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辺境の地は、同盟関係を結んでいない隣国と接している。したがって辺境伯は、代々戦に長けた領主が務めていた。現在の領主も、父親から受け継いだその地を自らの軍隊を配備して治めている。
彼は、若いときに学友として同じ時を過ごした亡き国王とは親友の間柄だった。お互いに重い責任を帯びて、かつその責務を果たすことに使命を感じ努力していた。
国王が病の身体に鞭打って政務に励み、意に沿わない結婚に苦しんでいた時も、互いに手紙の遣り取りをして励まし支えていた。
辺境伯には想い人がいたが、その人に結婚前に先立たれてしまった。哀しみに塞ぐ伯爵を励ましたのはまた国王であった。
辺境伯は、かの想い人を忘れることは出来ず、今後も独り身であろうと覚悟をしていた。この領地には、誰か武勲を挙げた人物に赴任して貰えば良い、なるようになるだろうと。
そんな折り、密書が届けられた。差出人は国王陛下。何があったのかと書面を読んで驚いた。
しかし友人である王に一時でも情を交わす人が出来て良かった。死期を悟り、自分に後を頼むとは、友人としては哀しくとも有難い事だ。早速了解した旨を返送した。
そしてやってきた兄妹。優秀な二人は、戦のおそれのあるこの地には願ってもない人物であった。優しく気立て良い二人はすぐに城内の使用人達とも領軍の兵士達とも馴染んだ。妹を妻として籍に入れ、穏やかな生活が始まった。
男児が無事に産まれると、フレディと名付けて中央政府には自らの子供として登録した。
「フレディ様、随分剣の腕前が上がりましたな。流石は伯爵の御子息であらせられる」
「いえ、まだまだです。司令官殿には是非今後も厳しく稽古をお願いいたします」
「素晴らしい。次代も安泰ですな」
フレディは、頭脳にも剣にも長けて、銀髪、碧眼の美しい顔貌も相まって立派な青年に育っていった。偶然にも伯爵と亡き国王ともに銀髪、碧眼であったため、伯爵の子供として見ても違和感がなかった。
その頃王宮では、わがまま放題の王子と王子妃に周囲が振り回される日々。国民の事を思いやることもなく、人望ない贅沢三昧の王妃、王子、王子妃には、重税に喘ぐ国民の不満が高まっていた。
その隙をついて、遂に隣国が攻め入ってきたのだった。辺境伯は勿論先頭に立って応戦する。息子のフレディも、また医師と看護士である兄妹も彼らの戦いを支えた。
辺境で戦が始まったと伝えられた王宮では、宰相が王国騎士団を派遣し、王子にも指揮をとらせるべく会議を召集したが、なんと
「戦争なんて嫌だよ、騎士団長に任せるから必ず勝ってよね」
「そうよ、大事なたった一人の王子に何かあったらどうするの?私と王子は隣国から離れた保養地に疎開します。御父上は宰相として残ってなんとかしてください」
王妃は王子を連れて逃げてしまった。騎士団も辺境軍もこれでは士気が下がってしまう。宰相は、二人の逃亡を伏して援軍と補給をふんだんに遣い、何とか戦況を改善しようとした。
一方王子は、秘密裏にメイジーに疎開を伝えて同行させた。彼女もまた国の事よりも自分達の安全が第一の考えだったのだ。
「ルーベン様、ありがとうございます。私を連れていってくださるなんて」
「当たり前だよ、婚約者なのだから」
辺境での激しい戦闘が続くなか、援軍を得て伯爵は力の限り我が身を削って戦った。次第に好転する戦況。
そこで隣国も打って出た。一部の特殊部隊を保養地に潜り込ませたのだ。彼らは以前から王宮にスパイを送り込み、王妃や王子の行動を窺っていた。
保養地には、少ない近衛騎士団のみが同行している。逃げていることが分からないようにとの策であったが、これが裏目にでた。
只でさえ人望のない王妃達。少ない護衛はすぐに制圧され、彼らは人質になってしまった。
隣国に連れ去られ、尋問を受ける三人。
「国なんてあげるから私達を自由にして」
「そうだ、跡継ぎもいないんだから、傀儡の王で良い。隣国が支配して、王家には存続させれば皆問題ないだろう」
「私はただの婚約者で関係ないんだから真っ先に今すぐ放してよ」
国を思わぬ発言に、隣国政府も呆れるほどであったが、まずはこのまま生かして交渉に当たろう。宰相宛てに親書を送る。
「牢屋につないで、乱暴はせずに生かしておけ」
中央政府では、宰相が苦悩の表情を浮かべていた。可愛い娘と孫を助けたい。しかし人質にとられたのは己の失策だ。しかも逃がしたことも人質になっていることも殆どの貴族が知らないのだ。
ここで子や孫を取って、勝利目前の戦を落とせばクーデターは必至。自分も殺されるであろう。
彼は、若いときに学友として同じ時を過ごした亡き国王とは親友の間柄だった。お互いに重い責任を帯びて、かつその責務を果たすことに使命を感じ努力していた。
国王が病の身体に鞭打って政務に励み、意に沿わない結婚に苦しんでいた時も、互いに手紙の遣り取りをして励まし支えていた。
辺境伯には想い人がいたが、その人に結婚前に先立たれてしまった。哀しみに塞ぐ伯爵を励ましたのはまた国王であった。
辺境伯は、かの想い人を忘れることは出来ず、今後も独り身であろうと覚悟をしていた。この領地には、誰か武勲を挙げた人物に赴任して貰えば良い、なるようになるだろうと。
そんな折り、密書が届けられた。差出人は国王陛下。何があったのかと書面を読んで驚いた。
しかし友人である王に一時でも情を交わす人が出来て良かった。死期を悟り、自分に後を頼むとは、友人としては哀しくとも有難い事だ。早速了解した旨を返送した。
そしてやってきた兄妹。優秀な二人は、戦のおそれのあるこの地には願ってもない人物であった。優しく気立て良い二人はすぐに城内の使用人達とも領軍の兵士達とも馴染んだ。妹を妻として籍に入れ、穏やかな生活が始まった。
男児が無事に産まれると、フレディと名付けて中央政府には自らの子供として登録した。
「フレディ様、随分剣の腕前が上がりましたな。流石は伯爵の御子息であらせられる」
「いえ、まだまだです。司令官殿には是非今後も厳しく稽古をお願いいたします」
「素晴らしい。次代も安泰ですな」
フレディは、頭脳にも剣にも長けて、銀髪、碧眼の美しい顔貌も相まって立派な青年に育っていった。偶然にも伯爵と亡き国王ともに銀髪、碧眼であったため、伯爵の子供として見ても違和感がなかった。
その頃王宮では、わがまま放題の王子と王子妃に周囲が振り回される日々。国民の事を思いやることもなく、人望ない贅沢三昧の王妃、王子、王子妃には、重税に喘ぐ国民の不満が高まっていた。
その隙をついて、遂に隣国が攻め入ってきたのだった。辺境伯は勿論先頭に立って応戦する。息子のフレディも、また医師と看護士である兄妹も彼らの戦いを支えた。
辺境で戦が始まったと伝えられた王宮では、宰相が王国騎士団を派遣し、王子にも指揮をとらせるべく会議を召集したが、なんと
「戦争なんて嫌だよ、騎士団長に任せるから必ず勝ってよね」
「そうよ、大事なたった一人の王子に何かあったらどうするの?私と王子は隣国から離れた保養地に疎開します。御父上は宰相として残ってなんとかしてください」
王妃は王子を連れて逃げてしまった。騎士団も辺境軍もこれでは士気が下がってしまう。宰相は、二人の逃亡を伏して援軍と補給をふんだんに遣い、何とか戦況を改善しようとした。
一方王子は、秘密裏にメイジーに疎開を伝えて同行させた。彼女もまた国の事よりも自分達の安全が第一の考えだったのだ。
「ルーベン様、ありがとうございます。私を連れていってくださるなんて」
「当たり前だよ、婚約者なのだから」
辺境での激しい戦闘が続くなか、援軍を得て伯爵は力の限り我が身を削って戦った。次第に好転する戦況。
そこで隣国も打って出た。一部の特殊部隊を保養地に潜り込ませたのだ。彼らは以前から王宮にスパイを送り込み、王妃や王子の行動を窺っていた。
保養地には、少ない近衛騎士団のみが同行している。逃げていることが分からないようにとの策であったが、これが裏目にでた。
只でさえ人望のない王妃達。少ない護衛はすぐに制圧され、彼らは人質になってしまった。
隣国に連れ去られ、尋問を受ける三人。
「国なんてあげるから私達を自由にして」
「そうだ、跡継ぎもいないんだから、傀儡の王で良い。隣国が支配して、王家には存続させれば皆問題ないだろう」
「私はただの婚約者で関係ないんだから真っ先に今すぐ放してよ」
国を思わぬ発言に、隣国政府も呆れるほどであったが、まずはこのまま生かして交渉に当たろう。宰相宛てに親書を送る。
「牢屋につないで、乱暴はせずに生かしておけ」
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