ショコラとレモネード

鈴川真白

文字の大きさ
16 / 22
朝焼けに彷徨う

しおりを挟む
 窓の外から鳥のさえずりが聞こえて、ぼんやり目を開ける。朝の光が薄いカーテン越しに柔らかく差し込んでいた。ふぁ、とあくびをしようと腕を動かすと何かに引っかかった。

 ――は?

 頭がだんだんとクリアになって、俺はゆっくり瞬きをする。すぐ目の前には貴臣の寝顔があった。力を入れようとしていた腕を緩める。

 嘘、何で?

 淡い明るさが貴臣を照らしている。どうしてか狭い自分のベッドで、貴臣と並んで眠っていた。

「どういうことだよ……」

 大声を出しそうになった自分をどうにか抑えて、ため息まじりに独りごちる。

 どういう経緯で一緒に寝る流れになったんだっけ。目元を覆って思い返しても、記憶にない。念のためもう一度確認してみる。現実は変わらず、貴臣は起きる気配もなかった。

 あっちに布団は敷いてあるのに、なぜか俺はベッドの中。ベッドに戻ったのは何となく覚えているから、俺が貴臣の寝る場所に入っていったのかもしれない。

 寝息が聞こえるほどの距離。この近さでよく眠れたな、俺。今の今までぐっすりだった。隣にいることに気づきもしないままいた。

 貴臣の顔の前で手を振ってみても、反応がない。そーっと頬に触れて、その温もりに思わず顔がほころんでしまう。

 2人だけの時間がゆっくり流れていることが、不思議なくらい愛おしかった。寝ている貴臣だと、俺は下手に緊張することもないらしい。起きてこの距離でいられたら、とても平常心ではいられないだろう。

 俺が動いたら貴臣を起こしてしまいそうだ。もう一眠りするしかない。

 二度寝から覚めてもまだ貴臣は眠っていて、体調でも悪いのかと心配になってきた。貴臣は朝が得意だし、アラームがなくても普段は俺より早い。

 起こすべきが悩んでいる途中で、ようやく目を開けた貴臣が「おはよう」とふにゃりと笑った。

「おはよう、貴臣。俺より遅いなんて珍しいな」

 元気そうでよかった。たまには貴臣だって寝坊する日くらいあるよな。1人で納得していると「雪斗のせいで寝不足だった」と、まぶしそうに目を細めて貴臣があくびをした。

 とっさに理由がわからなくて、ひとまず俺から謝罪を口にする。昨日の覚えている限りの記憶を遡って、ゲームに負け続けて何戦も挑んだのを思い出した。最終的に、勝敗がどうなったかは曖昧だ。

 あんなに家の中で2人で過ごすことを意識していたはずが、いつの間にかゲームに熱中していた。ムードの欠片もない。

「俺が貴臣の寝てるとこに来た?」

 寝転んだときに貴臣が横にいた覚えはなかった。

「ううん、ちゃんと自分でベッド入ってたよ。ゲームやってる途中でいきなり寝たけど。雪斗、相変わらずカフェイン効果ないよね」
「うん。……ってことは、何かあって2人で寝たわけじゃないんだよな?」
「まだ寝ぼけてんの? 雪斗から一緒に寝ようって誘ってくれたのにひどいなぁ」

 唇を尖らせた貴臣が冗談めかして笑う。

 俺は体を起こして一応Tシャツと短パンはそのまま着ていることを確認した。体もとくに何も違和感はない。

「俺、貴臣に何かした?」
「雪斗が何かしてくるってことはないよ。俺にされたの間違いじゃない?」
「え、何もされてない……よな?」

 自分で言って不安になってきた。

 寝起きで突然起き上がったせいで、ちょっとくらっとした。その他は、いたって通常通りのはず。

「うん。雪斗はさっさと1人で寝たよ。おやすみって聞こえたと思って振り返ったらもう寝てた」

 何だ、俺が一緒に寝ようなんて言った話は貴臣の嘘か。安堵のため息を深く吐いた。

「貴臣に何もされなくてよかったってことでいいのか」
「まだ雪斗には早いでしょ。気長に付き合うって言ったから、そのうちね」
「そのうちかはわかんねぇけど……そのうちってことで。デートだったら、また行こう」

 今日はどこ行く? と訊ねると、貴臣はうつらうつらとしたまま「楽しみだね」と笑った。答えてくれたけど、答えになってない。まだ眠いらしく、まぶたがそのまま閉じてしまった。

 まあいいか、起きたらまた話そう。のんびり過ごすだけだっていい。タオルケットを貴臣のほうにかけてやる。

 貴臣が起きても、そんなに緊張感がなかった。寝ぼけた貴臣だと、俺も少しは余裕ができていい。

 ずっと寝てられたら寂しいから、悩ましいところだ。

 横になる前に俺は普段あんまり見ることのできない貴臣の寝顔を見つめる。貴臣は俺の前でよく寝るけど、この距離で寝るのはとくべつだ。

 恋人の寝顔、確かにこれは撮りたい。

「……ほんと、やばいなこれ」

 シャッター音が静かな朝を切り取る。安心しきってすやすやと眠る貴臣。

 うつむいて微笑む自分が妙にくすぐったく感じられた。こういうことか。この幸せな瞬間を収めておきたい。

 意味がわからないと思っていた貴臣の行動の心理が、俺にもよくわかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

自分勝手な恋

すずかけあおい
BL
高校の卒業式後に幼馴染の拓斗から告白された。 拓斗への感情が恋愛感情かどうか迷った俺は拓斗を振った。 時が過ぎ、気まぐれで会いに行くと、拓斗には恋人ができていた。 馬鹿な俺は今更自覚する。 拓斗が好きだ、と――。

処理中です...