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8、淡い期待
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実際のところ、キシオンの行動に何も意味も無いのだ。
彼は悪女を必ず罰すると息巻いていた。
だとすれば、群衆に混じってメアリを非難することに何の意味も無い。
それでは今まで通りだ。
決して、メアリが罰せられることなどない。
目的を達成するためには、国王に働きかける以外に他は無いのだ。
学院では秀才であったようだが、メアリが知る限りにおいても彼の頭の回転は相当のものだった。
その彼にその事実が理解出来ないはずは無いのだが……
(なんなのでしょう?)
不思議の思いしか無かった。
だが、20日ほど過ぎればだ。
彼の意図のようなものが見えてきたような気がするのだった。
「聞きましたぞっ!! 今回も看過出来ぬ不祥事を起こしたようですなっ!?」
今日もまた、メアリは城下にてキシオンの舌鋒にさらされていた。
だが、初日のような絶望感は無かった。
彼に怯えるよりも、彼の意図が気にかかってくる。
不思議な状況だった。
群衆にキシオンという論客が加わり、城下での問答はよりメアリに辛いものになる。
そのはずだったのだ。
だが現実はと言えば逆だった。
キシオンという代弁者を得たからだろう。
群衆からの嵐のような怒声は過去のものになっていた。
キシオンへの応援の声にと変わり、メアリへの非難はごく少数のものになった。
そもそも、群衆の数も減っていた。
自分たちに代わって訴えかけてくれる人がいる。
そんな思いがあってのことか、群衆の数はあるいは半分程度に目減りしている。
期待など持つな。
メアリの冷静なところはそう訴えかけてくるのだが、それでも思わざるを得なかった。
(もしかして助けて……?)
メアリの負担が減るように振る舞ってくれている。
そのように、どうしても思ってしまうのだ。
城下の散策をすませば、メアリは自室に戻ってきた。
ベッドに腰を下ろし、左手を見つめる。
そこにある指輪に目を凝らす。
(……きっと早計でしょう)
メアリは左手を膝に下ろし、見えないように右手で隠す。
きっと早計だった。
この指輪の件と同じだ。
期待を持ったところで、それは自身の妄想に過ぎないに違いない。
しかし、であった。
どうしてもその考えを捨てきれない。
自らの命を断つ方策よりも、都合の良い妄想にこだわってしまう。
よって、気づくしかなかった。
「……結局ですね」
結局だ。
自分は死にたくないのだろう。
生きていたいのだろう。
翌日だ。
メアリはある思いと共に国王の執務室に向かっていた。
(もう少しだけがんばってみましょう)
救いなど、これから先に何も無いかもしれない。
それでも、あと少しだけはがんばってみよう。
この状況に耐えてみよう。
そう思えたのだ。
執務室にたどり着く。
メアリは早速扉を叩こうとし、だが今日もだった。
首をかしげることになる。
話し声がしたのだ。
まさか、またキシオンだろうか?
であればやはり入りづらいと思えたが、どうにもそのようでは無かった。
聞き覚えのある声しかなかった。
妹と母、それに兄に違いなかった。
彼らの話し声……いや、怒鳴り合いの声が聞こえてくる。
メアリは眉をひそめることになる。
国王からの呼びかけだったが、一体どんな用事なのだろうか?
胸がざわめく感覚を覚えるが、見張りの目があれば立ち去ることなど思いもよらない。
扉をノックする。
すると、途端にだった。
向こう側から扉が開かれる。
「あ、良かったお姉様!」
顔を見せたのは妹だった。
彼女は安堵の笑みでメアリを執務室に引き込んできたが……
(な、なにがあったのですか?)
かつて無い妹の様子であれば不安しか呼ばなかった。
その思いは、執務室の様子で確信に変わる。
そこには家族の全ての姿があった。
父に兄は眉間にシワを寄せていた。
いつも呑気にほほ笑んでいる母ですら固い表情でうつむいている。
彼は悪女を必ず罰すると息巻いていた。
だとすれば、群衆に混じってメアリを非難することに何の意味も無い。
それでは今まで通りだ。
決して、メアリが罰せられることなどない。
目的を達成するためには、国王に働きかける以外に他は無いのだ。
学院では秀才であったようだが、メアリが知る限りにおいても彼の頭の回転は相当のものだった。
その彼にその事実が理解出来ないはずは無いのだが……
(なんなのでしょう?)
不思議の思いしか無かった。
だが、20日ほど過ぎればだ。
彼の意図のようなものが見えてきたような気がするのだった。
「聞きましたぞっ!! 今回も看過出来ぬ不祥事を起こしたようですなっ!?」
今日もまた、メアリは城下にてキシオンの舌鋒にさらされていた。
だが、初日のような絶望感は無かった。
彼に怯えるよりも、彼の意図が気にかかってくる。
不思議な状況だった。
群衆にキシオンという論客が加わり、城下での問答はよりメアリに辛いものになる。
そのはずだったのだ。
だが現実はと言えば逆だった。
キシオンという代弁者を得たからだろう。
群衆からの嵐のような怒声は過去のものになっていた。
キシオンへの応援の声にと変わり、メアリへの非難はごく少数のものになった。
そもそも、群衆の数も減っていた。
自分たちに代わって訴えかけてくれる人がいる。
そんな思いがあってのことか、群衆の数はあるいは半分程度に目減りしている。
期待など持つな。
メアリの冷静なところはそう訴えかけてくるのだが、それでも思わざるを得なかった。
(もしかして助けて……?)
メアリの負担が減るように振る舞ってくれている。
そのように、どうしても思ってしまうのだ。
城下の散策をすませば、メアリは自室に戻ってきた。
ベッドに腰を下ろし、左手を見つめる。
そこにある指輪に目を凝らす。
(……きっと早計でしょう)
メアリは左手を膝に下ろし、見えないように右手で隠す。
きっと早計だった。
この指輪の件と同じだ。
期待を持ったところで、それは自身の妄想に過ぎないに違いない。
しかし、であった。
どうしてもその考えを捨てきれない。
自らの命を断つ方策よりも、都合の良い妄想にこだわってしまう。
よって、気づくしかなかった。
「……結局ですね」
結局だ。
自分は死にたくないのだろう。
生きていたいのだろう。
翌日だ。
メアリはある思いと共に国王の執務室に向かっていた。
(もう少しだけがんばってみましょう)
救いなど、これから先に何も無いかもしれない。
それでも、あと少しだけはがんばってみよう。
この状況に耐えてみよう。
そう思えたのだ。
執務室にたどり着く。
メアリは早速扉を叩こうとし、だが今日もだった。
首をかしげることになる。
話し声がしたのだ。
まさか、またキシオンだろうか?
であればやはり入りづらいと思えたが、どうにもそのようでは無かった。
聞き覚えのある声しかなかった。
妹と母、それに兄に違いなかった。
彼らの話し声……いや、怒鳴り合いの声が聞こえてくる。
メアリは眉をひそめることになる。
国王からの呼びかけだったが、一体どんな用事なのだろうか?
胸がざわめく感覚を覚えるが、見張りの目があれば立ち去ることなど思いもよらない。
扉をノックする。
すると、途端にだった。
向こう側から扉が開かれる。
「あ、良かったお姉様!」
顔を見せたのは妹だった。
彼女は安堵の笑みでメアリを執務室に引き込んできたが……
(な、なにがあったのですか?)
かつて無い妹の様子であれば不安しか呼ばなかった。
その思いは、執務室の様子で確信に変わる。
そこには家族の全ての姿があった。
父に兄は眉間にシワを寄せていた。
いつも呑気にほほ笑んでいる母ですら固い表情でうつむいている。
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