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ヴァニタス・アッシュフィールド10歳
02
しおりを挟むしかし、流石に何でもかんでも錬成できるわけではない。
まずは当たり前だが、パソコンやスマホなんぞはとてもじゃないが錬成出来ない。
紙と鉛筆は錬成できたが、消しゴムが錬成出来ないので焦った。
消しゴム登場前に代わりに使われていたパンを錬成しようかと思ったが、この世界のペンに使われているインクにゴムが混じっていると知って試してみたら、無事錬成出来たのでホッとした。
ただし、プラスチックが錬成できないので、鉛筆削りは錬成できない。
小学生の頃の『鉛筆削りは使わず小刀で削れ』という謎ルールがまさかこんなところで役に立つとは思わなかった。
また、領域内で錬成したものは基本的に領域内でしか使用できない。
俺が錬成した紙も、屋敷と森の一部に広がる俺の領域から出た途端、たちまち消えてしまう。
例外として、俺の唾液や血液などの体液を付着させれば、持ち出しは可能。
たまにスピルスが俺に唾液を付着させ、小説を持ち出している。
「今更だけど、俺の唾液が付着した紙とか気持ち悪くねぇの?」
「そんなことはありません! むしろご褒美です! ……あ、いえ。貴方の物語はとても面白いですし、紙というものを実際に作って実用化できないか、今研究もしていますし」
確かに、紙があれば色々便利だからな。
「で、今日はお前に相談なんだが」
俺は文字がほぼ消えかけている羊皮紙を広げた。
そこに描かれているのはこの屋敷からラスティルにあるアッシュフィールド本邸までの地下水脈の地図だ。
「此処に魔物が住んでいたとして、俺の領域魔法でこの屋敷に侵入こそできないが、死滅することもないんだな」
スピルスは頷く。
「こんな地下通路があることにまず驚きましたが……そうですね。貴方の領域魔法では魔物の駆除は出来ません。地下通路に侵入して駆除し、貴方が定期的に地下で歌い、地下を貴方の領域にすることで、初めて通路として使うことができます」
「歌……」
そうなのだ。
領域の保護や確保の為に、俺は歌を歌う必要がある。
カラオケと言えば一人カラオケで、誰かと一緒にカラオケになんて行ったことがない俺にどんな拷問だよと思うが、俺はともかくスヴェンやマチルダを守る為だから仕方がない。
多少耳障りな歌が聞こえるくらい我慢してもらうしかない。
「しかし、私と貴方だけでは戦力に劣るでしょう。もう一人……剣などを扱える白兵戦に特化した者が協力してくれるといいのですが……」
「表向き、『発狂して幽閉された悪魔憑き』だからなぁ……俺」
あのクソ親父が既にラスティル中に触れ回っている。
とんでもない毒親だな、あいつ。
アッシュフィールド家の後継者となった異母弟のシルヴェスターに心底同情するぜ。
「協力者は私の方で何とかしておきましょう。貴方はまず、しっかり食べてしっかり寝ることです。貴方に何かがあったら、スヴェンとマチルダが危険に晒されることをお忘れなく」
お前は俺のオカンか。
俺は中身が正真正銘のオッサンだが、スピルスもスピルスで中身がかなり老成していると思う。
悪りぃが、ヴァニタス少年よりひとつ年下の9歳には、とてもじゃねぇが見えねぇぞ……スピルス。
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