17 / 22
朝焼けに彷徨う
4
しおりを挟む
夢の国へ誘おうか迷いながらアプリを開いた。タップしていくと、表示された待ち時間の長さに自然と眉が寄った。
今日でこれだけど、明日はどのくらい混んでるだろうか。
せっかく振替休日のおかげで平日の休みなんだから、有効活用したい。どこへ行こうか、貴臣の部屋で頭を悩ませている。
海のほうだとそろそろ寒かったりすんのかな。俺も貴臣も寒いのは得意じゃないから、やめておくか。
「なあ、貴臣……って、何でお前のロック画面俺!? つーか、おい待て。それいつ撮ったやつ!?」
ちらっとソファーに寄りかかる貴臣を見やると、スマホ画面が見えてしまった。おかげで明日の行き先どころではない。
「えー、わかんないよ。最近だったと思うけど、いつだったかなぁ」
花でも飛ばしてそうなほんわか加減に危うく「そっか」と返事をして流してしまいそうになった。
「誰かに見られたらどうすんだよ。やめとけ」
「ちゃんと後ろ姿にしてあるから大丈夫だよ」
いや、そういう話じゃねぇ。
「じゃあ、俺も貴臣のこと撮ってやる」
「嫌がると思ってるなら俺のことわかってないなぁ。雪斗のロック画面になれるなら喜んで撮られるよ」
はい、とこちらに目線を向けてくる貴臣。適当に撮ったのに、顔が良くて腹立たしい。これをロック画面にしたところで、他の人に見られても綺麗な顔だねって言われるだけだろうが。
写真撮られ慣れてるやつって腹立つな。あ、撮ってんの俺か。
撮った写真のフォルダを遡ってみると、思った以上に貴臣が増えている。
今撮った写真は他の人に見せたいと思わない。これは俺に向けられた顔だ、見るのは俺だけでいい。
「……撮っただけで満足したからいい。そんなことより、明日どっか行きたいとこねぇの?」
「あ、あるよ」
「お、いいじゃん。どこ?」
貴臣が即答した場所に「ああ」と俺はうなずいた。前に行ったのは去年か。
「そういや、貴臣とは行ってないな」
「そうだよ。案内してくれるって言うから、俺はずっと待ってたんだよ」
「待ってねぇで言えよ。俺もうすっかり忘れてたよ」
タツとも初めて行ったきりになっていた。楽しかったけど、距離があるからなかなか自分から行こうとはならない。
「案内してくれるんでしょ?」
貴臣が背後から俺の手元をのぞき込んだ。検索してアトラクションのページを表示させる。貴臣の視線を気にしつつ、フロアごとに見ていく。
「案内できるほど記憶は……けど、言ったからな。いいよ。チケット買おう」
前に買ったのは放課後で時間がないのもあって、アトラクションは2つのものだった。明日は時間もあるし、いくつか回れるだろう。
チケットページ開こうとした俺の手を止めて、貴臣がスマホに指を滑らせる。
「これ気になる。あと、これとか」
「じゃあ、アトラクション乗り放題ってのがあった気がするからチケットはそれにするか」
「うん。それがいい」
前売りチケットを買って、入場のためのQRコードを貴臣に送った。
「チケット送っといた。明日10時からみたいだから朝から行こう」
「ありがとう、後でチケット代送るね。すっごい楽しみ」
「うわっ、抱きつくな」
後ろからガバッと抱きつかれて、反応しようにも身動きが取れない。スマホを近くのベッドに放り投げて「落ち着け」と、今からはしゃぐ貴臣の腕をポンポン叩いた。
:
:
眠い目を擦りながらたどり着いた、青いネオンに照らされた空間。前とあんまり変わっている様子はなかった。
普段と同じくらいの時間に家を出て、電車の中でぐっすり眠ってしまった。昨日アトラクションを調べた後、ゲームで白熱してしまったせい。おかげで2人とも寝起きみたいになっていたのに、貴臣は到着してすぐに元気を取り戻していた。
「やっと来れた」
貴臣の目が輝いて、子供のようにジェットコースターを見上げる。
