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4.魔王城の闇医者
3話
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◇
目的の町から少し離れた森の中。
飛竜は静かに、ふかふかとした草むらに舞い降りた。
「よいしょっ」
シオンはぴょんとその背から飛び降りて、少し湿った土の上に着地する。
さすがに飛竜の乗り降りには少しだけ慣れた。
竜の背中に積んでいた大きめのリュックを下ろして背負い、一度深呼吸する。
魔王城の周囲とは少し種類の違う木々が、青い香りを放っている。
「飛竜を目撃されると面倒ですので、一度帰します。ここからは徒歩と乗り合い馬車での移動になりますが、大丈夫ですか」
「はい、もちろんです!」
シオンは自らを奮い立たせるように、リュックの肩紐を握って大きく頷いた。
人間の町に数日滞在するにあたって、シオンとレヴィアスは『文化の違う遠方からの旅行客』を装うことにしていた。
魔物と人間の和平が結ばれたとはいえ、人間の生活圏にはまだまだ魔物は入り込めていない。
いきなり捕らえられるようなことは無いだろうが、安全が保障されるかというと微妙なところなのだ。
「シオンは種族こそ人間ではありますが、異世界からの転生者だということは伏せた方が良いでしょう」
「そうですね。世間知らずっぽい感じで乗り切ります!」
二人とも、今は人間の中でも一般市民が着るような服を身にまとっている。
シオンが着ているのは、淡いブラウンのエプロンワンピースだ。襟にあしらわれた白い花の刺繍が可愛らしい。
レヴィアスは黒っぽいニットとスラックス、腰には皮のベルトが巻かれており、そこには細身の剣が一本刺されている。
(シンプルな出で立ちのはずなのに、品よく見えるのはやはり素のビジュアルの違いか……)
ちんちくりんな自分の横にレヴィアスが並ぶことを考えると、少し気が引ける。
……気を取り直して。
それから、とことこ、しばらく歩く。
深い森ではないけれど、足元にぼこぼこと這っている木の根をよけながらの移動は思ったよりもハードだ。
何分か歩くごとに少しペースを緩めてくれるレヴィアスの配慮に感謝する。
こういうところがやけにスマートなのが彼なのだ。
(うーん、やっぱり朴念仁なんて嘘だと思います……)
シオンは心の中のバルドラッドに向けて呟いた。
「森を抜けたところに、乗り合い馬車の停留所があります」
「わかりました、お財布はここに!」
ささっ、と革袋をポケットから取り出す。
貴重な人間社会の通貨だ。
移動費や宿泊費も、しっかり記録しなくては。
ふんふんと意気込むシオンを見て、レヴィアスは僅かに表情をやわらげた。
「少し人間社会を楽しむと良いでしょう。バルドラッド様からシオンへ、いくらか自由にしていい資金を預かっています」
そういってレヴィアスは小さな財布をシオンに手渡した。
恐る恐る、シオンは中身を覗く。
「わ、こんなに!……って、物価はよくわかってないんですけど、でもいただき過ぎでは!?」
「サンドワームの件での、特別手当だそうです」
わああ、と少し感動しながら、その財布をぎゅっと握る。
魔王城での労働の対価というものは、正直あまり考えたことが無かった。
給与というよりも現物支給が多く、頑張れば皆の生活の質が上がる、くらいの感覚だ。
「バルドラッド様は、魔王城内の通貨を作ることも考えているようです」
「そうですか。慣れるまでは大変でしょうけど……それなら評価と報酬の仕組みも考えないといけませんね」
なにせ、これまでは魔物たちが身を寄せあえる生活の場を作ることで精いっぱいだったのだ。
とらえどころのない魔王様だが、まとまることを知らない魔物たちを束ね、今は社会の仕組み作りにまで着手している。
頭が下がる思いだ。
◇
がた、がた。
簡単に整備されただけの道を、馬車が音を立てながら進んでいく。
運よく、シオン達が停留所に到着してからほどなくして、町へと向かう馬車の姿が現れたのだ。
乗り込んだその馬車には先客が二人。
少し離れた漁村から、薬を貰いに町へ向かうところだという夫婦と乗り合わせた。
「へえ、旅行でこの辺りまで?」
「はい、そうなんです。こちらの地域は初めてで……」
「あらそう、それなら丁度いいわね、今お祭りをやっているところだから」
お祭り!
