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3.魔道具名人(幼女)
1話
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◇
サンドワームの被害現場から魔王城へと戻り、シオンは早速つながりのある商人たちに声をかけていた。
正直、ちょっと頭の痛い状況に陥っている。
土壌や川の水を解毒する薬品を生産するために必要な植物は『リューネリーフ』と呼ばれる薬草だ。
それ自体はさほど希少ではないものの、問題は扱いの難しさだ。
刈り取った直後からすぐに劣化が始まる。
おまけに乾燥させるのに技術が必要ということで、商人たちからも在庫の量は多くないとの回答ばかりだった。
どうしたものかと困っていると、商人の一人が声をかけてくれた。
刈り取り直後の薬草を大量に確保すること自体は可能なので、魔王城側でうまく乾燥させられないか?と提案してくれたのだ。
人間の技術と魔物の技術の交流はまだまだ進んではいない。
どちらの技術が優れているとは一言では言い難いが、人間の持つ技術の中で困難とされるものが、魔物の持つ技術では容易にクリアできるという可能性もある。
そこで、シオンは取り急ぎ、植物のプロフェッショナルであるナナリーの意見を聞きに行くことにしたのだ。
「ナナリーさん、お忙しいところすみません」
待ち合わせをしていたのは魔王城内の植物園だ。
ガラス室は四つのブロックに分けられており、その中に魔力で生成した空気の膜が張り巡らされている。
その膜によって、温度や湿度が繊細に管理されているのだから、驚きだ。
「いいのよ、貴女も戻ったばかりなのに大変ね」
園内のちょっとしたサロンのようなスペースで、ティーカップを傾けているナナリーはどこかの国のお姫様のように優美な雰囲気を持っている。
服装はかっちりとした軍服風のジャケットに、ぴったりと体に沿う膝上のタイトスカート。
その上から、さらりと白衣をひっかけている。
いかにも仕事が出来る研究者という佇まいで、甘く華やかな容貌とのギャップが際立つ。
シオンはいつも、一瞬でその姿に圧倒されてしまうのだった。
「リューネリーフのことだったかしら」
カップを静かにテーブルに置き、ナナリーがシオンに着座を促しながら訪ねた。
シオンは、椅子に腰かけながらその問いに頷いた。
傍らに置かれたポットから、シオンの分の紅茶を注いでくれる。
お礼を言ってそれを受け取り、一口カップに口を付けてからシオンが本題に入った。
「ナナリーさんのところでも、急ぎ栽培を始めたところだとノイルさんから伺いました」
「ええ。初期生育は順調なんだけれど、数を増やせる段階にはまだ時間がかかるわね」
「そうですか……今回相談したかったのは、リューネリーフの収穫後の加工作業についてなんです」
シオンは、いつものノートを開いて、先日商人の一人から聞いた乾燥の手順を書き留めたものをナナリーに見せる。
それを眺めて、ナナリーは細長い指を唇に当ててじっと考え込んだ。
「これ、ヴァルター商会からの情報?」
「はい、これから収穫する予定のリューネリーフに心当たりがあるとのことで、運搬をこちらが負担すれば、素材が痛む前に運び込むことも可能じゃないか、と」
ヴァルター商会というのは、魔王城に出入りする中でも規模が大きく、人間社会の中でも成功を収めている新興の商人だ。
代々続く商家ではなく、ヴァルター本人が一代で起こして大きくしたということもあり、他の商人のように家の縛りや国家とのしがらみが少ない。
そのため、率直なやりとりやスピード感を持った取引が強みであり、魔王城では重宝されている。
「なるほどね。ここに書いてある乾燥の条件がかなり厳しいから、うちで普通に使っている乾燥装置じゃ対応できなさそう」
普通に干したらすぐにカビが発生して使い物にならなくなる。
かと言って、急速に魔法を使って風を当てて乾燥させると、組織が崩れて効果がかなり目減りしてしまう。
シオンがざっくりと聞いた話でも、扱うのに神経を使いそうな素材だと感じていた。
「そうですか……」
「そもそも生産地ではどうやって商品化しているの?」
「天日乾燥がメインだそうで、運よくカビに汚染されなかったものを選別して出荷するのでロスが大きいみたいですね」
「なるほどね。ただ、今必要な分量を考えると、そこでロスしちゃうと足りない……ってことか」
そうなのだ。
そもそも、治癒にはリューネリーフが不可欠だ、という病気や毒が、これまで大きく取り沙汰されたことがなかった。
だから、『有用ではあるけれど、量産する必要はない』という位置づけのまま、加工技術が育たなかったのだ。
「どちらかというと、リューネリーフを育てた後の土壌がかなり良くなるらしく、刈り取った後もそのまま土にすき込まれることが多いんだそうです」
「まあ、そうよね。私達も今回の騒ぎが無かったら、リューネリーフをわざわざ栽培しようとは思わなかったもの」
「ナナリーさんのところで加工するのが難しいというのはわかりました。となると、あとはノイルさんに……」
「ああ、ちょっとまってね」
ナナリーが、うーん、と少し考えこむ。
それから、おもむろに白衣のポケットからスケジュール帳らしきものを取り出して、ペンでしゅしゅっと何かを始めた。
「シオン、この報告会って後ろ倒しても問題ないかしら」
「えっと……はい、進捗報告がメインなので大丈夫です」
ぎっしりとノートに書き込まれたスケジュールを、ナナリーはパズルを組み替えるように移動させていった。
見ていいものなのか分からないので一応薄目になりながら、シオンは「それはまずいです」「こっちは一回飛ばしても大丈夫」などとサポートする。
シオンは話を聞きながら、飛ばしても問題なさそうな定例の打ち合わせの数を数えていた。
文字での報告で十分という打ち合わせもいくつかあるが、リアルタイムで文章のやり取りが出来る仕組みがない。
メールやチャットって本当に重要だったんだなあと改めて痛感する。
「よし……この後一日半空いたわ!じゃあ、行きましょうか」
「へ?」
ナナリーがすっくと立ちあがる。
状況が飲み込めず、シオンは一拍遅れてよろよろと立ち上がった。
「魔道具オタクのところ、案内するわ」
そのあとにこっと笑って、ナナリーは一言つけ加えた。
「気を強く持ってね」
……ん?
サンドワームの被害現場から魔王城へと戻り、シオンは早速つながりのある商人たちに声をかけていた。
正直、ちょっと頭の痛い状況に陥っている。
土壌や川の水を解毒する薬品を生産するために必要な植物は『リューネリーフ』と呼ばれる薬草だ。
それ自体はさほど希少ではないものの、問題は扱いの難しさだ。
刈り取った直後からすぐに劣化が始まる。
おまけに乾燥させるのに技術が必要ということで、商人たちからも在庫の量は多くないとの回答ばかりだった。
どうしたものかと困っていると、商人の一人が声をかけてくれた。
刈り取り直後の薬草を大量に確保すること自体は可能なので、魔王城側でうまく乾燥させられないか?と提案してくれたのだ。
人間の技術と魔物の技術の交流はまだまだ進んではいない。
どちらの技術が優れているとは一言では言い難いが、人間の持つ技術の中で困難とされるものが、魔物の持つ技術では容易にクリアできるという可能性もある。
そこで、シオンは取り急ぎ、植物のプロフェッショナルであるナナリーの意見を聞きに行くことにしたのだ。
「ナナリーさん、お忙しいところすみません」
待ち合わせをしていたのは魔王城内の植物園だ。
ガラス室は四つのブロックに分けられており、その中に魔力で生成した空気の膜が張り巡らされている。
その膜によって、温度や湿度が繊細に管理されているのだから、驚きだ。
「いいのよ、貴女も戻ったばかりなのに大変ね」
園内のちょっとしたサロンのようなスペースで、ティーカップを傾けているナナリーはどこかの国のお姫様のように優美な雰囲気を持っている。
服装はかっちりとした軍服風のジャケットに、ぴったりと体に沿う膝上のタイトスカート。
その上から、さらりと白衣をひっかけている。
いかにも仕事が出来る研究者という佇まいで、甘く華やかな容貌とのギャップが際立つ。
シオンはいつも、一瞬でその姿に圧倒されてしまうのだった。
「リューネリーフのことだったかしら」
カップを静かにテーブルに置き、ナナリーがシオンに着座を促しながら訪ねた。
