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しおりを挟むマルクスとの二人きりの生活は穏やかにゆったりと時間が過ぎていった。
彼は仕事があるので、セルマは掃除をしたり洗濯をしたり本を読んだり、縫い物や編み物をしたりしてマルクスの帰りを待った。
どこに何が置いてあるのかも覚えて、ここでの生活にも随分慣れてきた。
しかしセルマはこの家のおかしさに気づかない。
この家の中には鏡がない。手鏡の一つすらない。
しかしセルマはそれを不便とも思っていなかった。
毎朝マルクスがセルマの髪を整えてくれるのだ。その日の気分によって色んな髪型にしてくれる。鏡がないので、セルマはそれを手触りで確認する。
そして彼の髪は毎日セルマが櫛で梳かす。それを煩わしいとは思わない。それが普通の事だと受け入れていた。
彼としか顔を合わせないので、そこまで身嗜みを気にする事もなかった。
そしてこの家は壁に窓がない。窓は天井につけられている。
その窓には魔法がかけられていて、天気や気温に合わせて自動で開閉する。
この家には、自分の姿を映せるものが何もないのだ。だからセルマは、牢屋で目覚めたあの時から、一度も自分の顔を見ていない。
そもそも、なぜ二人の家はこんな森の中に建てられているのか。人が決して訪れる事のない場所で暮らしているのか。
記憶喪失のセルマは常識的な部分も曖昧で、自分の生活に疑問を抱いていなかった。こういうものなのだと全て受け入れ、マルクスの言葉を疑いもせず信じていた。
あるいは誰か指摘する者が現れれば、セルマも自分の置かれている状況の異常さに気づいたかもしれない。けれど二人で暮らすこの家に訪れる者など一人もいなかった。
ある日、彼に自分と彼の家族について尋ねてみた。
「実は、俺は両親との関係はあまり良くないんだ。勘当されるように家を出たから」
「そ、そうだったの……」
「そして、君の両親は俺と君の結婚を反対していた」
「えっ……」
「でも、君は家族よりも俺を選んで、俺と結婚してくれたんだよ」
照れたように微笑まれ、何も覚えないけれどセルマも何だか気恥ずかしくなる。
「君の両親に会いに行けば、きっと無理やりにでも引き離されてしまう……。だから、ごめん。会わせられないんだ」
「ううん、いいのよ。聞いてみただけだから」
申し訳なさそうに謝られ、セルマは慌ててかぶりを振る。
家族の存在が気にならないわけではないが、覚えていないので懐かしさや会いたいという気持ちもあまりない。会えるなら会ってみたいという程度だ。だから、家族の事ももう考えなくなった。
マルクスがいてくれれば、何の不安もなく満ち足りた日々を送る事ができたから。
でも、気になる事が一つあった。ある時ふと、自分の体がマルクスとは違う部分がある事に気づいたのだ。
もしかして、自分は普通ではないのかもしれない。何かの病気か、それとも呪われているのか。
わからなくて、だからセルマはマルクスに言ったのだ。
「私の体、貴方と違うわ……」
ベッドの上、ワンピース型の寝巻きの裾を捲り脚を晒す。露出した脚には、ところどころ鱗が生えている。脚だけではない、腕や腹や胸にも。
マルクスの肌に鱗なんて一つもない。それなのに、セルマの体のあちこちに鱗が生えているのだ。
これは、おかしな事ではないのか。問いかけるようにマルクスを見れば、隣にいる彼は安心させるように微笑んだ。
「うん、そうだね。でも、それだけじゃないよ。背の高さも違うし、体の重さも違う。手の大きさだって、ほら、こんなに違うよ」