シオンは思わず顔をほころばせた。
ふっくらとした体格の奥さんが、シオンの反応に気をよくしたのかあれこれと話し出す。
「町の発展に貢献したお医者様の功績をたたえるお祭りなのよ。昨日から始まったところで、最終日には花火もあがるんだから」
ぜひ見てから帰りなさいな、と熱弁され、シオンはうんうん、と頷く。
花火なんて何年ぶりに見るだろう。
地元を出る前の、最後のお盆。
地域の小さい花火大会だったけれど、毎年楽しみにしていたのに。
(いつの間にか、見に帰ろうって元気もなくなっちゃったんだよな)
少しだけ沈みそうになる気持ちを振り払うように、シオンは笑顔で奥さんに話しかける。
「港町だから、やっぱりお魚がおいしいんでしょうか?」
「もちろんよ!それから、海の向こうからくる色んなお菓子!」
「わあ、お菓子!」
「せっかくだもの、旦那さんにたくさん買ってもらいなさいな!」
「へ?あ、あはは……」
にこにこしている奥さんに向かって、シオンは曖昧に笑う。
否定し過ぎても怪しいだろうか、しかし……と焦りながら、ちらりとレヴィアスの表情を伺う。
いつも通り涼しい顔をしているレヴィアスが、こちらを見て僅かに、ふわりと笑った。
(わっ……!?)
笑えるんですか……!?
(くっ……否定も肯定もしない、それ以上会話を膨らまさせない完璧な笑顔だ……)
演技だとしてもレヴィアスが笑えるという事実に衝撃を受け、シオンはしばしそのまま固まった。
目的の町から少し離れた森の中。
飛竜は静かに、ふかふかとした草むらに舞い降りた。
「よいしょっ」
シオンはぴょんとその背から飛び降りて、少し湿った土の上に着地する。
さすがに飛竜の乗り降りには少しだけ慣れた。
竜の背中に積んでいた大きめのリュックを下ろして背負い、一度深呼吸する。
魔王城の周囲とは少し種類の違う木々が、青い香りを放っている。
「飛竜を目撃されると面倒ですので、一度帰します。ここからは徒歩と乗り合い馬車での移動になりますが、大丈夫ですか」
「はい、もちろんです!」
シオンは自らを奮い立たせるように、リュックの肩紐を握って大きく頷いた。
人間の町に数日滞在するにあたって、シオンとレヴィアスは『文化の違う遠方からの旅行客』を装うことにしていた。
魔物と人間の和平が結ばれたとはいえ、人間の生活圏にはまだまだ魔物は入り込めていない。
いきなり捕らえられるようなことは無いだろうが、安全が保障されるかというと微妙なところなのだ。
「シオンは種族こそ人間ではありますが、異世界からの転生者だということは伏せた方が良いでしょう」
「そうですね。世間知らずっぽい感じで乗り切ります!」
二人とも、今は人間の中でも一般市民が着るような服を身にまとっている。
シオンが着ているのは、淡いブラウンのエプロンワンピースだ。襟にあしらわれた白い花の刺繍が可愛らしい。
レヴィアスは黒っぽいニットとスラックス、腰には皮のベルトが巻かれており、そこには細身の剣が一本刺されている。
(シンプルな出で立ちのはずなのに、品よく見えるのはやはり素のビジュアルの違いか……)
ちんちくりんな自分の横にレヴィアスが並ぶことを考えると、少し気が引ける。
……気を取り直して。
それから、とことこ、しばらく歩く。
深い森ではないけれど、足元にぼこぼこと這っている木の根をよけながらの移動は思ったよりもハードだ。
何分か歩くごとに少しペースを緩めてくれるレヴィアスの配慮に感謝する。
こういうところがやけにスマートなのが彼なのだ。
