将来に不安を感じると婚約破棄されましたが、案外優秀な男だったみたいです。

haru.

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男爵家 次男の生涯

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「何で大した才能もないのに騎士なんてやってるのよ!  そんなことで私を養っていけるの!?」

「貧乏な暮らしなんて嫌よ!  最低月金貨50枚は稼いでちょうだい!」

「借家?  信じられない!  何で私が借家で暮らさなくちゃいけないのよ!  家くらい買いなさいよ!  良いこと?  庭付きの家よ!  あと浴室は広くしてよね!」

  男爵家の次男坊として生まれたセディス。
  次男だからと大した育児や教育も受けられず育ち、ヒステリックな婚約者を押し付けられた憐れな男だ。

  貧乏男爵家の次男の自分は貴族に婿入りなんて無理だし、将来どうせ平民になるのだからと結婚相手だけは自分の好きに選んで幸せになろうと思っていた。

  お金が無いからと学園に通わせてもらえなかったので学が全く無く、文官や商売人への道は閉ざされセディスには騎士への道しか残っていなかった。

  まぁ祖父母や近所のじっちゃん達の影響で土いじりは嫌いじゃなかったから農家でも良かったが世間体を気にした両親や兄が許さなかった。

  どうせ平民になったら縁切る癖にそういう所だけは口出しするんだよな、あの人達……。

  そして大した運動神経も騎士としての才能も無いまま騎士団へと入団した。そこで人柄を見込まれて上司の娘との婚約が決まった。……というよりかは気の強すぎる娘を案じて口答えのしない夫として俺に白羽の矢が立った。

「ちょっと気は強いが顔は悪くないんだ!  貴族社会で生きさせるには些か問題がある娘でな……だから頼むよ!」

  世話になってる上司の顔を立てる為に結ばれた婚約だ。
  はっきり言って俺が婚約を決めた理由はそれだけだった。

  だが婚約者となった子爵家の三女・リリアはそんな事とも知らず、平民落ちになる男爵家の次男との婚約を酷く嫌がった。姉二人が子爵家より上位の婚約者を得ていたから自分の境遇が不満だったのだろう。それはわからなくもない。

  でもリリア嬢の父親である俺の上司はリリア嬢の性格や態度を考えてこの婚約を決めたのだ。
  それを考えれば自業自得だ。

  そんなこんなで結ばれた俺達の婚約は控えめに言っても地獄だった。

  会う度に俺の出世や収入の確認をされ、将来設計や自分へのプレゼントの有無を問われたりした。

「はぁ!?  こ、婚約者に会うのに宝石の一つも用意できていないわけ?  ありえないわ!  なんて甲斐性なしの男なの!?」

  いやいや、下級騎士の給料で毎度毎度宝石要求されてたら生きていけなくなるっつーの!
  平民として生きていく自覚はあるの?

  俺の収入を聞くたびに絶望したような顔をするけど、貴族みたいな生活が出来ないだけで平民としては悪くない金額だから!

  自分としては安定した職に給料が手に入れられて満足していた。
  家だって騎士団の家族寮があり、節約できる予定だった。それなのにリリア嬢が寮だけは嫌だと駄々をこねた為にわざわざと借家を借りた。
  ……それも気に入らなかったらしいがーー。

  どう考えても価値観があわず、幸せな結婚生活を送るのは無理だと思っていた矢先ーー婚約者のリリア嬢が侯爵家の子息を引き連れて会いに来た。

「あんたみたいに将来が不確かな男と心中するつもりなんて無いの!  婚約者に将来やお金の心配をさせる男となんて生きていけないわ!  婚約破棄よ!  破棄っ!」

  何でも俺と生きるのは不安すぎるから婚約破棄をしたいらしい。侯爵家に嫁ぐ方が幸せになれるし、男として俺は失格だから結婚なんてしたくないそうだ。

  話を聞き付けた上司からは何度も頭を下げられた。そして侯爵家もリリア嬢の見た目を気に入っていて乗り気だからあの二人を咎める事は出来ないと謝られた。

  家族からは俺みたいな無学で才能のない男が婚約できたこと事態が奇跡だったと嘲笑われた。

  上司の娘を娶ると騎士団の中で話が広まっていただけあって俺の婚約破棄の話は騎士団内で衝撃が走った。
  そして周囲からは俺が酷いフラれ方をしたと憐れまれた。


  ……恋愛感情なんてなかった。むしろ苦手な部類だ。
  でも、それでも……あんな風に言われると堪えるものがある。一応リリア嬢の要望に沿えるように尽くしてきたつもりだったのにーー。

  周囲からは捨てられた男と思われてるし。惨めすぎる。

  
  それから暫くしてリリア嬢が侯爵家の子息と婚約した噂が耳に入ってきた。


  俺は互いに気まずいだろうと思い、異動願いを出して上司の隊から外れる事となった。

  騎士の腕もそこそこで人脈もなかった俺は人手不足だった支援部隊に配属となった。物資の配達だったり、薬草調達や薬剤の調合が主な仕事で、騎士を支援する側に移ることになった。

  所謂、日陰者の仕事と言われ成りたがる者はいない部署だったが、職を失わず給料を貰えるのなら騎士じゃなくても俺は不満なんてなかった。

  それに薬草に関しては少し知識があったから此処でなら人の役に立てるかもしれないと思った。

  今はもう無いが、祖父母が男爵家にいた頃は庭に沢山の薬草を育てていた。貧乏領地の薬代を浮かす為に領主自ら、領民の為の薬草を育てていたのだ。

  領民達もそんな祖父母を慕って、まだ幼かった孫の俺を可愛がってくれた。両親に相手にされず毎日暇だった俺を森の中に連れ出して、色んな物を見せてくれた。

  どの木の側には何が生えてあるのか。
  あの草がある地にはあれがある。
  この花にはこんな効果がある。とか……領民しか知らない色んな事を教えてくれた。

  今思えばあれは平民の豆知識みたいな物だったのだろう。支援部隊にあるどの本にも載っていない事ばかりだった。

  平民達の間でも薄れていっている知識は支援部隊ではとても驚かれた。

  普段、薬草は商隊から仕入れるから実際の森の知識はなく、俺の知識は見た事も聞いた事もないと言われた。

  薬としての効果はまちまちだったが、薬草によっては現存している製法の薬剤よりも効果が高い物もあった。

  しかも俺は薬草を育てられる。

  その事実を騎士団からは重宝されて、薬草園を騎士団内に作る事になった。

  薬草園の責任者に任命されて昇格することになり、給料も上がった。

  しかも俺の知識は医療だけにとどまらず、王妃様や夫人達の悩みとなっている美容面でも役に立った。

  化粧道具の一つが女性の肌にあわなかったらしく、赤く荒れてしまった肌の塗り薬と肌に優しい化粧水の知識を教えた。

  その結果王妃様や貴族夫人達から大変感謝された。
  王妃様から話を聞いた国王陛下が俺の知識を有益に使えるようにと王国薬師に弟子入りを命じた。

  勉学なんてした経験がなかったから初めは分厚過ぎる本を読むのは苦労したが、慣れてしまえば新しい知識を覚える事はとても楽しくて興味深かった。
  師匠となった王国薬師も平民の未知なる知識を持った俺を大層気に入ってくださり、あらゆる技術を叩き込んでくれた。

  数年が経ち、気がつくと俺は師匠よりも数倍優秀な薬師となっていた。特殊な薬草園を持ち、貴重な知識や技術がある薬師。

  王城で起きた王位継承権争いの事件で側妃様が王妃様と第一王子様に特殊な毒を盛った時、誰もがお手上げだった解毒薬を俺は作り上げた。

  王妃と次期国王を助けた功績で俺は爵位を与えられ、セディス・シェルトン伯爵となった。
  

  婚約破棄されてからもう何年も経った。
  あれから無我夢中で仕事に打ち込んできたけど、まさか俺が伯爵になるなんて……

  しかもリリア嬢は元上司の思っていた通り、貴族社会では生きられなかった。
  気性の激しさで多くの夜会で問題を引き起こして、愛想を尽かした夫の愛人と人前でキャットファイトを繰り広げた末に離縁を申しつけられたそうだ。
  そして実家から出戻りを拒否され修道院向かう途中の山中で盗賊に襲われたとか……いや、本人が修道院に行くのを嫌がって逃げ出したとか……恨みを買っていた貴族に暗殺されたとか……色んな噂が社交界には広がった。

