【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら

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9、末路

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「……い、一体何なのですか? どうされたのですか?」

 思わず問いかける。
 すると、兄が「ちっ」と痛烈に舌打ちをもらしてきた。

「どうしたも何も無いわ。このバカどもが。いくらなんでもはしゃぎすぎだ」

 彼の非難の視線は母と妹にあった。
 メアリが見つめると、母が慌てたように声を上げる。

「だ、だって、仕方なかったの! 最近、全然使えるお金が無かったから!」

 不吉なものしか感じられない発言だった。
 父親のため息が執務室に響く。

「それにしたってあそこは無いだろうに。何故わざわざ、第3備蓄庫を開けようと思ったのか」

 これでメアリには全てが理解出来たのだった。
 唖然として口を開くことになる。

「第3備蓄庫と言えば、飢饉や戦争時のための小麦の備蓄の……?」

「そうだ」

「ではあの、開けたというのは備蓄を売り払ったと?」

「らしいな。まったく報告を聞いて驚いたが、こうして呼び出してみればな。事実であると頷いてきたわけだ」

 そういうことらしかったが、妹には何か言い分があるらしい。
 メアリから手を離すと、父に対して声を上げた。

「で、でも、何か問題はありますか!? 小麦を売り払ったって、別に大した問題はないですよね!?」

 メアリは「え?」と思わず声を上げることになる。

「……もしもの時の大事な備蓄なのよ?」

 尋ねかけると、妹は不満の表情を見せてきた。

「だから? 何か問題でもあるの?」

「今年は冷夏なのよ? 備蓄がないと、飢えて苦しむ人が出てくるかもしれないのよ?」

 妹は苛立ちの表情で怒鳴り声を上げてきた。

「だから、それが何!? 土民がいくら飢え死んだって私たちに何の関係があるのよ!? でしょ? お父様!」

 そして、父親だった。
 彼は頷きを見せてきた。

「まぁ、そうだ。だが、少しはワシのことを考えてくれ。非難の声はメアリに任せればいいのだが、ワシだって無傷ではすまんのだぞ? 改めての小麦の手配など、まったく面倒な」

 ここで兄だった。
 父親に続いて、妹と母に不満の声を上げてくる。

「俺についてもそうだぞ! だから、わざわざそのことを告げるためにここにやってきたのだ。お前たちの浪費のせいで、俺の自由に使える金が減っているんだ! 少しは考えろ!」

 父親には黙っていた妹だが、兄には言いたいことがあるようだった。
 
「それが何よ!! どうせバカな女どもへの贈り物のための金でしょ? そんなのどうでもいいじゃない!!」

「な、なんだと!? そっちこそどうでもいいだろうが!! お前みたいな不細工が着飾ったところで何になる!!」

 そうして兄妹喧嘩だったが、長くは続かなかった。
 父親がうんざりと「静まれ」と口にし、執務室には静けさが戻った。

 そして、いよいよらしい。
 父親はメアリに目を向けてくる。

「そういうことだ。この件もお前の責任とする。噂はすでに流してあり、すぐに城門にバカどもが殺到してくるだろう。行って肯定してくるといい」

 兄は当然だと頷きを見せた。
 母親は「頼んだわよ」と笑顔を見せ、妹は「よろしくね、お姉様」と可愛らしく首をかたむけてきた。

(……何これ)

 メアリは呆然として応じられなかった。
 一体彼らは何なのだろうか?
 私利私欲しか頭にないこの俗物どもは何なのだろうか?
  
 積年の思いというものがあった。
 キシオンの登場に心が揺らいでいるということもあった。

 メアリは気がつけば口を開いていた。

「……嫌です」

 家族の誰もが首をかしげた。
 その彼らに、メアリは胸に渦巻くものを吐き出すことになる。

「い、嫌です。そんなの嫌です!! これは私の責任ですか? 違いますよね? これは貴方たちの責任です!! この国民への不義理は、貴方たちが頭を下げて、そして償わなければならないことです!! 違いますか!?」
 
 間違ったことを言ったとは思っていなかった。
 言うべきことを言ったと自負もあった。

 だが、そんなことは彼らにはどうでも良いようだった。
 父親は「はぁ」とため息をつき、兄へと目配せをした。

「ロイ」

「は」

 一瞬の間も無い。
 頬に衝撃があった。
 それを理解した時には、視界が回転していた。

 気がつけば、メアリは床で手をついていた。
 一体自分に何があったのか?
 答えを求めて見上げる。
 そこでは兄が握りこぶしをさすっていた。

 これで分かった。
 どうやら自分は兄に殴られたらしい。
 その彼は憎悪の視線で見下ろしてきている。

「思い上がるな!! いいか? これがお前の役割だ。陰気で愚図なお前にも出来る、王家への唯一の貢献だ。お前はな、黙って俺たちの言うことを聞いていればいいんだよ!!」

 兄が怒声を上げたが、それは家族の総意のようだった。
 父も妹も母も。
 同じ目つきで見下ろしてきていた。
 道具風情が偉そうに。
 そう言外に語っているような侮蔑の目つきだった。
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