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侯爵家当主は、男性アルファにふさわしい体躯と頭脳を持っており、やや閉鎖的な考えの人物だった。
女性オメガの妻を伯爵家から娶った。妻とは政略結婚であるので、二人とも愛はなくとも情はわき、侯爵家を盛り立てるために、課された役割を果たすべく生活した。
まず男児が誕生する。
「よくやった。跡継ぎの男児だな」
「この子は、育てやすくしっかりしています。アルファかも知れないわ」
「尚更手柄だ、褒美に宝石を贈ろう」
次にまた男児が誕生。
「これでスペアができた」
「少し小さくか弱いので心配ですわ。私、女の子も欲しいんですの」
最後に女児が産まれる。
「珠のような女の子だ、嫁入りで我が家と縁を結ぶ役にたってくれそうだな」
「かわいいわ。着飾らせて良い所へ嫁がせたいです」
家督を継ぐ兄。体格に恵まれ、強く頭脳にも恵まれた。やっと産まれた女の子で蝶よ花よと育てられた妹。
その間に入ったミシェル。頭脳明晰で小さくかわいらしい顔、金髪碧眼で美しく、優しい性格であったにも関わらず、父にも期待されない、母にも愛されない。
自分なんか要らない子なんだ。次第に自己評価が下がり、いつも悲しげな表情になっていった。
兄がアルファと判定された。
「これで我が家は安泰だな」
スペアであるという価値さえ無くなって、次にミシェルをオメガ判定が突き落とした。
「男オメガの貰い手は限られるぞ」
しかしそんな折り。内密に宰相から手紙が届いた。アルファであるかははっきりしない王子を、支えアルファの子供を産めるオメガの王子妃を探している。王家に絶対的な忠誠を誓う家柄でなくてはならない。適任がいれば推薦せよと。
「これだ、ミシェルの貰い手は」
「でもアルファを産めないと処分されるのではありませんか?男オメガですし気に入って頂けるかしら」
「忠誠を誓うには最も良い機会を逃すものか。上手く行けばより我が家を取り立てて頂けるんだぞ。子が産めるかは結婚しないとわからんだろう。むしろオメガがいるのに断りでもしたら、どうなることか」
「そうですね」
「ミシェル、お前をルーベン王子の妃候補として推薦する。外に候補があるかもしれないが、負けるでないぞ」
「えっ、そんな…まだオメガとわかったばかりですのに」
「お前の意見は聞かぬ。これからは婚約者と同様に王子妃教育を受け、身持ちを正して王子との交流に励め」
そんな…僕には希望を言う機会もないなんて。まだまだ学園で学んだり、沢山の友人を得たり、恋をしたかったのに。オメガとわかって唯一の希望は運命の番と出会い、結ばれること。王子殿下はベータだという噂だ。僕には運命を探すことも出来ない。
しかし父に反論は出来ず、これを受け入れるしかない。一人部屋で涙を流すミシェルだった。
その時点で、ルーベン王子より年下のオメガ貴族は残念なことにミシェルただ一人だった。
王宮に呼ばれ、父と共に王妃殿下、王子殿下に謁見。その場には宰相閣下も同席された。
「お前がミシェルか。男オメガなんか好きじゃないけど、仕方がない。妃として必ずアルファを産めよ。私は側妃を求めるが文句は言うな」
「そうよ、あなたが男だからしょうがないの。我慢なさい」
初めから側妃を求める、お前なんか愛さないと貶められるなんて。深く頭を下げ続けながらミシェルは絶望的感にめまいがした。
それからは、王宮に通っては教師に礼儀作法、国の歴史や貴族家、諸外国の歴史と状況といった事柄を叩き込まれた。
元より努力家で頭の良かったミシェルは、教師の期待以上に王子妃教育を修めて行った。仕方ない、国の為に尽くそうと努力重ねたミシェルであったが
「お母様、私、王妃様になりたいの。一年早く産まれたからって、お兄様だけずるいわ」
一年後、妹のメイジーがオメガと判定されたのだ。
「王子様だって、可愛い女の子の私のほうが好きに決まってるじゃない。お兄様より下の嫁ぎ先しか残ってないなんて、ずるいわ、ひどいわ」
母に甘やかされたメイジーは、何でも自分のものにしたがる。特に一つ上のミシェルを自分より下に置きたがり、馬鹿にしていた。
今回も、ミシェルから奪うのが楽しいだけで王子妃や王妃の責務に考えが及んでいるとは思えなかった。
「ねえ、お父様、私も王宮で謁見させてよ。うちの家にとっては、私が嫁いでも利益は変わらないでしょ?」
婚約者を替えて欲しいなど、そんな面倒な事を許して良いのか、これまで受けた教育が無駄になるではないか。何のために蔑まれながらも励んできたのか。ミシェルの気持ちなどお構い無く父はメイジーを王妃殿下、王子殿下に会わせてやると決めてしまった。
「ミシェルとの婚約内定は破棄された。婚約者はメイジーになった」
「まあ、ありがとうお父様」
「良かったわね、メイジー。王子妃教育をきちんと受けるのよ」
「はい、お母様。でもルーベン様ったらお兄様より私のほうが好きだっておっしゃったのよ。妃教育だって簡単で大丈夫よ。好かれている私のほうが子供も産まれる可能性が高いわ」
「そうなると選ばれなかったミシェルには、今後良い縁談は望めないわね」
「そうだな。王家でないならうちより家格が低いところになる。それでも金のある家に嫁がせたいがな」
もう何もしらない、考えない。父に駒としてお金で取引されるのだ。生きる気力も湧いて来ない。一人部屋で気の沈むミシェル。
さらに追い討ちをかけるように
「王宮の先生が、お兄様より私のほうが頭が悪いみたいに言うの、失礼しちゃうわ」
「まあ、なんて失礼な教師だこと」
「お兄様の顔なんて見たくない。比較されるなんてまっぴらよ」
妹のわがままでミシェルは王都のタウンハウスを出されて、辺境に近い侯爵家の領地で療養という名の縁談待ちをさせられる事になった。
むしろ、こんな家族に疎まれる状態で暮らすよりも良いかもしれない。自然豊かな領地は心の安寧を得られるだろう。一人ミシェルは旅立った。
女性オメガの妻を伯爵家から娶った。妻とは政略結婚であるので、二人とも愛はなくとも情はわき、侯爵家を盛り立てるために、課された役割を果たすべく生活した。
まず男児が誕生する。
「よくやった。跡継ぎの男児だな」
「この子は、育てやすくしっかりしています。アルファかも知れないわ」
「尚更手柄だ、褒美に宝石を贈ろう」
次にまた男児が誕生。
「これでスペアができた」
「少し小さくか弱いので心配ですわ。私、女の子も欲しいんですの」
最後に女児が産まれる。
「珠のような女の子だ、嫁入りで我が家と縁を結ぶ役にたってくれそうだな」
「かわいいわ。着飾らせて良い所へ嫁がせたいです」
家督を継ぐ兄。体格に恵まれ、強く頭脳にも恵まれた。やっと産まれた女の子で蝶よ花よと育てられた妹。
その間に入ったミシェル。頭脳明晰で小さくかわいらしい顔、金髪碧眼で美しく、優しい性格であったにも関わらず、父にも期待されない、母にも愛されない。
自分なんか要らない子なんだ。次第に自己評価が下がり、いつも悲しげな表情になっていった。
兄がアルファと判定された。
「これで我が家は安泰だな」
スペアであるという価値さえ無くなって、次にミシェルをオメガ判定が突き落とした。
「男オメガの貰い手は限られるぞ」
しかしそんな折り。内密に宰相から手紙が届いた。アルファであるかははっきりしない王子を、支えアルファの子供を産めるオメガの王子妃を探している。王家に絶対的な忠誠を誓う家柄でなくてはならない。適任がいれば推薦せよと。
「これだ、ミシェルの貰い手は」
「でもアルファを産めないと処分されるのではありませんか?男オメガですし気に入って頂けるかしら」
「忠誠を誓うには最も良い機会を逃すものか。上手く行けばより我が家を取り立てて頂けるんだぞ。子が産めるかは結婚しないとわからんだろう。むしろオメガがいるのに断りでもしたら、どうなることか」
「そうですね」
「ミシェル、お前をルーベン王子の妃候補として推薦する。外に候補があるかもしれないが、負けるでないぞ」
「えっ、そんな…まだオメガとわかったばかりですのに」
「お前の意見は聞かぬ。これからは婚約者と同様に王子妃教育を受け、身持ちを正して王子との交流に励め」
そんな…僕には希望を言う機会もないなんて。まだまだ学園で学んだり、沢山の友人を得たり、恋をしたかったのに。オメガとわかって唯一の希望は運命の番と出会い、結ばれること。王子殿下はベータだという噂だ。僕には運命を探すことも出来ない。
しかし父に反論は出来ず、これを受け入れるしかない。一人部屋で涙を流すミシェルだった。
その時点で、ルーベン王子より年下のオメガ貴族は残念なことにミシェルただ一人だった。
王宮に呼ばれ、父と共に王妃殿下、王子殿下に謁見。その場には宰相閣下も同席された。
「お前がミシェルか。男オメガなんか好きじゃないけど、仕方がない。妃として必ずアルファを産めよ。私は側妃を求めるが文句は言うな」
「そうよ、あなたが男だからしょうがないの。我慢なさい」
初めから側妃を求める、お前なんか愛さないと貶められるなんて。深く頭を下げ続けながらミシェルは絶望的感にめまいがした。
それからは、王宮に通っては教師に礼儀作法、国の歴史や貴族家、諸外国の歴史と状況といった事柄を叩き込まれた。
元より努力家で頭の良かったミシェルは、教師の期待以上に王子妃教育を修めて行った。仕方ない、国の為に尽くそうと努力重ねたミシェルであったが
「お母様、私、王妃様になりたいの。一年早く産まれたからって、お兄様だけずるいわ」
一年後、妹のメイジーがオメガと判定されたのだ。
「王子様だって、可愛い女の子の私のほうが好きに決まってるじゃない。お兄様より下の嫁ぎ先しか残ってないなんて、ずるいわ、ひどいわ」
母に甘やかされたメイジーは、何でも自分のものにしたがる。特に一つ上のミシェルを自分より下に置きたがり、馬鹿にしていた。
今回も、ミシェルから奪うのが楽しいだけで王子妃や王妃の責務に考えが及んでいるとは思えなかった。
「ねえ、お父様、私も王宮で謁見させてよ。うちの家にとっては、私が嫁いでも利益は変わらないでしょ?」
婚約者を替えて欲しいなど、そんな面倒な事を許して良いのか、これまで受けた教育が無駄になるではないか。何のために蔑まれながらも励んできたのか。ミシェルの気持ちなどお構い無く父はメイジーを王妃殿下、王子殿下に会わせてやると決めてしまった。
「ミシェルとの婚約内定は破棄された。婚約者はメイジーになった」
「まあ、ありがとうお父様」
「良かったわね、メイジー。王子妃教育をきちんと受けるのよ」
「はい、お母様。でもルーベン様ったらお兄様より私のほうが好きだっておっしゃったのよ。妃教育だって簡単で大丈夫よ。好かれている私のほうが子供も産まれる可能性が高いわ」
「そうなると選ばれなかったミシェルには、今後良い縁談は望めないわね」
「そうだな。王家でないならうちより家格が低いところになる。それでも金のある家に嫁がせたいがな」
もう何もしらない、考えない。父に駒としてお金で取引されるのだ。生きる気力も湧いて来ない。一人部屋で気の沈むミシェル。
さらに追い討ちをかけるように
「王宮の先生が、お兄様より私のほうが頭が悪いみたいに言うの、失礼しちゃうわ」
「まあ、なんて失礼な教師だこと」
「お兄様の顔なんて見たくない。比較されるなんてまっぴらよ」
妹のわがままでミシェルは王都のタウンハウスを出されて、辺境に近い侯爵家の領地で療養という名の縁談待ちをさせられる事になった。
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