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善悪
02
しおりを挟む「そうだな。俺一人で善悪をジャッジするのは傲慢だ。俺は無知だ。前世でも今世でもな。善悪を正確に判断できる程の知識などない」
アレクシスが目を見開いた。
驚いたのだろう。
俺だって理解しているさ。
自分の無知さを。
「でも、今世の俺は一人じゃない。俺が間違えたら、指摘してくれる仲間がいる。間違いの修正に力を貸してくれる仲間がいる」
スピルスと柚希が頷いた。
アレクシスだけが難しい顔をしている。
「黒須さん」
スピルスがアレクシスに向き直る。
「貴方は恋人が生きていたら、テロ行為に手を染めましたか?」
アレクシスはしばらくの間考え込んだ。
しかし、やがて首を横に振った。
「それはない。香代さんが自分の胸の内の苦痛や苦悩を話してくれたら、香代さんを救う為に動いた筈だ。組織を抜けて、安楽死が合法の国に渡って、香代さんの心が癒やされるよう、僕は尽力した筈だ」
アレクシスの言葉を聞いて、スピルスは穏やかに微笑んだ。
「そういう事です。善悪が判断できなくなる時は大抵たった一人で孤立してしまった時です。相談できる仲間がいれば違います。今の貴方がノア・マードックに相談して私たちの元に来たように」
ノア・マードック。
やっぱりさっきの金髪は、スヴェンの血縁者か。
「そう……か。香代さんと、もっと話をするべきだったのか……香代さんが死んだ時、僕も誰かに助けを求めるべきだったのか……」
ぽつり。
ぽつり。
アレクシスが語る。
その様子が、切なそうで。
堪らなくなって、俺はアレクシスを抱き締めた。
「これからは助けを求めてくれよ。お前が手を伸ばしたら、俺たちも手を伸ばす。俺たちだけじゃない。義母さん……マドリーンも」
「姉……さん」
「もうアンタはアッシュフィールドの離れ屋敷に入れるぞ。今の俺にアンタに対する敵愾心はない。アンタがこうして話し合いの場を設けてくれたからだ」
アレクシスは唇を噛んで俯いた。
「僕は君を殺すことも考えた。君が死ねば結界は消えると……」
「でも、アンタは結局俺を殺さなかったじゃないか」
「そう……だな。殺さなかった。殺せなかったのかもしれない」
アレクシスの腕が、俺の後ろに回される。
アレクシスが俺を抱き締めた。
俺たち二人は、しばらくの間抱き締め合った。
「空気を読んで黙っていましたが、そろそろ離れてもいいのではないでしょうか?」
…………咳払いをしたスピルスに離されるまで。
これはもしかしたら、後で説教コース?
ふと、柚希が真っ青になっていることに気づいた。
「…………柚希?」
「俺はもしかして、間違えた? 響哉君を一人にしてしまった?」
魔王を知るスピルスとアレクシスは顔を見合わせた。
柚希はしばらく俯いていたが……顔を上げた。
「響哉君を一人にしたことについては、俺が責任を取る。でも、『“ラスティルの大結界”展開計画』は元々は俺の発案だ。これが終わるまではお兄さんは此処にいるよ」
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