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5.魔王城アカデミー
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「シオンさん~!! 無事に戻られて良かったです……」
魔王城の執務室に到着したとたん、飛び跳ねて抱き着いてきたのはカイレンだった。
彼女の頭を飾るのは猫の耳だけれど、こうして感情あらわに飛び込んできて鼻を鳴らす様子は犬のようだ。
ぽんぽん、とシオンはカイレンのふわふわの髪を撫でる。
「心配させてごめんね」
シオン達が飛竜が魔王城に到着してからというもの、城の中が何やら騒がしい。
出迎えてくれたナナリーに背中の傷を見抜かれたレヴィアスは医務室に連行され、その姿を見た魔物たちが衝撃を受けたのだ。
それほど、魔王幹部が負傷するという事態は異例だということなのだろう。
「レヴィアス様が怪我をして帰ってこられたと聞いて、本当にもう私、心臓が止まるかと……!」
「私のせいなの。本当に……助けてもらって感謝してる」
半分涙声になって、ううう、とシオンにすがりつくカイレンをなだめながら、シオンは物思いにふけった。
モンスターの変異と暴走が、静観できないレベルで深刻化してきている。
シンシアが言うように、誰かが意図的に引き起こしているのだとしたらなおさらだ。
魔王城としても今後引き続き調査に力を入れるだろうけれど……。
果たしてその時、自分は何かの役に立てるのだろうか?
机の上にいつも通り積み上げられた、大量の書類がじっとりとこちらを見つめているような気がした。
出過ぎた真似をするから、周りを傷つけるんだ、と。
忠告めいた圧力さえ感じてしまう。
不意にがちゃりと執務室の扉が開く。
肩をゆっくりくるくると回しながら入ってきたのは、白衣に身を包んだナナリーだった。
「シオン、お疲れ様。あなたも少し怪我をしたそうじゃない。見せてごらんなさい」
手や足に負った擦り傷のことを言っているのだろうか。
ナナリー直々に見てもらうような大袈裟な傷ではないので、恐縮してしまう。
まごつくシオンの様子を意に介さず、ナナリーはシオンの手をとった。
つややかな白魚の手に、シオンは思わずどきりとする。
「うん……最初の処置が良かったから、傷痕は残らずに済みそうね」
軟膏を塗り足して、手際よく新しい絆創膏を巻いてくれる。
消毒液の匂いに、ふと学校の保健室を思い出す。
保健室にこんな先生がいたならば、と想像し、懐かしさに笑みが漏れた。
「悔しいけど、あの狂人女、腕は確かなのよね」
「へ?」
「コホン、失礼……何でもないわ」
一瞬ナナリーの笑顔に黒い影が差した気がするが、花のような微笑みに一瞬にしてかき消されてしまった。
(ナナリーさんとシンシアさん、仲、悪いのかな……)
やや圧のあるナナリーの笑顔に押されて、シオンもへらりと笑い返した。
「ドランの魔道具が役に立ったんですってね。あなたを守ってくれてよかったわ」
「あ、はい! ネックレスが急に光って……」
ネックレスを服の首元からごそごそと取り出し、その魔法石の部分を指で撫でた。
間違いなく、命を救ってくれたのだと改めて感謝する。
「あら……もう魔力の補充はできているのね」
「補充ですか?」
きらりと光る青色の石を見つめて、ナナリーが何か意味ありげな笑みを浮かべた。
「魔道具はね、基本的には組み込まれた魔石に魔力を充填して使用するものなの。魔石の魔力が枯渇したら、新たに魔力を入れてあげないといけないんだけれど」
なるほど、それで魔石は一時光を失っていたのか、とシオンは納得する。
蜘蛛に襲われたあの時、目の前で光の膜となって守ってくれたのは、最初に込めてくれたドランの魔力だったのだ。
「ねえ、カイレン、これを見てくれる?」
「えっ? なんですか?」
しばらく涙目でスンスンと鼻を鳴らしていたカイレンが、ナナリーに呼ばれて顔を出す。
ナナリーにちょい、とつままれて静かに揺れるその青い石を見て、カイレンが「わっ!」と短く叫んだ。
それから、ちらりと横目でシオンを見る。
何が何だか分からないシオンは、ナナリーとカイレンの顔を交互に見つめた。
「あっ、でもナナリーさん、この様子だとシオンさんには伝わっていません!」
「嘘でしょう? ……えっ、本当に?」
突如二人で盛り上がり始め、執務室は異様な熱気に包まれる。
依然として置いてけぼりのシオンは、不思議に思って二人に尋ねた。
「どうしたんですか? まさか、壊れてしまったとか……」
不安になって、ネックレスを覗き込む。
チェーンが切れた様子も、石が取れそうな様子も無いのだが。
「いやあこれ、すっごいですね……もう、容量ビチビチ、限界まで……」
「ええ……なんていうか、ここまでくると執念を感じるわよね」
「ひゃー!! シオンさん、これあんまり他の人に見せない方がいいですよ!」
わー、とかギャーとか言う声が響く中、シオンは改めてネックレスの石を見つめた。
青く透き通った色をしていて、レヴィアスの瞳の色を固めて宝石にしたらこんな具合だろうか、などと想像する。
輝く花火の下で、真っすぐに見つめたレヴィアスの瞳の色を思い出し、少しだけ頬が熱くなる。
「ね、ね、シオンさん。これ、レヴィアス様が込めてくれたんですよね? 何か言ってなかったんですかっ」
「え、ええ……? えっと……また石の光が消えたら、来なさいって……えっ?何でレヴィアスさんが魔力を込めてくれたってわかるの?」
キャー!!と黄色い声を上げるのはカイレンで、ヒィー!とやや引いたような悲鳴を上げたのはナナリーだ。
「シオン、魔力には色があるの。多くは魔力の持ち主の特徴的な……例えば髪の色や瞳の色に近いものなのよ」
「しかも、自分のところに来いって! これは……フフッ……魔力の補充なんて、頼めば誰でも出来るのにー!!」
二人が大層楽しそうに、やんややんやと盛り上がる。
だんだんとその意味が解ってきて、シオンは顔を両手で覆ってその場にしゃがみ込んだ。
「ねえシオン、レヴィアスは背中の傷のことがあるから、執務を抑え気味にするようにバルドラッド様が指示していたわ。あなたも少し休息をとったらいいじゃない」
ナナリーの声が頭上から降り注ぐ。
煙が出そうなほどに火照った頬を、ぺちぺちと叩きながらシオンは首を振った。
「いえ、私、やりたいことがあるんです」
カイレンが差し出してくれた手を取りながら、シオンはゆっくりと立ち上がる。
そうだ、この二人にも、協力してもらわなければならない。
手の甲で頬の熱を取りながら、シオンは二人の顔を真っ直ぐ見つめた。
「魔王城でアカデミーを開きたいんです」
魔王城の執務室に到着したとたん、飛び跳ねて抱き着いてきたのはカイレンだった。
彼女の頭を飾るのは猫の耳だけれど、こうして感情あらわに飛び込んできて鼻を鳴らす様子は犬のようだ。
ぽんぽん、とシオンはカイレンのふわふわの髪を撫でる。
「心配させてごめんね」
シオン達が飛竜が魔王城に到着してからというもの、城の中が何やら騒がしい。
出迎えてくれたナナリーに背中の傷を見抜かれたレヴィアスは医務室に連行され、その姿を見た魔物たちが衝撃を受けたのだ。
それほど、魔王幹部が負傷するという事態は異例だということなのだろう。
「レヴィアス様が怪我をして帰ってこられたと聞いて、本当にもう私、心臓が止まるかと……!」
「私のせいなの。本当に……助けてもらって感謝してる」
半分涙声になって、ううう、とシオンにすがりつくカイレンをなだめながら、シオンは物思いにふけった。
モンスターの変異と暴走が、静観できないレベルで深刻化してきている。
シンシアが言うように、誰かが意図的に引き起こしているのだとしたらなおさらだ。
魔王城としても今後引き続き調査に力を入れるだろうけれど……。
果たしてその時、自分は何かの役に立てるのだろうか?
机の上にいつも通り積み上げられた、大量の書類がじっとりとこちらを見つめているような気がした。
出過ぎた真似をするから、周りを傷つけるんだ、と。
忠告めいた圧力さえ感じてしまう。
不意にがちゃりと執務室の扉が開く。
肩をゆっくりくるくると回しながら入ってきたのは、白衣に身を包んだナナリーだった。
「シオン、お疲れ様。あなたも少し怪我をしたそうじゃない。見せてごらんなさい」
手や足に負った擦り傷のことを言っているのだろうか。
ナナリー直々に見てもらうような大袈裟な傷ではないので、恐縮してしまう。
まごつくシオンの様子を意に介さず、ナナリーはシオンの手をとった。
つややかな白魚の手に、シオンは思わずどきりとする。
「うん……最初の処置が良かったから、傷痕は残らずに済みそうね」
軟膏を塗り足して、手際よく新しい絆創膏を巻いてくれる。
消毒液の匂いに、ふと学校の保健室を思い出す。
保健室にこんな先生がいたならば、と想像し、懐かしさに笑みが漏れた。
「悔しいけど、あの狂人女、腕は確かなのよね」
「へ?」
「コホン、失礼……何でもないわ」
一瞬ナナリーの笑顔に黒い影が差した気がするが、花のような微笑みに一瞬にしてかき消されてしまった。
(ナナリーさんとシンシアさん、仲、悪いのかな……)
やや圧のあるナナリーの笑顔に押されて、シオンもへらりと笑い返した。
「ドランの魔道具が役に立ったんですってね。あなたを守ってくれてよかったわ」
「あ、はい! ネックレスが急に光って……」
ネックレスを服の首元からごそごそと取り出し、その魔法石の部分を指で撫でた。
間違いなく、命を救ってくれたのだと改めて感謝する。
「あら……もう魔力の補充はできているのね」
「補充ですか?」
きらりと光る青色の石を見つめて、ナナリーが何か意味ありげな笑みを浮かべた。
「魔道具はね、基本的には組み込まれた魔石に魔力を充填して使用するものなの。魔石の魔力が枯渇したら、新たに魔力を入れてあげないといけないんだけれど」
なるほど、それで魔石は一時光を失っていたのか、とシオンは納得する。
蜘蛛に襲われたあの時、目の前で光の膜となって守ってくれたのは、最初に込めてくれたドランの魔力だったのだ。
「ねえ、カイレン、これを見てくれる?」
「えっ? なんですか?」
しばらく涙目でスンスンと鼻を鳴らしていたカイレンが、ナナリーに呼ばれて顔を出す。
ナナリーにちょい、とつままれて静かに揺れるその青い石を見て、カイレンが「わっ!」と短く叫んだ。
それから、ちらりと横目でシオンを見る。
何が何だか分からないシオンは、ナナリーとカイレンの顔を交互に見つめた。
「あっ、でもナナリーさん、この様子だとシオンさんには伝わっていません!」
「嘘でしょう? ……えっ、本当に?」
突如二人で盛り上がり始め、執務室は異様な熱気に包まれる。
依然として置いてけぼりのシオンは、不思議に思って二人に尋ねた。
「どうしたんですか? まさか、壊れてしまったとか……」
不安になって、ネックレスを覗き込む。
チェーンが切れた様子も、石が取れそうな様子も無いのだが。
「いやあこれ、すっごいですね……もう、容量ビチビチ、限界まで……」
「ええ……なんていうか、ここまでくると執念を感じるわよね」
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わー、とかギャーとか言う声が響く中、シオンは改めてネックレスの石を見つめた。
青く透き通った色をしていて、レヴィアスの瞳の色を固めて宝石にしたらこんな具合だろうか、などと想像する。
輝く花火の下で、真っすぐに見つめたレヴィアスの瞳の色を思い出し、少しだけ頬が熱くなる。
「ね、ね、シオンさん。これ、レヴィアス様が込めてくれたんですよね? 何か言ってなかったんですかっ」
「え、ええ……? えっと……また石の光が消えたら、来なさいって……えっ?何でレヴィアスさんが魔力を込めてくれたってわかるの?」
キャー!!と黄色い声を上げるのはカイレンで、ヒィー!とやや引いたような悲鳴を上げたのはナナリーだ。
「シオン、魔力には色があるの。多くは魔力の持ち主の特徴的な……例えば髪の色や瞳の色に近いものなのよ」
「しかも、自分のところに来いって! これは……フフッ……魔力の補充なんて、頼めば誰でも出来るのにー!!」
二人が大層楽しそうに、やんややんやと盛り上がる。
だんだんとその意味が解ってきて、シオンは顔を両手で覆ってその場にしゃがみ込んだ。
「ねえシオン、レヴィアスは背中の傷のことがあるから、執務を抑え気味にするようにバルドラッド様が指示していたわ。あなたも少し休息をとったらいいじゃない」
ナナリーの声が頭上から降り注ぐ。
煙が出そうなほどに火照った頬を、ぺちぺちと叩きながらシオンは首を振った。
「いえ、私、やりたいことがあるんです」
カイレンが差し出してくれた手を取りながら、シオンはゆっくりと立ち上がる。
そうだ、この二人にも、協力してもらわなければならない。
手の甲で頬の熱を取りながら、シオンは二人の顔を真っ直ぐ見つめた。
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