残された時間はもう三分と無い。
それに合わせ、後部ハッチ内では既に第一降下部隊が待機している。
獅堂を筆頭にしての、ディック、バロルフ、ズーダーを構成員とした小隊だ。
「ディックさん、先日の降下とはワケが違うけど平気そうかい?」
「ん? ああ多分ね。 先日の降下は怖かったけど、意外と何とも無いもんだ。 魔装ちゃんがしっかりと仕事してくれてるお陰かねぇ」
ただ、獅堂はともかくとして他のメンバーの練度はそれ程高くない。
ディックに至っては唯一普通の人間で、【六崩世神】に力が及ぶかさえ怪しい所だろう。
それどころか、降下でさえちゃんと行えるかどうかも。
実際の話、今回は獅堂に背負われての降下だ。
前回同様、降下時間さえ削る為に降下器具などは一切使わないからこそ。
とはいえ、二回目ともなれば慣れたもので。
今回の相手が獅堂という所に多少不満もあるが、そこはいざ仕方ない所か。
「少しでも足を引っ張ろうものなら容赦無く置いていくぞォ!! 覚悟しておけェい!」
「バロルフ殿の気の持ちようが今は頼もしくもあるな。 うむ、負けないよう気を張るとしよう」
他のメンバーも充分なやる気を見せていて。
そんな気迫が充実した所で、遂に時が訪れる。
『第一部隊降下時間、残り三〇秒。 ハッチ展開します。 各自は誤降下に注意を』
莉那の声と共にハッチの隔壁が開き、遂に外がお目見えに。
艦先を映す画面とは違う、雲の流れ行く光景が。
それと同時に爆音とも思える裂空音もが聴こえて来て、緊張をも煽りに煽る。
でももう時は訪れたのだ。
物怖じなどしていられない。
「それじゃあ行ってくるよ!! 皆、これが終わったら一緒に祝杯でも上げようじゃないか!!」
その間も無く、カウントダウンが『00:00』を示して。
獅堂達が遂に一斉投身し、空へと消える。
仲間達が見守るその中で堂々と、恐れる事無く。
「へっ、一番戻ってくる可能性の低い奴が良く言いやがる。 だが―――」
「ええ、祝杯ならば賛成です。 その為にも、全員が生きて帰りましょう」
そんな勇姿を見せつけられ、更にこう一言残されようものならば。
この男が奮い立たない訳が無い。
次の降下者であるイシュライトがハッチの前に立つ。
腕を組み、足を開いて堂々と。
まるで獅堂に負けじとばかりの気迫を伴って。
「ホホ、随分と思い入れがあるものよの」
「彼は一応、私の弟子という事になっておりますから。 多少は思い入れもありますよ」
「ほう? ならそっちについて行って見学した方が良かったかのぉ」
ならばとウィグルイもその隣に。
こうして肩を並べて語る姿は今も昔も変わらない。
イ・ドゥールの強者ならば目口耳を合わせずとも語り合えるからこそ。
「いえ、きっと面白みはありませんよ。 彼は〝その場限りの亜弟〟ですから」
「はは、確かにな。 正直あの仕上げ方は無茶もいいとこだ。 俺がやれと言われたら御免こうむりたいくらいにな」
「なんじゃ、マトモな仕上げ方ではないのか。 つまらんのぉ~」
第二降下の時間が刻一刻と差し迫る中でも、その余裕は相変わらずだ。
こうして獅堂をネタにした〝冗談〟を言い合える程には緊張も解れていて。
「―――ですが、覚悟だけは本物でした。 今だけの弟子と言えど心から信頼出来る程に」
しかし時が訪れれば、自然とその顔も引き締まる。
残り時間が一分を切ろうものなら、おのずと。
『第二部隊降下時間まで残り三〇秒です』
「問題はありません。 さぁ師父殿、参りましょうか」
「うむ。 楽しみで心体共に沸き立つ様だわ」
そう言葉を交わし、遂にイシュライトとウィグルイが投身する。
今なお灯と炎が瞬く街の中へと向けて。
「二人は相変わらずなのだな」
「ああ。 つまり兄者が思う程、時は過ぎてないという事だ」
そんな二人を見送った後に立つのはこの巨体達。
【白の兄弟】アージとマヴォの出番だ。
そのアージの拳には、マヴォと同じ輝きを放つ手甲が。
足にも同様の装備が備えられていて、その似通った姿はまさに兄弟と言った所か。
「二つ忠告しておく。 その【ギュラ・メフェシュ】は並みの覚悟では扱えない。 全てを押し退けるつもりで運用してくれ」
そう、アージが備えるのもまた【白迅甲ギュラ・メフェシュ改】。
マヴォが備えている物と全く同じの。
それというのも、マヴォはこの日の為にスペアを用意してもらっていたのだ。
いつかアージが戻って来た時、共にこの装備を備える為にと。
アージがその忠告に頷きを見せる中、またしてもマヴォが口を開く。
流れ行く空の彼方に視線を向けながら。
「それと、もう一度言う。 今の俺は、兄者よりも―――強い」
「そうだな。 お前は強くなった。 だからこそ今は俺が合わせよう。 その力を存分に奮える様にな」
その末に、それぞれの手甲を「ガチリ」と打ち当て意思を交わす。
優劣に拘らなくなった今の二人に、もはやそれ以上の言葉は必要無いのだろう。
『間も無く第三部隊の降下時間です。 二人共よろしくお願いします』
「マヴォ、がんばってね」
「うむ。 お前達も気を付けてな」
「フッ、甲斐性無しが今や人娘に好かれる漢か。 変われるものだな」
そんなやりとりの直後、二人の武熊が跳ぶ。
灼熱の大陸へと向けて一心に。
『間も無く剣聖さんの降下時間です』
「あーあー、こまけぇ配慮なんざ要らねぇ。 おめぇらの文化はもうとっくに理解してらぁ」
ならば次に立つのはこの男。
莉那の心配を他所に、鼻で笑いつつ巨体が空の前へ。
剣聖である。
魔剣は先の戦闘で失われ、代替品も無い。
でも、それでも何の問題無いのだろう。
そもそも魔剣はただ命力を高めるだけの飾りでしか無く、力の本質とはならない。
今や剣聖は魔剣を奮うよりも己の肉体を奮った方がずっと強いのだから。
神鋼をも上回る強靭な肉体を誇るからこそ。
「おう、おめぇら、最後だからって気ィ抜くんじゃねぇぞ?」
「わかってるよ。 俺達だっていつまでも子供じゃないからな」
「えへへ、最近までママに付きっ切りだった癖に言うよ~」
「なあッ!? お前そういう事を今言うなよぉ!?」
しかしそんな肉体も、目の前で繰り広げる兄妹コントを前には緩まずにはいられない。
心配したつもりが損したと言わんばかりに、「やれやれ」とお手上げを見せていて。
ただ今はそんな緩みも大事だとわかっているからこそ。
「へっ、安心しな。 その事実は戦いが終わった後、盛大にバラしてやる」
「や、やめてくれぇ~!! 頼むよぉ!!」
『ふふ、その必要はありませんよ。 もう皆さん知ってらっしゃいますから』
「あ~もう最悪だよ、最終決戦を前にさぁ」
自慢の剣聖節がこうも炸裂すれば、緩みきる事さえあるだろう。
たちまちアンディが崩れ落ち、床に蹲る姿が。
今やかつての思い出も黒歴史、そんな事実を掘り起こされれば気落ちは免れない。
例えこれが冗談だとわかっていても。
「馬鹿野郎!! そんなとこまで師匠に似るんじゃねぇよ!! その程度は気合いで跳ね退けやぁがれ!! 」
でもそれが剣聖には楽しくて堪らない。
怒ってる様に咆えているが、その顔は笑顔そのものだ。
なにせ気落ちする姿がどこぞのリーダーと同じだったから。
蹲る姿がとても懐かしくて、思い出を見せて貰ったかの様で。
だからこそ覚悟も決められるのだろう。
「おう、じゃあ行ってくるぜ。 おめぇらもしっかりやれよ?」
空を背に、マヴォ同様の励ましをナターシャ達へと掛けて。
そのまま背から空の彼方へ落ちていく。
これが剣聖なりの励まし方だったのだろう。
