転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される

こたま

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 四の刻になった。文献も読んだし、なんならお茶とフルーツを煮たコンポートみたいなおやつも頂きのんびりしていた。暇だったので書棚にあった恋愛小説も読んでみた。これは異種間恋愛を描いたもの。アルの趣味かわからないけど、種族の壁を超えて幸せをつかむカップルの話だった。

「お待たせした。夕食にしよう。一緒にダイニングルームに行かないか?」

 アルが迎えに来てくれて、手を繋いで絨毯のひかれた廊下を進んでいく。始めに連れてこられて以来だが全体がとても広い。

 大きな扉が開かれた。中央には長い机に椅子がいくつも並んでいる。周囲に給仕の人や植物の鉢が並ぶ。

「さあ、ここへ」

 僕を気遣っているのか、人型ばかりだがちょっと見えた奥の厨房には獣耳や尻尾を持つ人や、顔が獣のひとも見えた。アルと並んで座ると。

「はじめまして、ハルト様。料理長でございます。どうぞよろしくお願いいたします。料理に関しましてご指摘がございましたら直ちに改善に取り組みます。ぜひご遠慮なくお知らせくださいませ。顔を人型に変化できずお見苦しい点をご容赦ください」

 頭を下げたのは馬の顔に人間の体の獣人男性だった。

「大丈夫です。先程昼に頂いたお料理もとても美味しかったです。僕はポーちゃんっていう馬を小さい頃から飼っていたので恐怖感も無いんです。よろしくお願いしますね」
「ありがとうございます。お優しいお言葉に心より感謝申し上げます」

「夕食を始めて貰おう」
「畏まりました」

 まず出てきたのは野菜の煮こごりのような前菜。続いて野菜のスープ、それから魚のムニエルのような料理。
 炭水化物は無いのだろうか、見渡していると長めの米を細かい野菜と煮たリゾットのようなものとパンが出て来た。パンは硬いので小麦主体で牛乳などは入っていない感じがする。
 タイ米に近い米だ。水を多めにみりんを入れて炊けば白米としても美味しいんじゃなかろうか。小麦があるなら色々試せそうだ。
 なんだかワクワクしてきた。あとお酒はあるのかな?

「ん?どうした?」
「僕の世界と似たものを探したり調理法を考えていたので。アル、お酒は飲むの?」
「ああ。あるよ。グラスと酒を出して欲しい」

 給仕の人がガラスの器を持ってきて、そこにワインのような物が注がれた。

「ワインだ。美味しそう」
「果実を発酵したものだよ」

 ちょっと口をつける。うん、酸味が少しだけ強いけどワインだ。美味しい。であれば発酵を生かした食品や薬品があるか、無くても何とかすれば作れるな。

「どうだろう?」
「美味しい。発酵技術は応用が効くからこれも色々楽しみだ」
「ハル。顔色が良く楽しそうな表情になってきたな。私もとても嬉しい」
「うん。楽しみが出来てきた。明日はもっと色んな本を読ませて欲しい。見たいところもあるよ」
「わかった。時間を取ろう。環境に慣れながら無理をしないで欲しい」
「そうだね。アルは今日借りた本、読んだの?王妃の手記は読めた?」
「ああ。残念だが王妃の書いたものは読めなかった。ハルは読めたのか?」
「読めたよ。英語だ。歴史書には女性の番を呼んで子供が二人産まれ亡くなった事が記されていた。王子が二人いたらどちらが王位を継ぐの?他の一人はどうなるの?」
「強い方が継ぐ。もう一人は城を出て自分の領地を治める」
「そうか。予想通りだ。王妃の手記には、獣人を怖がり王を愛せず無理に子を産まされた事、子供がライオンに変化する事を受け入れられなかった事が書いてあった。王は王妃の気持ちを理解せずに立て続けに二人の子供を産ませた。食事も合わなかったらしいし、王の配慮が足りないと感じた。でも三冊目の古い王の日記には呼んだ男性がオメガになって、番として愛し合って子供が産まれ孫も産まれたことを見届けていると言う記載がある。アルはそれを読んで僕が出産出来て長く生きると思ったんだね?」
「そうだ。王妃の手記は読めなかったが、何となくは内容を予想していた。転生者に対する配慮が足りなかった王の態度には、子孫として申し訳なく出来ることなら王妃に謝罪したい。しかしハルは聡明で理知的だな。あの本を読んで落胆する事なく、事実を整理して確認することが出来るとは」
「うん。理科系だからね。でも落ち込んだよ。可哀想で悲しかった。でもあれを見て良かったよ。僕も愛し合った過去の王様のような幸せを掴みたい。悲嘆するより前向きに頑張りたいんだ。その為にはゆっくりこの環境に慣れながら自分の体がどうなっていくのか、見定める必要があると思う。アルと好き合えるのかも経過観察が必要だ。愛のない婚姻は不幸だから、僕はアルに僕の気持ちが整うことを待って貰いたいと思う」
「わかった。これまで長く待っていたのだ。君に無理を強いていることも自覚している。私はハルの気持ちや身体が整うことを待つと誓う。その間に貴方に好かれる努力をしよう」
「ありがとう。アルの言葉を信用する。それとこれから色々勉強したら国を見て回りたい。何か役に立つことがあるかも知れないからね」

 その日の夕食は、有意義な話しあいが出来たと思った。アルがわかってくれて良かった。食事を美味しく頂いて、翌日に城の図書館に連れていってもらうと約束した。今日もまた怒涛の1日だったな。
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