シオンは、椅子に腰かけながらその問いに頷いた。
傍らに置かれたポットから、シオンの分の紅茶を注いでくれる。
お礼を言ってそれを受け取り、一口カップに口を付けてからシオンが本題に入った。
「ナナリーさんのところでも、急ぎ栽培を始めたところだとノイルさんから伺いました」
「ええ。初期生育は順調なんだけれど、数を増やせる段階にはまだ時間がかかるわね」
「そうですか……今回相談したかったのは、リューネリーフの収穫後の加工作業についてなんです」
シオンは、いつものノートを開いて、先日商人の一人から聞いた乾燥の手順を書き留めたものをナナリーに見せる。
それを眺めて、ナナリーは細長い指を唇に当ててじっと考え込んだ。
「これ、ヴァルター商会からの情報?」
「はい、これから収穫する予定のリューネリーフに心当たりがあるとのことで、運搬をこちらが負担すれば、素材が痛む前に運び込むことも可能じゃないか、と」
ヴァルター商会というのは、魔王城に出入りする中でも規模が大きく、人間社会の中でも成功を収めている新興の商人だ。
代々続く商家ではなく、ヴァルター本人が一代で起こして大きくしたということもあり、他の商人のように家の縛りや国家とのしがらみが少ない。
そのため、率直なやりとりやスピード感を持った取引が強みであり、魔王城では重宝されている。
「なるほどね。ここに書いてある乾燥の条件がかなり厳しいから、うちで普通に使っている乾燥装置じゃ対応できなさそう」
普通に干したらすぐにカビが発生して使い物にならなくなる。
かと言って、急速に魔法を使って風を当てて乾燥させると、組織が崩れて効果がかなり目減りしてしまう。
シオンがざっくりと聞いた話でも、扱うのに神経を使いそうな素材だと感じていた。
「そうですか……」
「そもそも生産地ではどうやって商品化しているの?」
「天日乾燥がメインだそうで、運よくカビに汚染されなかったものを選別して出荷するのでロスが大きいみたいですね」
「なるほどね。ただ、今必要な分量を考えると、そこでロスしちゃうと足りない……ってことか」
そうなのだ。
そもそも、治癒にはリューネリーフが不可欠だ、という病気や毒が、これまで大きく取り沙汰されたことがなかった。
だから、『有用ではあるけれど、量産する必要はない』という位置づけのまま、加工技術が育たなかったのだ。
「どちらかというと、リューネリーフを育てた後の土壌がかなり良くなるらしく、刈り取った後もそのまま土にすき込まれることが多いんだそうです」
「まあ、そうよね。私達も今回の騒ぎが無かったら、リューネリーフをわざわざ栽培しようとは思わなかったもの」
「ナナリーさんのところで加工するのが難しいというのはわかりました。となると、あとはノイルさんに……」
「ああ、ちょっとまってね」
ナナリーが、うーん、と少し考えこむ。
それから、おもむろに白衣のポケットからスケジュール帳らしきものを取り出して、ペンでしゅしゅっと何かを始めた。
「シオン、この報告会って後ろ倒しても問題ないかしら」
「えっと……はい、進捗報告がメインなので大丈夫です」
ぎっしりとノートに書き込まれたスケジュールを、ナナリーはパズルを組み替えるように移動させていった。
見ていいものなのか分からないので一応薄目になりながら、シオンは「それはまずいです」「こっちは一回飛ばしても大丈夫」などとサポートする。
シオンは話を聞きながら、飛ばしても問題なさそうな定例の打ち合わせの数を数えていた。
文字での報告で十分という打ち合わせもいくつかあるが、リアルタイムで文章のやり取りが出来る仕組みがない。
メールやチャットって本当に重要だったんだなあと改めて痛感する。
「よし……この後一日半空いたわ!じゃあ、行きましょうか」
「へ?」
ナナリーがすっくと立ちあがる。
状況が飲み込めず、シオンは一拍遅れてよろよろと立ち上がった。
「魔道具オタクのところ、案内するわ」
そのあとにこっと笑って、ナナリーは一言つけ加えた。
「気を強く持ってね」
……ん?
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