これは恋でないので

鈴川真白

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迷わない

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 俺が見たい映画を一緒に見てくれて、映画の感想やお互いの考察を寿司を食べながら語った。

 何度かこれはデートと言っていいのか悩んだものの、言葉にはできなかった。

「この後、家来ませんか?」
「え、あ、うん」

 戸惑いつつ、うなずいた。春輝くんの家なら、俺もゆっくり話せるかもしれない。

 ショッピングモール内にある店でお土産用のケーキを買って、春輝くんの家へ向かった。

 春輝くんの家に行くのは二度目だ。それなのに、俺はずっと落ち着けなかった。

 そわそわする俺に、春輝くんは何も言わなかったけど何か感じているように感じた。

「理玖先輩、今日楽しくなかったですか?」

 春輝くんの部屋に入るなり、春輝くんは目を伏せて訊ねた。

「ずっと浮かない顔してますよ」
「マスクで顔隠れてるのにわかんの?」
「当たり前じゃないですか。俺がどんだけ見てると思ってるんですか」

 冗談めかして笑っている春輝くんだけど、さみしげなのは変わらない。座り込む両肩が小さく見えて、胸が痛む。

 俺はミニテーブルを挟んで向かい側ではなく、春輝くんの横に腰を下ろした。

「……実は、気になってることがあって」
「はい、何ですか?」
「俺らって、付き合ってるの? そうじゃねぇなら、付き合ってほしいって言おうと思ってて……いつ言うかタイミング見てた」

 たっぷり十秒ほど沈黙が続いて、春輝くんのまつげの長さをしっかり堪能できるほどだった。俺は「あの」とか「えっと」と言葉を繋ごうとするも、何と付け加えるべきかわからない。

「付き合ってないって思ったのは何ですか?」

 ようやく口を開いた春輝くんが、あちこちに目を泳がせる。思い当たることがなさそうに思えた。

「昨日言わなかったし……あと、何か、ちょっと距離が遠かった」

 気がした。マスクの中でもごもごと言いよどむ。誤解のないように伝えたいけど、俺の勘違いかもしれなくて自信がない。

「確かに、ちゃんと言わなかったですね。俺も付き合いたいって思ってるし……俺の中では付き合ってるつもりでいました」
「そうなんだ。え、じゃあ、距離遠かったのは俺の気のせい?」

 言ってよかった。安堵と一緒に笑みが滲む。けれど、もう一つ残る疑問も解消してしまいたかった。

 気のせいなら、謝りたい。

「あー、それは、俺が勢い余って理玖先輩にキスしそうになったんで反省したからです」

 付き合ってすぐとか、それ狙ったみたいじゃないですか。湯気が出そうなほど赤くなった春輝くんがだんだん下を向いてしまった。

「春輝くんなら、いいのに」
「俺ばっかり浮かれて一方的なことはしたくなかったから、だめですよ」
「……俺は、期待した」

 正直な気持ちを打ち明けると、心臓が破裂するんじゃないかってくらいに暴れ出した。ゆっくり顔を上げた春輝くんのアーモンド型の瞳が、微かに揺れる。

「マスク、外してもいいですか?」
「うん、いいよ」

 両手で耳の後ろの紐をとって、繊細なものを扱うように優しくマスクを外す春輝くん。

 少し目線を上げてまぶたを下ろすと、そっと首のあたりに手が添えられて息が止まった。春輝くんの指先が髪にも触れて、くすぐったい。

 唇が落とされて、柔らかな感触に肩に力が入る。薄く開いた隙間からリップ音が漏れた。

 頭がくらくらしてきて、ドンと春輝くんを叩く。

「そっ、そこまでは期待してねぇ」

 目を開けてすぐ抗議した。さっきまでの遠慮どこいったんだよ。

 春輝くんはクスクスと余裕の笑みだった。

「理玖先輩に期待されたからには、俺としてはそれ以上に応えないとかなって。てか、さっき茶碗蒸し食べてましたよね?」

 何で今それ、言いかけて俺は口ごもる。火がついたように熱が上がった。

 春輝くんもハッとした様子で「俺もさっき食べておいしかったなって思っただけです」と言った。絶対違うだろ。

「春輝くんとはしばらく口を聞きたくない」
「ほんとにすいません、すげー調子に乗りました」

 と、春輝くんのお母さんから買い物から戻ってきた音が聞こえて、慌てて距離を取る。そうして、顔を見合わせて笑った。

「嘘、たくさん話そうよ。柊奏多のドラマも見たい」
「もちろんです。おすすめのがあるんで、一緒に見ましょう」

 当たり前のように隣に座った春輝くんが、肩を寄せる。柊奏多の役どころや、話の流れを話す春輝くんが眩しかった。

 リモコンを持つ春輝くんの、さらさらの髪に触れる。ふ、と口元を緩めた春輝くんが「集中して見れなくなることやめてください」と言った。

「春輝くんもさっき俺の髪触ってたよね」
「あー、触りましたね。理玖先輩の髪って、何か柔らかいですよね」

 首の後ろあたりから撫でるように触って、俺の前髪を上げた春輝くん。

「前髪、やっぱ上げたほうが似合いますよ」
「うん。伸びてちょっと邪魔だから、春輝くんの前にいるときは上げとこうかな」

 せっかく似合うって言ってくれたし。

「俺の前だけでぜひお願いします」
「わかった、任せろ」

 目を細めて笑う春輝くんを見て、俺もはにかむ。

「じゃあ、そろそろ1話流しますよ」
「うん、すげぇ楽しみ」

 春輝くんの隣は息がしやすい気がする。

 彼に恋をしてよかったと、心の底からそう思った。
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