【完結】王妃を廃した、その後は……

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「全ては命あってのものです。……夢や希望……そして幸福も。生きてさえいれば……」

　生きてさえいれば。
　ホセの心にズシリと重くのしかかった言葉。
　平民の中には、今日を生き抜く事さえ必死な者も居るのだ。
　その責任の重圧を再度突きつけられたように感じるのは、少女の瞳を真っすぐ見たからだろう。

「……白湯をどうぞ」

　所作が綺麗な少女。胸の高鳴りを感じていても、平民であれば実ることのない恋心に気が付いたホセの心に、ツキリと小さい痛みが走る。
　感謝の意を述べて、白湯へと手を伸ばそうとした時だった。

「侯爵令嬢がそんな！」
「侯爵令嬢だと！？」

　護衛の言葉に反応したホセは、思わず大きな声を出し振り返った。慌てて少女の元へと寄る護衛の言葉に嘘はないだろう。
　ホセの心は歓喜で満たされた。
　王太子である自分の相手は伯爵家以上の上位貴族だと決まっている。でなければ、王太子妃教育に付いていけないからだ。
　国を治め、民を守る為には、しっかりした教育が必要になるのは自分自身がよく理解している。

「……殿下……？」

　ホセが慌ててポケットを探り始めた事に対して、護衛は怪訝な声をあげた。

「あった……」

　ホセの安堵の溢れた声。
　溺れた時に無くしていなくて良かったと、ホッと息を吐いた。

「……これを、あなたに」
「……これは……？」

　見つけた箱を少女の前へと出す。
　受け取った少女は首を傾げながら箱を開けると、そこには一目見ただけで高級だと分かるアンティークのペンダントが入っていた。

「俺の妃になってほしい」
「！？」

　高級な贈り物と妃という言葉に少女は驚き、目を白黒させた。
　少女としては、たまたま釣りに来ていて、溺れている人が居たから助けただけに過ぎないのだから。

「……私は、ただ釣りをしていて気が付いたから……」
「といっても、そう簡単に人助けが出来る人なんて居ないだろう。求婚を受けて、その王太子妃となる証を貰って欲しい」
「王太子妃！？」

　少女は更に慌てて、驚きとあまりの事に身体が少し震えた。
　聞けば、このペンダントは王太子妃となる子に授けるよう、立太子した時に王妃から貰ったものだと言う。
　この人はという人を見つけた時、その証を渡そうと決めていて、ずっと大切に肌身離さず持っていたそうだ。
　少女は護衛の方を見た。もしかして騙されているのではないかと。
　しかし、ホセと護衛の服装は見ただけで上質の物だと分かる。そして護衛はその視線に気が付いたのか、剣に施されている王家のマークを少女に見えるよう掲げると小さく頷いた。
　ならば、侯爵令嬢として……少女はしっかり少年に向き合った。