たぶん、タツに初めて連れてきてもらった俺と同じような反応だと思う。
「とりあえず、貴臣は何乗りたい?」と、大して詳しくもないのに先輩ぶって訊ねた。青く照らされた貴臣があれ、と指を差す。
平日ということもあって、人が全然いない。乗りたいアトラクションにスムーズに乗れそうだ。
「ジェットコースターがいい」
「よし、乗るか。行こ」
貴臣の腕をつかんで連れて行く。ジェットコースターの場所は印象に残っているから、マップがなくてもわかった。
安全バーを下げた瞬間、俺は前も思いっきり叫んだことを思い出したものの、今更どうにもできない。貴臣の声や他の人の声をかき消す勢いで俺の叫び声だけが響いていた。
終わった後、貴臣が隣でクスクス笑う。
「楽しかったね。雪斗の声すごかった」
「俺は貴臣が静かで心配だったよ……」
「えー、だってそんな大した感じじゃなかったから」
涼しい顔をしている貴臣が信じられない。俺の肩を擦りながら「飲み物いる?」とペットボトルの水を差し出してくれた。
ありがたくもらって、スマホで次のアトラクションを考える。
「貴臣はお化け屋敷行きたいんだっけ?」
スマホでマップを確認すると、お化け屋敷は3階だった。エスカレーターに乗って上の階へ向かう。
「うん、けど酔いそうなやつだからジェットコースターの後は微妙かも。違うのにしよう」
「え、俺ならもう大丈夫だって」
「俺が続けてだときついから」
貴臣が自分のスマホ画面をしばらく見つめて「これとかどう?」と、俺に画面を見せてくれた。
のんびりできそうな場所をあえて選んでくれたらしい。明らかに俺のためだった。
マップを確認して歩きながら「占い興味あんの?」と訊いてみる。
「興味がないわけじゃないよ」
貴臣が俺の指先をつかむ。貴臣は必ず指先をつかんで、俺の反応を見てから手を繋ぐ。
俺がちょっとでも微妙な反応をすると、貴臣はごまかすように手を引っ込めてしまう。いつでもいいと言ってあげたいけど、周りの目は気になってしまう自分がいる。
だからって、貴臣と手を繋ぎたくないわけじゃない。ってことは伝わってほしい。
人がいないのを確かめて、俺から手を絡めた。目を細めてきらきらした目をこっちに向けてくる貴臣を無視して、俺はスマホ画面に視線を落とした。こういうときの貴臣は言葉がいらなくて助かる。
「所要時間20分って、意外と色んな占いあんのかな」
詳しいことはあんまりわからない。カップルや友達同士の距離を縮めるのにおすすめと書いてあって、俺はあまり気乗りしなかった。
「せっかくだから相性占いやってみようよ」
「えー、それって相性悪かったらどうすんだよ。俺しばらく気にしそう」
激的に低かったら、俺のテンションに影響する。せっかくデートなんだし、テンションは下げないでいたい。
貴臣がぎゅっと繋いだ手に力を込めて顔を上げると、微笑みかけられた。
「悪かったら、そんなに悪いのに今一緒にいるってすごいことじゃない? それに、今までもずっと一緒にいたのに相性悪かったら占いが間違ってるよ」
「どっから来るんだその自信」
一理あるなと思ってしまうから不思議だ。
占いコーナーは薄暗く、森の中に迷い込んだみたいだった。スタッフさんから説明を聞いた後、他の人が画面に向かっているのを見て、俺たちも操作をしてみる。
「あー、わりと当たってる部分あるかも」
「確かに。雪斗ってそういうとこある」
結果を見て、納得してしまうこともあった。奥へ進むと、選ばれた人だけが入れるという入口。2人からしかできないらしく、試しにやってみることにした。
「え、手繋ぐの」
「やめとく?」
貴臣が後ろを一瞥して、心配そうに俺の顔を覗き込む。待っている人がいるらしいことはわかったものの、どうせ知らない人だ。
