ショコラとレモネード

鈴川真白

文字の大きさ
2 / 22
淡く微笑む苦味

しおりを挟む
 どこにいるかの連絡を見なかったことにして、1人で家路に就く。駅のホームで友達らしき人たちといる貴臣を偶然見つけてしまい、視界に入らないよう気をつけながら帰っていたら、あっさり見つかった。友達に挨拶をして、貴臣が俺に駆け寄ってくる。

「雪斗も今帰りなんだ? 今は1人?」
「うん。1人で帰るとこ」
「良かった。俺も1人だから一緒に帰ろう」

 嘘つけ、と笑いそうになった。絶対に今友達と帰る流れだったのに俺のとこ来ただろ。俺の存在感を消す能力が貴臣だけには通用しない。

 ちょうど来た電車に乗り込んで、空いている席に腰を下ろした。あれだけ長く感じられた時間が急に流れるように感じられる。

「どうだった? 仲良くなった人いた?」

 貴臣の明るい声から、今日が楽しかったんだろうと伝わった。俺は早く帰ることばかり願っていた。隣り合わせで同じ電車に揺られているのに、ひどく遠くにいるように感じられる。

 喉の奥に何か張り付いたような息苦しさが拭えないまま、どうにか笑顔を作った。

「俺は全然。あ、でもゲームの友達? は1人だけ増えた」
「何それ。詳しく聞かせて」
「俺の話はいいよ。貴臣はどうだった?」

 貴臣が「そうだな」と天井を見つめて、思い出したようにクスクス笑った。その温度を共有できない俺は、冷えた手をブレザーのポケットへ入れる。カイロを持ってきておけばよかった。

 窓の向こうの青空は眩しい。ぎりぎり残っている桜の花びらが風で散っている。太陽の日差しはぽかぽかしていても、電車内の温度が心地よくても、俺の指先は冷えていた。

「やっぱいいよ。雪斗の話が聞きたい」
「俺は何もねぇよ。貴臣のが絶対色んなことあっただろ」
「えー、ゲームの友達って何? 誰?」

 言いつつ、貴臣がポケットにしまった俺の手をとって何かを握らせてきた。すぐにカイロだとわかったけど、自分の行動を見透かされているのが悔しくて「いきなりびっくりした」と呟く。ポケットに手を入れただけなのに、何でバレたんだ。

「雪斗用に持ってたやつ。あげる。今日寒いから、雪斗はいるだろうなと思ってた」
「え、俺用? ありがとう、助かる」

 うっかり素直にお礼を言ってしまった。貴臣の先回りはいつもすごい。これに甘えた結果出来上がったのが今の俺なので、反省はしないといけない。1年間は1人で乗り越える必要があるんだから。

 いつまでも頼りっぱなしではいられない。じんわり指先に広がる熱を握りしめる。

 明日からはカイロを持ってこよう。そのくらいは、自分でやるべきだ。

「で、ゲームの友達は?」

 話題が戻って、俺は瞬きを繰り返してしまった。どんだけ気になってんだよ。どう考えたって俺のは大した話じゃねえだろ。って、もったいぶる話でもないか。

「クラスの宇野ってやつがいて、同じゲームやってるって声かけられた。枠余ってたからフレンドになったんだけど、それだけだよ」

 ほら、貴臣はあんまやらないやつと付け加える。貴臣はスマホを触って、俺が話していたゲームを開いた。

 久しぶりに開いた人向けのログインボーナスがもらえていて、ちょっとうらやましい。

「これか。確かにあんまやってなかったかも。俺もまた始めようかな」
「忙しいんだからやめとけ。貴臣はスマホじゃなくて普通にゲームすればいいだろ。あっちは貴臣しかいねぇんだから、スマホに時間取られると困る」
「あー、そうだね。でも俺もフレンド新しく欲しいから、雪斗から宇野くんに頼んでみてよ」

 何で俺が、と声に出す前に貴臣が「このままだと自分から声かけたりしないでしょ」と付け加えられた。

「そんなことはねぇけど、俺が貴臣の分頼むの?」
「うん。俺はまだ会ったことないからね。雪斗からのほうがスムーズでしょ」
「まあ、そう言われてみるとそうかも」
「宇野くんがどんな人なのかも気になるし。頼んだよ」

 おやすみ、と隣で目を閉じる貴臣。しれっととんでもないミッションを置いて行かれた。宇野とそんなに仲良くなれたわけでもないのに、貴臣をフレンドにしてくれって俺から言うのか。

 俺が宇野にもう一度話しかけるためのきっかけをくれたのはわかるけど、もう少し低めのハードルにしてくれたっていいのに。宇野のことを全く知らないのに気になるって何でなんだろう。俺のこと心配してくれてんのかな。

 貴臣ってわかりやすくて、わかりにくいんだよな。手にとるようにわかることもたくさんあるし、そこに関しては俺が一番わかる自信もある。けど、今みたいなときには何を考えてのことなのかわからない。

 あっという間に眠りに落ちたらしい貴臣がカクンと首が動いて、反動で知らない人の方へいきそうになったのを慌てて支えた。貴臣の横の人に謝ってから、「寄りかかるならこっちにしとけよ」と微睡む貴臣に声をかけた。

「着いたら起こして……」
「おー。任しとけ」

 貴臣も意外と緊張して疲れたのかな。電車の振動とほのかな暖かさが心地いい。

 そっと動いてスマホゲームをつけると、ゲーム内のメールが1件来ていた。

 受信ボックスを確認すると、運営からのメールではなくフレンドからだった。機能があるのは知っていたけど、フレンドからメールが届くのは初めてだ。

 今日フレンドになった宇野からのメールで、開くと<今日はありがとう! よろしく>とあった。

 返信ボタンをタップして、<こちらこそよろしく>と送る。貴臣のことを文章にして、ゲームの規約に引っかかったら面倒なのでそれだけ。誰かに送ったのも初めてだった。

 連絡先、交換しとけばよかったかな。言われてないのにあの場で俺から言い出すのも微妙か。フレンド申請したかっただけで仲良くしたいわけじゃないかもしれない。

 窓の向こうはまだ見慣れない景色だ。これから少しずつ慣れていくんだろうか。1人になっても電車に揺られるこの時間を早いと感じられるのか。正直なところ、不安しかない。

 ゲームを始める前にメールの保護ボタンをタップした。

「……雪斗の家でゲームしよっか」

 貴臣の低い声が響いて、隣を見る。いつも通りの誘い。

「寝たんじゃねぇのかよ」
「寝てた。今思いついたから」
「はいはい、寝とけ。いつ言われたってどうせ俺は暇だよ」

 目を閉じたままうなずく貴臣の体が少しだけ俺の方へ傾く。その温もりに思わずふっと口元が緩んだ。何だか力が抜けて、胸の奥でつかえていたものが解けていく。

 1人のときがあっても、たまにはこうやって貴臣と帰れたらいい。

 教室で感じた焦燥感もこれからの不安も、さっきまでここにあったのに。今だけはもう、全部どうでもいいような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

自分勝手な恋

すずかけあおい
BL
高校の卒業式後に幼馴染の拓斗から告白された。 拓斗への感情が恋愛感情かどうか迷った俺は拓斗を振った。 時が過ぎ、気まぐれで会いに行くと、拓斗には恋人ができていた。 馬鹿な俺は今更自覚する。 拓斗が好きだ、と――。

処理中です...