ヒロインはモブの父親を攻略したみたいですけど認められません。

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ー番外編ーヴィオレット*隣国編*

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ラーシュハルトはちょっと前に3年の期間が過ぎて騎士団を退団していた。その為内部の情報が掴めずに騎士団の留置場にいる俺を助けるのに時間がかかったと言っていた・・・

騎士団長はボロボロな姿の俺とは一切目を合わせず気まず気に、「公爵からの要請で今一度この件について調べる事になった・・・」と言い放った。

そして外に出て驚愕した。
俺が家に帰る事を望んだら、ランドール伯爵家はもう無いと言われた・・・
留置場にいる間にタリディーラ侯爵が俺の罪冤罪未払いのランドール伯爵家の借金侯爵から擦り付けられた負債などを理由にランドール伯爵家を王家や世間に糾弾し、取り潰されるまで追い込んだらしい・・・

あのまま放置していても借金を払いきれなくてランドール伯爵家が取り潰されるのは時間の問題だったのに・・・わざわざ俺達を追い込む為に、辱しめる為にこんな手段を使ってくるなんて・・・

家が無くなって悲しい筈なのに涙が出ない。
その変わり俺の心の奥底でマグマのような怒りと憎悪の熱が沸々と沸いてきている・・・

無の表情の奥底に隠した感情を秘めて俺はラーシュに連れられて公爵家に行く事になった・・

現在事件は再調査の為、俺は逃亡防止として監視を受ける事になった。だが通常は騎士団内で過ごしたり、自宅で謹慎している際に監視を受けるのが普通だ。だが今の騎士団では俺の安全は保証されないし家はもう無くなった為、公爵家が俺を保護兼監視すると王家に言ってくださり、騎士団から俺を奪う形で、騎士団やタリディーラ侯爵家から身を隠す事になった。

そして公爵とラーシュは俺に恐るべき真実を教えてくれた・・・

あの夜会での一件には騎士が何人か俺を陥れる為に手を貸していたらしい・・・だから叫び声一つで騎士達が現れ、気がついた時には事は終わって俺は留置場の中だったのだ。そして騎士団で行われた聴取の際も皆の意見が俺を断罪するように誘導したり、あの女の手を取るしかない状況に追い込んだりしていた者がいたらしい。

ただ信じてもらえなかっただけではなく、俺をこの状況に貶めた騎士がいる?・・・

俺は目の前が怒りで真っ赤に染まるのを感じ、握りしめた拳から血が流れ出るのを止められなかった・・

「それだけではない・・・
タリディーラ侯爵がランドール伯爵家に拘る理由を知りたくないか?」

公爵家は俺の覚悟を問うように聞いてきた・・
俺は怒りに震えた声で、こんな事態に陥った真実が知りたいと言った。

「では話そう・・・私が知っている事を・・」

公爵は俺の父と同世代の人間だった為、あの頃の社交界の事情には詳しかった・・・

そしてそれは至極簡単な事で・・・父と母が恋愛の末、婚約を結んでいた頃侯爵は母に想いを寄せていたのだと公爵は言った・・・

夜会の度に父と一緒にいる母へとダンスを誘ったり、酒に酔わせようしている様子があったとか・・・。だがその度に父が母の盾となって守り、2人の愛は一層深まっていった・・・そして段々に執着を増しているように見えた侯爵を恐れた父と母は主要な夜会以外は欠席して逃げるように婚姻を結んだ。
そんな風に公爵には見えたらしい・・・

ありえる・・・俺はそう思った・・・
俺があの女と婚約する時何度も「本当にいいの?」「貴方が彼女を愛しているのなら反対はしないのだけど、本当に愛している?」と何度も母に聞かれた・・・

あれは俺を心配しているだけかと思っていたが、母は侯爵家と関わる事を反対していたのかもしれないな・・・
だが俺があの女を愛しているかもしれないから昔の事を言い出せなかったのか・・・

思い出せば色々と出てくる・・・
侯爵との話し合いの場にはいつも母は何かと理由をつけて来なかった・・・
ランドール伯爵家の忠誠を誓わせて、一生逆らえないよう手を尽くしたのも母を手に入れる為
あの女の言葉もそうだ・・・侯爵と俺の母が幸せになれると言っていた・・・

全ては侯爵が母を手に入れる為・・・
エステリーナが俺を手に入れる為・・・

そして侯爵が伯爵家である父に復讐したいという気持ちもあったのかもしれない・・・

良かった・・・あの時エステリーナの手を取らなくて本当に良かった・・・・・・
あの時侯爵家にすがっていたら、俺達は全てを本当の意味で失っていたのだろう・・・

真実を知って荒れ狂う俺に公爵家の人達は本当に優しかった・・・

言わなくてもいいのに・・・公爵は、教えてくれた・・・

「本来ならこの程度で家が潰れる事はない。侯爵家からの声があったから取り潰しが決定されたのは明白だ。
だが伯爵家が残った場合、借金と婚約を盾に君達は全てを失うだろう。
家は後でも復興出来る。だが君や伯爵夫人が奪われたら残された者達の絶望は計り知れない・・・」

