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会談―午後―
02
しおりを挟むスヴェン、セオドアの2人がスピルスを睨む。
スピルスは受けて立つように彼らを見返した。
「魔王が私に接触を図ったのはヴァニタスが“生まれる前の記憶”を取り戻すよりも前です」
「俺が記憶を取り戻したのは、7歳の時。俺が記憶喪失になったって大騒ぎになったよな、スヴェン」
スヴェンはハッと息を飲む。
「あの時、前世の記憶が急に甦ったんだ。だから現在のヴァニタス・アッシュフィールドの記憶を一時的に失ってしまった」
「ヴァニタス、貴方が悪魔憑きというのは……」
「さっきの柚希の言葉を借りれば、親父の戯れ言も間違っちゃいなかったんだな。俺はこのラスティル王国を滅ぼす『転生者』候補の1人だったんだから」
スヴェンが唇を噛んで俯いたのを見て、胸が締め付けられた。
ヴァニタスの実の父親、ナイジェル・アッシュフィールド公爵に嫌われても、俺は痛くも痒くもない。
だが、スヴェンに嫌われるのは怖い。
俺をここまで育て上げてくれた、父親同然の存在だからだ。
「ヴァニタスが国を滅ぼすことはあり得ません。彼はこの世界に生まれる前、自らを犠牲にして幼い子供の命を救ったのです。正義感の強い彼に、このラスティル王国が滅ぼせるわけがありません」
スピルスはちらりと俺の顔を見た後で、スヴェンの瞳をしっかり見据えて断言する。
「ちょっと待ってください、賢者スピルス・リッジウェイ」
シルヴェスターが挙手をした。
「貴方のその口ぶりですと、まるで生まれる前から貴方と兄上は知人であるような印象を受けるのですが……」
スピルスは視線をスヴェンからシルヴェスターに向ける。
そして表情を和らげ、微笑んだ。
「スピルスで結構ですよ、シルヴェスター殿。貴方の仰る通りです。私とヴァニタスは生まれる前からの友人です。だからこそ断言できます。ヴァニタスはこの国を守る為に身を投げ出すことがあっても、この国を滅ぼすことはないと」
「それは、生まれる前を知らなくてもわかります。兄上に、国家転覆を図る為に腹芸で人を騙すような器用なことが出来るとは思えません」
ぶはっ……と、セオドアが盛大に吹き出した。
あんにゃろー。
「セオドア様、今は会談中です。真剣に語り合う場です」
「すまんすまん。怒った顔も美しいな、スヴェン」
「セ、オ、ド、ア、さ、ま?」
スヴェンとセオドアは一体どういう関係なのだろうか?
セオドアは表情を崩したまま、スピルスと俺を交互に見た。
「…………つまり…だ、スピルス。お前は別の転生者が現れたら魔王との連絡役を押しつけるつもりでいた。ところがその別の転生者はヴァニタスだった。押しつけたら魔王に反発して、逆に魔王の不興を買いかねない。しかし、ヴァニタス以外の転生者も現れない。お前は魔王との連絡役をそのまま続投することに決めた……と」
セオドアの言葉に、スピルスは頷く。
「私が魔王との接触を断ったら、魔王は近隣の……既に転生者が国家を手中に収めている国に命じて、この国を攻め滅ぼすでしょう。アリスティア王国を攻め滅ぼしたデュームズ、ティアエラ両国は、既に転生者が手中に収めていると判断しても良いと思います」
俺は、そっとアルビオンの様子を窺った。
アルビオンは俺の視線に気づき、大丈夫と唇を動かす。
余計な気を使わせてしまったようだ。
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