ヒロインはモブの父親を攻略したみたいですけど認められません。

haru.

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ー番外編ーヴィオレット*隣国編*

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騎士団に入団してからは鍛練の日々だった・・早朝に起きて走り込み、柔軟、素振りから始まり、試合形式での打ち込みなどをしたりして体を鍛えていった・・・

ラーシュハルトは公爵家の嫡男として大事にされていた反面コネで入団したと囁かれていた。

(まあ、公爵家の決まりで入団した訳だから嘘ではないけど・・・公爵家の跡取りによく言えるよな~)

そして俺はこの美しすぎる顔で妬まれ、公爵家の嫡男との友人関係を妬まれ、同年代の騎士達からは凄まじい勢いで嫌われていった・・・

ラーシュは俺に剣の才能もあるからそれも妬ましいんだよ。と笑ってはいたがその目は冷たい物があり、暫くたった時に俺を毎日蔑み罵っていた騎士が1人地方へと飛ばされた・・・

騎士団としての命令だと言われていたし、ラーシュは何もしていないと笑ったいたが、周囲は俺に関わったせいで飛ばされたのだと解釈して、俺の回りからは人がスッと消えていった。

毎日絡まれなくて済むのは助かったが、ずっとラーシュを頼りにするのは良くないと思い、未だ遠くから俺を蔑み噂していた連中を試合形式の打ち込みの際に指名してボコボコに打ちのめしてやった・・・

ラーシュはその試合の後、「あれで少しは大人しくなるね・・・」と笑い、まだ向かってくるようなら、また試合形式の時にでも相手にしてあげなよ。と言った・・・

それから騎士団の連中とは何度もぶつかり合って、その度に少しずつ認められて仲間だと呼べる関係になっていた・・・

そして約束の3年が経ちそうになった頃、俺は騎士団長から直々に、このまま騎士にならないかと打診された・・・

思いの外、騎士としての腕を上げていた俺はこのまま残りたいと思っていた。だがそれが許されないというのは自分がよくわかっていたし、エステリーナから離れていた間に心が落ち着いた俺は、家族の為にエステリーナとの婚姻を受け入れる覚悟すらあったと思う・・・

そんな頃だった・・・家から呼び出されたのは・・・

伯爵家に帰ると、あの暖かくて明るかった家から高価な調度品達が消えており、家の中には物があまりなく、屋敷には酷く!重たい空気が広がっており、室内には項垂れている父と、泣いていたのか目が赤く腫れている母、そして怒り狂っている兄の姿があった・・・

訳のわからなかった俺は事情を聞いて驚愕した


俺とエステリーナが婚約を結んだ頃、それと同時期にランドール伯爵家とタリディーラ侯爵家で共同事業に計画していたらしく、タリディーラ侯爵から話を持ちかけられたらしい・・・

そしてタリディーラ侯爵も娘と同様に乗り気でなかった父対して俺を人質にして契約を結ばせたらしい・・・

だが共同事業とは名ばかりで、どんどんランドール伯爵家にとって不利な内容の契約事項が追加され、それを今まで父と兄で必死に回避したり、乗りきったりしていたらしい・・・

そして今回はタリディーラ侯爵家のミスで多大なる損害が出た。それが何故かランドール伯爵家のミスとなっており、負債を全て押し付けられてしまったというのだ・・・

このままではいけないと出来るだけの足掻きをしようとしたらしい・・・ミスをしたのは侯爵家だと証明出来る書類や証拠を探そうとした。だがどんなに探しても見つけられず、侯爵家を問い詰める事さえ出来なかった・・・

もうどうしようもないのか・・・大きすぎる負債は平凡な伯爵家には支払える物ではない。

誰もがランドール伯爵家はもう終わりだと思っていた・・・

そんな時、エステリーナから夜会へのエスコート依頼が来た。

最初は何故今この時に頼んでくるんだ!と怒りが湧いてきた。お前の家のせいでこんな目にあっているのに!

でも俺はこれは最後のチャンスなのではないか?と思った・・・

俺はこの先婿に入るのだからエステリーナに頼み込んで侯爵家からの援助が少しでも得られれば・・・元は侯爵家が起こした不始末なのだから、少しくらいの助けがあっても良いのではと俺は思った・・・

侯爵家との関わりは全て自分のせいだと思っていた俺は、家族からの反対を押し切るように夜会へと向かった・・・

(俺があの女と婚約なんてしたからこんな事に・・・俺が何とかしなくては・・・)