せっかく来たんだから、と勢い任せに貴臣の手を取った。
「何だよ、がんばったのに!」
「攻略法知らないと難しいみたいだね」
「ちょっと入ってみたかった」
お化け屋敷に向かいつつ、占い結果が印刷された紙をカバンにしまう。
残念ながら選ばれた人にはなれなかった。何も知らずにやって選ばれた人になれる確率は低いらしい。後ろにいた人が失敗したのを見て教えてくれた。
手を繋いだところを見られて、勝手に気まずさを感じていたのに。ただ親切でいい人だった。俺が気にし過ぎなのかもしれない。
相性占いは微妙か結果で、俺よりも貴臣が不服そうで面白かった。おかげで俺は占う前よりも気にならなくて、こんなもんかと軽く受け止められた。100のうち半分はいってるんだから、そう悪くもない。
3Dのお化け屋敷は想像以上に大迫力で、俺は何度も声を上げてしまった。その度に貴臣が肩を震わせて笑うのが視界に映る。気を取られていると、次に飛び出してきたものに飛び上がる。俺は貴臣の反応がちょっと怖かった。
アトラクションにとことん乗って、疲れたら休憩して、ご飯も甘いものも堪能して楽しんだ帰り道。電車で座ると、朝とは違った眠気に襲われた。はしゃぎ疲れた。
室内でもあっちを行ったりこっちを来たり、たくさん歩いた。アトラクションで騒いで、喉も少し痛い。
「雪斗、これ食べなよ」
「おー、助かる。ありがとう」
貴臣がさっきコンビニで買っていたのど飴を受け取って、口の中に放り込む。レモンの酸っぱさと優しい甘さが広がった。
スマホで俺が撮ったものと貴臣から送られてきて保存した今日の写真を確認していく。たまに半目の自分に笑ってしまう。貴臣に任せると、いつも何枚も撮られるから1枚くらいはこうなる。
「え、こんときやっぱ撮ってたのか」
「それね。雪斗が楽しそうだったから。いい顔でしょ」
「楽しそうではある」
いい顔かは知らねぇけど。
カメラ目線で笑っている俺。いい顔に見えるのだとすれば、貴臣に向けた顔がそうなっているということだ。
むずがゆい気持ちになって、次の写真に変えた。とびきりの笑顔の貴臣。この先にいるのが自分だと思うと、胸がいっぱいになる。
「貴臣は次行きたいとこある?」
「えー、どこだろう。どこ行っても楽しいよね。雪斗はある?」
「俺、やっぱ夢の国も行っときたい。できれば海のほう」
寒くない時期なら、俺も貴臣も大丈夫だろう。カレンダーを開いて、このくらいかな、と動かしていた指を止める。
「行こう。せっかくなら泊まりにする? イベント期間に行きたいよね」
「そのあたりはわかんねぇけど、春くらい? これからだんだん寒くなるだろ」
電車の適度な暖かさに瞬きがゆっくりになってきたような気がした。
「春もいいけど、クリスマスの期間とか良さそうじゃない?」
「寒くねぇ?」
「寒そう。でも、春まで待てない。俺がホッカイロとか手袋とか持ってきて、防寒対策ばっちりにするから冬にしよう」
ね? と貴臣が訴えかけるような瞳で見つめてくる。眠くてぼんやりした頭では何も浮かばず、俺は「いいね」とうなずいた。
詳しい話は後回しにしてもらおう。眠くて仕方ない。今日が楽しみで、朝早く起きたのもある。楽しみすぎて眠れなかったのも相まって、意識がふわふわしてくる。
「寒いだろうけど、雪が降っても良さそうだよね」
電車が揺れて、車窓に街の灯りが流れていく。隣の貴臣の声を聞きながら、俺はそっとまぶたを擦った。
「あ、眠くなった? 飴気をつけてね」
「うん、大丈夫。噛んどく」
がりっと飴を噛んで、飲み込む。口の中に清涼感が残る。貴臣の肩に少しだけ寄りかからせてもらった。
「おやすみ。またどうしようか考えよっか。一緒に考えるだけでも楽しいよね」
「すげぇ楽しい。また後で計画立てよう」
おやすみ、と呟いて俺はパーカーのフードをかぶる。
