これは恋でないので

鈴川真白

文字の大きさ
15 / 16
迷わない

しおりを挟む
 次の日は無事復活できて、昼休みにいつもの場所で圭吾に春輝くんと付き合うことになった話をした。

「やっぱうまくいったか」
「やっぱって何だよ。個人情報の流出反対」

 思ってはないが、一応不満として伝えておく。春輝くんに風邪をひいた理由まで筒抜けなのは、ちょっと恥ずかしかった。

「昨日、春輝くんが教室来たときに理玖と何かあったんだろうなーって感じだったから色々教えた。住所勝手に教えたのは悪かったよ」
「全然いいけど、色々は気になる。え、住所と俺が風邪ひいた理由以外にもあんの?」

 にやにやする圭吾を横目に訊ねる。色々あったことも話すべきかなと悩んでいると、圭吾は気にする様子もなく口を開いた。

「内緒。けど、春輝くんが言ったら聞いていいよ。春輝くんがちょっと恥ずかしいってことかもしれないから」

 え、何それ。全然意味がわかんねぇんだけど。

 卵焼きを咀嚼して飲み込む。嫌な感じはしない。ただ答えを見つけられず、もやもやが広がる一方だった。

「俺が恥ずかしいってことではねぇの?」
「たぶん。あ、けど春輝くんに莉奈さんと付き合ってるの? とは訊いたかな」
「春輝くん何て?」
「隣にいる莉奈さんがありえませんって答えてた」

 莉奈さんもいたのかよ。その状況で訊ける圭吾すげぇな。

 どんな会話だったのかますます気になった。放課後、春輝くんとも会う予定だから訊いてみようかな。

 まずは莉奈さんに嘘をついたことを謝るつもりでいる。

「よかったな、理玖」
「うん、ありがとう」
「のろけはいつでも聞いてやるから、俺のも聞いて」
「圭吾のはいつも聞いてるだろ」

 おすすめのデートスポットは任せろよ、と言われて、心強かった。

 :
 :

 放課後、莉奈さんに謝りに行くと、先に莉奈さんからぺこぺこ謝られてしまった。がらんとした教室に莉奈さんの謝罪が響き渡る。

「そんな。ほんと、俺がいらない気を回してごめんね」
「いやもう全然! わたしは春輝のこと大事な親友だと思ってるけど、桑原先輩が嫌だなって思うなら一緒にイベント行くの減らすとかできるので」

 ううん、と慌てて首を横に振る。春輝くんだって莉奈さんのことを大事に想っているのは伝わる。俺がその関係性にとやかく言うつもりはまったくない。

「俺は好きな人を縛りたいと思ってないし、莉奈さんの大事な親友を取り上げようとも思ってないよ。だから、誤解していてごめんってことで許してほしい」
「許すも何も! わたしはめっちゃ嬉しいですよぉ」

 よかったねぇ、春輝。莉奈さんはにこにこしながら、隣にいる春輝くんの背中をバシバシ叩いた。春輝くんは「いって」と苦笑する。

「ちなみにわたしの好きな人のことって春輝から聞いてますか?」
「え、あ、好きな人がいるってことは」
「わたし、悠真が好きなんです。だから安心しててくださいね」

 一瞬よくわからなくて、間が空いてしまった。すかさず莉奈さんが「Asterの」と付け加えてくれたおかげで、理解した。

「そうなんだね。教えてくれてありがとう」
「いい人ですよねぇ。自分で言っといてあれですけど、普通引きません? アイドルのリアコとか」
「俺は、人を好きになるのもすごい勇気がいることだなって思うから。引くって感覚はわかんないかなぁ」

