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7. 籠の鳥
SS②幹部会
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年末年始、感謝の気持ちのSSです。(①、②の2話予定)
番外編的な扱いになりますが、
この後新章突入前の箸休めとして楽しんでいただけると幸いです
******************************************
「はいはいはい!それでは魔王城幹部飲み会はじめまーす!!」
威勢の良い魔王様の声が、明らかにやっつけ仕事で飾り付けられた室内に響く。
珍しく片付けられた……というか、先ほど必死に片づけたバルドラッドの執務室には、美味しそうなオードブルが並んでいる。
シオンはなんとなく居場所を探して戸惑いながら、取り皿やフォークを渡して回る。
幹部でもない自分がなぜここに……と内心慌てていると、こっちこっちとナナリーが手招きをしてくれた。
その横に座っているのは、ドランだ。
「各々好きにやるから、放っておいていいのよ」
ナナリーはそう言いながらグラスを傾けた。
あまりに絵になるその姿に、シオンよりもドランが歓喜の声を上げる。
「きゃー!! まさに女神っ! 魔王城に舞い降りた女神っ!」
ドランもまた幹部ではないのだが、工房での頑張りをねぎらうためにバルドラッドが声をかけたのだという。
最高に場を賑やかにしていて、シオンは感嘆の息を漏らす。
料理を適当にとりわけながら、シオンはそっと周囲を見渡した。
ご機嫌にビール泡の口髭をつけているバルドラッドの両脇には、マイペースに果物をつまむノイルと、心底嫌そうな顔をするレヴィアスの姿があった。
「うわあ、隠すことなく嫌そうな顔を……」
「いつものことよ。それでも断らせないのがバルドラッド様のなせる業ね」
特に興味もなさそうに、ナナリーは彩りのよいカナッペをつまみ上げた。
ドランも大きな口を開けて、お肉の塊にかぶりついている。
ふたりの姿に食欲をそそられて、シオンもカナッペを手に取った。
微かに泡立つお酒を口に含み、ほっと顔をほころばせる。
魔王城自慢のシェフ夫婦、アニタ謹製の果実酒と、クレックが腕を振るってくれたオードブル。
緊張しているだけでは、勿体ない。
「ドランさん、ここのところ工房は随分忙しかったでしょう。皆さん元気ですか?」
こくこくと頷きながらも、ドランは咀嚼を止めない。
大きく膨らんだリスのような頬を、シオンはじっと観察した。
ごくん、と肉を飲み下し、ドランは豪快にビールをあおる。
「ぷはー!! いやー、もう大忙し! でも、アキとラキがほんとに頑張ってくれた!」
ドランが前のめりに力説する。
工房に加わった鬼の双子、アキとラキのことはシオンもずっと気がかりだった。
「工房には溶け込んでいますか?」
「当然! やりすぎってくらい三人娘に構われてるし、アキとラキが作るごはんがうめえの……」
思わぬ副産物だったが、アキとラキは二人で生活をしていた期間が長く、生活力は抜群だった。
それに、もともと控え目なタイプの二人には、工房の環境が荒療治になるかもしれない。
「工房の生活力、下限を割ってる感じあったものね……」
人のこと言えないけれど……と、しんみりとした様子でナナリーが呟いた。
視線を移すと、バルドラッドが中心になってノイルとレヴィアスが何か話している。
三人のうち誰の眉間にも皺がよっていないのは珍しい。
手元にスマホがあったなら、一枚記念に収めたのになあ、とシオンはため息をつく。
空いた皿を何となくテーブルの隅に寄せながら、シオンはノイルの空いたグラスに気が付いた。
さっきまで何を飲んでいただろう?
自分のお酒をお替りするタイミングで、ノイルに声をかける。
「ノイルさん、何か飲み物いかがですか?」
ノイルはにこりと笑うと、怪しげな瓶を足元からにゅっとのぞかせた。
「そ……それは……?」
「魔塔で作ったお酒だよ。おいしいけど、ちょっと色々保証はできないから僕が独り占め」
保証できない内容が気になるが、少年のような柔らかな笑顔に押されて何も聞けない。
「魔塔の皆さんとはよくお酒を召し上がるんですか?」
「んー、大きな計画がひと段落したときとかだけね。皆お酒弱いから」
すぐ寝ちゃうんだよね、とノイルは唇を尖らせた。
「そ、それは日頃の睡眠不足によるものなのでは」
物静かな面々が揃う魔塔で、それでも宴会をひらこう、という気概があるのは少し意外だった。
「まあなんだかんだ、一日中一緒にいるメンバーだからね。特別な話もなく、何となく近くに座って静かに飲み食いするって感じ」
そんな話をしながらも、ノイルは酒瓶を傾けてはグラスを開け、時々気ままに誰かの話に耳を傾けている。
緩やかなその空気感に、繊細そうな面々が集う魔塔の長たる余裕を見た気がした。
ノイルのグラスから漂う強烈なアルコール臭と、その奥から広がる花のような香りにクラクラする。
「か、香りだけで酔いそうです……」
シオンのその姿にノイルはくすくすと笑った。
「耐毒実験とかで鍛えられたのかも」
「いやいや、シンシアさんはしっかりワインでへべれけですよ?」
ノイルは、そうなんだあ、と首を傾げながらグラスにちょんと口をつける。
あまりの可愛らしさと、手元のアルコールの凶悪さのコントラストにシオンは混乱を覚えた。
「シンシアの飲酒はポーズみたいなもんだからね!」
突然、バルドラッドが乱入する。
いい感じに頬が赤く、実に楽しそうだ。
「シオンも飲んでる?」
にこにこしながら、バルドラッドがビールの瓶を掲げる。
シオンは手元のコップを見せて苦笑いした。
「見ての通り、しっかり飲んでますよ」
「ふーん。あ、それちょうだい」
話しかけたきたくせに、急に興味を失うのをやめてほしい。
バルドラッドに急かされて、彼の皿に熱々、ふわふわの魚フライを乗せる。
添え物の野菜を盛ろうとすると、バルドラッドが難色を示した。
「その葉っぱ苦いからいらない」
シオンはむむっと顔を顰める。
ちょっと悩んでから、えいっとフライの上に一枚その葉を乗せた。
ぐぬぬ、と唸る魔王様は、なぜだか怖くない。
こうしているとまるで末っ子のように見えてくるから不思議だ。
「あの……失礼します」
明らかにビクついた声が静かに部屋に響く。
振り返ると、そこには……
「ユウリ、ベル!」
えへへと控えめに笑うふたりに、シオンは驚きと喜びの声を上げた。
「ちょっと顔を出すように言われて……」
小さな声でささやくユウリの心情を慮る。
「……きついよね、このメンバー」
「失礼しちゃうね、魔王を前にそんなこと言う?」
がははと笑うバルドラッドを適当にいなし、シオンはふたりを空いている席に座らせた。
ビクビクしているユウリとは対照的に、ベルはキョロキョロとひと通り様子を伺ったあと自由に飲み食いをし始めた。
このふたりらしい姿に、シオンは思わず笑ってしまう。
飲み物を注いであげながら、シオンはユウリの顔や手足をチェックした。
「な、なんですかっ」
くすぐったいのだろうか。
困ったような顔をしてユウリが僅かに抵抗する。
「良かった、傷もずいぶん綺麗になって……」
ほっと胸を撫で下ろしユウリに笑いかけると、彼は照れくさそうに顔を逸らして「医療班のおかげです」と呟いた。
「そうよ、みんな治療頑張ってたんだから。なんなの? 最近お腹刺されるの流行ってる訳?」
そう言ってナナリーがちらりとレヴィアスを見やる。
ああ……これは出来上がってきている。
バルドラッドもナナリーも、豪快なからみ酒だ。
ひっ、と固まるユウリの背中をぽんぽんと叩いて、シオンは苦笑いした。
気づけばベルが、自分の皿とユウリ、それから近くにいるドランの皿にぽいぽいと料理を乗せていた。
ドランはにこにこしてそれを平らげながら、ベルの可憐な姿を愛でている。
賑やかさが増してきた空気の中、ふと気になってレヴィアスの方を見た。
相変わらずバルドラッドにロックオンされ続けながら、苦い顔でグラスを傾けている。
ああ……あれは飲まされている人の顔だ……と、シオンは心の中で手を合わせた。
以前彼が、あまり量は飲まないと言っていたことを思い出す。
……あとで水を持っていこう。
それからしばらくして机の上の料理が片付くと、宴もお開きの時間となった。
とは言っても、バルドラッドとナナリーはまだグラスを傾けながら何かを話している。
「ほらっ、ベル、しっかり歩いて下さいよ」
「ううー!! やだよまだドランちゃんとお話しするっ」
「ああっ、泣き上戸、面倒臭い!」
悪態をつきながらもしっかりとベルを支えて去っていくユウリの姿に、シオンは苦労人の性を見た気がした。
おおかた片付けも済み、酔い覚ましの水を飲んでいると、ノイルから声がかかる。
「シオン、この子の回収をお願い」
ちょいちょい、と指差す先には、眉間に皺を寄せたまま固まるレヴィアスの姿があった。
「えっ……大丈夫ですか、レヴィアスさん」
んん?と彼の方を向こうとするバルドラッドに新たな酒を手渡しながら、ノイルはシオンに向かってにこりと微笑む。
「執務室で……いいのかな」
戸惑いながら、シオンはレヴィアスの顔を覗き込んだ。
レヴィアスの執務室に辿り着き、ソファに彼を座らせる。
足取りに乱れはなかったが、少しだけ潤んだ瞳がたしかな酔いを感じさせて、シオンは思わずどきりとする。
「お水飲めますか?」
隣に腰掛けて水を手渡すと、レヴィアスは静かにそれを口にした。
「すみません」
少し掠れた声でそう言うと、彼はふわりと目を閉じた。
眠れそうなのかな?とシオンはじっとその顔を見つめる。
賑やかな宴の名残を感じながら、耳を打つような静寂に身を浸す。
しんという音が聞こえそうなこの空間が、どこかシオンの心を癒すのだ。
少しの間があって、隣から小さな寝息が聞こえてくる。
ずし、と肩にかかる重さに気がついて見ると、レヴィアスの体がもたれかかっている。
「動かしても大丈夫かな……」
そっと、その身体を横に倒し、彼の頭を膝の上にゆっくりと乗せる。
レヴィアスは一旦眠ると深いのだ。
そばにあったブランケットを掛け、少し乱れた銀髪を優しく撫でた。
「……頑張りましたね」
くすっと笑ってから、シオンはあくびをひとつする。
膝に感じる温もりを大切に抱きながら、ゆっくりと目を閉じた。
賑やかで、ちぐはぐで、どこか少し優しい。
そんな時間が続けばいいのに、と願いながら。
年末年始、感謝の気持ちのSSです。(①、②の2話予定)
番外編的な扱いになりますが、
この後新章突入前の箸休めとして楽しんでいただけると幸いです
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「はいはいはい!それでは魔王城幹部飲み会はじめまーす!!」
威勢の良い魔王様の声が、明らかにやっつけ仕事で飾り付けられた室内に響く。
珍しく片付けられた……というか、先ほど必死に片づけたバルドラッドの執務室には、美味しそうなオードブルが並んでいる。
シオンはなんとなく居場所を探して戸惑いながら、取り皿やフォークを渡して回る。
幹部でもない自分がなぜここに……と内心慌てていると、こっちこっちとナナリーが手招きをしてくれた。
その横に座っているのは、ドランだ。
「各々好きにやるから、放っておいていいのよ」
ナナリーはそう言いながらグラスを傾けた。
あまりに絵になるその姿に、シオンよりもドランが歓喜の声を上げる。
「きゃー!! まさに女神っ! 魔王城に舞い降りた女神っ!」
ドランもまた幹部ではないのだが、工房での頑張りをねぎらうためにバルドラッドが声をかけたのだという。
最高に場を賑やかにしていて、シオンは感嘆の息を漏らす。
料理を適当にとりわけながら、シオンはそっと周囲を見渡した。
ご機嫌にビール泡の口髭をつけているバルドラッドの両脇には、マイペースに果物をつまむノイルと、心底嫌そうな顔をするレヴィアスの姿があった。
「うわあ、隠すことなく嫌そうな顔を……」
「いつものことよ。それでも断らせないのがバルドラッド様のなせる業ね」
特に興味もなさそうに、ナナリーは彩りのよいカナッペをつまみ上げた。
ドランも大きな口を開けて、お肉の塊にかぶりついている。
ふたりの姿に食欲をそそられて、シオンもカナッペを手に取った。
微かに泡立つお酒を口に含み、ほっと顔をほころばせる。
魔王城自慢のシェフ夫婦、アニタ謹製の果実酒と、クレックが腕を振るってくれたオードブル。
緊張しているだけでは、勿体ない。
「ドランさん、ここのところ工房は随分忙しかったでしょう。皆さん元気ですか?」
こくこくと頷きながらも、ドランは咀嚼を止めない。
大きく膨らんだリスのような頬を、シオンはじっと観察した。
ごくん、と肉を飲み下し、ドランは豪快にビールをあおる。
「ぷはー!! いやー、もう大忙し! でも、アキとラキがほんとに頑張ってくれた!」
ドランが前のめりに力説する。
工房に加わった鬼の双子、アキとラキのことはシオンもずっと気がかりだった。
「工房には溶け込んでいますか?」
「当然! やりすぎってくらい三人娘に構われてるし、アキとラキが作るごはんがうめえの……」
思わぬ副産物だったが、アキとラキは二人で生活をしていた期間が長く、生活力は抜群だった。
それに、もともと控え目なタイプの二人には、工房の環境が荒療治になるかもしれない。
「工房の生活力、下限を割ってる感じあったものね……」
人のこと言えないけれど……と、しんみりとした様子でナナリーが呟いた。
視線を移すと、バルドラッドが中心になってノイルとレヴィアスが何か話している。
三人のうち誰の眉間にも皺がよっていないのは珍しい。
手元にスマホがあったなら、一枚記念に収めたのになあ、とシオンはため息をつく。
空いた皿を何となくテーブルの隅に寄せながら、シオンはノイルの空いたグラスに気が付いた。
さっきまで何を飲んでいただろう?
自分のお酒をお替りするタイミングで、ノイルに声をかける。
「ノイルさん、何か飲み物いかがですか?」
ノイルはにこりと笑うと、怪しげな瓶を足元からにゅっとのぞかせた。
「そ……それは……?」
「魔塔で作ったお酒だよ。おいしいけど、ちょっと色々保証はできないから僕が独り占め」
保証できない内容が気になるが、少年のような柔らかな笑顔に押されて何も聞けない。
「魔塔の皆さんとはよくお酒を召し上がるんですか?」
「んー、大きな計画がひと段落したときとかだけね。皆お酒弱いから」
すぐ寝ちゃうんだよね、とノイルは唇を尖らせた。
「そ、それは日頃の睡眠不足によるものなのでは」
物静かな面々が揃う魔塔で、それでも宴会をひらこう、という気概があるのは少し意外だった。
「まあなんだかんだ、一日中一緒にいるメンバーだからね。特別な話もなく、何となく近くに座って静かに飲み食いするって感じ」
そんな話をしながらも、ノイルは酒瓶を傾けてはグラスを開け、時々気ままに誰かの話に耳を傾けている。
緩やかなその空気感に、繊細そうな面々が集う魔塔の長たる余裕を見た気がした。
ノイルのグラスから漂う強烈なアルコール臭と、その奥から広がる花のような香りにクラクラする。
「か、香りだけで酔いそうです……」
シオンのその姿にノイルはくすくすと笑った。
「耐毒実験とかで鍛えられたのかも」
「いやいや、シンシアさんはしっかりワインでへべれけですよ?」
ノイルは、そうなんだあ、と首を傾げながらグラスにちょんと口をつける。
あまりの可愛らしさと、手元のアルコールの凶悪さのコントラストにシオンは混乱を覚えた。
「シンシアの飲酒はポーズみたいなもんだからね!」
突然、バルドラッドが乱入する。
いい感じに頬が赤く、実に楽しそうだ。
「シオンも飲んでる?」
にこにこしながら、バルドラッドがビールの瓶を掲げる。
シオンは手元のコップを見せて苦笑いした。
「見ての通り、しっかり飲んでますよ」
「ふーん。あ、それちょうだい」
話しかけたきたくせに、急に興味を失うのをやめてほしい。
バルドラッドに急かされて、彼の皿に熱々、ふわふわの魚フライを乗せる。
添え物の野菜を盛ろうとすると、バルドラッドが難色を示した。
「その葉っぱ苦いからいらない」
シオンはむむっと顔を顰める。
ちょっと悩んでから、えいっとフライの上に一枚その葉を乗せた。
ぐぬぬ、と唸る魔王様は、なぜだか怖くない。
こうしているとまるで末っ子のように見えてくるから不思議だ。
「あの……失礼します」
明らかにビクついた声が静かに部屋に響く。
振り返ると、そこには……
「ユウリ、ベル!」
えへへと控えめに笑うふたりに、シオンは驚きと喜びの声を上げた。
「ちょっと顔を出すように言われて……」
小さな声でささやくユウリの心情を慮る。
「……きついよね、このメンバー」
「失礼しちゃうね、魔王を前にそんなこと言う?」
がははと笑うバルドラッドを適当にいなし、シオンはふたりを空いている席に座らせた。
ビクビクしているユウリとは対照的に、ベルはキョロキョロとひと通り様子を伺ったあと自由に飲み食いをし始めた。
このふたりらしい姿に、シオンは思わず笑ってしまう。
飲み物を注いであげながら、シオンはユウリの顔や手足をチェックした。
「な、なんですかっ」
くすぐったいのだろうか。
困ったような顔をしてユウリが僅かに抵抗する。
「良かった、傷もずいぶん綺麗になって……」
ほっと胸を撫で下ろしユウリに笑いかけると、彼は照れくさそうに顔を逸らして「医療班のおかげです」と呟いた。
「そうよ、みんな治療頑張ってたんだから。なんなの? 最近お腹刺されるの流行ってる訳?」
そう言ってナナリーがちらりとレヴィアスを見やる。
ああ……これは出来上がってきている。
バルドラッドもナナリーも、豪快なからみ酒だ。
ひっ、と固まるユウリの背中をぽんぽんと叩いて、シオンは苦笑いした。
気づけばベルが、自分の皿とユウリ、それから近くにいるドランの皿にぽいぽいと料理を乗せていた。
ドランはにこにこしてそれを平らげながら、ベルの可憐な姿を愛でている。
賑やかさが増してきた空気の中、ふと気になってレヴィアスの方を見た。
相変わらずバルドラッドにロックオンされ続けながら、苦い顔でグラスを傾けている。
ああ……あれは飲まされている人の顔だ……と、シオンは心の中で手を合わせた。
以前彼が、あまり量は飲まないと言っていたことを思い出す。
……あとで水を持っていこう。
それからしばらくして机の上の料理が片付くと、宴もお開きの時間となった。
とは言っても、バルドラッドとナナリーはまだグラスを傾けながら何かを話している。
「ほらっ、ベル、しっかり歩いて下さいよ」
「ううー!! やだよまだドランちゃんとお話しするっ」
「ああっ、泣き上戸、面倒臭い!」
悪態をつきながらもしっかりとベルを支えて去っていくユウリの姿に、シオンは苦労人の性を見た気がした。
おおかた片付けも済み、酔い覚ましの水を飲んでいると、ノイルから声がかかる。
「シオン、この子の回収をお願い」
ちょいちょい、と指差す先には、眉間に皺を寄せたまま固まるレヴィアスの姿があった。
「えっ……大丈夫ですか、レヴィアスさん」
んん?と彼の方を向こうとするバルドラッドに新たな酒を手渡しながら、ノイルはシオンに向かってにこりと微笑む。
「執務室で……いいのかな」
戸惑いながら、シオンはレヴィアスの顔を覗き込んだ。
レヴィアスの執務室に辿り着き、ソファに彼を座らせる。
足取りに乱れはなかったが、少しだけ潤んだ瞳がたしかな酔いを感じさせて、シオンは思わずどきりとする。
「お水飲めますか?」
隣に腰掛けて水を手渡すと、レヴィアスは静かにそれを口にした。
「すみません」
少し掠れた声でそう言うと、彼はふわりと目を閉じた。
眠れそうなのかな?とシオンはじっとその顔を見つめる。
賑やかな宴の名残を感じながら、耳を打つような静寂に身を浸す。
しんという音が聞こえそうなこの空間が、どこかシオンの心を癒すのだ。
少しの間があって、隣から小さな寝息が聞こえてくる。
ずし、と肩にかかる重さに気がついて見ると、レヴィアスの体がもたれかかっている。
「動かしても大丈夫かな……」
そっと、その身体を横に倒し、彼の頭を膝の上にゆっくりと乗せる。
レヴィアスは一旦眠ると深いのだ。
そばにあったブランケットを掛け、少し乱れた銀髪を優しく撫でた。
「……頑張りましたね」
くすっと笑ってから、シオンはあくびをひとつする。
膝に感じる温もりを大切に抱きながら、ゆっくりと目を閉じた。
賑やかで、ちぐはぐで、どこか少し優しい。
そんな時間が続けばいいのに、と願いながら。
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