どこへ行くのか考える時間も、どこへ行ったときも、行った後の静かな帰り道さえも、すべてがとくべつで心が満たされている。
隣に貴臣がいれば、何だっていい。この先もこうやって一緒にいられたら、それだけで。
「何してんだよ」
閉じかけていたまぶたを上げる。引っ張られたフードの紐がぎゅっと締まって、視界の中心が小さな穴だけになった。この状態でしゃべっている自分が何だかおかしくて笑いがこみ上げる。
「よく寝れそうでしょ。もっと寄っかかってもいいよ」
「意外と暗くなっていいかも。貴臣も寝ていいよ」
「俺は先に何乗りたいか考えてる。雪斗はゆっくり寝てて」
心地良い温もりに安心して目を閉じる。貴臣がどこを回りたいか気になるものの、今は睡魔に勝てない。目が覚めたときが楽しみだった。
今日でこれだけど、明日はどのくらい混んでるだろうか。
せっかく振替休日のおかげで平日の休みなんだから、有効活用したい。どこへ行こうか、貴臣の部屋で頭を悩ませている。
海のほうだとそろそろ寒かったりすんのかな。俺も貴臣も寒いのは得意じゃないから、やめておくか。
「なあ、貴臣……って、何でお前のロック画面俺!? つーか、おい待て。それいつ撮ったやつ!?」
ちらっとソファーに寄りかかる貴臣を見やると、スマホ画面が見えてしまった。おかげで明日の行き先どころではない。
「えー、わかんないよ。最近だったと思うけど、いつだったかなぁ」
花でも飛ばしてそうなほんわか加減に危うく「そっか」と返事をして流してしまいそうになった。
「誰かに見られたらどうすんだよ。やめとけ」
「ちゃんと後ろ姿にしてあるから大丈夫だよ」
いや、そういう話じゃねぇ。
「じゃあ、俺も貴臣のこと撮ってやる」
「嫌がると思ってるなら俺のことわかってないなぁ。雪斗のロック画面になれるなら喜んで撮られるよ」
はい、とこちらに目線を向けてくる貴臣。適当に撮ったのに、顔が良くて腹立たしい。これをロック画面にしたところで、他の人に見られても綺麗な顔だねって言われるだけだろうが。
写真撮られ慣れてるやつって腹立つな。あ、撮ってんの俺か。
撮った写真のフォルダを遡ってみると、思った以上に貴臣が増えている。
今撮った写真は他の人に見せたいと思わない。これは俺に向けられた顔だ、見るのは俺だけでいい。
「……撮っただけで満足したからいい。そんなことより、明日どっか行きたいとこねぇの?」
「あ、あるよ」
「お、いいじゃん。どこ?」
貴臣が即答した場所に「ああ」と俺はうなずいた。前に行ったのは去年か。
「そういや、貴臣とは行ってないな」
「そうだよ。案内してくれるって言うから、俺はずっと待ってたんだよ」
「待ってねぇで言えよ。俺もうすっかり忘れてたよ」
タツとも初めて行ったきりになっていた。楽しかったけど、距離があるからなかなか自分から行こうとはならない。
「案内してくれるんでしょ?」
貴臣が背後から俺の手元をのぞき込んだ。検索してアトラクションのページを表示させる。貴臣の視線を気にしつつ、フロアごとに見ていく。
「案内できるほど記憶は……けど、言ったからな。いいよ。チケット買おう」
前に買ったのは放課後で時間がないのもあって、アトラクションは2つのものだった。明日は時間もあるし、いくつか回れるだろう。
チケットページ開こうとした俺の手を止めて、貴臣がスマホに指を滑らせる。
「これ気になる。あと、これとか」
「じゃあ、アトラクション乗り放題ってのがあった気がするからチケットはそれにするか」
「うん。それがいい」
前売りチケットを買って、入場のためのQRコードを貴臣に送った。
「チケット送っといた。明日10時からみたいだから朝から行こう」
「ありがとう、後でチケット代送るね。すっごい楽しみ」
「うわっ、抱きつくな」
