4 / 6
4
しおりを挟む
勝利間際の辺境に、報せがもたらされた。相手国と宰相双方からで、王妃、王子、王子の婚約者を捕らえたとの内容だ。隣国からは戦争を放棄して、属国となれば王家を存続させると。人質の三人は国を売る発言をしている。宰相からは、国を守りしかし人質も救助すべしと。
戦に勝ってから人質奪還に向かって間に合うのだろうか。すると王家後継者のいなくなったこの国はどうなってしまうのか。
しかしこの勝利を目前にして放棄など出来ない。どれだけの被害が及ぶか。今までの戦争の犠牲者も報われぬ。
騎士団長、伯爵、辺境軍司令官は急遽作戦会議を行う。その場で伯爵は目を閉じ、深く頷くと大きく目を見開いた。
「今こそ、その時だ。真実を告げよう。ここに正統な王家の継承者がいる」
「フレディこそ、亡き国王から私が託された彼の息子。アルファであり、継承順第一位だ」
「これまで我らが闘ってきたのは何のためか。属国となって重税が更に課されれば民を苦しめる事になる。自衛のために我が辺境軍は生きて、身を捧げてきたのだ。まずは勝とう。王妃殿下、王子殿下が助からずとも王家が途絶える事はない」
「私は亡き親友ルードのためにも、この国を守りたいのだ。宰相が横槍をいれてもこちらには王の密書と王家の秘宝がある!クーデターも辞さず。闘うのみ」
辺境の軍はこの宣誓によって士気を高め、遂に戦に勝利した。
敵国からは、役に立たなかった人質達は、金銭との交換に応じるとの報せが届けられた。
宰相は、貴族議会により戦況に混乱を生じさせ、王家の人質をとられたという采配の責任を取って罷免された。
また国を捨て逃げようとして捕らえられた人質は、金銭での交換には応じるものの王にはふさわしくないと保養地に軟禁される事になった。
王子としてフレディが認められ、立太子することが閣議で決定された。
「フレディよ、黙っていて済まなかった。これからは王子として王宮に赴き、国を治め、民を守ってくれ」
「父上。あなたのお陰で私も母、叔父とも幸せに暮らしてこられました。当地や皆のもとは離れがたいです。もう少し、こちらの復興を手伝わせてくださいませんか」
「そうか。では、あと少しだけ力を借りよう。隣地侯爵領に、戦で不足した材木、石材、農産品を購入できるように頼んで欲しい。王都には手紙を送ってあるが、領地には息子殿がおられるようで、実際の手配はその方に頼むようにとの事であったのだ。軍司令部からの遣いと共に、侯爵領地に行って契約書を交わし、配送に取り掛かって欲しい」
「かしこまりました。すぐに向かいましょう」
侯爵領では、この地に来てからとても穏やかに明るい笑顔を見せることも増えたミシェルが暮らしていた。
タウンハウスにいたときのように妹の意地悪や両親の冷たさに心を抉られることがなく、自然の中で花を愛で、木々を育てて過ごしていた。
戦争の報せがあり、戦地に近いこちらを離れるべきかと考えたが、この地を好きになっていたのだ。
そのうち、妹だけが王子殿下と共にいるため家を離れたらしいことは伝わるが、自分は何かあってもむしろここで骨を埋めても良いとさえ思った。
それが戦争勝利と、そして妹が王妃殿下、王子殿下と逃げた挙げ句人質になって、金銭で釈放されるも更に軟禁される事になるとは。
しかし話を聞くと、あの傲慢な王妃殿下、王子殿下は国を守ろうともせず逃げて、あまつさえ国を売るような発言をしたらしい。王宮で自分を貶めた言葉の数々を思いだし、それもあるだろうと納得した。
しかし王妃になりたい、僕より多くの幸せを持たないと許せないと僕から何もかもを奪った妹。それが今は不遇な立場に置かれるとは、数奇なものだな。
いずれにせよ自分には関わりない事だといつも通り過ごしていたら、父から手紙が届けられた。いわく辺境伯領に、石材、木材等を高値で売ることになったので、契約書にサインをして、配送の手配をするようにと。
がめつい父も兄もこちらに来るのが面倒なのだろう。そのように差配すれば、怒られることもない。今は貴族間の力関係も大きく変わっている時期である。どの家が強くなるか分からない現状では縁談を強制されるのもまだ先になることだろう。
ミシェルは了承の連絡をして辺境からの使者を待つ事にした。これが人生を大きく変えることになるとは、思ってもいなかった。
戦に勝ってから人質奪還に向かって間に合うのだろうか。すると王家後継者のいなくなったこの国はどうなってしまうのか。
しかしこの勝利を目前にして放棄など出来ない。どれだけの被害が及ぶか。今までの戦争の犠牲者も報われぬ。
騎士団長、伯爵、辺境軍司令官は急遽作戦会議を行う。その場で伯爵は目を閉じ、深く頷くと大きく目を見開いた。
「今こそ、その時だ。真実を告げよう。ここに正統な王家の継承者がいる」
「フレディこそ、亡き国王から私が託された彼の息子。アルファであり、継承順第一位だ」
「これまで我らが闘ってきたのは何のためか。属国となって重税が更に課されれば民を苦しめる事になる。自衛のために我が辺境軍は生きて、身を捧げてきたのだ。まずは勝とう。王妃殿下、王子殿下が助からずとも王家が途絶える事はない」
「私は亡き親友ルードのためにも、この国を守りたいのだ。宰相が横槍をいれてもこちらには王の密書と王家の秘宝がある!クーデターも辞さず。闘うのみ」
辺境の軍はこの宣誓によって士気を高め、遂に戦に勝利した。
敵国からは、役に立たなかった人質達は、金銭との交換に応じるとの報せが届けられた。
宰相は、貴族議会により戦況に混乱を生じさせ、王家の人質をとられたという采配の責任を取って罷免された。
また国を捨て逃げようとして捕らえられた人質は、金銭での交換には応じるものの王にはふさわしくないと保養地に軟禁される事になった。
王子としてフレディが認められ、立太子することが閣議で決定された。
「フレディよ、黙っていて済まなかった。これからは王子として王宮に赴き、国を治め、民を守ってくれ」
「父上。あなたのお陰で私も母、叔父とも幸せに暮らしてこられました。当地や皆のもとは離れがたいです。もう少し、こちらの復興を手伝わせてくださいませんか」
「そうか。では、あと少しだけ力を借りよう。隣地侯爵領に、戦で不足した材木、石材、農産品を購入できるように頼んで欲しい。王都には手紙を送ってあるが、領地には息子殿がおられるようで、実際の手配はその方に頼むようにとの事であったのだ。軍司令部からの遣いと共に、侯爵領地に行って契約書を交わし、配送に取り掛かって欲しい」
「かしこまりました。すぐに向かいましょう」
侯爵領では、この地に来てからとても穏やかに明るい笑顔を見せることも増えたミシェルが暮らしていた。
タウンハウスにいたときのように妹の意地悪や両親の冷たさに心を抉られることがなく、自然の中で花を愛で、木々を育てて過ごしていた。
戦争の報せがあり、戦地に近いこちらを離れるべきかと考えたが、この地を好きになっていたのだ。
そのうち、妹だけが王子殿下と共にいるため家を離れたらしいことは伝わるが、自分は何かあってもむしろここで骨を埋めても良いとさえ思った。
それが戦争勝利と、そして妹が王妃殿下、王子殿下と逃げた挙げ句人質になって、金銭で釈放されるも更に軟禁される事になるとは。
しかし話を聞くと、あの傲慢な王妃殿下、王子殿下は国を守ろうともせず逃げて、あまつさえ国を売るような発言をしたらしい。王宮で自分を貶めた言葉の数々を思いだし、それもあるだろうと納得した。
しかし王妃になりたい、僕より多くの幸せを持たないと許せないと僕から何もかもを奪った妹。それが今は不遇な立場に置かれるとは、数奇なものだな。
いずれにせよ自分には関わりない事だといつも通り過ごしていたら、父から手紙が届けられた。いわく辺境伯領に、石材、木材等を高値で売ることになったので、契約書にサインをして、配送の手配をするようにと。
がめつい父も兄もこちらに来るのが面倒なのだろう。そのように差配すれば、怒られることもない。今は貴族間の力関係も大きく変わっている時期である。どの家が強くなるか分からない現状では縁談を強制されるのもまだ先になることだろう。
ミシェルは了承の連絡をして辺境からの使者を待つ事にした。これが人生を大きく変えることになるとは、思ってもいなかった。
753
あなたにおすすめの小説
陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)
ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。
僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。
隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。
僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。
でも、実はこれには訳がある。
知らないのは、アイルだけ………。
さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした
Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち
その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話
:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)
婚約破棄された令息の華麗なる逆転劇 ~偽りの番に捨てられたΩは、氷血公爵に愛される~
なの
BL
希少な治癒能力と、大地に生命を呼び戻す「恵みの魔法」を持つ公爵家のΩ令息、エリアス・フォン・ラティス。
傾きかけた家を救うため、彼は大国アルビオンの第二王子、ジークフリート殿下(α)との「政略的な番契約」を受け入れた。
家のため、領民のため、そして――
少しでも自分を必要としてくれる人がいるのなら、それでいいと信じて。
だが、運命の番だと信じていた相手は、彼の想いを最初から踏みにじっていた。
「Ωの魔力さえ手に入れば、あんな奴はもう要らない」
その冷たい声が、彼の世界を壊した。
すべてを失い、偽りの罪を着せられ追放されたエリアスがたどり着いたのは、隣国ルミナスの地。
そこで出会ったのは、「氷血公爵」と呼ばれる孤高のα、アレクシス・ヴァン・レイヴンだった。
人を寄せつけないほど冷ややかな瞳の奥に、誰よりも深い孤独を抱えた男。
アレクシスは、心に傷を抱えながらも懸命に生きようとするエリアスに惹かれ、次第にその凍てついた心を溶かしていく。
失われた誇りを取り戻すため、そして真実の愛を掴むため。
今、令息の華麗なる逆転劇が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる