【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり

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 翌朝、早くからホセは侯爵邸へと赴いていた。

「……」

 晴れ渡る空とは裏腹に、ホセの心は闇が浸食してきたかのように重かった。
 おかしいという疑問を晴らしたいという気持ちと、知りたくないという気持ちが入り交じる。
 パウラの言っていた事が全て嘘なのであれば……自分は無実の罪をラウラに着せた事となる。
 しかし、パウラは確かにペンダントを持っていたのだ。持っていたのだけれど……姉に冤罪を着せるような娘だぞ?
 今持っている情報だけでは答えが出ないのに、頭の中でグルグルとそんな事ばかり考えていると、あっという間に侯爵邸へと着いてしまった。

「ちょっと待て」

 もう少しで門へ到着するという時だ。
 門の所で兵と何か話している、釣り竿を持った漁師らしき人物が見えた。
 ホセは、その場で馬車から下りると、徒歩で門まで近づいて行く。

「国王陛下!」

 遠目からでも分かる、国王の馬車。
 そこから下りて来た人物は、何度もナバーロ侯爵邸へと出入りしている為、門兵でさえ顔は知っている。
 直ぐに膝を付き頭を下げる門兵の態度と言葉に、漁師は驚き目を見開くが、すぐに地面へと頭をつけた。

「出入りの商人か……?」

 そんなわけないだろうと思ったが、嫌味気に口をついて出た。
 みすぼらしい恰好の漁師。地元の漁師が魚を届けに来たのであれば裏門を使うだろう。
 それこそ表門を使うのは煌びやかな商人くらいだ。
 怪しいと言えば、それまでだ。

「いいえ! 違います!」

 直ぐに否定の言葉を出したのは、当人である漁師だ。
 礼儀を知らないのだろう、国王の許可なく慌てて顔をあげ、釣り竿と小さな野草を自分の前へと出してきた。

「私めは元王妃様が幼い頃、釣りや泳ぎを教えていて、仲良くさせてもらっていたのです。亡くなったと聞いて、墓前へ置いてもらえればと思い持ってきたのです」
「……釣り……?」

 漁師の言葉に、ホセの眉がピクリと動く。
 釣りに泳ぎ。それはホセにとって大切な思い出に繋がるものなのだ。

 ――ホセを助けた初恋の子も、釣りをしていてホセに気が付いたと言っていた。

 釣りが出来て、泳ぎも得意で……。
 幼い時に、その子と交わした言葉が蘇ってくる。
 貴族子女らしからぬものだ。だけれど……まだ、まだ決まったわけではないとホセは胸を掻きむしるように服を握りしめた。
 漁師は元王妃と言ったにも関わらず、どこか縋りつくように、現王妃ではないかと。
 否、ホセは自分の過ちではないと。自分は間違っていなかったのだと言ってもらいたいだけだ。

「……妹の方には教えなかったのか……?」

 希望を望むように絞り出した声。
 頼むから、パウラであってくれ。
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