時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十八節「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」

~我々という名の花 獅堂達 対 忘虚⑥~

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 ギューゼルの放った輝きが光球達を包み込む。
 全てを飲み込む光球でさえ許容しきれない程の輝きが。

 故に一つ、また一つと掻き消え、滅していく。
 それだけの記憶が、想いが、ギューゼルから解き放たれていたのだ。

 気付けば残るは本体の大光球のみ。
 しかしてギューゼルの輝きはそれにも負けない程に強烈強大で。
 たちまち拡大が止まり、異様な震えと小刻みな伸縮を繰り返し始める。

『オ、オ、オオオ……!? きょむ、にきえ、きえナイイイ!? わすレナイイイ!?』

 その力が外側のロワの意識を呼び覚ました様だ。
 膨れた事で薄れに薄れて消えていたはずの意識を。
 それでも理性があるとは言い難いが。

 それを遠くから見ていた獅堂達は何を思っただろうか。
 その凄まじい輝き同士のぶつかり合いに、何を見たのだろうか。

 否。
 ただただ絶句していただけだ。
 人知を、常識を超越した世界を前にして。
 自分達など忘れ、戦いを眺める事に没頭していただけで。

 今はただ、ギューゼルの輝きがロワを押し切る事を信じて。





 一方その頃、内側の世界では―――

「なんという命力量だ!! さすがは獅堂殿達か!!」

 事情を知らないまでも、予想を遥かに超えた命力を前に驚くズーダーの姿が。

 だからこそ期待せずにはいられない。
 この力なら間違いなく内側のロワを破壊出来るのだと。

「これだけの力があればきっと倒せる!! だが―――」

 しかしそれと同時に不安も過る。
 余りの強さ故に、ズーダーだけで跳ね返せるとは思えなかったのだ。

 跳ね返すだけなら、それほど力は必要無い。
 故にズーダーでも難なく成せると思っていたのだが。
 まさかこれ程の量が投下されるとは。

 ただ考えてる暇は無い。
 注がれた力は命力波としてもう目の前に迫ってきているのだから。

ズオォォォォ!!!

 全ての力がズーダーに向けて流れて来ている。
 きっとこれも内側のロワの采配なのだろう。
 もしかしたら全て跳ね返せると過信しているかもしれない。

 ならばとズーダーもそれに応えるつもりで力を解き放つ。
 巨大な命力の盾を形成したのである。

 理論上、これで命力の流れを変えれば中心核の光に命力波が打ち放てる。
 そうすれば【六崩世神】の一人であるロワをきっと討ち倒せる事だろう。

バババーーーッ!!

 たちまち命力波が盾に打ち当たって跳ね返っていく。
 ただしあらぬ方角へ。

 でもこれは想定内だ。
 これから照準を合わせるつもりなのだから。

「うおおおおッ!!」

 体全体を捻り、空間に固着しながら盾の角度を変えていく。
 圧倒的圧力であるが故にゆっくりと、それでいて確実に。
 光へと向けて飛ぶ様に調節しながら。

 だが―――

「威力が、強い! 強過ぎる!? うおおお!!?」

 想像を絶する力であったが故に、とうとうズーダー自身が押し出され始めていて。
 今の盾の大きさでは足りず、受け流せない命力が零れて消えていく。
 まるで氾濫して溢れ出た川水の様に。

