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朝帰りをされて試し行動に気付く
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特に心配なことは起こらなかったが、パーティーに出席した後のウォーレンはそれからどんどん不可解な言動が多くなっていった。
以前まではご令嬢や王宮で働く侍女たちから声をかけられても軽くあしらっていたのに、足を止め、目を見て女性たちと会話をするようになったり。
以前まではお酒好きの同期から飲み会に誘われても断っていたのに、僕はお酒が弱いから留守番を言い渡されウォーレンだけ飲み会に参加したり。
平気でお酒の匂いの中に甘い匂いを混じえて、何時に帰ると行った時刻をはるかに過ぎてから帰ってきたり。
僕はその都度、ウォーレンのことだから何か考えがあるに違いないと何も言わずに笑顔で出迎えてきた。彼の帰る場所になれていると、思っていた。
普段は本当に完璧で良い恋人のウォーレン。
料理も掃除も積極的にしてくれるし、毎日愛の言葉は囁いてくれるし、週3回は身体を繋げている。トロトロに溶かされて愛されていると実感できるセックスなのだ。
こんなに素敵なウォーレンと恋人になれただけでも奇跡なのに、僕の些細な嫉妬や不安をぶつけて彼の行動を縛りたくない。幻滅されたくない。嫌われたくない。
しかしこれらが全てウォーレンによる僕への試し行動だと気付いたのは、ウォーレンが飲みに行ったままその日のうちに帰ってこず、朝帰りした日だった。
ウォーレンがいない黒い部屋の中で、ぼんやりと扉が開かれるのを今か今かとひたすら見つめる夜だった。
まだなにか別の理由があるのではないかという気弱な思いが胸のあたりを漂っている。心の中の拭き切れぬ影が雨雲のように広がり、今まで生きてきて一番長く暗い夜だった。
だから僕は、朝の匂いを感じさせながら何食わぬ顔で帰ってきた彼に、初めて問い詰めた。
「…こんな時間までのんでたの?」
「遅くなってごめんね。もしかして寝てない?寝れなかったの?」
「寝てないよ…寝れるわけないじゃん。今まで朝帰りなんてなかったんだから」
「本当にごめん。酒場で会った気のいいおっちゃんに気に入られてみんなは帰ったのに俺だけ放してもらえなくてさ」
「……最近、飲みに行くの多くない?それは僕は行っちゃダメなの?」
「ロナはお酒弱いんだから絶対ダメ。俺が帰ってこなくて、寂しかった?」
「寂しいというより不安だよ。帰り道で何かあったんじゃないかって」
「心配する必要なんてないよ。俺が強いことはロナが一番よく知ってるでしょ?」
「でも出来ればもう遅くまで飲み会に参加するのはやめてほしい。あまり遊び呆けてると噂になって騎士団長からも何かお小言いわれるかもしれないよ」
僕がそう言うと、ウォーレンは上がっていた口角を僅かに下げ、眉を寄せた。
「…今日はやけに突っかかってくるね?いつもお利口さんで待ってるのに」
「待ってる方の身にもなってよ。いつからそんなに遊び歩くのが好きになったの?」
そろそろ口を閉じないと次から次へと嫌な言葉が出てきそうだと分かってはいたが、僕は寝ていない頭と一晩中苛まれた不安により普段だったら呑み込むはずの言葉が我慢出来ず溢れた。
「俺が遊び歩くのが好きだって?そんなわけないだろう」
「でも僕にはそう見えるよ。お酒が好きなのは分かるけどここで飲むのではダメなの?酔っぱらいに絡まれていつか面倒事に巻き込まれるかもしれないのに」
「俺が酔っぱらいごときに負けるとでも?」
「そうじゃなくて、ウォーレンの身の安全を心配してるんだ」
僕は必死に言い募った。もうこんな夜を過ごすのは嫌だったから。
これが僕たちの初めての喧嘩だと気付きもせず、声に熱が入り説得をしようと必死だった。だからどんどん表情を無くしていったウォーレンから次に発せられた言葉に僕は愕然としたのだ。
「飲みに行くのは俺の自由だ。それが嫌だって言うなら、俺たち別れる?」
みぞおちを打たれたような衝撃を受けて、僕はその場に立ち尽くす。必死に説得しようとしていた熱も不安も霧散し、僕は反射的に答えていた。
「愛しているから別れないよ」
その答えを聞くとウォーレンは急に真冬から真夏になったかのような変わり身を見せ、蕩けるような満足そうな笑顔を浮かべ僕を優しく抱き締め、謝罪の言葉をつらつらと並べてきた。
その態度と笑顔を見たときに、やっと気付いたのだ。
今までのは全て、ウォーレンに試し行動されていたのだと。
それに気付いてからは、今まで黙っていたのが嘘のように僕は毎回指摘するようになった。
指摘すると彼の機嫌が急激に上がることにも気付いたからだ。
そして決まったように最後には同じ質問をされるようになった。「嫌なら別れる?」と。
だから僕も毎回同じ言葉を返した。「愛しているから別れない」と。
どうしてこんなに回りくどいことをウォーレンがするのか。それは僕を心から愛していて、それを実感したくてやっているのだと理解してからは少し心持ちが軽くなった、が。
それにも限度っていうものがある。試し行動に気付いてから約一年。毎回お約束のやり取りをするてびに、僕の心は確実にすり減っていった。
しかしウォーレンを好きなのは変わらないし、別れたくもない。だけどもう、心は限界に近かった。
こんな状況をいつまでも続けながら恋人関係を維持するのは難しいこともいい加減わかっていた。
それでも何も変えられず、どうしたらいいのか分からず、今の今まで僕はずっと同じ場所で立ち止まっている。
以前まではご令嬢や王宮で働く侍女たちから声をかけられても軽くあしらっていたのに、足を止め、目を見て女性たちと会話をするようになったり。
以前まではお酒好きの同期から飲み会に誘われても断っていたのに、僕はお酒が弱いから留守番を言い渡されウォーレンだけ飲み会に参加したり。
平気でお酒の匂いの中に甘い匂いを混じえて、何時に帰ると行った時刻をはるかに過ぎてから帰ってきたり。
僕はその都度、ウォーレンのことだから何か考えがあるに違いないと何も言わずに笑顔で出迎えてきた。彼の帰る場所になれていると、思っていた。
普段は本当に完璧で良い恋人のウォーレン。
料理も掃除も積極的にしてくれるし、毎日愛の言葉は囁いてくれるし、週3回は身体を繋げている。トロトロに溶かされて愛されていると実感できるセックスなのだ。
こんなに素敵なウォーレンと恋人になれただけでも奇跡なのに、僕の些細な嫉妬や不安をぶつけて彼の行動を縛りたくない。幻滅されたくない。嫌われたくない。
しかしこれらが全てウォーレンによる僕への試し行動だと気付いたのは、ウォーレンが飲みに行ったままその日のうちに帰ってこず、朝帰りした日だった。
ウォーレンがいない黒い部屋の中で、ぼんやりと扉が開かれるのを今か今かとひたすら見つめる夜だった。
まだなにか別の理由があるのではないかという気弱な思いが胸のあたりを漂っている。心の中の拭き切れぬ影が雨雲のように広がり、今まで生きてきて一番長く暗い夜だった。
だから僕は、朝の匂いを感じさせながら何食わぬ顔で帰ってきた彼に、初めて問い詰めた。
「…こんな時間までのんでたの?」
「遅くなってごめんね。もしかして寝てない?寝れなかったの?」
「寝てないよ…寝れるわけないじゃん。今まで朝帰りなんてなかったんだから」
「本当にごめん。酒場で会った気のいいおっちゃんに気に入られてみんなは帰ったのに俺だけ放してもらえなくてさ」
「……最近、飲みに行くの多くない?それは僕は行っちゃダメなの?」
「ロナはお酒弱いんだから絶対ダメ。俺が帰ってこなくて、寂しかった?」
「寂しいというより不安だよ。帰り道で何かあったんじゃないかって」
「心配する必要なんてないよ。俺が強いことはロナが一番よく知ってるでしょ?」
「でも出来ればもう遅くまで飲み会に参加するのはやめてほしい。あまり遊び呆けてると噂になって騎士団長からも何かお小言いわれるかもしれないよ」
僕がそう言うと、ウォーレンは上がっていた口角を僅かに下げ、眉を寄せた。
「…今日はやけに突っかかってくるね?いつもお利口さんで待ってるのに」
「待ってる方の身にもなってよ。いつからそんなに遊び歩くのが好きになったの?」
そろそろ口を閉じないと次から次へと嫌な言葉が出てきそうだと分かってはいたが、僕は寝ていない頭と一晩中苛まれた不安により普段だったら呑み込むはずの言葉が我慢出来ず溢れた。
「俺が遊び歩くのが好きだって?そんなわけないだろう」
「でも僕にはそう見えるよ。お酒が好きなのは分かるけどここで飲むのではダメなの?酔っぱらいに絡まれていつか面倒事に巻き込まれるかもしれないのに」
「俺が酔っぱらいごときに負けるとでも?」
「そうじゃなくて、ウォーレンの身の安全を心配してるんだ」
僕は必死に言い募った。もうこんな夜を過ごすのは嫌だったから。
これが僕たちの初めての喧嘩だと気付きもせず、声に熱が入り説得をしようと必死だった。だからどんどん表情を無くしていったウォーレンから次に発せられた言葉に僕は愕然としたのだ。
「飲みに行くのは俺の自由だ。それが嫌だって言うなら、俺たち別れる?」
みぞおちを打たれたような衝撃を受けて、僕はその場に立ち尽くす。必死に説得しようとしていた熱も不安も霧散し、僕は反射的に答えていた。
「愛しているから別れないよ」
その答えを聞くとウォーレンは急に真冬から真夏になったかのような変わり身を見せ、蕩けるような満足そうな笑顔を浮かべ僕を優しく抱き締め、謝罪の言葉をつらつらと並べてきた。
その態度と笑顔を見たときに、やっと気付いたのだ。
今までのは全て、ウォーレンに試し行動されていたのだと。
それに気付いてからは、今まで黙っていたのが嘘のように僕は毎回指摘するようになった。
指摘すると彼の機嫌が急激に上がることにも気付いたからだ。
そして決まったように最後には同じ質問をされるようになった。「嫌なら別れる?」と。
だから僕も毎回同じ言葉を返した。「愛しているから別れない」と。
どうしてこんなに回りくどいことをウォーレンがするのか。それは僕を心から愛していて、それを実感したくてやっているのだと理解してからは少し心持ちが軽くなった、が。
それにも限度っていうものがある。試し行動に気付いてから約一年。毎回お約束のやり取りをするてびに、僕の心は確実にすり減っていった。
しかしウォーレンを好きなのは変わらないし、別れたくもない。だけどもう、心は限界に近かった。
こんな状況をいつまでも続けながら恋人関係を維持するのは難しいこともいい加減わかっていた。
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