転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される

こたま

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「陛下、ハルト様。大変恐縮ですがご相談がございます」
「どうした?言ってみてくれ」

 突然、アルの執務室で宰相からの言葉。

「お暇を頂けませんか?」
「そんな事は急に認められん。理由は何だ?」

 キツネ種族のアルファ獣人である宰相は、義父が村長であり、王城で出仕しているのは、義兄やその子が後を継ぐ事が出来ると考えてのことであった。
 しかし義兄が亡くなり、義父も体調を崩している。甥はまだ村長を務められる年齢や経験に達しておらず、義父が回復せねば村に行きたいのだそうだ。

「何とか義父が治れば良いのですが。甥も急に後ろ楯を相次いで亡くすのは忍びなく...」
「何のご病気何ですか?」
「わからないのです」
「僕に会わせて貰えませんか?」

 ランちゃんをリノさん達に頼んで早馬で宰相、アルと村長さんの元へ行く。

「息子さんはどのような症状で亡くなられたのですか?村長さんの体調は?」

 そこで得られた情報は、肝臓のある右腹部の腫大や腹水、黄疸など。調べてもらうと複数の患者さんが出ているらしい。
 これは…多分僕の地元のあれだ!

「エキノコックスだろうと思います」
「それは?」
「寄生虫の一種。糞便などから感染しますし、症状が出るのに十年以上。数十年かかることも。感染対策を行う前にかかった方が今症状が出ているのでしょう」
「治るのでしょうか?」
「肝臓の嚢胞性腫瘤を手術で取るしか有りません」

「それは…出来るのだろうか?」
「うーん。小型の獣型だったら、或いは…でも、僕の経験も足りません。必要な物が他にも多く有りますので実現は難しいかと...」

 ざっと考えても衛生的な手術室、麻酔、消毒、メス、針と糸、痛み止め、出来れば抗生物質…難しいかも知れないな。手術経験も乏しい。ましてやヒトの手術は出来ないから完全に獣型でなければ困難だろう。

「可能でしたら挑戦してみて頂けませんか?義父を実験材料と考えて頂くのも構いません。他にも患者がいることがはっきりしました。このまま放置するのはどうかと。本人も同胞を助けるためならばと、そのように申しております」
「どうしたら良い?難しいと思うけれど...」
「アル。この国にあるもので挑戦出来るならやってみよう」

 大忙しで城に戻り、強力を頼んだ。メイドさん達には、手術室と布の煮沸消毒。細く強くて溶ける糸と丁度良い針を探してもらう。麻の茎からとれる糸の一種に良いものが見つかった。針も消毒しておく。
 料理長には鋭いメスを。石や鋼をなめしたナイフから使えそうな物を炎で滅菌。
 馬獣人の騎士さん達には馬術用よりも薄い手袋を探してもらう。僕のサイズの小さな手袋。これも消毒しておく。
 アルコール消毒はもう出来ているから麻酔と痛み止め。図書館の夫婦に毒キノコなどから一時的な意識障害を来したり多幸感を起こすものを探して貰う。

「人道的に麻酔効果を健康な人で試せなかった。効果ははっきりしないよ。あと手術もうまくいくかわからないし。術後の感染対策の抗生物質も出来なかったから、とても心配だ」

 アルに泣き言を言う。止めてしまった方が良いのか。でもそうしたら死を待つばかりになる。村長さんがもう運ばれて来ている。手術は明日なのだが気持ちが落ち着かず、逃げ出したいくらいだ。

「ありがとう。それだけ頑張ってくれたんだ。何があっても誰もハルを恨んだりしないよ」

 アルに抱きしめてもらって少し落ち着いた。よし。頑張ってみよう。寝る前には、すでに夢の中のランちゃんを抱きしめ、エネルギーをもらって、翌日。

「よし、皆、手伝いどうもありがとう。もう少しだけ、手伝って下さい」

 キノコで眠るキツネ型村長さんの腹。毛を刈り、皮膚を消毒してメスで切り、肝臓を確認。大きな腫瘤を摘出してから速やかに縫合して止血する。腹を縫って清潔な布で覆う。どうか細菌感染しませんように。意識が戻ると痛みを感じないキノコを定期的に与え、頻回に消毒しておく。水分を与え食事は我慢して貰い、そして数日後。

「すごい。傷が塞がってる。糸も吸収されて無くなった。手術成功だ」
「やったな」
「ハルト様。ありがとうございます」
「お疲れ様。ゆっくり休んでくれ」
「うん。少し休むからランちゃんをお願いね」


 村長さんを機に1人ずつ一週間ごとに手術を重ねた。僕の技術も上がって、ヒト型が残ってしまう方でも何とかなるようだ。僕の故郷だったら完全に医師法違反になってしまう。手術が終わって遂に患者さんが居なくなった。新しい感染例は今のところ確認されず、治療成功と思われた。感染対策を継続して新規症例を監視していく必要はあるけれど。


「アル。皆が助かったのは良かった。けど、良かったのかな?生態系に異常な負荷はないと思うけど」
「大丈夫。ハルを神が選んだのだ。これも想定内の出来事だろう。ありがとう。我が最愛の番。貴方は私にとって唯一の神の使いだ。心配せずにお休み」

 アルに抱っこされていると安心する。疲れた心に沁みる。

「一緒にお風呂入ろ?今日は抱っこして連れて行って欲しい。ベッドでもふもふさせてくれない?」
「お安いご用だ」

 アル。ありがとう。好きだよ。キスをしてくれてまた安心した。今日は久しぶりに安眠できそうだ。起きたらランちゃんと遊ぶぞ。
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