 このままではズーダーが力尽きてしまう。
 反力が盾形成者の命力を削り取ってしまう為だ。
 例え胆力に優れていても、絶対的な流量にはどうしても抗えない。

「だ、駄目なのか、こんな事で終わりなのかッ!? やはり私達では神には敵わないと!? 実力だけでなく運命までもがあ……ッ!?」

 遂には盾に亀裂が。
 厳密に言えば、形成膜が裂けて命力が漏失しているのだ。
 余りの流量と、それに心が耐えきれず軋みを生んだ事によって。

「違う、そんな事は断じて無い!! 運命も、可能性も、我々の意思で全てが曲がる!! いや、曲げなければならないのだ!! この命を捧げてでもおッ!!」

 それでもズーダーは諦めない。
 少しでも多く、命力波を中心核に届けようと盾をズラし続ける。

 例え盾が割れようと、力尽きようとも成し遂げるという覚悟を以って。
 最後には己の身で弾こうという想いさえ抱いたままに。

 心が弾け飛ぶ。
 光と共に欠片となって。
 想いが迸り、光となって。

 暗黒の世界を照らす程の輝きとなって。



トン……



 その時、ズーダーの背中に弱々しい感覚が響いた。
 長老がその掌を添えていたのだ。

は、ずっと後悔していた。 お前が正しい事に、気付いて」

「父、上……?」

 掌を通して心が伝わっていく。
 命力となって伝わっていく。

 ズーダーの心にほんの少し元気と勇気をもたらして。

「だから贖罪の為に、創世の女神様の残せし、交信器を打ち砕いた。 我々にはもう、使う資格が無いと、思ったからだ」

 それだけではない。
 漂っていたグーヌー族が一人、また一人と動き出して。
 皆がその手を、ズーダーの背に肩に腰に脚に充て始めたのだ。
 それでも届かない場合は、手を充てた者達の背に。

 全ての同胞達が連なって。

「そしてこれが、最後の贖罪となろう。 ズーダーよ、ありがとう。 ここまで来てくれて」

「父上……皆……」

 故にズーダーの心が昂っていく。
 力が、高まっていく。
 多くの者達が命力を送った事で。

 彼等の真なる心を受け取った事で。



 その無数の想いが今―――奇跡を起こす。



 巨大な盾が再び形成されたのだ。
 それも一枚の盾では無い。

 無数に散りばめられた宝石の様に。
 太陽の下に開き咲く花の様に。

 重なり広がった宝花弁の盾が今ここに。

「ああ、まるで故郷に咲く【橙幻華エイニース】の様だ。 そうか、これが可能性なのだな。 我々は花なのだ。 皆で一つの、世界に種子を蒔く為の一輪花なのだ。 私一人では、咲かせられる訳が無い」

 なれば名乗ろう。
 一族との想いが一つの花となった今ならば。



 その名こそ【橙幻華盾エイニース】と。



 そうして顕現した力はまさに、陽光を受け広げる花の如し。
 光を前に怯む事無く、その姿を存分に示そう。

 今、全ての命力波を漏れる事無く弾き返す。
 抵抗さえ打ち消す程の剛健さを以って。

「今ならば!! いっけェェェーーーーーーッッ!!!」

 そして遂にその命力波が中心核へと到達した時―――



 その瞬間、世界が真白の光に包まれた。



 本当に真白だった。
 漆黒の空間を全て消し去る程の。
 何もかもが白で埋め尽くされる程の。

「主は言うた。 ありがとう、と。 後は任せる、とな」

「父上……?」

 その白光に包まれながらも、声はまだハッキリと聴こえる。
 手を伸ばせば届いてしまいそうなくらいの近くで。

 でも手は届かない。
 見渡しても何も見えない。
 何もかも、自分自身でさえも。

「そう、任せよう。 お前なら任せられよう」

「何を言って……」

「我等はいくよ。 然るべき場所に。 しかし安心せよ、主が今飲み込んだ者は全て戻る。 お前も。 でも長くここに固着した者はもう帰れはすまい。 主の声が心に聴こえる者はな」

「そう、か……それが定めなのだな」

 けれど想いは届く。
 だからこうして長老は託すのだ。
 もう語る事も出来ない同胞達の代わりに。

 後の世界で、強く生きて欲しいと願いを込めて。

「ならば私も応えよう。 父上、皆、お達者で……ッ!」

 その言葉を最後に、ズーダーの意識までもが真白に染め上がる。
 内側の世界の崩壊と共に。
 愛溢れる世界の主と共に。

 なら願いも届くだろう。
 星に還り行く者達にも、きっと。











 光球が突如として萎んでいく。
 膨らんだ時とは比べ物にもならない程の速度で。

 そして間も無く、その姿が消えて。
 暖かみ溢れる陽光が再び場を包んだのである。

「や、やったのかッ!?」

「うおおッ!! ズーダーさんやってくれたねぇッ!!」

 それだけでは済まされず、バロルフの左腕もが復元していて。
 気付いた本人が違和感だらけの手をにぎにぎと動かす姿が。

 しかも復元したのはバロルフだけではない。
 周囲にも光が灯り、人々が復元されていく。
 部分部分を失った者も、丸ごと消えていた者も。
 表の世界で潰されてしまった者は残念ながら復元とはいかないが。