  今更元上司に聞くことは出来ないので真実は闇の中だ。
  まぁ気になるわけでもないがーー。



  因みに俺はというと、27歳で恋人もいない寂しい人生ではあったが、伯爵の爵位を得て国一番の薬師となり密かにモテてていた。
  求婚の話が舞い込むようになり、年齢も年齢だし、結婚を考えるのも悪くないかと思っていた。そんな時だった。最強だと謳われていた騎士団長が盗賊の捕縛最中に部下を庇って重症患者となったのはーー。

  俺は国王からの命令で必要な薬を作り続けた。
  初めは回復があまり見込めず衰弱が酷い状態だったが、徐々に薬の効果が現れ始めた。その間騎士団の娘が献身的に看病をし、騎士団長は命を繋ぎ止めた。

  騎士団長と旧知の仲だったこともあり、国王からは大変感謝され褒美を貰った。そして気がついたら騎士団長が男で一人で育てた娘・エスメラルダと恋仲になっていた。

  騎士団長。しかもまだ17歳の公爵家の一人娘。数年後には第一王子様の婚約者になる可能性もあったとかーー。

  そんな女性、俺なんかじゃダメだと卑屈になり別れを切り出そうとした。だが思っていたよりも恋人から愛されていたらしくあっという間に逃げ出せない状況になっており、騎士団長や国王、そして王妃様や第一王子様まで俺達の仲を祝福してくれた。


  婚約してから一年で結婚した俺は公爵家に婿入りして二人の息子と一人の娘に恵まれて幸せな家庭を築いた。


  何度か実家から援助をしてほしいと申し込まれたが、俺を馬鹿にしていた人間に与える金なんてない!ときっぱり妻が断ってくれて、項垂れて帰っていく姿を見てスッとした気持ちになった。

  だが知っているんだ。
  俺を愛してくれている妻がわざと俺の実家を追い詰めて懇願させるように仕向けたのはーー。

  自分で爵位を得て薬師としても成功した俺を妬んでいた家族が俺の良くない噂を流しているのは知っていた。……幼い時のちょっとした失敗、というか笑い話を社交界に流していた。

  俺としてはガキの頃の話だし、子供なら誰しもする失敗ばかりだからどうって事ないかと思っていたが、妻はそう思わなかったらしく、ここぞとばかりに権力を振りかざしていた。

  普段、大人しくて優しい人が怒ると怖いというのは事実だった。まぁ俺の為に怒ってくれる可愛い妻なんだが。

「セディ、貴方ほど素晴らしい人を見た事がないわ!  誰よりも愛しているわ、愛しい人。」

  可愛らしく微笑む妻のお腹の中には新しい命が芽生えていた。来年にはもう一人子供が生まれる予定だ。


  まさか男爵家の次男で平民予定だった俺がこんなにも幸せになれるなんて人生わからないものだ。



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みんなの感想(2件)

なぁ恋
2020.08.16 なぁ恋

今日気づいて読みました!良いです💕素敵💕
穏やかで流れるような物語に癒されましたよ。
ざまぁ……はまるで背景のように描かれていて何だかよかった。
良いですね!
まだ沢山読みたいです!!
(*≧∀≦*)よろしくお願いいたします!!

解除
ひゅふぁ
2020.08.11 ひゅふぁ

馬鹿にされても、腐らないで、そこでできることをする。主人公の精神のしなやかさに憧れます。
いい人を、お嫁さんに迎えられて、ホントよかった!!

解除

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