一線を退いて久しいアンディへの、緊張を解す為の。
それをわかっているからこそ、アンディも立つ。
ほんの少し悔しそうだけど、そうしてもいられない事も理解しているから。
「ナッティ、戦いが終わったら憶えてろよ~」
「しし! うん、わかった!」
「本当にわかってんのかよ……」
二人はまだ高校生だが、数々の死線も潜り抜けて来た。
例えブランクがあったとしても、その経験は体と心に染み付いている。
こんな気持ちの切り替えくらい難なく出来る程に。
そして剣聖が黒歴史という憂いを取り払ったからこそ、今は前も見据えられる。
ナターシャも、アンディも、もう立派な戦士だ。
ならもう、最後の戦いに向ける心構えは―――何があろうと変わらない。
『間も無く第五部隊、最後のお二人の降下です。 どうかご武運を』
「うん、莉那ちゃんもがんばってね」
『ええ。 必ず勝ちましょう。 未来を―――いえ、明日を掴み取る為に』
故に今、兄妹が跳ぶ。
かつての故郷へ向けて意気揚々と。
北の大地に再びの平穏を取り戻す為に。
「戦闘員全員の降下を確認」
「ジェネレーター出力、残存命力値、共に予定範囲内です。 さて、我々も戦いに向けて気を引き締めるとしましょうか」
静かになった後部ハッチを見届けた後、その映像がモニターから姿を消す。
後はこの艦が最後の地、インドへと向けて一直線に突き抜けるだけなのだから。
自らを戦力として。
しかしその時、ふと福留が気付く。
操縦桿を握る莉那の手が震えている所を、背後からチラリと見えた事に。
「莉那さん、不安なんですね」
「……はい。 正直に言えば怖いです。 この力が通用するかどうか確証は有りませんから」
幾ら気丈な莉那とはいえ、怖いものは怖い。
艦長として前線に立ち続けてきた身であろうとも。
いざ実戦となれば不安を断ち切るのは無理だったらしい。
ただ、その不安なんて最初からあった。
それもずっと前、操縦訓練をこなしている時から。
つまり、今の今感じた事ではないのだ。
だからこそ、手は震えていても機体はブレていない。
しっかりとその不安や恐怖を制御しきっているからこそ。
「だから初手で証明します。 この不安が、恐れがまやかしである事を」
「ええ、そうですね。 何、深く考える必要は無いのです。 ア・リーヴェさんが神でありながら人であるように、彼等もまた超常的な力を持ちながらも人なのです。 なら、古代人がこの機体を遺した理由もおのずと理解出来るでしょう」
そして莉那も賢いから、きっと福留にこう言われるまでも無いのだろう。
故に奮う事を決めたのだ。
古代人の英知と、現代人の技巧が組み合わさったこの機体を。
その不確かな存在理由を確実のものとする為に。
「なら信じましょう。 対アルトラン用決戦兵器としてこの機体を製造した彼等の事を」
「ええ……!」
その決意が、手の震えを抑え込む。
覚悟が、操縦桿の握る手に力を与える。
後はただ前を見据え、先へと意思を飛ばそう。
間も無く見えるであろう敵へと向けて。
今まで戦ってきた事の意味を証明する為にも。
こうして戦士達は各々の戦場へと立つ。
まだ見えない明日を掴み取る為に。
真の救世主が礎となる為に。
その力を今―――全て注ごう。
それだけ凄まじい速さでアルクトゥーンが航行しているのだろう。
相変わらず振動や慣性は一切感じないが。
だからこそ怖いものがある。
今は海しか見えないけれど、気付いたら北米大陸に到達していそうで。
壁に備えられた画面に魅入られれば、降下タイミングさえ逃してしまいそうだ。
そんな一抹の恐怖を煽る様に、備えた腕時計が少ない秒数を減らしていく。
最初の降下部隊に残された時間はもう三分と無い。
それに合わせ、後部ハッチ内では既に第一降下部隊が待機している。
