【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら

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エピローグ

2、ロイ・ブラントのその後

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 ロイ・ブラントにとって、メアリの処刑の影響は直接的だった。

「くそっ!!」

 彼に与えられた屋敷、その一室である。
 ソファーに腰をかけるロイは、そう忌々しげに毒づくことになっていた。

 理由はといえば玄関にある。
 この部屋にまで伝わってくるのだった。
 扉を叩く音に、開けろ、出てこいとの乱暴な怒声の数々。

 それらの怒声の声音に彼は聞き覚えがあった。
 当然だ。
 来客は、彼がもてあそんできた美女たちなのだ。
 彼女たちは屋敷の扉を叩けば、ロイとの面会を求めてきているのだ。

 復縁を迫ってきている。
 ロイの理解では、彼女たちの行動の理由はそれだった。
 
 悪女が幸せを妬んでくれば別れざるを得ない。
 そんな言い訳をもって、彼は美女たちを遊び捨ててきた。
 
 では、悪女がいなくなればどうなるのか?
 これで彼女たちにとっての障害は消え去ったのだ。
 彼女たちが自身との復縁を望むのは必然。
 それがロイの現状への理解だった。

 実際はそうでは無い。
 
 それはロイの自己評価の高さに基づく妄想に過ぎないのだが……それはともあれである。

 ロイは復縁に応じるつもりなどは無かった。
 彼はすでに彼女たちへの興味など失っていた。
 すでに新たな恋を見つけてもいる。
 その恋に心を燃やしたいのが彼の現状だ。

 しかし、これでは外出のしようも無い。
 
 彼は待っていた。
 彼女たちが諦めて去るのを、この部屋で爪をかみながらに待っていた。

 だが、それははなはだ甘い見通しだった。

 扉がドンドンと忙しなく打ち鳴らされる。
 侍従によるものに違いなかった。
 追い払ったとの報告かと期待すれば、彼はソファーから腰を浮かせて応じる。

「ど、どうだ!? あいつらを追い払えたのか!?」

「い、いえ!! 裏口を見つけられれば、侍女が油断したすきに……うわ!?」

 その悲鳴の意味を、ロイは光景として理解することになる。

 まさか屋敷に侵入されることは無いだろう。
 そう油断すれば、部屋の鍵まではかけてはいなかったのだ。
 よって、流れ込まれることになった。
 美女たちが室内を埋め尽くすことになり、彼は壁際まで後ずさる。

「な、なんだ貴様らっ!? 無礼だぞっ!! 下がれっ!!」

 混乱の最中で叫ぶ。
 だが、もちろん彼女たちは彼に配慮などしてはくれない。
 その場に留まり、憎悪のものと思わしき目つきでにらみつけてくるのだが……

(ど、どういうことだ?)

 ロイは内心で首をかしげた。

 この状況は彼の理解とは違ったのだ。
 彼女たちは復縁を願っているはずであり、これでは向けられる視線が違う。
 自分こそを選んでくれと、切実な視線でなければならないのだ。

 どうにも現実が予想とは違う。
 ただ、そこで自分の予想を疑えるような彼では無かった。

 プライドが高く、自意識過剰かつ傲慢ごうまん

 彼女たちは自分を求めているはず。
 その思い込みを胸に、彼は彼女たちになだめる笑みを向ける。

「た、頼む。落ち着いてくれ。君たちの思いは分かる。だが、その思いは俺を困らせてまで成し遂げたいようなものじゃないはずだ。そうだろ?」

 これで彼女たちも自らの行いを反省してくれるだろう。
 
 ロイはそう思った。
 だが、結果はまるで違う。
 美女たちの顔に浮かんだのは……侮蔑のにじんだ冷笑だった。

「……呆れた。さっぱり状況が飲み込めておられないのね」

 1人の美女が呟くと、ロイは「へ?」と間抜けな声を上げた。

「状況? 飲め込めていない? な、なんだそれは?
 一体どういう意味だ?」

「察するところですが、殿下は我々が復縁を求めて訪ねてきたなどとお思いでしょうか?」

「は、はぁ? それ以外に理由などあるのか?」

 その美女は呆れのにじんだ苦笑を浮かべた。

「ふふ、あるに決まっておりますとも。我々が今日訪れさせていただいたのは、王都の婦女を代表して殿下にお伝えしたいことがあるからです」

 そうして、彼女は剣呑に双眸そうぼうを細めた。

「……今までの非道を我々は決して許しません。そして今後、今までのような非道が出来るとは思わないことです」

 ロイは唖然と目を見開くことになった。

「な、なんだそれは? 非道? ふ、ふざけるな! お前たちだって、俺に口説かれれば喜んで……っ!」

 別の美女だった。
 怒りの視線をロイへと向けてくる。

「うぬぼれも大概にしていただきたいっ! そんなものは、貴方の背後に悪女の姿が見えたからに決まっているでしょうがっ!」

 彼は「は?」と思わぬ言葉に首をかしげることになった。

「あ、悪女? ……メアリが何だ? 一体何の話だ?」

「貴方はことあるごとに悪女の後ろ盾を匂わせていたのです。貴方の誘いを断れば、家族に悪女の危害が及ぶかもしれない。その懸念以外に、貴方に媚びる理由などありますか?」

 それはまったく、ロイにとって予想外の言葉だった。
 
 確かに彼女の発言には事実が含まれていた。
 自分は悪女に気に入られているとして美女の怯える様を楽しんだこともあった。
 あるいは、自分の誘いを断れば悪女が黙っていないと軽く凄んで見せたこともあった。
 だが、

「そ、そんなわけがあるか!! 俺との婚約を望む女は大勢いたんだぞ!? それは俺の魅力があってのことだろうがっ!!」

 そのはずだった。
 しかし美女たちが見せてきたのは納得の頷きでは無い。
 一様に失笑が広がる。

「……ふふふ、まさか」

「本当、不思議な勘違いだこと」

「婚約を口にすれば殿下とは別れられる。社交界での常識ですのよ?」

 ここまで来れば、ロイも理解せざるを得ないのだった。
 彼は呆然と美女たちを見渡す。

「では……そうだったのか? 全ては悪女があってのことだったのか?」

 自身の魅力があっての甘い日々ではなかったのか?
 最初に口を開いた美女だ。
 ニコリとしてロイに頷きを見せた。

「そういうことです。そして、悪女はもういません。ですから……殿下? 覚悟しておかれると良いでしょう。貴方の思う通りになる女性は、この王都にはもはや1人としていません」

 そうして彼女は……いや、彼女たちはひらりと優雅に一礼をした。
 その意味はと言えば、今さらの挨拶などではもちろん無い。
 王都の貴婦人らしくと言うべきか。
 彼女なりの流儀で見せた、ロイへの宣戦布告であった。

 もう二度と甘い思いは出来ないかもしれない。
 ロイは呆然と、その現実に立ち尽くすのだった。
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