転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される

こたま

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 おそらく妊娠期間190日頃。ちょうどヒトとライオンの間あたり。僕のお腹をポンポンと蹴る足が、触るとはっきりしている。これは踵なんだろうな、小さい…可愛いな。と実感していたのだが

「痛っ!」
「ハルト様、大丈夫ですか?」
「痛…痛い…」

 ぎゅーっとお腹が痛くなって少し楽になった。はあ。はあ。痛かった。するとまた痛みがぎゅーっと。

「また、痛い…」

 お腹を抱え込むようにして、痛みを遣り過ごす。痛い。とても痛い。

「こちらへ。横になりましょう」

 ベッドに連れていかれて横になる。ここ最近、僕の部屋には妊娠経験豊富なお世話係が増えて、いつ出産でも大丈夫と言う体制になっている。
 だんだん痛みの感覚が短くなっていて、出産が近づいていることがわかった。牛のお産には関わったことがあるが人の出産は知らない。しかもオメガ男性の出産なんて聞いたことも無いのだから出たとこ勝負だ。

「うー…痛い、痛い」
「ハルト様、しっかり」
「ハルト様頑張って!」

 皆で代わる代わる僕の腰を擦ったり手を握って、励ましてくれる。この子だって頑張っているんだ。帝王切開とかも無いんだし、僕も頑張るしか方法が無い。痛みをこらえながら数時間が経った。

「う…、う~」


「オギャア、オギャア...」
「産まれましたよ!」
「はあ…は…あ」

 疲れはてた僕の背中を擦ってくれる人がいる。水をくれたり、皆優しく労ってくれた。
 その一方で赤ちゃんをリノさんが沐浴させて布で拭いてくるんでくれた。赤ちゃんの泣き声が力強くて嬉しい。
 少し落ち着いたところで僕の胸に抱かせてくれた。僕は背中にクッションを沢山置いて、半身を起こして貰い、楽な姿勢を取っている。

 腕に抱いた赤ちゃん。人の赤ちゃんの形であるが少し小さめである。肌は僕くらいの白さで、金色の髪がうっすら生えている。目を閉じているからまだ瞳はわからない。泣き止んだ顔がとても可愛い。暖かい。柔らかくて甘い匂いがする。

「わあ。可愛い。暖かい。赤ちゃんてミルクの匂いがしますね」
「はい。甘くて可愛らしくて、今だけの匂いですよ。とてもしっかりした元気な男の子です。おめでとうございます。陛下にお伝えして参ります」

 リノさんが去って暫く、外からバタバタと走る音が聞こえて来た。アルは普段落ち着いていて、有事で無ければ走ったりしないから珍しいけど多分アルの足音だ。

「ハルト!無事か!?ありがとう」

 扉を開けて入ってきたアル。すると

「ふぎゃあ、ふんぎゃあ」
「あ、ごめんね。赤ちゃん」
「すまない」
「アル、声を小さく」
「本当に申し訳ない…つい」
「仕方ないよ。待ち望んだ子供だもんね」
「ハル。前にも言ったが貴方を愛しているんだ。子供の為ではなくハルが私の最愛だ」
「ありがとう」
「体調は?」
「何とか。元気な男の子だよ」
「ありがとう。愛しているよ」

 アルが小さな声で話ながら赤ちゃんを抱く僕をそっと抱き寄せた。頭に何度もキスをして、その後頬に、唇にもキスを降らせる。赤ちゃんも泣き止んだ。

 さて、良かったが問題はこれからだ。あと産はどうなる?胎盤は勝手に出てくるの?こんな薄い胸から母乳は出るの?離乳食どうする?あー!わからないことだらけだ。頭を抱えたいのはこれからの育児だよ。悩む僕の心境を察したリノさん。

「ハルト様、大丈夫ですよ。獣人の子供は生命力旺盛です。ライオン族の子だくさんな主婦の方にもお手伝いを頼んでおります。亡くなられた前王妃様の分もわたくしたち一同、精一杯のお手伝いをさせて頂きますのでどうぞご心配なく」
「リノさん。皆さん。ありがとう。よろしくお願いします」


 アルも僕も部屋の婦人達に頭を下げてお願いをした。何もわからないのだ。経験者の教えほど確かなものはない。リノさん。頼りにしてます。

「じゃあ、少し気分が落ち着いたところで、この子の名前どうする?」
「ハルが決めてくれないか」
「ええ…っと。何か決まりはあるの?」
「○○バートが多いが決まりではない。ハルの功績だから、貴方の故郷の名前で良いし、ハルが決めるのがふさわしい」
「う~ん。…ランバートどう?ランちゃん。可愛くない?」
「良いな。ランバート。皆如何だろう?」
「素敵ですわ」
「素晴らしいお名前です」
「そう?ならランバートで決まりね。ランちゃん。よろしくね」
「わたくしどもはラン様でよろしいですか?」
「はい。お願いします」

 赤ちゃんを、僕はランちゃん。アルはラン、皆はラン様と呼んでくれることになった。
 ランちゃんは育てやすくて強い子供だ。熱は出さないし、僕のも乳母さんのもミルクをしっかり飲んですくすく育っている。
 あっという間に体重も身長も伸びて、重湯をのんで、パン粥を食べてと離乳食も進んできた。

「あーん!あーん」
「ランちゃんどうしたの?お腹空いた?おしめかな?」

 火が着いたように珍しく泣き叫ぶランちゃん。どうしたんだ?何かあった?すると…

「ギャ…」
「うわっ!」

 ポンっ!と音を立ててランちゃんが白いライオンの赤ちゃんになった。

「ホワイトライオン!可愛い!」

 赤ちゃんライオンは、大きめの白い猫のよう。体毛が薄くてふわふわと柔らかくてぬいぐるみみたいだ。

「可愛い!可愛い。すごい、ランちゃん。全身獣型だとお人形だよ」
「ラン様凄いです。赤ちゃんで完全な獣型とは。とても強い力をお持ちですわ」
「そうなんだ。ランちゃん褒められたよ。やったね」

 わきゃわきゃとランちゃんを抱っこして楽しくしていたら、またポンっと人型に戻った。

「ん?ランちゃん終わり?」

 そうしたら泣くでもなく静かに眠るランちゃん。

「何だったんだろうね?」
「初めての変身にお疲れでしょう。このままお休みになられたらよろしいかと」
「ふうん。そうなんですか…かわいかった。また見たいな」
「直ぐに見られますとも」

 ランちゃんがアル同等のとてつもない力を秘めたアルファの王子に育つ事をこの時の僕は知らなかった。
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