 それでも多くの人々が生きていた。
 復元して間も無く、何事も無かったかの様に起き上がっていたのだ。
 きっと内側のロワが生命維持をしていてくれたお陰だろう。

「勝った、勝ったんだ……うおおお……ッ!!」

「獅堂さんよ、喜ぶのはまだ早いってもんだ。 功労者を労わにゃなぁ!!」

 でも獅堂達にはまだ役目が残っている。
 光球の中に飛び込んだズーダーの生存確認という大きな役目が。

 それに気付き、すぐさま立ち上がって駆け抜けていく。
 何も出来なかったと嘆いてた彼等なら当然の事だ。

 そうして間も無く、視界の彼方にあのギューゼルの雄々しく立つ姿が。
 佇む姿は、あのアルバを作り上げたのもわかる程に力強い。

 でもそれよりも、やはり気になるのはその先だ。
 大光球があった場所、そこへと視線を向ければ―――



 やはりズーダーが立っていた。
 しっかりとした意識を保ちながら。
 獅堂達に向けて手を振る余裕まで見せつけて。



「うおおッ!! ズーダーさんやってくれましたねぇえ!!」

「さすが俺が託しただけの事はあったな、フハハ!!」

 そんな姿を見せつけられれば喜びもしよう。
 もう溢れ出る感情を抑え付けられなくなる程に。

 ディックに至っては感極まってハグまでする始末だ。

「フゥー!! アンタ最高だあ!!」

「ははは、いや、きっとこれは皆のお陰だ。 皆が協力したから成し得た事だろう。 私一人では絶対に無理だったよ」

「またまたぁ、謙虚な事言っちゃってぇ」

 獅堂に至っては、興奮の余りに感極まっていて。
 とうとう鼻を啜り、涙と共に嗚咽まで漏らし始める。
 一番追い詰められていたのが彼だっただけに、相応の反応か。

「いや、これは本当の事だ。 皆が誰一人力及ばなければ、ここまでの結果は残せなかった。 獅堂殿が途中で死ねばバロルフ殿もディック殿も死んでいて、命力も送れなかっただろう。 私が死ねばこの手段は導けなかっただろう。 その全てを繋げたから勝てたのだ。 我々という花の勝利なのだ」

「は、花? まぁよくわからないけど、ズズッ、皆生きて勝てた事がこんなに嬉しいだなんてほんともう、涙止まらないよ……」

 きっとその涙には、宥免ゆうめんへの感謝もあったのだろう。
 情けないと思っていた感情をも救われたから。

 だからこそ心から喜ばずには居られない。

「そういやぁ、ギューゼルの旦那にも感謝しなきゃねぇ。 あんがとさん!!」

 もちろんその感謝は窮地を救ってくれたギューゼルにも。

 事情を知らずともズーダーならすぐに気付けた様で。
 四人が揃って明るく、感謝の気持ちを体で表して見せつける。
 彼もまたまさしく、獅堂達にとっては救世主なのだから。



 だが、その救世主は―――もう動く事無かった。
 


 その事実に気付いたのは間も無くの事。
 労おうと近寄った時、彼等は気付いてしまったのだ。

 その身体にはもう心が残っていないのだと。

 光球とのせめぎあいで全ての力を放出し尽くしたのだろう。
 それだけの事をしなければ、勝てる相手ではなかったから。
 いくら【魔烈王】と言えど、準神に勝つには全てを投げうる必要があったから。

 ただその顔は、とても誇らしげで。

 もしかしたら、ついさっきまで生きていたのかもしれない。
 獅堂達が勝ったと大喜びしていた時には。

 やっと成せたから、本望だったのだろう。
 最後の最後で、ようやく命が救えたから。

 故に、その誇り高き【魔烈王】に敬意を。
 今、四人が揃って各々の思いうる敬礼を向ける。

 そしてその姿から、周囲の人々にも意図が伝わった様だ。



 気付けば周囲全ての者達の、ギューゼルへと敬礼を向ける光景がそこにあった。





 こうして獅堂達は【忘虚】ロワを倒す事に成功したのだった。
 【魔烈王】ギューゼルの犠牲を払う事によって。

 しかし無駄死にでは無い。
 その誇り高き姿はきっとこれからも語り継がれる事だろう。
 この国を救った英雄の一人として末永く。

 その尊敬の先に、平和の願いを込めて。

 だからきっと、これで良かったのだ。
 計らずとも、世界はこの男の願っていた未来へと向かうだろうから。


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