掌をぴったりと合わせれば、セルマの手より彼の手の方がずっと大きい。
言われてみれば、彼と違うところなど沢山ある。顔の形も違うし、髪の色も違う。
「私がおかしいわけじゃないの……?」
「もちろんだよ。違ってて当然なんだよ。だって違う人間なんだから」
確かにそうだ。全く同じ人間などいないのだ。
彼の言葉を疑わないセルマはあっさり納得した。
「そうよね。変な事言ってごめんなさい……」
「いいんだよ。記憶がないから仕方ない」
「……マルクスの事も、思い出せなくてごめんなさい」
「気にしないで。君との思い出は俺が全部覚えてる。いくらでも君に話して聞かせるよ。それに、二人の思い出はこれからいっぱい作れるんだから。記憶がない事を引け目に感じる事はないんだよ」
記憶が戻らない事を申し訳なく思うセルマに、彼はいつもこう言ってくれる。セルマの重荷にならないように、思い出せなくてもいいのだと。
記憶を取り戻したいとは思うけれど、どうする事もできずもどかしい気持ちになる。だから、彼の言葉に心が軽くなった。
記憶がない事を悲しむよりも、彼との時間を大切にして、沢山の思い出を作っていきたい。そんな風に考えられるようになった。
「ありがとう、マルクス」
「お礼を言われるような事じゃないよ」
「ふふ……そう言うと思った。でも、嬉しいからお礼を言わせて」
顔を合わせて、二人は微笑む。
それから少し他愛のない会話を楽しんで、マルクスが言った。
「じゃあ、そろそろ寝ようか」
「あっ……ま、待って……」
「? どうかした?」
問われて、セルマは頬を赤く染めた。心臓がバクバクと早鐘を打つ。
「セルマ?」
「ぁ、の……あのね、マルクス……」
どうしたらいいのかわからなくて、セルマはマルクスに抱き付いた。
「っ、セルマ……?」
「あの……マルクス……私……っ」
緊張して、恥ずかしくて、言葉が出てこない。何も言えずにいると、マルクスは察してくれたようだ。
セルマの背中を彼の手が撫でる。
「いいの、セルマ?」
「っ、っ……うん。あの、あの……マルクスが、よければ……」
「ああ、嬉しいよ、セルマ……っ」
感嘆の声を上げ、マルクスはセルマを強く抱き締めた。
彼に抱き締められると安心する。嬉しくて、胸がドキドキする。
「好きよ、マルクス……」
「っああ、セルマ……俺も好きだよ、愛してる」
抱き締める腕の力が強くなり、二人の体がピッタリと重なる。
毎晩同じベッドで寝ているのに、今までマルクスはセルマに触れてこなかった。手を握ったり抱き締めたりする事はあったが、それだけだ。キスも、それ以上の事も何もしていない。
きっとセルマに記憶がないから気遣ってくれていたのだろう。全てを忘れてしまっているセルマにとって、マルクスは愛する夫ではない。セルマの気持ちを考えて、夫婦としての触れ合いはしなかったのだろう。
でも、彼と日々を過ごすうちに、セルマの彼への好意はどんどん大きく膨らんでいった。
牢屋で出会ってから今日まで、何度も彼の優しさに触れ、彼の笑顔に、言葉に、胸をときめかせてきた。
夫婦になった経緯を覚えていないけれど、でもセルマはマルクスが好きだ。セルマも彼を夫として受け入れ、愛したい。
そんな思いを込めて、セルマも彼の背中を強く強く抱き締める。
「マルクス、大好き……」
「嬉しい、セルマ……すごく嬉しい」
腕の力を緩め、顔を合わせ見つめ合う。自然に二人の顔が近づいて、ゆっくりと目を閉じながら唇を重ねる。
ただ唇を合わせているだけなのに、飛び出そうなほど心臓が高鳴った。羞恥と恥ずかしさと、彼と触れ合える喜びにセルマの気持ちは高揚していく。
