時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
310 / 1,197
第十節「狂騒鳥曲 死と願い 少女が為の青空」

~其方は何ゆえその手を離したか~

しおりを挟む
 杉浦の作戦が功を奏し、ロゴウの側近がまた一人地に堕ちた。
 しかも勇とちゃなの底力を未だ見せきる事も無いままに。

 残る敵はロゴウを含めて後二人。
 その二人をも討ち倒さんと、ちゃなの炎光が彼方で青空を裂く。
 なんと今度は急速旋回を行っているのだ。

 飛行の仕組みを学習した今、ちゃなはなお進化し続けている。
 まるで今まで抑えられてきた伸びしろを飛行能力へと注ぎ込んだが如く。
 それはあたかも杖で飛ぶ魔女の様に自由自在と。

 今の彼女はまさしく魔法少女さながらである。
 
 ただ惜しむらくは今のちゃなの戦闘能力が皆無だという事。
 杖先を裏に回していて、自慢の砲撃が前に放てないから。
 そもそも推力として炎を放っているから他の攻撃が出来ないという。

 とはいえ、砲撃を犠牲にして実現した速度はもはや常軌を逸していると言えよう。

 音速程ではないが、恐らく匹敵はしている。
 音に気付かれる前に過ぎ去り、切り裂く事さえ出来たからこそ。
 勇という重しがあってこれなのだ、単体で飛んだ時にはどこまで達するのか。

「おのれ羽無しにんげんがあッ!! 高速で向かって来るならば迎え撃てば良いだけよおッ!!」

 しかし例え速くとも、自由度に関しては【カラクラ族】の方がずっと上だ。
 柔軟な翼ならば意思次第で如何様にも動く事が出来る。
 それも空に慣れ親しんだ彼等ならばなおの事で。

 再接近しようと試みるちゃなを前に、側近の一人が立ち塞がる。
 それも自慢の視覚で勇の位置を把握し、逆手にとって。

 勇は言わばちゃなに掴まっているだけの状態で。
 身体の位置をズラす事も、魔剣を持ち換える事も出来ない。
 ならばその手が届かない様に立ち回ればいい。
 後はその手に掴む棍棒でちゃなを打てば返り討ち成功だ。

 そしてこの側近には、それを可能とする動体視力と度量がある。

「くたばれ羽無しィーーーッ!!」

 だからこそ今、側近が棍棒を捻り構えて迎え撃つ。
 超高速で近づくちゃなへと向けて。



 だがその直後―――



「んうーーーッッ!!!」

 その瞬間、ちゃながその両腕を思いっきり引き上げる。
 魔剣を掴んだその腕を、足を押し込めたままに。

 するとどうだろう。
 突如ちゃな達が―――回った。

 炎を吹き出したまま、杖先がぐるりと回ったのだ。
 それもちゃな達を中心に大きな縦円を描くかの様にして。

 超信地旋回スピンターンである。

「な、なッに―――」

 しかも推力の根源たる形は【超高熱線砲ヒートライン】に近い。
 最も強い反発力を誇るこの技こそが飛行の要となっているからだ。



 すなわち、この推力の炎そのものが武器となろう。



ギャオンッッッ!!!

 なればもう結果は言わずとも知れた事。
 たちまち側近が圧倒的なる熱線に焼かれ、蒸滅する事となる。
 その火力はもはや【超高熱線砲ヒートライン】すら凌駕しているのだから当然だろう。
 消費度外視の結果だ。

ドォォォンッッ!!

 更には溶けた肉片や羽根片すら吹き飛ばし、再び瞬時にして空の彼方へ。
 その圧倒的な加速故に衝撃波ショックウェーブさえ撒き散らしてはロゴウさえ揺らすという。
 
 その脅威の飛行能力を前に、そのロゴウも堪らず戦々恐々だ。
 息を飲み顔を引きつらせてしまう程に。
 もはや魔剣の力とさえ言い難いちゃなの今の姿には。

「だ、だがッ!! 儂には【オウフホジ】があぁる!!」

「ぬぅ!?」

 それでもロゴウはまだ諦める事は無い。
 恐らくは王としての意地が彼を止めさせないのだろう。
 それに、その足には自慢の大筒がある。

 なら先ほど側近の一人が見せてくれた様に、今度は離れから迎撃すればあるいは。

「儂に向かってきたが最後、焼き尽くしてくれるわ!!」

 そう閃いたからこそ、ロゴウが狙いを定める。
 再び迫り来る勇とちゃなへと向けて。

「やらせぬ、やらせぬぞぉぉぉ!!」

 しかしその間も無く、ロゴウの魔剣が強く引かれる事に。
 ジョゾウがその全身を以て強引に取り付き、揺さぶっていたのだ。

「は、離せジョゾウ、貴様も道連れぞ!?」

「構わぬ!! それこそが主の―――いや、拙僧の望む所なれば!!」

 しかもあろう事か砲塔の先に。

 このまま炎弾を撃ち放てばジョゾウは間違い無く木っ端微塵だ。
 でもその炎の煽りを貰っては、ロゴウも無事では済まされないだろう。

 それに、この状態で勇達が斬撃あるいは熱線斬を見舞えばジョゾウも巻き込まれてしまう。

 故にちゃなはその身を再び切り返していた。
 ジョゾウが取り付いた事に気付いて咄嗟に。
 
「ううッ! ジョゾウさんがいて近づけませんッ!! 巻き込んじゃうッ!!」

「くッ!?」

 となればもはや周囲を旋回する事しか出来ないでいる。
 どうにかして隙を見つけなければと思考を巡らせながら。

「勇殿! 拙僧の事は気にせず斬ってくだされえッ!! それで、それでフェノーダラが救えるのであればあッ!!」

「ぬう!? ジョゾウめ、おのれぇぇぇーーーーーーッッ!!!」

 そうジョゾウは言うのだが。
 友人を巻き込んで斬るなど勇とちゃなに出来る訳が無い。
 
 ただそれでもジョゾウは本気だ。
 決死の想いで魔剣にしがみついて離れない。
 ロゴウが必死に振り回そうが決して。

 そこまでの覚悟はドウベにもロンボウにも無い。
 だから黙って見ている事しか出来なくて。
 遅れて戻って来たボウジやムベイもが、驚くべき状況に戦慄さえ見せる。

 もはや何が起きてもおかしくは無かった。
 ロゴウが自爆するのか、それともジョゾウごと空の灰屑となるのか。
 いずれにせよ戦いの決着が付く―――というのに。

 ジョゾウを慕う仲間達が、この状況に安心など出来るものか。

「何故だ、何故貴様はそこまでェ!!」

「それが其方の為だからだあッ!!」

「なッ!?」

 そんな仲間達に見守られる中、ジョゾウの叫びが木霊する。
 決死の叫びが、心の雄叫びが、皆の心に届く程に。

 先日勇が城前でしてみせた事と同様に。



「優王として名を馳せた其方の、拙僧に生きる道を教えてくれた其方の真なる姿が今ならばッ!! かつての其方が幻なれば、拙僧の今とて夢幻なのだッ!! ならば、ならばいっそ―――目醒めの如く共に消えようッ!!」



 雫が迸る。
 叫びが咆え渡る。
 それ程までの感情の猛りがジョゾウを包んでいたから。

 それは全て、かつての師たるロゴウの為に。



 そう、ロゴウはジョゾウの師だったのだ。
 カラクラの精鋭として配属された彼を育て上げた、技術と心の師として。
 そしてかつ皆を纏める王として信頼を受け、里に君臨していた。

 そんな王が何故罷免されたのかはわからない。
 でもジョゾウには罷免されたロゴウから聞かされた事が全てで。
 それでいて、言われた事が何か腑に落ちなくて。

 こうして再会した今では、その時の記憶さえ無いという。
 まるで人さえもが変わってしまたかの様に。

 だからこそジョゾウは許せなかったのだ。
 今のロゴウがただただ偽物にしか見えなくて。
 かつて主従の誓いを立てた本物の尊厳を守ろうと必死だったのだ。



 昔見せたロゴウの笑顔こそが本物なのだと信じているからこそ。



「どうした、撃てばよかろう!! 拙僧を撃たねば人間も撃てぬぞおッ!!」

「ぬっぐう!?」

「それとも巻き込まれるのが怖いか!! それが王なのかロゴォォォウッ!!」

「―――ッ!?」

 その決死の想いが今、不意に思わぬ事態を呼び込む事となる。
 ロゴウが堪らず魔剣を振り上げていたのだ。
 ジョゾウを振り払おうとしてなのか大きく。

 その瞬間を、ちゃなは見逃さなかった。
 突如として杖が切り返される。
 ロゴウへと向けて真っ直ぐと。

 振り上げれば振り下ろされる、その瞬間を狙う為にも。

 ジョゾウを巻き込まない自信は無かった。
 それでもやらなければならないと思った。
 こんなチャンスを呼び込んだジョゾウに報いないといけないと思ったから。

 そうしてロゴウの魔剣が激しく振り下ろされて。
 ジョゾウが必死に耐える。

 後は勇が斬って終わり―――皆、そう思った事だろう。



 しかしその時、誰しもが思わぬ出来事が現実となる。



 ロゴウが、魔剣を手放していたのだ。
 まるでジョゾウごと直下へと放り投げる様にして。

 それも、驚くジョゾウへと微笑みを向けるままに。



バヅンッッッ!!!!!



 その直後、ロゴウの体が真っ二つとなる。
 勇が、ちゃなが、渾身の斬撃を見舞った事によって。

 斬撃の威力は凄まじく、ロゴウの胴体四肢が弾け飛ぶ程で。
 たちまち青空を羽根の灰色と血肉の赤で染め上げる事に。

 即死である。
 魔剣を離した意図も、微笑みの理由もわからないままの。

 そんなロゴウの姿を前にして、ジョゾウは何を思ったのだろうか。

 いや、何も考える事は出来なかった様だ。
 ただただ唖然としたまま、魔剣と共に地上へと落ちていくだけで。
 もはや翼で扇ぐ事も出来ない程に、気力が抜けきっていたから。

「何故だ、何故其方は……」

 その放心するジョゾウも間も無く雲の中へ。
 まるで脳裏に掛かった暗雲が如く混ざり合う様に。

 仲間達が追うその中で。





 こうしてロゴウ達との戦いに終止符が打たれた。
 ただし、何もかもが腑に落ちないという結果を遺したままに。

 何もかもがわからないまま終わってしまったから。
 ロゴウが罷免された理由も、反旗を翻した理由も。
 何故その記憶を失ってしまったのかも。

 そして何故あれほど敵意を持ってしまったのかという事も。

 でももう勇達にそれを知る術は無い。
 真実を語れるであろう人はもう、この世には居ないのだから。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...