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「……今、何を言った?」
「間違ったことは申し上げていないはずです」
今にも掴みかからんとしているセオドールの怒りを真正面から受け止とめるその目は、凪いでいた。
「下らない暇人共のたわ言をまさか鵜吞みにしたのですか?」
「……ハッ、公務を取り仕切って王にでもなったみたいだな」
何を考えているのか悟らせない笑みを浮かべたままのジェニエルを、セオドールは鼻で笑った。
「……私と最初にした約束を覚えておられますか?」
「約束?……ああ、3つの約束のことか」
突拍子のない問いかけに暫く呆けていたセオドールは、ジェニエルがなにを言いたいのか理解していない様子だった。
昨夜の夕食のメニューを思いだしたかのような口調のセオドールにジェニエルは、唇を噛みしめた。
「陛下が城に居る間は、夕食を共にとる……今となっては破られた約束です」
「だからどうした?書類を交わしたわけでもない。ただの口約束だろう?」
くだらないと吐き捨てられた方がましだった。
セオドールが淡々と事実を告げる冷静さが、ジェニエルとの認識に差がある事を知らしめる。
当事者である二人しか知らないからこそ、どちらかが忘れてしまえば意味のない言葉を大切にしていたのはジェニエルだけだと。
そう言われたようなセオドールの態度は、悪びれる事もない。
恐らく悪いとすら思っていないのだろう。
時折口に出す事はあっても、認識をすり合わせようとしなかったのは相手も理解してくれていると思い込んでいた。
「では最後に一緒に食事をした日の事は?」
ジェニエルは絞り出したような声でセオドールに尋ねた。
喉が苦しくて、上手く喋れているのかわからなかった。
それでも向き合わなくてはならないと、暴れ出しそうな本能を胸の痛みと共に左手で握りつぶした。
「……」
時間にして数秒。
セオドールは返事をしてくれなかった。
「先ほどの言葉は貴方が私と最後の食事の時におっしゃったお言葉です」
自分は笑えているのだろうかと、ジェニエルは思った。
幼い頃から意識しなくても貼り付けられていた笑顔が引きつっているのか、それとも笑顔にすらなっていないのか。
頭の中がぐちゃぐちゃで、セオドールが息をのんだことにジェニエルは気付かなかった。
「間違ったことは申し上げていないはずです」
今にも掴みかからんとしているセオドールの怒りを真正面から受け止とめるその目は、凪いでいた。
「下らない暇人共のたわ言をまさか鵜吞みにしたのですか?」
「……ハッ、公務を取り仕切って王にでもなったみたいだな」
何を考えているのか悟らせない笑みを浮かべたままのジェニエルを、セオドールは鼻で笑った。
「……私と最初にした約束を覚えておられますか?」
「約束?……ああ、3つの約束のことか」
突拍子のない問いかけに暫く呆けていたセオドールは、ジェニエルがなにを言いたいのか理解していない様子だった。
昨夜の夕食のメニューを思いだしたかのような口調のセオドールにジェニエルは、唇を噛みしめた。
「陛下が城に居る間は、夕食を共にとる……今となっては破られた約束です」
「だからどうした?書類を交わしたわけでもない。ただの口約束だろう?」
くだらないと吐き捨てられた方がましだった。
セオドールが淡々と事実を告げる冷静さが、ジェニエルとの認識に差がある事を知らしめる。
当事者である二人しか知らないからこそ、どちらかが忘れてしまえば意味のない言葉を大切にしていたのはジェニエルだけだと。
そう言われたようなセオドールの態度は、悪びれる事もない。
恐らく悪いとすら思っていないのだろう。
時折口に出す事はあっても、認識をすり合わせようとしなかったのは相手も理解してくれていると思い込んでいた。
「では最後に一緒に食事をした日の事は?」
ジェニエルは絞り出したような声でセオドールに尋ねた。
喉が苦しくて、上手く喋れているのかわからなかった。
それでも向き合わなくてはならないと、暴れ出しそうな本能を胸の痛みと共に左手で握りつぶした。
「……」
時間にして数秒。
セオドールは返事をしてくれなかった。
「先ほどの言葉は貴方が私と最後の食事の時におっしゃったお言葉です」
自分は笑えているのだろうかと、ジェニエルは思った。
幼い頃から意識しなくても貼り付けられていた笑顔が引きつっているのか、それとも笑顔にすらなっていないのか。
頭の中がぐちゃぐちゃで、セオドールが息をのんだことにジェニエルは気付かなかった。
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