【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり

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「とんでもない!」

 ただ、その一心だったのだけれど、漁師の言葉でホセの心は砕け散るような感覚に陥った。

「平民に混じるのは嫌だ、平民のような事は嫌だとおっしゃられ、一度も海へ来た事はありません!」

 続く漁師の言葉は、ホセの耳には届かない。否、頭が理解を拒否した。
 ……一度も海へ来た事ないだなんて……そんなまさか。
 ありえない。
 ありえない。
 ありえない!!
 ホセは心の中で、必死に否定する。
 そんなホセの様子を、漁師は痛ましそうに見て、更に言葉を綴った。

「貴方は約束をお守りになったのに、こんな事になりお悔み申し上げます」
「! どういう事だ!!」

 これ以上、聞きたくないのに、もはや反射的に怒鳴り返してしまうホセ。
 それに驚いたのは門兵だけで、漁師はどこか寂しそうに……そして同情するような瞳をホセへと向けて口を開いた。

「だって、あの方は貴方を助けたことで婚約されたではないですか」





 ◇◆◇





【10歳】

「おぉ! これが海か!」
「ちょ……! 殿下! 危ないです!」
「大丈夫だ!」

 初めての海を見て、ホセ王太子殿下は年頃の子どものようにはしゃいでいた。
 砂浜だけでなく岩場まであり、幼いホセの冒険心をくすぐるには十分だった。
 ホセは護衛の声など全く聞かず、初めてみる自然の美しさに興奮し、岩場に登って行ってしまう。
 苔があって滑りやすい足元すら、ホセにとっては初めて体感する事で、とても楽しんでいた。

「殿下! 降りてきてください! いけません!」

 慌てて護衛も岩場に登るが、隙間に入るホセを追いかけようにも、剣が邪魔で手こずってしまう。
 普段は聞き分けが良いのにと心の中で愚痴を流しながらも、やはり王太子殿下も年相応なのかという安堵感もある。
 かと言って危険には変わりないのだが。

「殿下! これ以上動かないで下さい!」

 自分が行くまでは、せめてそこで止まっていてくれと切実に願い、叫びながらホセの元へと向かう護衛。
 しかし、ホセは初めての海や岩場に、その危険性など全く想像すらつかず、舐めた態度をとっていた。

「何だ、このくら……いっ!?」

 瞬間、ホセの足は滑り、身体が傾いた。

「殿下!!」

 全ては一瞬なのだろう。けれど、ホセには全てがスローモーションに見えた。
 必死で岩場にしがみ付こうとするけれど、その手は空を切る。
 護衛が驚き、こちらへと手を伸ばすけれど、寸での所で自分にまで届かない。
 視界が空を捉え落下し、岩場に肩をぶつけても尚止まる事なく、そのまま海へと落ちた。

 痛い!
 苦しい!

 ホセは必死にもがくが、服が水を吸い込み重みを増し、自由に動けない。
 すぐに息が付き、意識が遠のいていくホセは最後、うっすら少女のような影を見た。
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