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4.魔王城の闇医者
4話
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馬車を降り、乗り合わせた夫婦に手を振って別れを告げる。
鼻先をくすぐる風に、海の気配を強く感じた。
「はあー!この匂い!さすが港町」
でこぼこ道に揺られて少し平らになった気がするお尻をパンパンと手で払う。
きょろきょろとあたりを見渡すと、町のあちこちにバルーンや花のアーチが掛けられている。
その華やかな色合いは、祭りの賑わいを象徴しているようだ。
「あっ、急いでお宿を探さないとですね!奥さんも心配してくれてましたし!」
祭りの真っ最中ということもあり、各地から観光客が集まっている。
宿の空きがあるかどうか……と心配してくれていたのだ。
「お宿お宿……」
呟きながらあたりをウロウロしているうちに、ふとレヴィアスの視線に気づく。
「はっ……!私ったら、完全におのぼりさんの行動を!」
「いえ、設定通りで、良いのではないですか」
「……フォローありがとうございます」
興奮で少し火照った頬を、手であおぎながら冷ます。
魔王城も相応ににぎわってはいるが、やはり町の往来や出店の活気は比べ物にならない。
子どもの頃の夏祭りのようで、ついはしゃいでしまった。
「宿の心配はありません。こちらです」
レヴィアスに導かれながら、人混みをするすると通り抜けていく。
歩きながら店の様子を見ていると、お菓子や飲み物、お酒、お肉……おいしそうな屋台が並んでいる。
が、ところどころに薬草や軟膏、液状の薬など、専門的な店の姿も見られる。
(なるほど、もともとお医者さんの功績を称えたお祭りだって言っていたものね)
少し気持ちも落ち着いて、ふむふむとあたりを見回しながら歩いていく。
すると、メインストリートを抜けた角を曲がり、一件の建物の前でレヴィアスの足が止まった。
『落日亭』
カモメの絵が描かれた看板が、潮風に揺れている。
一階は酒場で、どうやら上の階が宿泊場になっているようだ。
レヴィアスが、木の扉をぎしりと言わせながら押し開ける。
まだ明るい昼間だが、建物内はほんのりと暗い。
球形をした蝋燭があちらこちらに灯されて、淡い光が幻想的に揺らめいていた。
「レヴィアス様、お待ちしていました」
無人だったはずの空間から、お辞儀をしている男性の姿がふわりと浮き上がった。
驚いてシオンが目を丸くしていると、男性はこちらに向き直ってチャーミングに笑う。
「驚かせてしまいましたね。私はゴーストでして……城から出稼ぎでこちらに」
「彼はクレックの元部下です」
「クレックさんの!それなら、お店のお料理は大人気でしょうね」
シオンの言葉を聞いて、ゴーストは嬉しそうに微笑んだ。
静かだった店の奥の方から、カタコトと何かの音がする。
「夫婦でクレックさんのところから独立しましてね、本当にお世話になったんですよ」
シオンには見えないけれど、奥の厨房で皿や鍋が浮いている。
なるほど、こういう形の夫婦もあるのか。
いい加減シオンも慣れてきた。
ゴースト云々よりも、あえて人間の町に降りてきて店を開く、夫婦のその決意に心を打たれた。
「そういう訳で、宿泊はお任せください。ただ……」
ゴーストが、ごにょ……と何やら口ごもる。
「どうしましたか?」
「ああ、いえ……今回の目的は、闇医者シンシアに会うためだとか」
パリーン。
店の奥で、皿が一枚割れる音がする。
……どうやらわかりやすく、奥さんが動揺しているようだ。
飛び散ってしまった破片を、宙に浮いた箒がさっさっと手際よく掃いてく。
姿は見えなくても、感情は伝わる。箒の柄が、かすかに震えていた。
「ああ、すみません、妻はちょっとその、シンシアを怖がっていまして」
お部屋まで運びますね、と差し出してくれた手に、お礼を伝えて各々が荷物を手渡す。
きしきしと音を立てながら登る階段の上には、四つの個室の扉が並んでいた。
それぞれの部屋に荷物を運びこんだ後、ゴーストはもじもじとしながら先ほどの話の続きを切り出した。
「町の南の崖の上に、シンシアの館があります。昔は崖の上のヴァンパイアとして恐れられていたのですが、ここしばらくは話を聞きません」
なるほど、シンシアは町の住人にも認知されていたらしい。
とはいえヴァンパイアは比較的、人間社会に顔を出すことが珍しくない性質を持っている。
そのあたりは、想定内だ。
「恐れられていた、というのは……例えば吸血行為によるものでしょうか?」
「いえ、シンシアは血を吸いません。まあ、好みによるものなんでしょうけれど……恐れられていたのは、館に迷い込んだら帰ってこれないだとか、夜な夜な変な声が聞こえるとか、そういう怪談めいた話ですね」
魔王城でのシンシアの振る舞いを知っているからこそ、今の静けさが逆に恐ろしいのだという。
あの気性が荒く、気位も高いヴァンパイアに何があったのか。
その恐ろしさを知らない人間達が、近隣に大きな港町を栄えさせている事すらも、恐ろしい、と。
「……すみません、こんなことをお伝えしても、どうしようもありませんね」
苦笑いしながら、ゴーストがそれぞれの部屋の鍵を手渡してくれる。
「レヴィアス様はご存じでしょうが……館に向かわれるのでしたら、十分にお気をつけくださいね」
そう言って、彼はそさくさと階段を下りていく。
きしきし言うはずの床板は、しん、と無言のままだった。
鼻先をくすぐる風に、海の気配を強く感じた。
「はあー!この匂い!さすが港町」
でこぼこ道に揺られて少し平らになった気がするお尻をパンパンと手で払う。
きょろきょろとあたりを見渡すと、町のあちこちにバルーンや花のアーチが掛けられている。
その華やかな色合いは、祭りの賑わいを象徴しているようだ。
「あっ、急いでお宿を探さないとですね!奥さんも心配してくれてましたし!」
祭りの真っ最中ということもあり、各地から観光客が集まっている。
宿の空きがあるかどうか……と心配してくれていたのだ。
「お宿お宿……」
呟きながらあたりをウロウロしているうちに、ふとレヴィアスの視線に気づく。
「はっ……!私ったら、完全におのぼりさんの行動を!」
「いえ、設定通りで、良いのではないですか」
「……フォローありがとうございます」
興奮で少し火照った頬を、手であおぎながら冷ます。
魔王城も相応ににぎわってはいるが、やはり町の往来や出店の活気は比べ物にならない。
子どもの頃の夏祭りのようで、ついはしゃいでしまった。
「宿の心配はありません。こちらです」
レヴィアスに導かれながら、人混みをするすると通り抜けていく。
歩きながら店の様子を見ていると、お菓子や飲み物、お酒、お肉……おいしそうな屋台が並んでいる。
が、ところどころに薬草や軟膏、液状の薬など、専門的な店の姿も見られる。
(なるほど、もともとお医者さんの功績を称えたお祭りだって言っていたものね)
少し気持ちも落ち着いて、ふむふむとあたりを見回しながら歩いていく。
すると、メインストリートを抜けた角を曲がり、一件の建物の前でレヴィアスの足が止まった。
『落日亭』
カモメの絵が描かれた看板が、潮風に揺れている。
一階は酒場で、どうやら上の階が宿泊場になっているようだ。
レヴィアスが、木の扉をぎしりと言わせながら押し開ける。
まだ明るい昼間だが、建物内はほんのりと暗い。
球形をした蝋燭があちらこちらに灯されて、淡い光が幻想的に揺らめいていた。
「レヴィアス様、お待ちしていました」
無人だったはずの空間から、お辞儀をしている男性の姿がふわりと浮き上がった。
驚いてシオンが目を丸くしていると、男性はこちらに向き直ってチャーミングに笑う。
「驚かせてしまいましたね。私はゴーストでして……城から出稼ぎでこちらに」
「彼はクレックの元部下です」
「クレックさんの!それなら、お店のお料理は大人気でしょうね」
シオンの言葉を聞いて、ゴーストは嬉しそうに微笑んだ。
静かだった店の奥の方から、カタコトと何かの音がする。
「夫婦でクレックさんのところから独立しましてね、本当にお世話になったんですよ」
シオンには見えないけれど、奥の厨房で皿や鍋が浮いている。
なるほど、こういう形の夫婦もあるのか。
いい加減シオンも慣れてきた。
ゴースト云々よりも、あえて人間の町に降りてきて店を開く、夫婦のその決意に心を打たれた。
「そういう訳で、宿泊はお任せください。ただ……」
ゴーストが、ごにょ……と何やら口ごもる。
「どうしましたか?」
「ああ、いえ……今回の目的は、闇医者シンシアに会うためだとか」
パリーン。
店の奥で、皿が一枚割れる音がする。
……どうやらわかりやすく、奥さんが動揺しているようだ。
飛び散ってしまった破片を、宙に浮いた箒がさっさっと手際よく掃いてく。
姿は見えなくても、感情は伝わる。箒の柄が、かすかに震えていた。
「ああ、すみません、妻はちょっとその、シンシアを怖がっていまして」
お部屋まで運びますね、と差し出してくれた手に、お礼を伝えて各々が荷物を手渡す。
きしきしと音を立てながら登る階段の上には、四つの個室の扉が並んでいた。
それぞれの部屋に荷物を運びこんだ後、ゴーストはもじもじとしながら先ほどの話の続きを切り出した。
「町の南の崖の上に、シンシアの館があります。昔は崖の上のヴァンパイアとして恐れられていたのですが、ここしばらくは話を聞きません」
なるほど、シンシアは町の住人にも認知されていたらしい。
とはいえヴァンパイアは比較的、人間社会に顔を出すことが珍しくない性質を持っている。
そのあたりは、想定内だ。
「恐れられていた、というのは……例えば吸血行為によるものでしょうか?」
「いえ、シンシアは血を吸いません。まあ、好みによるものなんでしょうけれど……恐れられていたのは、館に迷い込んだら帰ってこれないだとか、夜な夜な変な声が聞こえるとか、そういう怪談めいた話ですね」
魔王城でのシンシアの振る舞いを知っているからこそ、今の静けさが逆に恐ろしいのだという。
あの気性が荒く、気位も高いヴァンパイアに何があったのか。
その恐ろしさを知らない人間達が、近隣に大きな港町を栄えさせている事すらも、恐ろしい、と。
「……すみません、こんなことをお伝えしても、どうしようもありませんね」
苦笑いしながら、ゴーストがそれぞれの部屋の鍵を手渡してくれる。
「レヴィアス様はご存じでしょうが……館に向かわれるのでしたら、十分にお気をつけくださいね」
そう言って、彼はそさくさと階段を下りていく。
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