獅堂を筆頭にしての、ディック、バロルフ、ズーダーを構成員とした小隊だ。
「ディックさん、先日の降下とはワケが違うけど平気そうかい?」
「ん? ああ多分ね。 先日の降下は怖かったけど、意外と何とも無いもんだ。 魔装ちゃんがしっかりと仕事してくれてるお陰かねぇ」
ただ、獅堂はともかくとして他のメンバーの練度はそれ程高くない。
ディックに至っては唯一普通の人間で、【六崩世神】に力が及ぶかさえ怪しい所だろう。
それどころか、降下でさえちゃんと行えるかどうかも。
実際の話、今回は獅堂に背負われての降下だ。
前回同様、降下時間さえ削る為に降下器具などは一切使わないからこそ。
とはいえ、二回目ともなれば慣れたもので。
今回の相手が獅堂という所に多少不満もあるが、そこはいざ仕方ない所か。
「少しでも足を引っ張ろうものなら容赦無く置いていくぞォ!! 覚悟しておけェい!」
「バロルフ殿の気の持ちようが今は頼もしくもあるな。 うむ、負けないよう気を張るとしよう」
他のメンバーも充分なやる気を見せていて。
そんな気迫が充実した所で、遂に時が訪れる。
『第一部隊降下時間、残り三〇秒。 ハッチ展開します。 各自は誤降下に注意を』
莉那の声と共にハッチの隔壁が開き、遂に外がお目見えに。
艦先を映す画面とは違う、雲の流れ行く光景が。
それと同時に爆音とも思える裂空音もが聴こえて来て、緊張をも煽りに煽る。
でももう時は訪れたのだ。
物怖じなどしていられない。
「それじゃあ行ってくるよ!! 皆、これが終わったら一緒に祝杯でも上げようじゃないか!!」
その間も無く、カウントダウンが『00:00』を示して。
獅堂達が遂に一斉投身し、空へと消える。
仲間達が見守るその中で堂々と、恐れる事無く。
「へっ、一番戻ってくる可能性の低い奴が良く言いやがる。 だが―――」
「ええ、祝杯ならば賛成です。 その為にも、全員が生きて帰りましょう」
そんな勇姿を見せつけられ、更にこう一言残されようものならば。
この男が奮い立たない訳が無い。
次の降下者であるイシュライトがハッチの前に立つ。
腕を組み、足を開いて堂々と。
まるで獅堂に負けじとばかりの気迫を伴って。
「ホホ、随分と思い入れがあるものよの」
「彼は一応、私の弟子という事になっておりますから。 多少は思い入れもありますよ」
「ほう? ならそっちについて行って見学した方が良かったかのぉ」
ならばとウィグルイもその隣に。
こうして肩を並べて語る姿は今も昔も変わらない。
イ・ドゥールの強者ならば目口耳を合わせずとも語り合えるからこそ。
「いえ、きっと面白みはありませんよ。 彼は〝その場限りの亜弟〟ですから」
「はは、確かにな。 正直あの仕上げ方は無茶もいいとこだ。 俺がやれと言われたら御免こうむりたいくらいにな」
「なんじゃ、マトモな仕上げ方ではないのか。 つまらんのぉ~」
第二降下の時間が刻一刻と差し迫る中でも、その余裕は相変わらずだ。
こうして獅堂をネタにした〝冗談〟を言い合える程には緊張も解れていて。
「―――ですが、覚悟だけは本物でした。 今だけの弟子と言えど心から信頼出来る程に」
しかし時が訪れれば、自然とその顔も引き締まる。
残り時間が一分を切ろうものなら、おのずと。
『第二部隊降下時間まで残り三〇秒です』
「問題はありません。 さぁ師父殿、参りましょうか」
「うむ。 楽しみで心体共に沸き立つ様だわ」
そう言葉を交わし、遂にイシュライトとウィグルイが投身する。
今なお灯と炎が瞬く街の中へと向けて。
「二人は相変わらずなのだな」
「ああ。 つまり兄者が思う程、時は過ぎてないという事だ」
そんな二人を見送った後に立つのはこの巨体達。
【白の兄弟】アージとマヴォの出番だ。