ちゅっちゅっと音を立てながら、何度も唇を重ねる。
「ふ、ぁ……っ」
息継ぎの為に唇を薄く開けば、開いた隙間を彼の舌がなぞる。
ビックリして肩が少し跳ねた。驚きはしたが嫌ではない。彼の舌を受け入れるようにもう少し大きく口を開くと、舌が中へ差し込まれた。
「ぁ、んっ、んっ……」
口の中を舐められるなんて恥ずかしい。けれど、舌先で上顎をなぞられるとゾクゾクして、何だか気持ちいい。
セルマは唾液で口元が汚れるのも気にせず、夢中になって彼とキスをする。口の内側をねぶられるのも、舌と舌と触れ合わせるのも、全部気持ちいい。
「んはっ……はっ、はあ……っ」
長いキスを終える頃には、セルマの顔はすっかり蕩けていた。
「大丈夫、セルマ?」
「ぅ、うん……」
セルマは小さく頷く。
マルクスの頬もほんのり紅潮している。彼も自分とのキスにドキドキしてくれたのだ。そう思うと嬉しくて、セルマの体はじんわりと火照っていく。
そっとベッドに押し倒された。
「ぁ、あのね、マルクス……」
「うん?」
「あの、私、覚えてなくて……だから……」
実際には処女ではないのだろうが、今のセルマにとってはこれがはじめてだ。
セルマの言いたい事を察して、マルクスは微笑む。
「うんと優しくするからね、セルマ」
「お願い、します……」
再び唇を重ねて、とびきり甘いキスを交わす。彼とのキスは頭がくらくらするくらい気持ちいい。キスだけで、身も心もとろとろに溶けてしまいそうだ。
「ふぁっ……ん……マルクス……」
「可愛い、セルマ……」
涙の滲む眦に軽く唇を落とされる。
マルクスの指が胸元のリボンにかけられた。
「脱がせるよ、いい?」
「ん……」
恥じらいながら小さく頷けば、彼の手で丁寧に寝巻きを脱がされた。下着も脱がされて、セルマはシーツの上で全裸にされた。
ところどころ鱗の生えたセルマの体を、マルクスはうっとりと見つめる。
「ああ……綺麗だよ、セルマ……」
「は、恥ずかしいわ……。そんなにじっと見ないで……」
熱の籠った目でじっくりと見つめられ、セルマは羞恥に身動いだ。恥ずかしくて、顔だけでなく全身が熱くなる。
「ふふ……ごめんね。でも、すごく綺麗だから……ずっと見ていたい」
「綺麗、なんて……そんな事……」
「綺麗だよ。とても綺麗だ」
恍惚とした顔で囁いて、彼はセルマの体に唇を落としていく。首に、鎖骨に、肩に。彼の唇の感触が肌に触れ、セルマはぞくりと震えた。
「っあ……マルクス……」
愛しげに腕に生えた鱗に口付けられる。彼の愛撫に、セルマの体はどんどん熱を帯びていく。
「好きだよ、セルマ」
「んんっ……私、も……」
胸の膨らみを大きな掌に包まれる。
ふにふにと乳房を揉みながら、マルクスは感嘆の溜め息を漏らす。
「柔らかくて、温かくて、気持ちいい……」
「も、ぉっ……恥ずかしいからぁ……」
真っ赤になって身を捩れば、マルクスは愛しげに目を細めた。
「ごめん、ごめん。恥ずかしがっているセルマも可愛くて」
「ぁんっ」
指先が胸の突起に触れて、強い刺激に甘い声が出てしまう。その声をもっと上げさせようとするかのように、マルクスはそこをくにくにと捏ね回す。
「んぁっ、あぁんっ、そこ、いじっちゃ、あっあっんんっ」
「気持ちいい? 感じてくれてる、セルマ?」
今のセルマにとってははじめて味わう感覚だ。きっとこれが快感なのだ。
「きもち、いぃっ、マルクス……っ」
素直に口にすれば、それを喜ぶように愛撫が続けられた。指だけでなく、唇を寄せられ、舐められ、しゃぶられる。
ちゅうっと吸い上げられると堪らなく気持ちよくて、はしたなく背中が浮き上がった。
