モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜

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ヴァニタス・アッシュフィールド10歳

03

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「スヴェン、スピルスのことを頼むな」
「お任せください。未来の大賢者様は、このスヴェンの命に変えましても必ずお守り致します」
「それはダメです。スヴェンも必ず無事にヴァニタスの元に変えること。約束ですよ」

 やっぱり地下通路の問題解決は急務だな。
 あそこを俺の領域にして安全に通れるようにすれば、頻繁にこの屋敷に通ってくるスピルスや、彼を送るスヴェンの負担が減る。

 そして課題はもうひとつ。

 3年もつき合えば、スピルスに情がわく。
 ゲーム開始時にユスティートを救う為に犠牲になる彼を何とか救えないものか。

「俺の血や体液を付着させれば、紙を持ち運べる……か」

 これを何とか利用できないだろうか?
 俺の血や体液と、俺の領域を繋いで、危機に陥ったスピルスをこの屋敷に転移させる……とか。

「流石に苦しいか?」

 とりあえず、この件は保留にする。
 まずは地下通路の安全確保が最優先だ。
 悪魔憑きと噂される俺の力になってくれる変わり者の白兵戦担当が見つかればいいのだが……。


 屋敷に入ってキッチンを覗くと、ふんわりとした明るい茶髪を耳より少し下でふたつに分けて縛った(ツインテールのカントリースタイルと言うんだったか?)ぽっちゃりとした可愛らしい女性が料理を作っていた。
 最初に俺がこの世界で目覚めた時、小首を傾げた俺にデバフを食らった彼女だ。

「マチルダ、俺に手伝えることがあるか?」

 手を洗ってキッチンに入ると、マチルダが俺を指差してプルプルと震えた。

「か、髪……ヴァニタス様、髪……」
「髪?あぁ……なんつーか、この凶悪面を何とかしたくてな。デコ出してみたんだが……似合わねぇか?」

 やっぱり、いくらヴァニタス少年の容姿が整っていても、男のデコ出しハーフアップは流石にキツいか?

 マチルダはそんなことは絶対にないとでも言うかのように首を左右に振った後、少し真剣な眼差しで俺を見た。

「いえ、よくお似合いです。印象も明るくなりました」
「そうか?それならいいんだが」
「……でも」

 マチルダはしゃがみこんで子供の俺に視線を合わせる。

「私もスヴェンも、ヴァニタス様を怖いとも、悪人面だとも思っていません」
「それ、スピルスにも言われた」

 そうでしょうとも……と、マチルダは頷く。

「ヴァニタス様、私は貴方が悪魔憑きだとも思っていません。でも、貴方自身は『本来のヴァニタス様の人生を奪ってしまった』と思ってしまっているのではないですか?」
「そ、れは……」

 図星だった。
 悪魔ではないにしろ、俺は本来のヴァニタス少年の人生を奪ってしまったと、罪悪感を抱いている。

「私とスヴェンは、3年貴方と共に過ごしました。その上で貴方は誠実な方だと、例え7年間のヴァニタス様の記憶が戻らなかったとしても、貴方は信頼できる方だと、そう思ってこの屋敷への同行を決意しました」

 マチルダの言葉は、“俺”に響いた。
 日本で39年間生きて、そして死んだこの“俺”に。

「貴方が記憶を失ったヴァニタス様なのか、悪魔ではないにしろヴァニタス様に憑いた何かなのか、私には判断できません。けれど、もう7歳より前のヴァニタス様が戻らないのはわかります」

 それは、俺も確信していた。
 本来のヴァニタス少年はもう戻らない。
 俺が最後の最後まで、ヴァニタス・アッシュフィールドとして生きるしか道はないのだ。

「ですから、そろそろ覚悟して腹を括ってください。『自分はヴァニタス様じゃない、別の何かだ』とヴァニタス様と自分を切り分けるのではなく、ヴァニタス様として最後まで生き抜く覚悟をしてください。ヴァニタス・アッシュフィールドとして生きると腹を括ってください」

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