運命の番マッチングシステムで出会ったのは、蒼い眼の英語講師でした

こたま

文字の大きさ
3 / 7

3

しおりを挟む
「はじめまして。ルーカス・リチャードソンです。短い期間になりますが宜しくお願いします」

 教壇に背の高いモデルのような風貌の男性が立って挨拶をした。滑らかな日本語はむしろ違和感を感じさせる。

 番のいるオメガ男性である担任よりも頭一つは背が高い。にっこりと微笑みながら彼は教室全体を見渡した。
 その視線が戻って悠希を捕らえた。すると、上がっていた口角が真っ直ぐになり、微かに震えだした。

「先生。ごめんなさい。すぐに離れないといけない」

 担任に告げると入ってきたばかりの扉を開け外に飛び出した。告げられた担任教師は何事かとクラスを見回し、顔を真っ赤にして机にすがり付きながらやはり震えている悠希に気がついた。

「羽村君、どうしました?」
「せんせ、あ。は、い…」
「まさか。発情?」
「おかし…い、です。おわったばかり…よくせ、ざい、のんできて…」
「すぐに保健室へ!行きましょう。誰か隣のクラスの先生に伝えて!」
「はい。僕が行きます!」

 悠希は教師に支えられ、ふらつく足を動かして保健室にある隔離ルームへ向かった。みのりが隣室の教師に有事を知らせた。

「は。あ...」
「大丈夫?」
「どうし、て…」

 悠希は隔離ルームに入ると養護教諭に渡された緊急抑制剤を追加服用し、水分を取ってベッドにまるまった。

「は…」

 しばらくして落ち着きを取り戻すとドアをノックして養護教諭に知らせた。

「先生」
「羽村君。大丈夫?」
「はい。どうしたんでしょう、僕。発情期は終わったばかりですし、毎日抑制剤は忘れていません。これまで効かなかった事はないんです」
「そうね。何かあったのよね?今日は早退して病院に行ったほうが良いわ」
「はい」
「お迎えを呼びますね」
「はい」

 悠希は母に申し訳ないが仕方ないと思った。

「悠希。おまたせ。大丈夫?」
「お母さん。ごめんなさい」
「謝らないで良いのよ。体調回復が先。病院に行きましょう」

 二人はタクシーで病院に受診した。学校から連絡してくれていたのでほとんど待ち時間なく悠希は診察に呼ばれた。母は外で待つと言い、悠希独りで医師と向かい合う。

「先生。僕、どうしたんでしょうか?」
「そうだね。びっくりしたね。学校からの連絡によると発情期も終わったばかりで抑制剤も服用していたのに発情のような症状が現れたんだね?」
「はい。急に。今朝も忘れずに飲みました。いつもと同じ時間に、同じ錠剤でした」
「そう。フェロモンチェッカーで数値を見ておこうね。今日何か変わったことはあった?」
「あ。え、と。英語の先生が挨拶をして教師を見渡した時に。どくんって、心臓がとまるような感じがしました」
「英語の先生?」
「はい。アメリカからネイティブの講師で一年間だけ日本に来ている大学生だそうで。アルファだと聞いていますが」
「その人、抑制剤は飲んでいるんだよね?」
「はい。そう聞いています。教室内の他のオメガの学生には何も起きませんでした。発情みたいなのは僕だけです。でも先生も顔を青くして震えながら外に飛び出して行ったようなので、僕のフェロモンを感知していたのかと?」

「それか!その人と悠希君の相性が天文学的に良かったのかも知れない」

 結果の出たばかりのフェロモン値は充分に下がっていた。薬が効いていないというわけではないと説明が追加された。

「英語の先生が僕と相性が良いんですか?」
「その可能性はあるね」
「そうしたら、次の講義の機会はどうしましょうか?」
「念のため会わないようにする?学校で問題が起きると不味いよね」
「そうですね。保健室に行っておきます。普段の抑制剤は、強いものにしなくて大丈夫でしょうか?」
「とりあえずそのまま様子をみよう。何かあったらすぐにおいで」
「はい。ありがとうございました」

「お母さん、終わったよ」
「うん。大丈夫だった?」
「うん。実はね…」

 英語の先生が相性が良すぎて予期せぬ発情が起きた可能性を説明されたこと、抑制剤は今のまま様子を見ること、何かあれば緊急で受診すること。
 母に説明するのは恥ずかしさもある悠希であったが、大事なことである。しっかり話して自宅にタクシーで帰宅した。

「疲れたでしょう?夕食はこっちで一緒に食べる?」
「今日フェロモンがあがったばかりだから止めとく。独りで食べるよ」
「気を遣わせてごめんね。お母さんがおかずを作って持っていくね」
「うん。お願い」

 今日チラっとしか見なかった英語講師。あまり良く見えなかったその姿を思い起こしながら悠希は独り食事を取って休んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断られるのが確定してるのに、ずっと好きだった相手と見合いすることになったΩの話。

叶崎みお
BL
ΩらしくないΩは、Ωが苦手なハイスペックαに恋をした。初めて恋をした相手と見合いをすることになり浮かれるΩだったが、αは見合いを断りたい様子で──。 オメガバース設定の話ですが、作中ではヒートしてません。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話

BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。 ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。

【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした

鳥居之イチ
BL
———————————————————— 受:久遠 酵汰《くおん こうた》 攻:金城 桜花《かねしろ おうか》 ———————————————————— あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。 その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。 上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。 それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。 お呪いのルールはたったの二つ。  ■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。  ■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。 つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。 久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、 金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが… ———————————————————— この作品は他サイトでも投稿しております。

昨日まで塩対応だった侯爵令息様が泣きながら求婚してくる

遠間千早
BL
憧れていたけど塩対応だった侯爵令息様が、ある日突然屋敷の玄関を破壊して押し入ってきた。 「愛してる。許してくれ」と言われて呆気にとられるものの、話を聞くと彼は最悪な未来から時を巻き戻ってきたと言う。 未来で受を失ってしまった侯爵令息様(アルファ)×ずっと塩対応されていたのに突然求婚されてぽかんとする貧乏子爵の令息(オメガ) 自分のメンタルを救済するために書いた、短い話です。 ムーンライトで突発的に出した話ですが、こちらまだだったので上げておきます。 少し長いので、分割して更新します。受け視点→攻め視点になります。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

王子と俺は国民公認のカップルらしい。

べす
BL
レダ大好きでちょっと?執着の強めの王子ロギルダと、それに抗う騎士レダが結ばれるまでのお話。

俺は完璧な君の唯一の欠点

一寸光陰
BL
進藤海斗は完璧だ。端正な顔立ち、優秀な頭脳、抜群の運動神経。皆から好かれ、敬わられている彼は性格も真っ直ぐだ。 そんな彼にも、唯一の欠点がある。 それは、平凡な俺に依存している事。 平凡な受けがスパダリ攻めに囲われて逃げられなくなっちゃうお話です。

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

処理中です...