ショコラとレモネード

鈴川真白

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朝焼けに彷徨う

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 夢の国へ誘おうか迷いながらアプリを開いた。タップしていくと、表示された待ち時間の長さに自然と眉が寄った。

 今日でこれだけど、明日はどのくらい混んでるだろうか。

 せっかく振替休日のおかげで平日の休みなんだから、有効活用したい。どこへ行こうか、貴臣の部屋で頭を悩ませている。

 海のほうだとそろそろ寒かったりすんのかな。俺も貴臣も寒いのは得意じゃないから、やめておくか。

「なあ、貴臣……って、何でお前のロック画面俺!? つーか、おい待て。それいつ撮ったやつ!?」

 ちらっとソファーに寄りかかる貴臣を見やると、スマホ画面が見えてしまった。おかげで明日の行き先どころではない。

「えー、わかんないよ。最近だったと思うけど、いつだったかなぁ」

 花でも飛ばしてそうなほんわか加減に危うく「そっか」と返事をして流してしまいそうになった。

「誰かに見られたらどうすんだよ。やめとけ」
「ちゃんと後ろ姿にしてあるから大丈夫だよ」

 いや、そういう話じゃねぇ。

「じゃあ、俺も貴臣のこと撮ってやる」
「嫌がると思ってるなら俺のことわかってないなぁ。雪斗のロック画面になれるなら喜んで撮られるよ」

 はい、とこちらに目線を向けてくる貴臣。適当に撮ったのに、顔が良くて腹立たしい。これをロック画面にしたところで、他の人に見られても綺麗な顔だねって言われるだけだろうが。

 写真撮られ慣れてるやつって腹立つな。あ、撮ってんの俺か。

 撮った写真のフォルダを遡ってみると、思った以上に貴臣が増えている。

 今撮った写真は他の人に見せたいと思わない。これは俺に向けられた顔だ、見るのは俺だけでいい。

「……撮っただけで満足したからいい。そんなことより、明日どっか行きたいとこねぇの?」
「あ、あるよ」
「お、いいじゃん。どこ?」

 貴臣が即答した場所に「ああ」と俺はうなずいた。前に行ったのは去年か。

「そういや、貴臣とは行ってないな」
「そうだよ。案内してくれるって言うから、俺はずっと待ってたんだよ」
「待ってねぇで言えよ。俺もうすっかり忘れてたよ」

 タツとも初めて行ったきりになっていた。楽しかったけど、距離があるからなかなか自分から行こうとはならない。

「案内してくれるんでしょ?」

 貴臣が背後から俺の手元をのぞき込んだ。検索してアトラクションのページを表示させる。貴臣の視線を気にしつつ、フロアごとに見ていく。

「案内できるほど記憶は……けど、言ったからな。いいよ。チケット買おう」

 前に買ったのは放課後で時間がないのもあって、アトラクションは2つのものだった。明日は時間もあるし、いくつか回れるだろう。

 チケットページ開こうとした俺の手を止めて、貴臣がスマホに指を滑らせる。

「これ気になる。あと、これとか」
「じゃあ、アトラクション乗り放題ってのがあった気がするからチケットはそれにするか」
「うん。それがいい」

 前売りチケットを買って、入場のためのQRコードを貴臣に送った。

「チケット送っといた。明日10時からみたいだから朝から行こう」
「ありがとう、後でチケット代送るね。すっごい楽しみ」
「うわっ、抱きつくな」

 後ろからガバッと抱きつかれて、反応しようにも身動きが取れない。スマホを近くのベッドに放り投げて「落ち着け」と、今からはしゃぐ貴臣の腕をポンポン叩いた。

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 :

 眠い目を擦りながらたどり着いた、青いネオンに照らされた空間。前とあんまり変わっている様子はなかった。

 普段と同じくらいの時間に家を出て、電車の中でぐっすり眠ってしまった。昨日アトラクションを調べた後、ゲームで白熱してしまったせい。おかげで2人とも寝起きみたいになっていたのに、貴臣は到着してすぐに元気を取り戻していた。

「やっと来れた」

 貴臣の目が輝いて、子供のようにジェットコースターを見上げる。

 たぶん、タツに初めて連れてきてもらった俺と同じような反応だと思う。

「とりあえず、貴臣は何乗りたい?」と、大して詳しくもないのに先輩ぶって訊ねた。青く照らされた貴臣があれ、と指を差す。

 平日ということもあって、人が全然いない。乗りたいアトラクションにスムーズに乗れそうだ。

「ジェットコースターがいい」
「よし、乗るか。行こ」

 貴臣の腕をつかんで連れて行く。ジェットコースターの場所は印象に残っているから、マップがなくてもわかった。

 安全バーを下げた瞬間、俺は前も思いっきり叫んだことを思い出したものの、今更どうにもできない。貴臣の声や他の人の声をかき消す勢いで俺の叫び声だけが響いていた。

 終わった後、貴臣が隣でクスクス笑う。

「楽しかったね。雪斗の声すごかった」
「俺は貴臣が静かで心配だったよ……」
「えー、だってそんな大した感じじゃなかったから」

 涼しい顔をしている貴臣が信じられない。俺の肩を擦りながら「飲み物いる?」とペットボトルの水を差し出してくれた。

 ありがたくもらって、スマホで次のアトラクションを考える。

「貴臣はお化け屋敷行きたいんだっけ?」

 スマホでマップを確認すると、お化け屋敷は3階だった。エスカレーターに乗って上の階へ向かう。

「うん、けど酔いそうなやつだからジェットコースターの後は微妙かも。違うのにしよう」
「え、俺ならもう大丈夫だって」
「俺が続けてだときついから」

 貴臣が自分のスマホ画面をしばらく見つめて「これとかどう?」と、俺に画面を見せてくれた。

 のんびりできそうな場所をあえて選んでくれたらしい。明らかに俺のためだった。

 マップを確認して歩きながら「占い興味あんの?」と訊いてみる。

「興味がないわけじゃないよ」

 貴臣が俺の指先をつかむ。貴臣は必ず指先をつかんで、俺の反応を見てから手を繋ぐ。

 俺がちょっとでも微妙な反応をすると、貴臣はごまかすように手を引っ込めてしまう。いつでもいいと言ってあげたいけど、周りの目は気になってしまう自分がいる。

 だからって、貴臣と手を繋ぎたくないわけじゃない。ってことは伝わってほしい。

 人がいないのを確かめて、俺から手を絡めた。目を細めてきらきらした目をこっちに向けてくる貴臣を無視して、俺はスマホ画面に視線を落とした。こういうときの貴臣は言葉がいらなくて助かる。

「所要時間20分って、意外と色んな占いあんのかな」

 詳しいことはあんまりわからない。カップルや友達同士の距離を縮めるのにおすすめと書いてあって、俺はあまり気乗りしなかった。

「せっかくだから相性占いやってみようよ」
「えー、それって相性悪かったらどうすんだよ。俺しばらく気にしそう」

 激的に低かったら、俺のテンションに影響する。せっかくデートなんだし、テンションは下げないでいたい。

 貴臣がぎゅっと繋いだ手に力を込めて顔を上げると、微笑みかけられた。

「悪かったら、そんなに悪いのに今一緒にいるってすごいことじゃない? それに、今までもずっと一緒にいたのに相性悪かったら占いが間違ってるよ」
「どっから来るんだその自信」

 一理あるなと思ってしまうから不思議だ。

 占いコーナーは薄暗く、森の中に迷い込んだみたいだった。スタッフさんから説明を聞いた後、他の人が画面に向かっているのを見て、俺たちも操作をしてみる。

「あー、わりと当たってる部分あるかも」
「確かに。雪斗ってそういうとこある」

 結果を見て、納得してしまうこともあった。奥へ進むと、選ばれた人だけが入れるという入口。2人からしかできないらしく、試しにやってみることにした。

「え、手繋ぐの」
「やめとく?」

 貴臣が後ろを一瞥して、心配そうに俺の顔を覗き込む。待っている人がいるらしいことはわかったものの、どうせ知らない人だ。

 せっかく来たんだから、と勢い任せに貴臣の手を取った。

「何だよ、がんばったのに!」
「攻略法知らないと難しいみたいだね」
「ちょっと入ってみたかった」

 お化け屋敷に向かいつつ、占い結果が印刷された紙をカバンにしまう。

 残念ながら選ばれた人にはなれなかった。何も知らずにやって選ばれた人になれる確率は低いらしい。後ろにいた人が失敗したのを見て教えてくれた。

 手を繋いだところを見られて、勝手に気まずさを感じていたのに。ただ親切でいい人だった。俺が気にし過ぎなのかもしれない。

 相性占いは微妙か結果で、俺よりも貴臣が不服そうで面白かった。おかげで俺は占う前よりも気にならなくて、こんなもんかと軽く受け止められた。100のうち半分はいってるんだから、そう悪くもない。

 3Dのお化け屋敷は想像以上に大迫力で、俺は何度も声を上げてしまった。その度に貴臣が肩を震わせて笑うのが視界に映る。気を取られていると、次に飛び出してきたものに飛び上がる。俺は貴臣の反応がちょっと怖かった。

 アトラクションにとことん乗って、疲れたら休憩して、ご飯も甘いものも堪能して楽しんだ帰り道。電車で座ると、朝とは違った眠気に襲われた。はしゃぎ疲れた。

 室内でもあっちを行ったりこっちを来たり、たくさん歩いた。アトラクションで騒いで、喉も少し痛い。

「雪斗、これ食べなよ」
「おー、助かる。ありがとう」

 貴臣がさっきコンビニで買っていたのど飴を受け取って、口の中に放り込む。レモンの酸っぱさと優しい甘さが広がった。

 スマホで俺が撮ったものと貴臣から送られてきて保存した今日の写真を確認していく。たまに半目の自分に笑ってしまう。貴臣に任せると、いつも何枚も撮られるから1枚くらいはこうなる。

「え、こんときやっぱ撮ってたのか」
「それね。雪斗が楽しそうだったから。いい顔でしょ」
「楽しそうではある」

 いい顔かは知らねぇけど。

 カメラ目線で笑っている俺。いい顔に見えるのだとすれば、貴臣に向けた顔がそうなっているということだ。

 むずがゆい気持ちになって、次の写真に変えた。とびきりの笑顔の貴臣。この先にいるのが自分だと思うと、胸がいっぱいになる。

「貴臣は次行きたいとこある?」
「えー、どこだろう。どこ行っても楽しいよね。雪斗はある?」
「俺、やっぱ夢の国も行っときたい。できれば海のほう」

 寒くない時期なら、俺も貴臣も大丈夫だろう。カレンダーを開いて、このくらいかな、と動かしていた指を止める。

「行こう。せっかくなら泊まりにする? イベント期間に行きたいよね」
「そのあたりはわかんねぇけど、春くらい? これからだんだん寒くなるだろ」

 電車の適度な暖かさに瞬きがゆっくりになってきたような気がした。

「春もいいけど、クリスマスの期間とか良さそうじゃない?」
「寒くねぇ?」
「寒そう。でも、春まで待てない。俺がホッカイロとか手袋とか持ってきて、防寒対策ばっちりにするから冬にしよう」

 ね? と貴臣が訴えかけるような瞳で見つめてくる。眠くてぼんやりした頭では何も浮かばず、俺は「いいね」とうなずいた。

 詳しい話は後回しにしてもらおう。眠くて仕方ない。今日が楽しみで、朝早く起きたのもある。楽しみすぎて眠れなかったのも相まって、意識がふわふわしてくる。

「寒いだろうけど、雪が降っても良さそうだよね」

 電車が揺れて、車窓に街の灯りが流れていく。隣の貴臣の声を聞きながら、俺はそっとまぶたを擦った。

「あ、眠くなった? 飴気をつけてね」
「うん、大丈夫。噛んどく」

 がりっと飴を噛んで、飲み込む。口の中に清涼感が残る。貴臣の肩に少しだけ寄りかからせてもらった。

「おやすみ。またどうしようか考えよっか。一緒に考えるだけでも楽しいよね」
「すげぇ楽しい。また後で計画立てよう」

 おやすみ、と呟いて俺はパーカーのフードをかぶる。

 どこへ行くのか考える時間も、どこへ行ったときも、行った後の静かな帰り道さえも、すべてがとくべつで心が満たされている。

 隣に貴臣がいれば、何だっていい。この先もこうやって一緒にいられたら、それだけで。

「何してんだよ」

 閉じかけていたまぶたを上げる。引っ張られたフードの紐がぎゅっと締まって、視界の中心が小さな穴だけになった。この状態でしゃべっている自分が何だかおかしくて笑いがこみ上げる。

「よく寝れそうでしょ。もっと寄っかかってもいいよ」
「意外と暗くなっていいかも。貴臣も寝ていいよ」
「俺は先に何乗りたいか考えてる。雪斗はゆっくり寝てて」

 心地良い温もりに安心して目を閉じる。貴臣がどこを回りたいか気になるものの、今は睡魔に勝てない。目が覚めたときが楽しみだった。
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