【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり

文字の大きさ
28 / 40

28

しおりを挟む
 暗闇の中を意識が泳ぐ。
 遠くから光が見えた……かと思えば、声も聞こえてきた。

「諦めないで!!」

 あぁ……そう言えば海へ落ちたんだっけ……? なんて他人事のような思考が蘇り、ふと目を開けた。

「あ、起きたわ」
「!?」

 目を開ければ、すぐそこに可愛らしい女の子の顔があった。こんな至近距離で誰かと顔を合わせるなんて事、産まれてから経験した事がない。
 もはや口づけ出来る距離だった為、ホセは反射的に顔を背けた。

「そんなにいきなり頭を動かさないで!」

 緊迫するような叫び声に、ホセの身体はビクリと震える。
 少女が自分から離れたのを視界の隅に捕らえたホセは、ゆっくりとした動作で頭を元の位置へと戻した。

「殿下……良かった……怪我は痛みますか?」

 護衛が涙目になりながら問いかけてきて、ホセは肩の痛みに気が付いた。
 更に言えば、とても寒い。保温の為だろうか、余計な衣服は取り除かれて、身体はタオルにくるまれており、近くには焚火がおこされていた。

「……すまなかったな」

 多分、自分は危なかったのだろうとホセは理解し、謝罪の言葉を口にした。
 自分に何かあった場合、責任を問われるのは護衛だ。今回は全て自分の勝手な行動のせいだ。申し訳なく思えて、仕方ない。
 だけれど……ホセは起きて少女を見た時から、胸の鼓動が止まらず、どこか落ち着かないのだ。
 罪悪感と共に、浮ついた気持ちもどこかにある。

「殿下を守れなかった自分の落ち度です……生きていてくださって良かった……」

 護衛は、焚火の近くでこちらに背を向けて何かをしている、先ほどの少女へと視線を向け、小さく頭を下げていた。
 ホセが海へ落ちる時の記憶が正しければ、護衛は自分を守る事が出来ず……海の中では少女の影を見た気がしたのだ。
 そして……目覚めれば可愛らしい少女が自分の側に居た。
「……あの子は……?」

 護衛の視線の先を追って、息が苦しくなる程に鼓動が高鳴るホセは、気持ちを落ち着かせ何とか言葉を絞り出した。

「あのご令嬢が殿下を救ってくれたのです」
「!」

 護衛の言葉に、ホセは感銘を受ける。
 きっと自分はあの子に一目ぼれをしたのだ。その相手が自分の命を助けてくれた人だとは!
 ホセは、ゆっくりと身体を起こす。

「もう起き上がっても大丈夫なの?」

 その様子に気が付いた少女は、ホセの方へと顔を向け問いかけた。

「あぁ……命を助けてくれて感謝する」

 ホセは少女の目を真っすぐ見つめて言葉を述べた。
 あぁ……何て勇敢な少女なのだろう。
 何も顧みず、誰かが溺れているというだけで、自ら海へと飛び込む優しき人。
 だけれど、そんな心優しい少女は、どこか寂しそうな目をして遠くを見つめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

陛下を捨てた理由

甘糖むい
恋愛
美しく才能あふれる侯爵令嬢ジェニエルは、幼い頃から王子セオドールの婚約者として約束され、完璧な王妃教育を受けてきた。20歳で結婚した二人だったが、3年経っても子供に恵まれず、彼女には「問題がある」という噂が広がりはじめる始末。 そんな中、セオドールが「オリヴィア」という女性を王宮に連れてきたことで、夫婦の関係は一変し始める。 ※改定、追加や修正を予告なくする場合がございます。ご了承ください。

婚約破棄? 結構ですわ。私は領地を立て直します

鍛高譚
恋愛
――婚約破棄? むしろ好都合ですわ! 王太子エドワード殿下の婚約者として完璧な淑女教育を受けてきた伯爵令嬢ルシア。 だがある日、殿下は彼女を公衆の面前で一方的に婚約破棄し、新たな婚約者として平民出身の令嬢レイラを選んだ。 「あなたのような冷たい女より、愛に生きるレイラのほうがふさわしい!」 突然の屈辱に、一時は落ち込むルシアだったが――すぐに吹っ切れる。 「王太子妃になるための苦労をしなくて済むなんて、むしろ幸せでは?」 伯爵家の一員として新たな人生を歩むことを決意したルシアは、父の領地の改革に取り組みはじめる。 不作にあえぐ村を助け、農業改革や商業振興に奔走するうちに、村人たちから慕われるように。 そして、彼女の努力はやがて王宮にまで届き―― 「君のような女性こそ、王国に必要だ。」 そんな彼女のもとを訪れたのは、まさかの第二王子・アルベルト殿下!? 婚約破棄で人生が終わるどころか、むしろ最高の人生が始まった!? 元婚約者が没落する一方、ルシアは国を動かす存在へと成長していく――!

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

捨てられた令嬢と、選ばれなかった未来

鍛高譚
恋愛
「君とは釣り合わない。だから、僕は王女殿下を選ぶ」 婚約者アルバート・ロンズデールに冷たく告げられた瞬間、エミリア・ウィンスレットの人生は暗転した。 王都一の名門公爵令嬢として慎ましくも誠実に彼を支えてきたというのに、待っていたのは無慈悲な婚約破棄――しかも相手は王女クラリッサ。 アルバートと王女の華やかな婚約発表の裏で、エミリアは社交界から冷遇され、"捨てられた哀れな令嬢"と嘲笑される日々が始まる。 だが、彼女は決して屈しない。 「ならば、貴方たちが後悔するような未来を作るわ」 そう決意したエミリアは、ある人物から手を差し伸べられる。 ――それは、冷静沈着にして王国の正統な後継者、皇太子アレクシス・フォルベルト。 彼は告げる。「私と共に来い。……君の聡明さと誇りが、この国には必要だ」

諦めていた自由を手に入れた令嬢

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢シャーロットは婚約者であるニコルソン王太子殿下に好きな令嬢がいることを知っている。 これまで二度、婚約解消を申し入れても国王夫妻に許してもらえなかったが、王子と隣国の皇女の婚約話を知り、三度目に婚約解消が許された。 実家からも逃げたいシャーロットは平民になりたいと願い、学園を卒業と同時に一人暮らしをするはずが、実家に知られて連れ戻されないよう、結婚することになってしまう。 自由を手に入れて、幸せな結婚まで手にするシャーロットのお話です。

私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。  読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。 「私は君を愛することはないだろう。  しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。  これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」  結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。  この人は何を言っているのかしら?  そんなことは言われなくても分かっている。  私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。  私も貴方を愛さない……  侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。  そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。  記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。  この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。  それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。  そんな私は初夜を迎えることになる。  その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……    よくある記憶喪失の話です。  誤字脱字、申し訳ありません。  ご都合主義です。  

処理中です...