そのアージの拳には、マヴォと同じ輝きを放つ手甲が。
足にも同様の装備が備えられていて、その似通った姿はまさに兄弟と言った所か。
「二つ忠告しておく。 その【ギュラ・メフェシュ】は並みの覚悟では扱えない。 全てを押し退けるつもりで運用してくれ」
そう、アージが備えるのもまた【白迅甲ギュラ・メフェシュ改】。
マヴォが備えている物と全く同じの。
それというのも、マヴォはこの日の為にスペアを用意してもらっていたのだ。
いつかアージが戻って来た時、共にこの装備を備える為にと。
アージがその忠告に頷きを見せる中、またしてもマヴォが口を開く。
流れ行く空の彼方に視線を向けながら。
「それと、もう一度言う。 今の俺は、兄者よりも―――強い」
「そうだな。 お前は強くなった。 だからこそ今は俺が合わせよう。 その力を存分に奮える様にな」
その末に、それぞれの手甲を「ガチリ」と打ち当て意思を交わす。
優劣に拘らなくなった今の二人に、もはやそれ以上の言葉は必要無いのだろう。
『間も無く第三部隊の降下時間です。 二人共よろしくお願いします』
「マヴォ、がんばってね」
「うむ。 お前達も気を付けてな」
「フッ、甲斐性無しが今や人娘に好かれる漢か。 変われるものだな」
そんなやりとりの直後、二人の武熊が跳ぶ。
灼熱の大陸へと向けて一心に。
『間も無く剣聖さんの降下時間です』
「あーあー、こまけぇ配慮なんざ要らねぇ。 おめぇらの文化はもうとっくに理解してらぁ」
ならば次に立つのはこの男。
莉那の心配を他所に、鼻で笑いつつ巨体が空の前へ。
剣聖である。
魔剣は先の戦闘で失われ、代替品も無い。
でも、それでも何の問題無いのだろう。
そもそも魔剣はただ命力を高めるだけの飾りでしか無く、力の本質とはならない。
今や剣聖は魔剣を奮うよりも己の肉体を奮った方がずっと強いのだから。
神鋼をも上回る強靭な肉体を誇るからこそ。
「おう、おめぇら、最後だからって気ィ抜くんじゃねぇぞ?」
「わかってるよ。 俺達だっていつまでも子供じゃないからな」
「えへへ、最近までママに付きっ切りだった癖に言うよ~」
「なあッ!? お前そういう事を今言うなよぉ!?」
しかしそんな肉体も、目の前で繰り広げる兄妹コントを前には緩まずにはいられない。
心配したつもりが損したと言わんばかりに、「やれやれ」とお手上げを見せていて。
ただ今はそんな緩みも大事だとわかっているからこそ。
「へっ、安心しな。 その事実は戦いが終わった後、盛大にバラしてやる」
「や、やめてくれぇ~!! 頼むよぉ!!」
『ふふ、その必要はありませんよ。 もう皆さん知ってらっしゃいますから』
「あ~もう最悪だよ、最終決戦を前にさぁ」
自慢の剣聖節がこうも炸裂すれば、緩みきる事さえあるだろう。
たちまちアンディが崩れ落ち、床に蹲る姿が。
今やかつての思い出も黒歴史、そんな事実を掘り起こされれば気落ちは免れない。
例えこれが冗談だとわかっていても。
「馬鹿野郎!! そんなとこまで師匠に似るんじゃねぇよ!! その程度は気合いで跳ね退けやぁがれ!! 」
でもそれが剣聖には楽しくて堪らない。
怒ってる様に咆えているが、その顔は笑顔そのものだ。
なにせ気落ちする姿がどこぞのリーダーと同じだったから。
蹲る姿がとても懐かしくて、思い出を見せて貰ったかの様で。
だからこそ覚悟も決められるのだろう。
「おう、じゃあ行ってくるぜ。 おめぇらもしっかりやれよ?」
空を背に、マヴォ同様の励ましをナターシャ達へと掛けて。
そのまま背から空の彼方へ落ちていく。
これが剣聖なりの励まし方だったのだろう。
一線を退いて久しいアンディへの、緊張を解す為の。
それをわかっているからこそ、アンディも立つ。
ほんの少し悔しそうだけど、そうしてもいられない事も理解しているから。
「ナッティ、戦いが終わったら憶えてろよ~」
「しし! うん、わかった!」
「本当にわかってんのかよ……」
二人はまだ高校生だが、数々の死線も潜り抜けて来た。
例えブランクがあったとしても、その経験は体と心に染み付いている。
こんな気持ちの切り替えくらい難なく出来る程に。
そして剣聖が黒歴史という憂いを取り払ったからこそ、今は前も見据えられる。
ナターシャも、アンディも、もう立派な戦士だ。
ならもう、最後の戦いに向ける心構えは―――何があろうと変わらない。
『間も無く第五部隊、最後のお二人の降下です。 どうかご武運を』
「うん、莉那ちゃんもがんばってね」
『ええ。 必ず勝ちましょう。 未来を―――いえ、明日を掴み取る為に』
故に今、兄妹が跳ぶ。
かつての故郷へ向けて意気揚々と。
北の大地に再びの平穏を取り戻す為に。
「戦闘員全員の降下を確認」
「ジェネレーター出力、残存命力値、共に予定範囲内です。 さて、我々も戦いに向けて気を引き締めるとしましょうか」
静かになった後部ハッチを見届けた後、その映像がモニターから姿を消す。
後はこの艦が最後の地、インドへと向けて一直線に突き抜けるだけなのだから。
自らを戦力として。
しかしその時、ふと福留が気付く。
操縦桿を握る莉那の手が震えている所を、背後からチラリと見えた事に。
「莉那さん、不安なんですね」
「……はい。 正直に言えば怖いです。 この力が通用するかどうか確証は有りませんから」
幾ら気丈な莉那とはいえ、怖いものは怖い。
艦長として前線に立ち続けてきた身であろうとも。
いざ実戦となれば不安を断ち切るのは無理だったらしい。
ただ、その不安なんて最初からあった。
それもずっと前、操縦訓練をこなしている時から。
つまり、今の今感じた事ではないのだ。
だからこそ、手は震えていても機体はブレていない。
しっかりとその不安や恐怖を制御しきっているからこそ。
「だから初手で証明します。 この不安が、恐れがまやかしである事を」
「ええ、そうですね。 何、深く考える必要は無いのです。 ア・リーヴェさんが神でありながら人であるように、彼等もまた超常的な力を持ちながらも人なのです。 なら、古代人がこの機体を遺した理由もおのずと理解出来るでしょう」
そして莉那も賢いから、きっと福留にこう言われるまでも無いのだろう。
故に奮う事を決めたのだ。
古代人の英知と、現代人の技巧が組み合わさったこの機体を。
その不確かな存在理由を確実のものとする為に。
「なら信じましょう。 対アルトラン用決戦兵器としてこの機体を製造した彼等の事を」
「ええ……!」
その決意が、手の震えを抑え込む。
覚悟が、操縦桿の握る手に力を与える。
後はただ前を見据え、先へと意思を飛ばそう。
間も無く見えるであろう敵へと向けて。
今まで戦ってきた事の意味を証明する為にも。
こうして戦士達は各々の戦場へと立つ。
まだ見えない明日を掴み取る為に。
真の救世主が礎となる為に。
その力を今―――全て注ごう。
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気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
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大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
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