「あぁっ、あっ、きもちい、あっあっ、きもちいいの、マルクスぅ……っ」
恥ずかしいけれど、セルマが快楽に濡れた声を上げればマルクスは嬉しそうに口元を緩める。
すごくすごく恥ずかしいけれど、彼が嬉しそうだからセルマは我慢せずによがり声を上げた。
ツンと尖った乳首を長い時間をかけて可愛がられる。唇で、舌で、指先で、蕩けるような快楽を与えられた。
脚の間がむずむずして、セルマはひっきりなしに内腿を擦り合わせる。
気づいたマルクスは唇に笑みを浮かべ、胸元から離れていく。
「素直に感じてくれて嬉しいよ。可愛いね、セルマ……」
「んぁ……っ」
マルクスの唇は胸から下腹部へと辿り、更に下へと近づいていく。
彼の顔があらぬところへ寄せられて、セルマは焦った。
「っあ、マルクス、そんな……っ」
「大丈夫だよ、力を抜いて」
「ひゃっ……」
下生えに唇を落とされて、ビクッと体が震える。
戸惑うセルマを置き去りに、脚を大きく開かれ見せてはいけない箇所を彼の眼前に晒されてしまう。
「やっ、だめ、マルクス、そんなとこ、見ちゃ……っ」
「ダメじゃないよ。俺達は夫婦なんだから」
「でも……でもぉっ……そんな、ところ……っ」
「セルマの全部見せて。君の体の隅々まで見たいんだ」
熱っぽく囁かれ、嫌ではないけれどやはり恥ずかしい。
「こんな……私ばっかり……それなら私も、マルクスの全部を見たいわ……」
「もちろん。後で見せてあげるよ。だから今は、俺にセルマを見せてね」
「っ……」
こうなるともう観念するしかなくて、セルマは顔を真っ赤にして小さく頷いた。
許可を得て、マルクスの視線はそこへ注がれる。
とろとろに濡れて、ヒクヒクと卑猥に震えるそこへ。
じっくりと見つめられ、耐え難い羞恥に襲われる。
「マルクス……っ」
もう見ないで、と訴えようとしたけれど、その前に彼の唇がそこへ触れた。
「ひぅっ……!?」
セルマは驚きとぬめった刺激に目を見開く。
見るだけじゃなかったのか、とセルマが愕然する間にもぴちゃぴちゃとそこをねぶられた。
「ひぁっ、あっ、そんな、だめ、んっあぁっ、そんな、ところっ、ひあぁっ」
花弁の上にある肉粒を舌先でつう……となぞられて、強烈な快感にはしたなく腰が揺れた。
「ああっ、だめ、だめぇっ、あっあっ、マルクスぅっ、んああぁっ」
小さな花芽にねっとりと舌が絡み付く。足先が痺れるほどに気持ちよくて、花弁から蜜が溢れて止まらない。
「ひゃうぅっ、んっんっ、あぁっ、きもちいぃっ、ああっ、だめ、きもち、よすぎて、あっあっあっ」
ぞくんっぞくんっと怖いくらいの感覚が込み上げてくる。
「待って、んあぁっ、あっ、くる、きちゃうぅっ、あっ、マルクスぅっ」
待ってと声を上げるけれど、逆に絶頂へと導くように更なる刺激を与えられる。花芽を口に含まれ、花の蜜を吸うように吸い付かれ、セルマは激しく身を震わせた。
「ひあっ、あああぁ──っ」
部屋に響き渡るほどの嬌声を上げ、背中を仰け反らせ達する。
カクカクと全身を痙攣させるセルマの秘所からマルクスは顔を離した。
「大丈夫、セルマ?」
「はっ……はふ……は、はあ……っ」
はじめて体験する感覚に、セルマは半ば呆然と荒い呼吸を繰り返す。
火照ったセルマの頬に、宥めるようにマルクスの唇が触れた。
「ぁ……マルクス……」
「体は辛くない?」
「ええ……。その……びっくりしたけど、大丈夫よ」
「もっと触れても構わない?」
これで終わりではない事はセルマにもわかる。セルマが拒めばきっと彼はこれ以上進めようとしないだろう。でも、そんなのは嫌だ。どれだけ恥ずかしい思いをしてもいい。
「もっと、触って……。私の全部、マルクスのものよ……」
「セルマ……」
マルクスは僅かに目を見開き、それから嬉しそうに破願した。
「あんまり俺を煽らないで。うんと優しくするって言ったのに、めちゃくちゃにしてしまいそうだ」
情欲の滲む彼の瞳に見つめられ、ぞくりと背中が震えた。触れられてもいない花弁からまた蜜が溢れる。
「それでも、いいの……。マルクスにされるなら、優しくなくても、いいの」
「っもう、セルマは……っ」
「んんっ」
噛みつくような勢いで唇を重ねられた。優しく甘いキスとは違う、激しく貪るようなキスをされる。
「んぁっ……んっ、ぅんっ」
口の中を我が物顔で彼の舌が動き回る。
呼吸すらままならないのに、蹂躙するようなその口づけが嬉しい。
もっともっとしてほしい。心も体も全部、彼でいっぱいに満たされたい。
そんな気持ちでキスを受け入れていると、彼の手が下肢へと伸ばされた。するりと脚の間を指が辿り、その感触に体が震えた。
「はっ、んっんっ、ぁ……んんんっ」
口づけたまま、マルクスの指がくちゅくちゅと花弁を撫でる。表面を指でなぞられると、まるで焦らされているかのように中が疼いた。
無意識に腰を揺すれば、つぷりと指を挿入された。
「んぁぁ……っ」
「痛い、セルマ……?」
唇を離したマルクスが気遣うように問いかけてくる。
「ううん、大丈夫……んっあっ」
「痛みを感じたら教えてね」
「んんっ、あっ、あぁっ」
彼の指が中で動き出す。痛みを感じるどころか、指は的確にセルマの気持ちいい箇所を狙って刺激してくる。
「あっあっあっ、マルクス、んっ、あっあぁっ」
ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が秘所から断続的に響いてくる。自分が淫らに感じてしまっている事を如実に突きつけられ、恥ずかしくて、でもやがて恥ずかしがる余裕もなくなるほどに快楽に溺れていた。
「ひぁっ、あっあっ、きもちぃっ、あっあっ、マルクスぅ、んっんっんあぁっ」
いつしか指が二本、三本と増やされてもセルマは痛みを訴える事なく甘い声を上げ続けた。
「ああっ、あっ、そこ、そこばっかり、しちゃ、あっあっあっ、また、きちゃう、んっんっ」
「いいよ、セルマ。そのまま、気持ちよくなって」
「ああぁっ、あっ、──~~~~っ!」
敏感な部分を三本の指で押し潰すように擦られて、セルマは腰を浮かせ絶頂を迎える。
「はあっ……は、ぁ……ふ……っ」
セルマは快感の余韻に震えながら、大きく胸を上下させた。蠕動する胎内から、ゆっくりと指が抜けていく。
息を整えるセルマの前で、マルクスが衣服を脱ぎ捨てる。
引き締まった彼の体をぼんやりと見つめた。視線に気づいた彼がクスリと笑みを零す。
「セルマもいっぱい見ていいからね」
そんな風に言われて、先ほどの自分の発言を思い出す。見たいと言ったものの、いざ意識して見るとなると恥ずかしい。
でも、見たい。セルマだって彼の全部を知りたい。
そろそろと彼の体に視線を走らせる。下肢に目を向ければ、彼の大きく反り返るものがそこにあった。パンパンに膨らみ、太くそびえ立っている。
それをどうするのか、訊かなくてもわかった。
大きく張り詰めて恐怖を感じてもおかしくないくらいなのに、早くほしいと求めるようにセルマの腹の奥がきゅんきゅんと疼いた。
「マルクス……」
無意識にねだるように名前を呼んでいた。マルクスが覆い被さってくる。
脚を開かれ、蜜口に熱く硬いものを押し付けられる。
「セルマ、好きだよ、愛してる……」
「私も……私も好き、大好きよ、マルクス」
見つめ合い、言葉を交わし、そして彼の熱がゆっくりと埋め込まれていった。
「っあ! ひ、あっあっあっ……!」
指よりも太くて長いものに腹の中を圧迫され、セルマは目を見開き喉を反らせる。胎内全体を熱塊に擦られる感覚にぶるぶると体が震えた。
「セルマ、苦しくない……?」
「あっんっ……大丈夫……っ」
苦しいのかもしれない。けれど彼と結ばれた事に、心も体も満たされ喜んでいる。
「嬉しい、マルクス……愛してるわ……」
わけもわからず涙が流れた。喜びの涙のようでもあり、悲しみの涙のような気もした。悲しい事など何もないはずなのにどうしてそう思ったのかはわからないけれど。
「俺も嬉しい……。幸せだよ、セルマ……」
「んっ……」
唇が重なり、舌を絡め口づけを交わす。
彼の欲望が、更に奥深くへと入ってくる。胎内が彼の熱で埋め尽くされる。
「あぁっあっ、すごい、マルクスで、お腹がいっぱいになってる……嬉しい……っ」
「セルマ……っ」
「ひあぁっ」
マルクスは切羽詰まった様子で抽送をはじめた。陰茎が激しく出し入れされ、最奥を突き上げられる。
「ごめん、セルマっ……本当に、優しくできない……っ」
「んあっあっ、あぁっ、いい、いいのっ……」
優しくなくてもいい。愛してくれるなら、激しくされても構わない。彼に求められる事が嬉しい。
「ひっあっあっ、マルクス、マルクスぅっ」
「セルマ、好きだ……セルマっ」
ぬかるんだ肉筒を固く猛った欲望に擦り上げられると、背筋を快感が駆け抜ける。脳髄が痺れるほどに気持ちよくて、セルマは無意識に彼の体にしがみつき爪を立てていた。
「きもちい、きもちいいのっ、あっあっあーっ、マルクスぅっ、ひぁっ、ああぁっ」
「俺も、気持ちいい……セルマの中、すごく気持ちいいよ……っ」
マルクスは頬を上気させ、額に汗を浮かべながら繰り返し内奥を穿つ。彼の視線は片時もセルマから離れない。
快楽に歪むはしたない顔を見られるのは恥ずかしいのに、情欲にまみれた彼の視線にぞくぞくと感じ入ってしまう。胎内がぎゅうぎゅうと陰茎に絡み付く。
強い締め付けにマルクスは耐えるように眉根を寄せ、更に激しく中を突き上げる。
「ひあっ、あっあっあっあっ、マルクス、んぁっあっ、マルクス、私、もうっ」
「うん、俺も……っ」
「あっあっ、マルクスぅっ、あっあっあぁっ」
「セルマ、セルマっ……」
求め合うように名前を呼び合い、二人はほぼ同時に絶頂を迎えた。強く抱き締め合い、深く唇を重ねる。
セルマもマルクスも、暫くそうしてぴったりと体を重ねたまま離れようとしなかった。互いの息遣いだけが室内を満たしていた。
やがて火照った体の熱が引いた頃、この幸せな余韻を壊さないようにゆっくりと繋がりを解いた。それでもまだ、二人は抱き合ったままだ。
離したくない。離れたくない。そんな思いに突き動かされてセルマは彼の背を強く抱き締める。
そしてマルクスも同じように、セルマを腕に閉じ込める。
「マルクス、好き……」
「俺も好きだ。愛してる、セルマだけを」
「離れたくない……。ずっとマルクスの傍にいたい」
「離さないよ、絶対に。俺達はずっとずっと一緒だよ。たとえ、何があっても」
熱を帯びた囁きに、セルマは穏やかな笑みを浮かべ彼の胸に顔を埋めた。
愛する人が傍にいる。これからもずっとずっと傍にいてくれる。
セルマの心は幸せに満ちていた。
けれどセルマは、彼の言葉に込められた本当の意味を理解していなかったのだった。
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