33 / 77
32
しおりを挟む
ミシャルが扉の外に消えるまでを見送ったクロディクスが前を向くとひとりの男が机に腰掛けていた。
音もなく表れた男は今現れたようでいて、ずっとそこに居たような不思議な雰囲気でそこに居た。
その男は頭の先から靴先までを真っ黒のローブで隠しており、闇に紛れてしまえば誰も彼を見つけられないようなそんな捉えどころのない男だった。
何となく、先ほどまで日取り窓の傍にいたカラスによく似た姿をした男がいる事にクロディクスは驚くことなく部屋の扉を閉めた。
「ずいぶんと見違えたな」
手持ち無沙汰に転がされたペンを指先で回しながら男が問いかけると、クロディクスは肩を上げただけで返事をした。
名前を出してはいないが、見違えたと言われる人はひとりしかいなかった。
その話題の中心であるミシャルを1日でそう簡単に変えられるわけもなく。
ただ身体を清めて、清楚なドレスを着ただけでミシャルは最初に見たみすぼらしい庶民から、一応は令嬢として見える様相に変わっただけを見違えたと言うのか。
クロディクスから見れば短く切られた髪も、栄養の足りない身体も、まだまだ見違える要素はたくさんあるように思えてクロディクスは、男の言葉の真意をわざわざ確認する気も起きなかった。
肯定も否定も出来ないクロディクスの様子に笑った男がニィと笑みを深める。
3ピースのスーツを着ている癖に子供めいた表情を浮かべる男からクロディクスはペンを取り返すと荒々しい動作でミシャルと座っていたソファーに身を投げた。
その仕草は普段の紳士めいた動作からかけ離れていたが、そんなことに口を酸っぱくして苦言を言う男はここにはおらず。
机に残された用紙の書きなぐりを目ざとく見つけた男がそんなクロディクスの煮詰まった様子に笑い交じりに冗談をこぼした。
「君に出会うためにあてがわれた花嫁殿だったりしてな」
「ヴァイス」
冗談めいた口調でクロディクスを揶揄うことに余念がないヴァイスをクロディクスはソファーでだらけた態度のまま鋭い視線を投げかけてやめさせた。
自分の呪いに関係のなさそうなミシャルを巻き込むのは冗談でも許せなかった。
花嫁など求めてもいないクロディクスにとって、ミシャルはただの客人であってここに入れた理由がわかればすぐにでも立ち去らせるつもりでいた。
始めは興味本位で匿っただけのクロディクスはミシャルを傍に置いた事をすでに後悔していた。
自分らしくない事をしている自覚はあるだけに、リュークと新たに作ったゼリヌの何とも言えない視線を向けられると久しぶりに感情を感じた。
ずっと、動かなかった胸の矢を押し込まれたような痛み。
「そんなふざけたおとぎ話をしに来たわけじゃないだろう」
「そう怒るなよ」
お道化た調子を崩さないヴァイスが謝ってそれでも足りないと睨むクロディクスが黙っていると、ヴァイスはへらへらとした表情をひっこめた。
人間味あふれる表情が消えると、途端にヴァイスは冷徹な男に見える。
「何がわかった」
空気が変わった様子に、クロディクスが問いかけると、彼は一度閉じた口を開いた。
音もなく表れた男は今現れたようでいて、ずっとそこに居たような不思議な雰囲気でそこに居た。
その男は頭の先から靴先までを真っ黒のローブで隠しており、闇に紛れてしまえば誰も彼を見つけられないようなそんな捉えどころのない男だった。
何となく、先ほどまで日取り窓の傍にいたカラスによく似た姿をした男がいる事にクロディクスは驚くことなく部屋の扉を閉めた。
「ずいぶんと見違えたな」
手持ち無沙汰に転がされたペンを指先で回しながら男が問いかけると、クロディクスは肩を上げただけで返事をした。
名前を出してはいないが、見違えたと言われる人はひとりしかいなかった。
その話題の中心であるミシャルを1日でそう簡単に変えられるわけもなく。
ただ身体を清めて、清楚なドレスを着ただけでミシャルは最初に見たみすぼらしい庶民から、一応は令嬢として見える様相に変わっただけを見違えたと言うのか。
クロディクスから見れば短く切られた髪も、栄養の足りない身体も、まだまだ見違える要素はたくさんあるように思えてクロディクスは、男の言葉の真意をわざわざ確認する気も起きなかった。
肯定も否定も出来ないクロディクスの様子に笑った男がニィと笑みを深める。
3ピースのスーツを着ている癖に子供めいた表情を浮かべる男からクロディクスはペンを取り返すと荒々しい動作でミシャルと座っていたソファーに身を投げた。
その仕草は普段の紳士めいた動作からかけ離れていたが、そんなことに口を酸っぱくして苦言を言う男はここにはおらず。
机に残された用紙の書きなぐりを目ざとく見つけた男がそんなクロディクスの煮詰まった様子に笑い交じりに冗談をこぼした。
「君に出会うためにあてがわれた花嫁殿だったりしてな」
「ヴァイス」
冗談めいた口調でクロディクスを揶揄うことに余念がないヴァイスをクロディクスはソファーでだらけた態度のまま鋭い視線を投げかけてやめさせた。
自分の呪いに関係のなさそうなミシャルを巻き込むのは冗談でも許せなかった。
花嫁など求めてもいないクロディクスにとって、ミシャルはただの客人であってここに入れた理由がわかればすぐにでも立ち去らせるつもりでいた。
始めは興味本位で匿っただけのクロディクスはミシャルを傍に置いた事をすでに後悔していた。
自分らしくない事をしている自覚はあるだけに、リュークと新たに作ったゼリヌの何とも言えない視線を向けられると久しぶりに感情を感じた。
ずっと、動かなかった胸の矢を押し込まれたような痛み。
「そんなふざけたおとぎ話をしに来たわけじゃないだろう」
「そう怒るなよ」
お道化た調子を崩さないヴァイスが謝ってそれでも足りないと睨むクロディクスが黙っていると、ヴァイスはへらへらとした表情をひっこめた。
人間味あふれる表情が消えると、途端にヴァイスは冷徹な男に見える。
「何がわかった」
空気が変わった様子に、クロディクスが問いかけると、彼は一度閉じた口を開いた。
144
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。
桜城恋詠
ファンタジー
聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。
異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。
彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。
迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。
「絶対、誰にも渡さない」
「君を深く愛している」
「あなたは私の、最愛の娘よ」
公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。
そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?
命乞いをしたって、もう遅い。
あなたたちは絶対に、許さないんだから!
☆ ☆ ☆
★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。
こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。
※9/28 誤字修正
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる