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8.光のほうへ
1話
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澄んだ青空から、ちらちらと白い綿のように雪が降ってくる。
長雨が去ったあと、辺りは一気に冷え込み始め、魔王城はすっかり冬の装いだ。
「おはようございます、今日も寒いですね」
もこもことしたカーディガンを羽織って、カイレンが執務室に顔を出した。
彼女の頭でぴくぴく動く獣耳が、いつの間にか冬毛仕様になっていてたまらない。
「おはよう、カイレン。今日もふわふわね」
シオンは視線で許可を得て、ぬいぐるみのようなその耳を両手で撫でる。
くすぐったそうに笑いながら、カイレンは早速机の上に資料を広げた。
「そういえば、ドランさんの工房からシオンさん宛に魔道具が届くって話を聞きましたよ」
「わあ……! 本当?」
ここのところ工房はずっと忙しそうにしていた。
ポワルが依頼してくれたと言うシオン用の魔道具は、優先順位を下げてくれて構わないと伝えていたのだ。
「これで安心できますね。なんだかんだ、シオンさん色んなことに巻き込まれるんですもん」
カイレンがそう言って笑う。
シオンは苦笑しながらも、否定することができなかった。
「私、すっごい強くなっちゃったらどうする?」
シオンはうきうきと声を弾ませる。
今度はカイレンが苦笑いしながら、うーん、と唸った。
「じゃあ、すっごい強くなったら、私のピンチを助けに来てくださいね!」
「行く行く! よーし、楽しみだなあ」
「でも、やっぱりシオンさんは頑張っても子供のコボルトくらいだと思いますよ?」
無茶しないように、と釘を刺してくれるのが、しっかり者のカイレンだ。
他愛もない話に花を咲かせながら、お互い書類に目を通す。
魔王城に来た頃からそれはずっと変わらない。
これからも、こんな風に時間が過ぎればいい。
シオンは窓にうっすらと積もった雪をみつめながら、そんなことを考えていた。
書類仕事を終えたあと廊下を歩いていると、大きなトランクを抱えたヴァルターを見かけた。
シオンは微笑みながら彼に声をかける。
いつも身につけている仕立ての良いジャケットには、うっすらと肩の部分が濡れたような跡が残っていた。
「こんにちは、ヴァルターさん。雪に降られてしまいましたね」
「ああ、シオンさん。そうですね、この辺りは雪が降るのを忘れていました」
冷たい風に吹かれていたのだろう。
ほんのり赤くなった頬を引き上げて、ヴァルターは柔らかに微笑んだ。
「それにしても、大きなトランクですね。商品ですか?」
「ええ、近々、私の商人としての大勝負が控えていまして……その前哨戦として、とびっきりの商品を売り込みに来ました」
商売ですから、と口癖をひとつ。
それから眼鏡の奥で、彼の瞳が一瞬鋭く、楽しげに光る。
さすが、一代で商人として大成したやり手は、バイタリティが違う。
「大勝負ですか……成功するのを祈っていますね」
「おや、ありがとうございます」
「いつもお世話になっていますから」
そう言うと、ヴァルターはにっこりと笑って一礼した。
カイレンには会っていかないのだろうか?
声をかけようか悩んだが、ヴァルターとカイレンは魔王城内ではあえて距離を置くことを決めているのだ。
余計なことはするまいと、シオンはそのままヴァルターを見送った。
夕方、ガルオンから呼び出しを受けて、シオンは魔王城の備品庫に顔を出していた。
「おう、シオン。魔道具が届いたぞ」
青毛のワーウルフ、ガルオンがこちらを見て手を振った。
彼もすっかり冬毛仕様だが、怒られそうなので触るのは自粛する。
「楽しみにしてたんです! どれですか?」
はやる気持ちを抑えながら、ガルオンに尋ねる。
ガルオンは、可愛らしい花柄の包みを片手にぶら下げている。
「わあ……! 開けてみます!」
包みを開き取り出したのは、魔法石がところどころに編み込まれたリボンだった。
可憐なデザインに心が躍るが、シオンはふと不思議に思う。
「これ、魔道具なんですよね? アクセサリーじゃなくて」
「む……使い方がここに書いてあるな」
包みの中に、取り扱い説明書のようなメモがつけてある。
シオンはそれをゆっくりと読み上げる。
「リボンには、あらかじめ魔力を籠めておけるよ、と」
「魔力タンクみたいなもんか」
ガルオンの言葉にふむ、と頷いて、シオンはさらに読み進める。
「リボンを手にとって、対象に向かって投擲すると……」
少し迷ってから、「えいっ」と試しにガルオンに向かって投げてみる。
クルクルっと解けながら勢いよく鞭のように伸び、その端がガルオンの腕に絡みついた。
「うおっ!?」
「それから、締める」
ぎゅっ!とシオンが軽く手でリボンを引くと、ガルオンの腕が一気に締め上げられた。
「いてててて! こら、俺で試すな!」
「あ、ごめんなさい」
笑いながらリボンの拘束を解く。
どうやら、拘束した相手の魔力をじわじわと奪い、鎮圧することができるようだ。
「あとは……壁のように張り巡らせて、身を守ることも出来るんですね」
「ふうん、まあお前らしくていいんじゃないのか? 変に剣とか持たされても、持ち腐れるだろ」
むむ、とガルオンに抗議の視線を送るが、彼はどこ吹く風だ。
確かに魔道具を活かすのに結局フィジカルが必要なのでは本末転倒だ。
その点。ドランのチョイスは最適と言えるのだろう。
ガルオンに礼を言って執務室へと戻る。
自分の身を自分で守る力を手に入れられたような気がして、シオンの足取りはいつもよりも軽やかだった。
長雨が去ったあと、辺りは一気に冷え込み始め、魔王城はすっかり冬の装いだ。
「おはようございます、今日も寒いですね」
もこもことしたカーディガンを羽織って、カイレンが執務室に顔を出した。
彼女の頭でぴくぴく動く獣耳が、いつの間にか冬毛仕様になっていてたまらない。
「おはよう、カイレン。今日もふわふわね」
シオンは視線で許可を得て、ぬいぐるみのようなその耳を両手で撫でる。
くすぐったそうに笑いながら、カイレンは早速机の上に資料を広げた。
「そういえば、ドランさんの工房からシオンさん宛に魔道具が届くって話を聞きましたよ」
「わあ……! 本当?」
ここのところ工房はずっと忙しそうにしていた。
ポワルが依頼してくれたと言うシオン用の魔道具は、優先順位を下げてくれて構わないと伝えていたのだ。
「これで安心できますね。なんだかんだ、シオンさん色んなことに巻き込まれるんですもん」
カイレンがそう言って笑う。
シオンは苦笑しながらも、否定することができなかった。
「私、すっごい強くなっちゃったらどうする?」
シオンはうきうきと声を弾ませる。
今度はカイレンが苦笑いしながら、うーん、と唸った。
「じゃあ、すっごい強くなったら、私のピンチを助けに来てくださいね!」
「行く行く! よーし、楽しみだなあ」
「でも、やっぱりシオンさんは頑張っても子供のコボルトくらいだと思いますよ?」
無茶しないように、と釘を刺してくれるのが、しっかり者のカイレンだ。
他愛もない話に花を咲かせながら、お互い書類に目を通す。
魔王城に来た頃からそれはずっと変わらない。
これからも、こんな風に時間が過ぎればいい。
シオンは窓にうっすらと積もった雪をみつめながら、そんなことを考えていた。
書類仕事を終えたあと廊下を歩いていると、大きなトランクを抱えたヴァルターを見かけた。
シオンは微笑みながら彼に声をかける。
いつも身につけている仕立ての良いジャケットには、うっすらと肩の部分が濡れたような跡が残っていた。
「こんにちは、ヴァルターさん。雪に降られてしまいましたね」
「ああ、シオンさん。そうですね、この辺りは雪が降るのを忘れていました」
冷たい風に吹かれていたのだろう。
ほんのり赤くなった頬を引き上げて、ヴァルターは柔らかに微笑んだ。
「それにしても、大きなトランクですね。商品ですか?」
「ええ、近々、私の商人としての大勝負が控えていまして……その前哨戦として、とびっきりの商品を売り込みに来ました」
商売ですから、と口癖をひとつ。
それから眼鏡の奥で、彼の瞳が一瞬鋭く、楽しげに光る。
さすが、一代で商人として大成したやり手は、バイタリティが違う。
「大勝負ですか……成功するのを祈っていますね」
「おや、ありがとうございます」
「いつもお世話になっていますから」
そう言うと、ヴァルターはにっこりと笑って一礼した。
カイレンには会っていかないのだろうか?
声をかけようか悩んだが、ヴァルターとカイレンは魔王城内ではあえて距離を置くことを決めているのだ。
余計なことはするまいと、シオンはそのままヴァルターを見送った。
夕方、ガルオンから呼び出しを受けて、シオンは魔王城の備品庫に顔を出していた。
「おう、シオン。魔道具が届いたぞ」
青毛のワーウルフ、ガルオンがこちらを見て手を振った。
彼もすっかり冬毛仕様だが、怒られそうなので触るのは自粛する。
「楽しみにしてたんです! どれですか?」
はやる気持ちを抑えながら、ガルオンに尋ねる。
ガルオンは、可愛らしい花柄の包みを片手にぶら下げている。
「わあ……! 開けてみます!」
包みを開き取り出したのは、魔法石がところどころに編み込まれたリボンだった。
可憐なデザインに心が躍るが、シオンはふと不思議に思う。
「これ、魔道具なんですよね? アクセサリーじゃなくて」
「む……使い方がここに書いてあるな」
包みの中に、取り扱い説明書のようなメモがつけてある。
シオンはそれをゆっくりと読み上げる。
「リボンには、あらかじめ魔力を籠めておけるよ、と」
「魔力タンクみたいなもんか」
ガルオンの言葉にふむ、と頷いて、シオンはさらに読み進める。
「リボンを手にとって、対象に向かって投擲すると……」
少し迷ってから、「えいっ」と試しにガルオンに向かって投げてみる。
クルクルっと解けながら勢いよく鞭のように伸び、その端がガルオンの腕に絡みついた。
「うおっ!?」
「それから、締める」
ぎゅっ!とシオンが軽く手でリボンを引くと、ガルオンの腕が一気に締め上げられた。
「いてててて! こら、俺で試すな!」
「あ、ごめんなさい」
笑いながらリボンの拘束を解く。
どうやら、拘束した相手の魔力をじわじわと奪い、鎮圧することができるようだ。
「あとは……壁のように張り巡らせて、身を守ることも出来るんですね」
「ふうん、まあお前らしくていいんじゃないのか? 変に剣とか持たされても、持ち腐れるだろ」
むむ、とガルオンに抗議の視線を送るが、彼はどこ吹く風だ。
確かに魔道具を活かすのに結局フィジカルが必要なのでは本末転倒だ。
その点。ドランのチョイスは最適と言えるのだろう。
ガルオンに礼を言って執務室へと戻る。
自分の身を自分で守る力を手に入れられたような気がして、シオンの足取りはいつもよりも軽やかだった。
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