 莉奈さんは目尻を下げて微笑んだ。

「ありがとうございます。それじゃ、邪魔者は帰りまぁす」

 邪魔なんて思ってないよと俺が答えようとすると、春輝くんが「早く帰れよー」と茶化した。

「うるさい、言われなくても帰るから! 桑原先輩、春輝は桑原先輩と最初に会った後に感じ悪かったことを大反省会してましたからね! さようならっ!」

 まくし立てるように言って、莉奈さんは走って教室を飛び出してしまった。俺は「またね」と声をかけたが、聞こえなかったかもしれない。

 横を向いて、片手で口元を覆っている春輝くんに「大反省会したの?」と訊ねる。莉奈さんから、そのことを言われると思ってなかったみたいだ。

「……しました」

 莉奈のやつ、と呟く春輝くん。早く帰れと茶化した仕返しをされたんだから、仕方ないと思う。

「そうなんだ。いいこと聞いたなぁ」
「もういいでしょ。ほんとにあれは反省したんで!」

 よっぽど恥ずかしかったらしく、ほんのり頬に赤みが差している。かわいい。

 俺も圭吾と言い合うと勝てないから、春輝くんの気持ちがわかる。

「あ、ねぇ。春輝くん、そういや昨日って圭吾と何話したの?」
「それもこのタイミングで言います?」

 春輝くんが恥ずかしいかもって言われてたっけ。気になって訊いてしまった。言いたくなかったかな。

 話さなくてもいいよと言ってあげたいところだけど、知りたい。

 はー、と長く息を吐いた春輝くんは、覚悟を決めたようにこちらを向いた。

「……圭吾先輩って、理玖先輩の何なんですかって言いました。あの人、理玖先輩に対してのガードがすごいじゃないですか」
「うん?」

 ごめん、ちょっとよくわかんねぇな。あまりにも予想外の内容だった。

「理玖先輩が俺と莉奈を勘違いしたみたいに、俺も勘違いしてたってことです」
「えっ、そうなの!?」
「理玖先輩のこと絶対守るみたいな感じだったから、ずっと気になってたんです。そしたら、彼女との写真見せつけられましたっ」

 唇を尖らせる春輝くんに、俺は堪らず吹き出してしまった。お互いに間違った勘違いをしてたのか。

 しばらく笑っていると「俺らも帰りましょう」と、春輝くんに顔をのぞきこまれた。ね? と春輝くんが至近距離に来て、体温が一気に上がる。

 俺はぎゅっと目を閉じると「帰りどっか寄るのもいいですよね」と、耳にかけたマスクの紐を撫でられた。あ、マスクしてるから急にキスされるわけねぇのか。

 期待した自分の動揺を表に出さないように、明るい声で「そうだな」と言った。先を歩く春輝くんの隣に並ぶ。

「今日は適当に寄り道するのどうですか?」
「うん、いいね」

 さっきのことはなかったみたいに話す春輝くんに、何をしようとしたか訊ねられなかった。

「今週末は空いてますか?」
「空いてるよ」
「じゃあ、また映画でも見ません?」

 いいね、とうなずいて、あれこれ予定を立てた。

 駅に向かうまで遠回りをして、Asterの話をしたり、最近始まった柊奏多のドラマの話をしたりと、盛り上がった。すごく楽しかったけど、俺は何だか少し物足りない。

 人目が気になって、自分から手を繋ごうとも言い出せなかった。ちらちら視線を投げかけすぎて、怪しかったかもしれない。

「じゃあ、俺こっちなんで。また連絡しますね」
「うん、また」

 春輝くんに手を振って、俺は背を向ける。

 いつもと変わらなかった気がして、俺は昨日のできごとを頭の中でなぞった。

 春輝くんから告白されて、俺も告白して、お互いに好きってことがわかった。

 あれ、もしかして付き合う話にはならなかったか。告白で終わった。付き合ったつもりでいるのは俺だけで、春輝くん的に付き合ってねぇのかも。

 勝手にイコールで結びつけて勘違いしたら、また同じことを繰り返してしまう。俺から言ったら、付き合ってくれんのかな。これで断られたらどうしよう。

 ホームの向かい側にいる春輝くんと目が合って、もう一度手を振る。喉の奥がぎゅっと苦しくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

ガラス玉のように

イケのタコ
BL
クール美形×平凡 成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。 親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。 とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。 圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。 スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。 ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。 三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。 しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。 三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

全速力の君と

yoyo
BL
親友への恋心に蓋をするために、離れることを決めたはずなのに

優等生αは不良Ωに恋をする

雪兎
BL
学年トップの優等生α・如月理央は、真面目で冷静、誰からも一目置かれる完璧な存在。 そんな彼が、ある日ふとしたきっかけで出会ったのは、喧嘩っ早くて素行不良、クラスでも浮いた存在のΩ・真柴隼人だった。 「うっせーよ。俺に構うな」 冷たくあしらわれても、理央の心はなぜか揺れ続ける。 自分とは正反対の不良Ω——その目の奥に潜む孤独と痛みに、気づいてしまったから。 番なんて信じない。誰かに縛られるつもりもない。 それでも、君が苦しんでいるなら、助けたいと思った。 王道オメガバース×すれ違い×甘酸っぱさ全開! 優等生αと不良Ωが織りなす、じれじれピュアな恋物語。

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

一方通行の恋

天海みつき
BL
 恋人に振られてボロボロになった教師と、いつも笑顔で全てを覆い隠す傷ついた子供な生徒の恋物語。  ずっと先生が好きでした。高校三年生の春。桜の木の下で、青年は教師に告白した。返答は、「性別と歳を考えろ馬鹿が」。それでもめげない青年は教師に纏わりつき、いつしかその心を癒す。時間をかけて、青年を受け入れた教師は青年に想いを伝えるが、返答は意外なものだった。  こんな話が読みたい!と思った結果の慣れの果て。  思いつきで書いたため、かなり訳の分からない話と文章になっている気が……。何でも許せる人向け。深く考えないで読んでいただけるとありがたいです。  そして、もっと素敵なお話に昇華してくださる方をお待ちしております。

処理中です...