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「はじめまして。ルーカス・リチャードソンです。短い期間になりますが宜しくお願いします」
教壇に背の高いモデルのような風貌の男性が立って挨拶をした。滑らかな日本語はむしろ違和感を感じさせる。
番のいるオメガ男性である担任よりも頭一つは背が高い。にっこりと微笑みながら彼は教室全体を見渡した。
その視線が戻って悠希を捕らえた。すると、上がっていた口角が真っ直ぐになり、微かに震えだした。
「先生。ごめんなさい。すぐに離れないといけない」
担任に告げると入ってきたばかりの扉を開け外に飛び出した。告げられた担任教師は何事かとクラスを見回し、顔を真っ赤にして机にすがり付きながらやはり震えている悠希に気がついた。
「羽村君、どうしました?」
「せんせ、あ。は、い…」
「まさか。発情?」
「おかし…い、です。おわったばかり…よくせ、ざい、のんできて…」
「すぐに保健室へ!行きましょう。誰か隣のクラスの先生に伝えて!」
「はい。僕が行きます!」
悠希は教師に支えられ、ふらつく足を動かして保健室にある隔離ルームへ向かった。みのりが隣室の教師に有事を知らせた。
「は。あ...」
「大丈夫?」
「どうし、て…」
悠希は隔離ルームに入ると養護教諭に渡された緊急抑制剤を追加服用し、水分を取ってベッドにまるまった。
「は…」
しばらくして落ち着きを取り戻すとドアをノックして養護教諭に知らせた。
「先生」
「羽村君。大丈夫?」
「はい。どうしたんでしょう、僕。発情期は終わったばかりですし、毎日抑制剤は忘れていません。これまで効かなかった事はないんです」
「そうね。何かあったのよね?今日は早退して病院に行ったほうが良いわ」
「はい」
「お迎えを呼びますね」
「はい」
悠希は母に申し訳ないが仕方ないと思った。
「悠希。おまたせ。大丈夫?」
「お母さん。ごめんなさい」
「謝らないで良いのよ。体調回復が先。病院に行きましょう」
二人はタクシーで病院に受診した。学校から連絡してくれていたのでほとんど待ち時間なく悠希は診察に呼ばれた。母は外で待つと言い、悠希独りで医師と向かい合う。
「先生。僕、どうしたんでしょうか?」
「そうだね。びっくりしたね。学校からの連絡によると発情期も終わったばかりで抑制剤も服用していたのに発情のような症状が現れたんだね?」
「はい。急に。今朝も忘れずに飲みました。いつもと同じ時間に、同じ錠剤でした」
「そう。フェロモンチェッカーで数値を見ておこうね。今日何か変わったことはあった?」
「あ。え、と。英語の先生が挨拶をして教師を見渡した時に。どくんって、心臓がとまるような感じがしました」
「英語の先生?」
「はい。アメリカからネイティブの講師で一年間だけ日本に来ている大学生だそうで。アルファだと聞いていますが」
「その人、抑制剤は飲んでいるんだよね?」
「はい。そう聞いています。教室内の他のオメガの学生には何も起きませんでした。発情みたいなのは僕だけです。でも先生も顔を青くして震えながら外に飛び出して行ったようなので、僕のフェロモンを感知していたのかと?」
「それか!その人と悠希君の相性が天文学的に良かったのかも知れない」
結果の出たばかりのフェロモン値は充分に下がっていた。薬が効いていないというわけではないと説明が追加された。
「英語の先生が僕と相性が良いんですか?」
「その可能性はあるね」
「そうしたら、次の講義の機会はどうしましょうか?」
「念のため会わないようにする?学校で問題が起きると不味いよね」
「そうですね。保健室に行っておきます。普段の抑制剤は、強いものにしなくて大丈夫でしょうか?」
「とりあえずそのまま様子をみよう。何かあったらすぐにおいで」
「はい。ありがとうございました」
「お母さん、終わったよ」
「うん。大丈夫だった?」
「うん。実はね…」
英語の先生が相性が良すぎて予期せぬ発情が起きた可能性を説明されたこと、抑制剤は今のまま様子を見ること、何かあれば緊急で受診すること。
母に説明するのは恥ずかしさもある悠希であったが、大事なことである。しっかり話して自宅にタクシーで帰宅した。
「疲れたでしょう?夕食はこっちで一緒に食べる?」
「今日フェロモンがあがったばかりだから止めとく。独りで食べるよ」
「気を遣わせてごめんね。お母さんがおかずを作って持っていくね」
「うん。お願い」
今日チラっとしか見なかった英語講師。あまり良く見えなかったその姿を思い起こしながら悠希は独り食事を取って休んだ。
教壇に背の高いモデルのような風貌の男性が立って挨拶をした。滑らかな日本語はむしろ違和感を感じさせる。
番のいるオメガ男性である担任よりも頭一つは背が高い。にっこりと微笑みながら彼は教室全体を見渡した。
その視線が戻って悠希を捕らえた。すると、上がっていた口角が真っ直ぐになり、微かに震えだした。
「先生。ごめんなさい。すぐに離れないといけない」
担任に告げると入ってきたばかりの扉を開け外に飛び出した。告げられた担任教師は何事かとクラスを見回し、顔を真っ赤にして机にすがり付きながらやはり震えている悠希に気がついた。
「羽村君、どうしました?」
「せんせ、あ。は、い…」
「まさか。発情?」
「おかし…い、です。おわったばかり…よくせ、ざい、のんできて…」
「すぐに保健室へ!行きましょう。誰か隣のクラスの先生に伝えて!」
「はい。僕が行きます!」
悠希は教師に支えられ、ふらつく足を動かして保健室にある隔離ルームへ向かった。みのりが隣室の教師に有事を知らせた。
「は。あ...」
「大丈夫?」
「どうし、て…」
悠希は隔離ルームに入ると養護教諭に渡された緊急抑制剤を追加服用し、水分を取ってベッドにまるまった。
「は…」
しばらくして落ち着きを取り戻すとドアをノックして養護教諭に知らせた。
「先生」
「羽村君。大丈夫?」
「はい。どうしたんでしょう、僕。発情期は終わったばかりですし、毎日抑制剤は忘れていません。これまで効かなかった事はないんです」
「そうね。何かあったのよね?今日は早退して病院に行ったほうが良いわ」
「はい」
「お迎えを呼びますね」
「はい」
悠希は母に申し訳ないが仕方ないと思った。
「悠希。おまたせ。大丈夫?」
「お母さん。ごめんなさい」
「謝らないで良いのよ。体調回復が先。病院に行きましょう」
二人はタクシーで病院に受診した。学校から連絡してくれていたのでほとんど待ち時間なく悠希は診察に呼ばれた。母は外で待つと言い、悠希独りで医師と向かい合う。
「先生。僕、どうしたんでしょうか?」
「そうだね。びっくりしたね。学校からの連絡によると発情期も終わったばかりで抑制剤も服用していたのに発情のような症状が現れたんだね?」
「はい。急に。今朝も忘れずに飲みました。いつもと同じ時間に、同じ錠剤でした」
「そう。フェロモンチェッカーで数値を見ておこうね。今日何か変わったことはあった?」
「あ。え、と。英語の先生が挨拶をして教師を見渡した時に。どくんって、心臓がとまるような感じがしました」
「英語の先生?」
「はい。アメリカからネイティブの講師で一年間だけ日本に来ている大学生だそうで。アルファだと聞いていますが」
「その人、抑制剤は飲んでいるんだよね?」
「はい。そう聞いています。教室内の他のオメガの学生には何も起きませんでした。発情みたいなのは僕だけです。でも先生も顔を青くして震えながら外に飛び出して行ったようなので、僕のフェロモンを感知していたのかと?」
「それか!その人と悠希君の相性が天文学的に良かったのかも知れない」
結果の出たばかりのフェロモン値は充分に下がっていた。薬が効いていないというわけではないと説明が追加された。
「英語の先生が僕と相性が良いんですか?」
「その可能性はあるね」
「そうしたら、次の講義の機会はどうしましょうか?」
「念のため会わないようにする?学校で問題が起きると不味いよね」
「そうですね。保健室に行っておきます。普段の抑制剤は、強いものにしなくて大丈夫でしょうか?」
「とりあえずそのまま様子をみよう。何かあったらすぐにおいで」
「はい。ありがとうございました」
「お母さん、終わったよ」
「うん。大丈夫だった?」
「うん。実はね…」
英語の先生が相性が良すぎて予期せぬ発情が起きた可能性を説明されたこと、抑制剤は今のまま様子を見ること、何かあれば緊急で受診すること。
母に説明するのは恥ずかしさもある悠希であったが、大事なことである。しっかり話して自宅にタクシーで帰宅した。
「疲れたでしょう?夕食はこっちで一緒に食べる?」
「今日フェロモンがあがったばかりだから止めとく。独りで食べるよ」
「気を遣わせてごめんね。お母さんがおかずを作って持っていくね」
「うん。お願い」
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