後ろからガバッと抱きつかれて、反応しようにも身動きが取れない。スマホを近くのベッドに放り投げて「落ち着け」と、今からはしゃぐ貴臣の腕をポンポン叩いた。
:
:
眠い目を擦りながらたどり着いた、青いネオンに照らされた空間。前とあんまり変わっている様子はなかった。
普段と同じくらいの時間に家を出て、電車の中でぐっすり眠ってしまった。昨日アトラクションを調べた後、ゲームで白熱してしまったせい。おかげで2人とも寝起きみたいになっていたのに、貴臣は到着してすぐに元気を取り戻していた。
「やっと来れた」
貴臣の目が輝いて、子供のようにジェットコースターを見上げる。
たぶん、タツに初めて連れてきてもらった俺と同じような反応だと思う。
「とりあえず、貴臣は何乗りたい?」と、大して詳しくもないのに先輩ぶって訊ねた。青く照らされた貴臣があれ、と指を差す。
平日ということもあって、人が全然いない。乗りたいアトラクションにスムーズに乗れそうだ。
「ジェットコースターがいい」
「よし、乗るか。行こ」
貴臣の腕をつかんで連れて行く。ジェットコースターの場所は印象に残っているから、マップがなくてもわかった。
安全バーを下げた瞬間、俺は前も思いっきり叫んだことを思い出したものの、今更どうにもできない。貴臣の声や他の人の声をかき消す勢いで俺の叫び声だけが響いていた。
終わった後、貴臣が隣でクスクス笑う。
「楽しかったね。雪斗の声すごかった」
「俺は貴臣が静かで心配だったよ……」
「えー、だってそんな大した感じじゃなかったから」
涼しい顔をしている貴臣が信じられない。俺の肩を擦りながら「飲み物いる?」とペットボトルの水を差し出してくれた。
ありがたくもらって、スマホで次のアトラクションを考える。
「貴臣はお化け屋敷行きたいんだっけ?」
スマホでマップを確認すると、お化け屋敷は3階だった。エスカレーターに乗って上の階へ向かう。
「うん、けど酔いそうなやつだからジェットコースターの後は微妙かも。違うのにしよう」
「え、俺ならもう大丈夫だって」
「俺が続けてだときついから」
貴臣が自分のスマホ画面をしばらく見つめて「これとかどう?」と、俺に画面を見せてくれた。
のんびりできそうな場所をあえて選んでくれたらしい。明らかに俺のためだった。
マップを確認して歩きながら「占い興味あんの?」と訊いてみる。
「興味がないわけじゃないよ」
貴臣が俺の指先をつかむ。貴臣は必ず指先をつかんで、俺の反応を見てから手を繋ぐ。
俺がちょっとでも微妙な反応をすると、貴臣はごまかすように手を引っ込めてしまう。いつでもいいと言ってあげたいけど、周りの目は気になってしまう自分がいる。
だからって、貴臣と手を繋ぎたくないわけじゃない。ってことは伝わってほしい。
人がいないのを確かめて、俺から手を絡めた。目を細めてきらきらした目をこっちに向けてくる貴臣を無視して、俺はスマホ画面に視線を落とした。こういうときの貴臣は言葉がいらなくて助かる。
「所要時間20分って、意外と色んな占いあんのかな」
詳しいことはあんまりわからない。カップルや友達同士の距離を縮めるのにおすすめと書いてあって、俺はあまり気乗りしなかった。
「せっかくだから相性占いやってみようよ」
「えー、それって相性悪かったらどうすんだよ。俺しばらく気にしそう」
激的に低かったら、俺のテンションに影響する。せっかくデートなんだし、テンションは下げないでいたい。
貴臣がぎゅっと繋いだ手に力を込めて顔を上げると、微笑みかけられた。
「悪かったら、そんなに悪いのに今一緒にいるってすごいことじゃない? それに、今までもずっと一緒にいたのに相性悪かったら占いが間違ってるよ」
「どっから来るんだその自信」
一理あるなと思ってしまうから不思議だ。