(うーん、やっぱり朴念仁なんて嘘だと思います……)
シオンは心の中のバルドラッドに向けて呟いた。
「森を抜けたところに、乗り合い馬車の停留所があります」
「わかりました、お財布はここに!」
ささっ、と革袋をポケットから取り出す。
貴重な人間社会の通貨だ。
移動費や宿泊費も、しっかり記録しなくては。
ふんふんと意気込むシオンを見て、レヴィアスは僅かに表情をやわらげた。
「少し人間社会を楽しむと良いでしょう。バルドラッド様からシオンへ、いくらか自由にしていい資金を預かっています」
そういってレヴィアスは小さな財布をシオンに手渡した。
恐る恐る、シオンは中身を覗く。
「わ、こんなに!……って、物価はよくわかってないんですけど、でもいただき過ぎでは!?」
「サンドワームの件での、特別手当だそうです」
わああ、と少し感動しながら、その財布をぎゅっと握る。
魔王城での労働の対価というものは、正直あまり考えたことが無かった。
給与というよりも現物支給が多く、頑張れば皆の生活の質が上がる、くらいの感覚だ。
「バルドラッド様は、魔王城内の通貨を作ることも考えているようです」
「そうですか。慣れるまでは大変でしょうけど……それなら評価と報酬の仕組みも考えないといけませんね」
なにせ、これまでは魔物たちが身を寄せあえる生活の場を作ることで精いっぱいだったのだ。
とらえどころのない魔王様だが、まとまることを知らない魔物たちを束ね、今は社会の仕組み作りにまで着手している。
頭が下がる思いだ。
◇
がた、がた。
簡単に整備されただけの道を、馬車が音を立てながら進んでいく。
運よく、シオン達が停留所に到着してからほどなくして、町へと向かう馬車の姿が現れたのだ。
乗り込んだその馬車には先客が二人。
少し離れた漁村から、薬を貰いに町へ向かうところだという夫婦と乗り合わせた。
「へえ、旅行でこの辺りまで?」
「はい、そうなんです。こちらの地域は初めてで……」
「あらそう、それなら丁度いいわね、今お祭りをやっているところだから」
お祭り!
シオンは思わず顔をほころばせた。
ふっくらとした体格の奥さんが、シオンの反応に気をよくしたのかあれこれと話し出す。
「町の発展に貢献したお医者様の功績をたたえるお祭りなのよ。昨日から始まったところで、最終日には花火もあがるんだから」
ぜひ見てから帰りなさいな、と熱弁され、シオンはうんうん、と頷く。
花火なんて何年ぶりに見るだろう。
地元を出る前の、最後のお盆。
地域の小さい花火大会だったけれど、毎年楽しみにしていたのに。
(いつの間にか、見に帰ろうって元気もなくなっちゃったんだよな)
少しだけ沈みそうになる気持ちを振り払うように、シオンは笑顔で奥さんに話しかける。
「港町だから、やっぱりお魚がおいしいんでしょうか?」
「もちろんよ!それから、海の向こうからくる色んなお菓子!」
「わあ、お菓子!」
「せっかくだもの、旦那さんにたくさん買ってもらいなさいな!」
「へ?あ、あはは……」
にこにこしている奥さんに向かって、シオンは曖昧に笑う。
否定し過ぎても怪しいだろうか、しかし……と焦りながら、ちらりとレヴィアスの表情を伺う。
いつも通り涼しい顔をしているレヴィアスが、こちらを見て僅かに、ふわりと笑った。
(わっ……!?)
笑えるんですか……!?
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