「だから私は君達の家が取り潰しにあうのを黙って見過ごした。一度君達を逃がした後で証拠を揃える為に・・・」

公爵は自分が3年前に侯爵達の怒りを煽ったせいでここまでの事態になってしまった。本当に申し訳ない・・・と頭まで下げてくれた。

ラーシュも俺の安易な考えのせいだ。ごめん・・・と詫びてくれた。

だが、この2人は何も悪くない・・・
始まりは俺がエステリーナの脅しに屈したせいなのだから・・・

あの日に戻ってあの女との婚姻をなかった事にしたい・・・
あの女が死ぬ程憎い・・・

ランドール家を嵌め、家族を傷つけ、母を手に入れようとした侯爵・・・

そしてあれ程憧れていた騎士にも、もう憎悪の気持ちしか残っていない・・・
あれだけの時を過ごし、仲間だと思っていたのに、俺を陥れる為に裏切った奴等、俺を少しも信用せずにクズだと騎士団の恥だと言い続けていた奴等・・・
あんな奴等信じなければよかった・・・

許せない・・・憎い・・・どうして・・・

頭の中がぐちゃぐちゃになりながら、あの女へ決別の証に自身の髪を切りまくった・・・長髪で美しいと言われていた俺の銀髪は心の赴くままに切った為、ザクザクの短髪になっていた。

そして俺は荒れに荒れて、殺気が全身から溢れ、痛々しい様子だったのだろう・・・

そこにはもう中性的で美しい男はおらず、恨みにとり憑かれた危険な男がいた。

公爵にとりあえず家族の元で心と体を休めるといいと言われ、両親のいるモーラナ町の孤児院に身を寄せる事になった。

そして孤児院で俺は両親とは再会した・・・
痛々しい俺の姿を見て泣き崩れる母に、すまないと俺に謝る父・・・

2人のせいなんかじゃない。
母が無事でよかった・・・

そう言いたかった・・・だがあの頃の俺は心が傷つき、ささくれ過ぎていて言葉が出てこなかった・・・

それからは怒りと憎悪の感情だけを表に出して殺気を振り撒いている息子に対してどうすればいいのかわからなかったのだろう・・・だが、腫れ物を触るように恐る恐る接してくる両親の姿に余計に苛立っていた・・・

もっと普通に接したいのに・・・
俺に負い目を感じているような両親を見ると、どうしようもない、やり場のない怒りが沸き上がってきた・・・

でも今ならわかる・・・
自分の息子が自分達の昔の因縁に巻き込まれ、守ってあげる事も出来なかった。
そういった罪悪感があるのだろう・・・

最近になって心が落ち着いた俺はようやくその事実に辿り着け、両親とも話せるようになっていった・・・

これもそれも全部あの日、ヴィオラに出会ってから変わり始めた事だ・・・

何の得もないのに孤児達の未来の為に投資と称して金を出し、子供達に生きる力をつけさせると言った変な女・・・

初めは侯爵のように人を騙す奴なのかもしれないと思い、目が離せなかった・・・

それが、ヴィオラが現れてから子供達も、職員達も生き生きと毎日を過ごし、自分達子供達の将来を諦めたくない。と思うようになっていった・・・

俺を蔑み、あろう事か子供の前であの事件の話を始めた奴等騎士達・・・子供を守る為に言葉や表情、笑顔で巧みに周囲を動かして奴等を追い払った彼女は何故か俺の知っている女達とは違うように見えた・・・

恐らく彼女も訳ありで元貴族なのだろう・・・それなのにたまに令嬢らしからぬ言動が飛び出してくる・・・

人々が勝手にする噂を嫌い・・・
俺を蔑んだ騎士達を礼儀知らずの愚か者と言い、俺の噂も真実かどうかもわからないと言ってくれた・・・

護衛達との関係性にも驚いた・・・
あんなに軽口で会話が出来て、護衛達からの嗜める言葉を素直に受け入れ、稀に出てくる暴言にまで睨んでかわすだけ・・・

あんな令嬢見たことがない・・・
俺の回りにいた女は俺を見て熱を帯びた瞳で迫ってくるのに・・・ヴィオラは俺を平然と見つめる。それどころか、俺の褒め言葉や謝罪すらかわす始末・・・

変だ・・・本当に変わっている・・・
だけどその変わっている所が俺の傷つき荒れた心を癒してくれる・・・

あの女を憎んでいる事実は変わらない・・・
侯爵も騎士達も許せない・・・

だけど今の俺の心にはもう殺意までは残っていなかった・・・

あの変わり者の彼女の側にいてみたい・・・
彼女に恥じる行いをしたくはない・・・ 

そう思った・・・
だがまあ、ヴィオラは俺の事を、殺気を振り撒く女嫌いだと思っているが・・・

自業自得だ・・・わかっている。
だが、言わせてくれ!俺は俺を欲望の眼差しで見てくる女が好きじゃない。それは事実だ・・だけど、別にヴィオラが嫌いという訳ではない。むしろ今は気になる存在で・・・
それで・・・彼女が抱えている事も知ってみたいと思っている・・・

だからこれからだ・・・俺を知ってもらうのは・・・そして今度こそ終わりにしてやる。
彼奴等タリディーラ侯爵家との因縁を全て断ち切ってやる・・・





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