夜会ではランドール伯爵家の負債の噂を知っているのか様々な視線や態度が向けられた・・・だが俺は無表情でやり過ごし、エステリーナのパートナーとしての職務に徹底した。

迷惑をこれ以上かけたくなくて家に来るラーシュを拒否していた。そのラーシュが俺と話をしようと夜会に来ていた・・・。

俺の様子を伺うラーシュ・・・だが今度こそ邪魔をされたくないと思っていたエステリーナは俺を話があると庭園へと連れ出した。

エステリーナは俺にワインを差し出して俺との将来に乾杯しようと言ってきた・・・。

俺がエステリーナを生涯唯一の女として本気で愛すのならばランドール伯爵家を救うと言ったのだ・・・

俺は耳を疑った・・・

俺はタリディーラ侯爵家が事業には失敗したから負債が出てそれをランドール伯爵家へ押し付けたのだと、そう思っていた。

だがエステリーナは言った・・・
「そんな都合良く事業が失敗する筈がありませんわ・・・これは貴方達への罰と忠誠を誓わせる為の儀式ですわ・・・」

俺がウィルトリア公爵家に守られて騎士団へ入団した事やエステリーナを騙した事が許せなかったらしい・・・

タリディーラ侯爵も公爵家にしてやられた事に対する屈辱、自分達よりも下の伯爵家からも屈辱を味あわされた・・・

それに対する罰だという・・・

共同事業を持ちかけたのもランドール伯爵家を牛耳る為・・・あのミスも負債もランドール伯爵家を追い込む為の材料・・・そして今の負債をタリディーラ侯爵家が肩代わりしてもいいが、一生私達に尽くすと誓いなさい・・・

そう言ったエステリーナの顔は恐ろしい程妖艶で醜悪な笑顔だった・・・

「さあ、ワインを飲みなさい?」

ワインを進めるエステリーナ・・・

俺は頭が割れそうな程怒りが溢れ、目の前にいる女が憎くて憎くて仕方がなかった・・・

全ては仕組まれていた・・・それも俺を手にする為だけに・・・この女のせいで・・・

怒りが押さえきれなかった俺は咄嗟にワインを差し出しているエステリーナの手を弾いた。
地面に転がり落ちたワインとグラスを見たエステリーナは震える手を握りしめながら・・・

「どうしてワインを飲まないの!!!
あれさえ飲めば貴方は私の物なのにッッッ!!!」

エステリーナの怒りの叫び声を聞いて、頭が一瞬で冷えていった・・・

どうやらあのワインには薬が仕込まれており俺を部屋に連れ込んで既成事実を作ろうと画策していたようだ・・・

俺は家を家族を守りたかった・・・
だけど、この手を取ったら生涯俺も、家族も、タリディーラ侯爵家の奴隷に成り下がる。

そんなの御免だと思った・・・

俺はとりあえずこの場から逃げようと思い、エステリーナの側から離れた・・・すると・・・

「何故ですの?何故、私を拒むのですか?」
「私の手を取れば全てが上手くいくのに・・」
「どうして私を愛さないのですか・・・」
「全員が幸せになれるのに・・・」
「お父様も貴方の母親も・・・」

エステリーナはブツブツと呟いた後・・・鋭い目をして俺を睨み付けた・・・

「貴方が悪いのです。
私の手を取らないから・・・もっと穏便な方法で婚姻を結ぼうと思いましたのに・・・」

そう言っていきなり自分の服に手をかけたエステリーナ・・・

「きゃぁぁぁぁぁああああああああ!!!!」

胸元を少しだけはだけさせ、髪をくしゃくしゃにし、瞳には涙を浮かべた女がそこにはいた・・・

そこからは早かった・・・
警備の騎士達が叫び声を聞きやって来て、エステリーナを保護して俺を捕らえた。

騎士団の留置場で俺は何度もそんな事はやっていない・・・全てはあの女が勝手にやった事だと言った・・・

どんなに怪しく見えても、少なくとも俺を買ってくれていた団長は俺の話を聞いてくれる筈だと思った・・・

だか負債を抱えた伯爵家の次男が婚約者に金を無心する為に夜会へと現れ、そして断られた為に既成事実を作ろうとした。
地面に落ちていたワインからも薬が出たと言われた・・・

そう言った騎士団長の顔は俺を軽蔑していた。

他の騎士達もそうだった・・・
俺を人間のグズだと言い、騎士団の恥さらしだと憎しみをこもった目で見てきた・・・

それでも俺は毎日毎日「俺はやっていない。」と言い続けていた。

そして何日も経った頃・・・
留置場に一通の手紙が届いた。

そこには・・・「貴方に謝罪する気持ちがあるのなら貴方を許します」と書かれていた。
俺は瞬時にエステリーナからだとわかり手紙をボロボロに引き裂いた・・・

それを見た騎士達は、
「何て恩知らずなんだッッッ!!!」
「襲われて怖かった筈なのに、貴様に手を差し伸べているんだぞ!!」
「有難いとは思わないのかッッッ!!!」
「お前にもう道は残されていないんだッッッ!」
「人間のクズを助けて下さると仰っているのだぞッッッ!!!」
「エステリーナ様の手を取れッ!」
と怒鳴り声や暴言を上げた・・・中には俺に手や足を出してくる者もいた。

留置場で過ごしている内に心も体も疲弊していった・・・だがそれでも俺の怒りは消える事はなかった・・・

あの女は何故こんな事をしたのか?
俺は勝手に騎士団へ入団し、エステリーナを裏切ったのかもしれない・・・だが、根本的にはあの女との婚姻を取り止める事など出来ないときちんと理解していた。
あれから3年経った・・・あと少し我慢すれば・・・あの女は俺を手に入れられたのに・・何故こんな事までしなくてはいけなかったのか・・・

憎い・・・殺してやりたい程憎い・・・・・
何故俺だったのか・・・

どうしてランドール伯爵家がこんな事に・・・
家族まで巻き込んで・・・
仲間だと思ってた騎士団からは疑われ軽蔑されて・・・人間のグズとまで言われた・・・

そしてボロボロになった俺を助けたのはやっぱりラーシュハルトだった・・・




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