占いコーナーは薄暗く、森の中に迷い込んだみたいだった。スタッフさんから説明を聞いた後、他の人が画面に向かっているのを見て、俺たちも操作をしてみる。
「あー、わりと当たってる部分あるかも」
「確かに。雪斗ってそういうとこある」
結果を見て、納得してしまうこともあった。奥へ進むと、選ばれた人だけが入れるという入口。2人からしかできないらしく、試しにやってみることにした。
「え、手繋ぐの」
「やめとく?」
貴臣が後ろを一瞥して、心配そうに俺の顔を覗き込む。待っている人がいるらしいことはわかったものの、どうせ知らない人だ。
せっかく来たんだから、と勢い任せに貴臣の手を取った。
「何だよ、がんばったのに!」
「攻略法知らないと難しいみたいだね」
「ちょっと入ってみたかった」
お化け屋敷に向かいつつ、占い結果が印刷された紙をカバンにしまう。
残念ながら選ばれた人にはなれなかった。何も知らずにやって選ばれた人になれる確率は低いらしい。後ろにいた人が失敗したのを見て教えてくれた。
手を繋いだところを見られて、勝手に気まずさを感じていたのに。ただ親切でいい人だった。俺が気にし過ぎなのかもしれない。
相性占いは微妙か結果で、俺よりも貴臣が不服そうで面白かった。おかげで俺は占う前よりも気にならなくて、こんなもんかと軽く受け止められた。100のうち半分はいってるんだから、そう悪くもない。
3Dのお化け屋敷は想像以上に大迫力で、俺は何度も声を上げてしまった。その度に貴臣が肩を震わせて笑うのが視界に映る。気を取られていると、次に飛び出してきたものに飛び上がる。俺は貴臣の反応がちょっと怖かった。
アトラクションにとことん乗って、疲れたら休憩して、ご飯も甘いものも堪能して楽しんだ帰り道。電車で座ると、朝とは違った眠気に襲われた。はしゃぎ疲れた。
室内でもあっちを行ったりこっちを来たり、たくさん歩いた。アトラクションで騒いで、喉も少し痛い。
「雪斗、これ食べなよ」
「おー、助かる。ありがとう」
貴臣がさっきコンビニで買っていたのど飴を受け取って、口の中に放り込む。レモンの酸っぱさと優しい甘さが広がった。
スマホで俺が撮ったものと貴臣から送られてきて保存した今日の写真を確認していく。たまに半目の自分に笑ってしまう。貴臣に任せると、いつも何枚も撮られるから1枚くらいはこうなる。
「え、こんときやっぱ撮ってたのか」
「それね。雪斗が楽しそうだったから。いい顔でしょ」
「楽しそうではある」
いい顔かは知らねぇけど。
カメラ目線で笑っている俺。いい顔に見えるのだとすれば、貴臣に向けた顔がそうなっているということだ。
むずがゆい気持ちになって、次の写真に変えた。とびきりの笑顔の貴臣。この先にいるのが自分だと思うと、胸がいっぱいになる。
「貴臣は次行きたいとこある?」
「えー、どこだろう。どこ行っても楽しいよね。雪斗はある?」
「俺、やっぱ夢の国も行っときたい。できれば海のほう」
寒くない時期なら、俺も貴臣も大丈夫だろう。カレンダーを開いて、このくらいかな、と動かしていた指を止める。
「行こう。せっかくなら泊まりにする? イベント期間に行きたいよね」
「そのあたりはわかんねぇけど、春くらい? これからだんだん寒くなるだろ」
電車の適度な暖かさに瞬きがゆっくりになってきたような気がした。
「春もいいけど、クリスマスの期間とか良さそうじゃない?」
「寒くねぇ?」
「寒そう。でも、春まで待てない。俺がホッカイロとか手袋とか持ってきて、防寒対策ばっちりにするから冬にしよう」
ね? と貴臣が訴えかけるような瞳で見つめてくる。眠くてぼんやりした頭では何も浮かばず、俺は「いいね」とうなずいた。
詳しい話は後回しにしてもらおう。眠くて仕方ない。今日が楽しみで、朝早く起きたのもある。楽しみすぎて眠れなかったのも相まって、意識がふわふわしてくる。
「寒いだろうけど、雪が降っても良さそうだよね」
電車が揺れて、車窓に街の灯りが流れていく。隣の貴臣の声を聞きながら、俺はそっとまぶたを擦った。
「あ、眠くなった? 飴気をつけてね」
「うん、大丈夫。噛んどく」
がりっと飴を噛んで、飲み込む。口の中に清涼感が残る。貴臣の肩に少しだけ寄りかからせてもらった。
「おやすみ。またどうしようか考えよっか。一緒に考えるだけでも楽しいよね」
「すげぇ楽しい。また後で計画立てよう」
おやすみ、と呟いて俺はパーカーのフードをかぶる。
どこへ行くのか考える時間も、どこへ行ったときも、行った後の静かな帰り道さえも、すべてがとくべつで心が満たされている。
隣に貴臣がいれば、何だっていい。この先もこうやって一緒にいられたら、それだけで。
「何してんだよ」
閉じかけていたまぶたを上げる。引っ張られたフードの紐がぎゅっと締まって、視界の中心が小さな穴だけになった。この状態でしゃべっている自分が何だかおかしくて笑いがこみ上げる。
「よく寝れそうでしょ。もっと寄っかかってもいいよ」
「意外と暗くなっていいかも。貴臣も寝ていいよ」
「俺は先に何乗りたいか考えてる。雪斗はゆっくり寝てて」
心地良い温もりに安心して目を閉じる。貴臣がどこを回りたいか気になるものの、今は睡魔に勝てない。目が覚めたときが楽しみだった。
28
あなたにおすすめの小説
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
寡黙な剣道部の幼馴染
Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……
白馬のプリンスくんには、どうやら好きな人がいるらしい
兎束作哉
BL
――これは幼馴染ニコイチが、幼馴染から一歩進んで恋人になるまでの物語。
白雪凛は188cmの高身長の高校2年生。しかし、授業の終わりには眠ってしまう生粋の居眠り魔であり、名前も相まって“白雪姫くん”や“凛ちゃん”と弄られる。
そんな凛を起こしてくれるのは、白馬燈司という155㎝の低身長の幼馴染男子。燈司は、低身長ながらも紳士的で名前を弄って”おうじくん“と呼ばれる文武両道の優等生。
いつも通りの光景、かわいい幼馴染の声によって起こされる凛は、当たり前の日常に満足していた。
二人はクラス内で、“白雪姫カップル“と呼ばれるニコイチな関係。
また、凛は、燈司を一番知っているのは自分だと自負していた。
だが、ある日、いつものように授業終わりに起こされた凛は、燈司の言葉に耳を疑うことになる。
「俺、恋人ができたんだ」
そう告白した燈司に凛は唖然。
いつもの光景、秘密もないニコイチの関係、よく知っているはずの幼馴染に恋人が!?
動揺する凛に追い打ちをかけるよう、燈司は「恋人とのデートを成功させたいから、デート練習の相手になってほしい」と頼み込んできて……?
【攻め】白雪凛×白馬燈司【受け】
鈍感高身長攻め(平凡)×王子さま系低身長受け(美形)
※毎日12:00更新です
※現代青春BLです
※視点は攻めです
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
恋の闇路の向こう側
七賀ごふん
BL
学校一の優等生として過ごす川音深白には、大切な幼馴染がいる。
家庭の事情で離れ離れになった幼馴染、貴島月仁が転校してくることを知った深白は、今こそ昔守られていた恩を返そうと意気込むが…。
────────
クールで過保護な攻め×完璧でいたいけど本当は甘えたい受け
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる