【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら

文字の大きさ
16 / 29
エピローグ

4、ブラント一家のその後

しおりを挟む
 そして、ブラント一家は執務室に集まることになった。

 当然、隠居など受け入れられなどはしなかった。
 いまだ国王であるデグは、集まった家族の面々を見渡す。

「よく集まってくれた。忙しい中礼を言うぞ」

 この集まりの発起ほっき人は彼であったのだ。
 礼の言葉に、最初に応じたのは兄だった。
 ロイ・ブラントがデグに首を左右にする。

「いえ、私も家族で集まる場が必要だと思っていましたので」

 次いで妹だった。
 エミル・ブラントが頷きを見せる。

「私もです。その必要があるかなって」
 
 母もまた緊張の面持ちで頷きを見せる。

 そうなのだった。
 彼らはそれぞれの思惑があって家族とかいすることを望んでいた。
 
「……必要があるかと思ってな」

 やつれた顔つきのデグが呟くと、残りの家族は理解することになった。
 どうやら、皆同じことを思ってここにいるらしい。

 先鞭せんべんをつけたのは、こちらも憔悴しょうすいが隠しきれないロイだ。

「エミル。お前がやれ。メアリがこなしてきた役割はお前が担え」

 これ幸いとデグは「うむ」と頷いた。

「それがよかろうな。エミル、お前に任せた」

 これで一件落着……とは、もちろんならない。
 エミルはもちろん、そんなつもりでここに来たわけでは無いのだ。

「は、はぁ!? 冗談じゃありませんよ!! なんで私がそんなのやらなきゃいけないんですか!? ねぇ、お母様?」

「そ、そうですとも! エミルにメアリの役割なんて、そんな可哀想なことを!」

 母は常ならぬ様子で必死の声を上げる。
 もちろんのこと、彼女の目的も同じだった。
 家族の誰かにメアリの役割を求めていた。
 だが、それはエミルにでは無い。 
 最も気安い遊び仲間を悪女にするわけにはいかなかったのだ。

 ただ、それは彼女の理屈でしかない。
 ロイが忌々しげに舌打ちをもらす。

「ちっ。母娘そろって生意気な……母上は黙っていて下さいっ! エミルが一番年下なんだ! だったら、お前が家族のために心を配るのが筋だろうが!」

「な、何が年下だからよ! そんなのアンタで良いでしょ! 年上なんだから、家族のためにしっかり働きなさいよ!」

「な、なんだと!? ふざけるな! 次期王である俺になんということを……っ!」

 ここでデグが頷きを見せる。
 ロイの言い分に道理があると思えたのだ。
 確かに嫡男を悪女ならぬ悪人というわけにはいかない。
 エミルに対してさとすような視線を向けることになる。

「そうだぞ、エミル。ロイは次の王なのだ。メアリの役割はお前が適任であろうて」

 これで決まりだろう。
 デグは内心でほっと笑みを浮かべる。
 これで救われるのだ。
 家族はもちろん自分自身が救われることになる。
 これで今まで通りの生活を送ることが出来る。

 だが、デグの安堵は早すぎた。
 彼女はこれで「承知しました」などと頷ける人間ではあり得ないのだ。

 彼女にしても、求めるのは今まで通りの生活だ。
 贅沢三昧を楽しみ、その責任を誰かに押し付けてすませる人生だ。

 反抗しない選択肢など無かった。
 エミルはニヤリとした笑みをデグに向ける。

「……別に、お父様でもかまわないのではないでしょうか?」

 彼は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
 理解すれば、デグは唖然と目を見開く。

「わ、ワシだと? ふ、ふざけるな!! ワシは国王だぞ!!」

「でも、隠居するって騒がれていたんですよね? それで良いんじゃないですか。隠居されて、姉様の役割を担われてはいかがですか?」

 デグは立ち上がって叫ぼうとしたが、その必要はなかった。
 ロイが慌てて叫びを上げる。

「そ、そんなことが許されるか! 俺はまだ国王になんてなるつもりは無いぞ!」

 いずれにせよだった。

 彼らには、それぞれの私欲があった。
 新たなメアリを得ることで、取り戻したいものがあった。
 自分がメアリを引き受けることなど言語道断以外の何物でも無かった。

 口論の場となる。

 それぞれが家族の誰かに悪女を押し付けようとして、しかし当然反発の声が上がり、また誰かが悪女のやり玉に上げられる。

 終わるはずのない口論。

 だが、彼らの狂騒きょうそうは唐突に終わりを迎えることになる。

「……いい加減、見てられんな」

 その呆れの声は彼らのものでは無かった。
しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。 彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う! 「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」 「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」 貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。 それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム! そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。 ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。 婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。 そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!? 「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」 復讐も愛憎劇も不要! ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!? 優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました

er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?

断罪された私ですが、気づけば辺境の村で「パン屋の奥さん」扱いされていて、旦那様(公爵)が店番してます

さら
恋愛
王都の社交界で冤罪を着せられ、断罪とともに婚約破棄・追放を言い渡された元公爵令嬢リディア。行き場を失い、辺境の村で倒れた彼女を救ったのは、素性を隠してパン屋を営む寡黙な男・カイだった。 パン作りを手伝ううちに、村人たちは自然とリディアを「パン屋の奥さん」と呼び始める。戸惑いながらも、村人の笑顔や子どもたちの無邪気な声に触れ、リディアの心は少しずつほどけていく。だが、かつての知り合いが王都から現れ、彼女を嘲ることで再び過去の影が迫る。 そのときカイは、ためらうことなく「彼女は俺の妻だ」と庇い立てる。さらに村を襲う盗賊を二人で退けたことで、リディアは初めて「ここにいる意味」を実感する。断罪された悪女ではなく、パンを焼き、笑顔を届ける“私”として。 そして、カイの真実の想いが告げられる。辺境を守り続けた公爵である彼が選んだのは、過去を失った令嬢ではなく、今を生きるリディアその人。村人に祝福され、二人は本当の「パン屋の夫婦」となり、温かな香りに包まれた新しい日々を歩み始めるのだった。

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

契約結婚の終わりの花が咲きます、旦那様

日室千種・ちぐ
恋愛
エブリスタ新星ファンタジーコンテストで佳作をいただいた作品を、講評を参考に全体的に手直ししました。 春を告げるラクサの花が咲いたら、この契約結婚は終わり。 夫は他の女性を追いかけて家に帰らない。私はそれに傷つきながらも、夫の弱みにつけ込んで結婚した罪悪感から、なかば諦めていた。体を弱らせながらも、寄り添ってくれる老医師に夫への想いを語り聞かせて、前を向こうとしていたのに。繰り返す女の悪夢に少しずつ壊れた私は、ついにある時、ラクサの花を咲かせてしまう――。 真実とは。老医師の決断とは。 愛する人に別れを告げられることを恐れる妻と、妻を愛していたのに契約結婚を申し出てしまった夫。悪しき魔女に掻き回された夫婦が絆を見つめ直すお話。 全十二話。完結しています。

『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ
恋愛
婚約者である王太子アルベルトから、一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。 だが彼女は、涙も復讐も選ばなかった。 「婚約は、役目でしたもの。終わったのなら、それで結構ですわ」 王宮を去ったエレノアは、領地に戻り、 干渉しない・依存しない・無理をしない ただそれだけを軸に、静かに領地運営を始める。 一方、王となったアルベルトもまた、 彼女に頼らないことを選び、 「一人の判断に依存しない国」を作るための統治に身を投じていた。 復縁もしない。 恋にすがらない。 それでも、二人の選択は確かに国を安定へと導いていく。 これは、 交わらないことを選んだ二人が、 それぞれの場所で“続けられる世界”を完成させる物語。 派手なざまぁも、甘い溺愛もない。 けれど、静かに積み重なる判断と選択が、 やがて「誰にも壊せない秩序」へと変わっていく――。 婚約破棄から始まる、 大人のための静かなざまぁ恋愛ファンタジー

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

処理中です...