王宮魔術師オメガは、魔力暴走した王子殿下を救いたい

こたま

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「殿下、クリス殿下」
「…リン?」
「はい。リンです」
「リン!離れろ!すぐに部屋を出るんだ!」
「殿下、出ません。殿下をお助けしたいです。近寄ります」

 クリスはベッドにうずくまっていた。いつもはさらさらと整えられている金髪がぐしゃぐしゃに乱れていた。
 クリスの白い肌は赤黒く染まり、熱が体内を駆け巡っていることが伺い知れた。
 理知的な優しい蒼い瞳は充血してつり上がり、額には汗が滲んでいた。

 リンはその姿に恐れよりも悲哀を感じた。クリスがこんなに苦しんでいるのだ、何とかしてあげたい。やはり自分はクリスが好きなんだと再確認をしていた。

「殿下。手を繋ぎましょう?魔力を流せば治るかも知れません。僕の魔力と相性が良いといいです。うまく流せるのか自信はありませんが」
「リン。出て行ってくれ。こんなあさましい姿を見られたくない。リンを襲ってしまいたくないんだ」
「殿下。聞いてください。クリス殿下。大好きです。愛しています。殿下がいなければ生きてはいけません。どうか僕と触れて」
「リン。何と?」
「殿下が好きなんです」
「ああ。リン。愛している。だから出ていって欲しい」
「いいえ!」

 リンは、ベッドに乗り上がり、クリスに抱きついた。そしてクリスの手の甲に自分の小さな手を重ねて、魔力を感じようとつとめた。

(確かに。殿下の中には黒く熱い魔力がぐるぐるとして、体を突き破りそう。でも、所長が言ったように薄めれば。そして、糸のはじっこのようなとっかかりを掴めば…)

 リンはありったけの魔力を出した。自分の特徴のない強い魔力は透明にも水色にも見える。それでクリスの黒い魔力を薄め、少しずつ絡まった糸を解いて流していく。

「は!あ。少し、熱がひいてきた」
「はい。殿下。もう少しです」
「リン。リン。触れたい。愛したい。しかしダメだ。なのに我慢出来ない...うッ」
「殿下。そうだ!精を放つと良いって。キスをしながら、殿下の精を放ちましょう。大丈夫です。僕も殿下と触れ合って愛し合いたいです」
「リン。愛している。いずれは私と結婚して番になって欲しい」
「はい。喜んでお受けします。先程陛下と父の承諾も得ました」
「リン!ありがとう。愛しているよ」
「殿下、僕も殿下を愛しています」

「リン。キスをしていいか?」
「はい」

 クリスは少し顔色が良くなり、血走っていた眼球結膜は白さを取り戻していた。
 ベッドに膝立ちしたクリスは、同様に膝をついているリンの両の肩をそっと抱いて、唇を触れあわせた。

 リンは、その唇の柔らかさ、優しさに勇気を得て、残った魔力を振り絞るとクリスの毛糸のように絡まった最後の黒い塊をほどきにかかった。

「ふ、あ」
「もう一度、良い?」
「はい」

 唇を何度も触れあわせ、クリスはリンを強く抱き締めた。クリスは布越しの接触からも暖かいリンの魔力の波が体を癒し、楽にしているように感じた。

「クリス殿下。前が昂っておいでですね」
「リン。すまない。見ないでくれ」
「僕もです。殿下とキスをしたらとても気持ち良かった」
「リン。可愛い。リンは優しいな。美しく、魔力もそのフェロモンも温かい。初めて会ったときからずっとだ。心から愛しているよ」
「僕も殿下の薫りはとても好きです。落ち着きます。殿下の寝台で、殿下の残り香を嗅いで一晩眠れたんです」
「リン。一緒に。良い?」

 互いの起立を取り出すと、まとめて二人の手を使って高みを目指した。

「あ、あ‥」
「は。う」

 手に出されたお互いの精が混ざると、ふわりと光が二人を包みこんだ。良い香りのする花畑のような明るく穏やかな光に包まれ、クリスの体から黒い魔術は消失した。

「リン!ありがとう。好きだ」
「殿下。良かった…大好きです」
「すんでのところで抑えられた。ここでリンとの初めてを終えなかったこと、噛まなかったことが救いだ」
「殿下。僕のためを考えてくださって。嬉しいです。ありがとうございます」
「私自信の為でもある。さあ、外に出ようか。取り急ぎ婚約と結婚の算段をしないとな。リン!これからは名前で。殿下は無しで呼んで欲しい」
「はい。クリス」

 二人は、身なりを整えると、軽いキスを交わしてから、隔離室の前で待ち構えていた人達に向けてドアを開け放った。

「「クリス!」」「「リン」」

「皆さま、私はリンのお陰で魔術から開放されました。リンとは互いの気持ちを確認しています。私は欲に負けませんでした。陛下。私達は直ぐに婚約して結婚したいのです。今回の討伐の褒美に早急な結婚をお願い出来ますか?」
「クリス。勿論だとも」

「父上、よろしいですね?」
「ああ。リン。良くやった」

「俺はこれから徹夜で結婚式の準備に取りかかるよ。招待客のリストに招待状、やることが沢山だ。嬉しいよ」
「アーノルド。頼んだよ」

 その部屋にいた誰も皆が笑顔を浮かべていた。リンは、ほっとすると共に自分の不確定な魔力は、もしかしたらこのような時に役立つために神様が与えてくださったのかも知れないなと感慨深く考えていた。
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