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第三王子が帰還するそうで
しおりを挟む残暑が遠のくと、季節は露骨なほど秋らしい顔を見せる。騎士団の制服も夏用から秋冬用へと変わり始める頃、王宮の慌ただしい雰囲気が騎士団の僕たちのところにまで伝わってきていた。
どうやら海を挟んだ向かいの大陸にある同盟国に親睦を深めるため長年留学していた第三王子が帰国するらしい。その帰還パーティーを王宮主催で大々的に開催するという。
カーティス・ビリンガム第三王子。はちみつ色の髪と美しい顔立ち、幼い頃から聡明で王太子や第二王子よりも優秀だとされてきた。
その優秀さゆえに、王太子派閥や第二王子派閥が手を組み、海を越えなければ帰ってこれない遠くの国へ本来よりも早く、本来よりも長く留学するよう仕向けたと密かに囁かれている。
そんな第三王子であるカーティス様と僕は、幼い頃、ご学友というやつだった。
国の官僚である両親に連れられて初めて登城した王宮で、僕はカーティス様の遊び相手になるのだと言い渡された。
まだ5、6歳の僕には難しいことは何一つ分からず、ただお友達が増えるという嬉しさだけでカーティス様と初対面を果たした。
当時のカーティス様はお人形さんのように可愛らしく、はちみつのように美味しそうな髪色と瞳をしていて僕はすぐにカーティス様と仲良くなりたいと思った。
最初は警戒心が強くなかなか心を開いてくれなかったが、辛抱強く話しかけ、一緒に砂のお城を作ったりカーティス様の似顔絵を描いてプレゼントしたりかくれんぼをして遊んでいくうちに、すっかり打ち解けたのだった。
そんな彼との別れは10歳の頃。突然別れの言葉もなく海の向こうの国に留学されたと聞いて、しばらく好物のマフィンすら食べれないほどショックで落ち込んだ。
せめて手紙だけでもと親にただをこねたが、海の向こうまで運ぶには大層な所業であり、国のために学びに行かれた王子を見習ってロナも頑張りなさいと言いくるめられた。
しかし僕は勉強がてんでダメだった。優秀な両親の子のはずなのに勉強しても成績は伸びず、将来は自分達と同じ官僚につかせたがっていた両親は早々に諦め、僕に騎士の道を示したのだ。
カーティス様と別れの言葉もなく会えなくなってから、10年の月日が経った。彼が僕を覚えているかは分からないが、成長した彼を遠くからでも見られたらと、僕も彼の帰還を楽しみにしていた。
第三王子帰還のパーティーには両親ももちろん出席するため、僕も自然と参加することが決まっていた。
ここ数年は隣国の怪しい動きもなく、平和な日々がビリンガム国全体に漂っているとはいえ、僕たち第一騎士団は毎日しっかり訓練に明け暮れている。
そんな第一騎士団は王宮直属の組織なのでパーティーの警備を任されることとなり、僕は招待客として、ウォーレンは仕事としてパーティーに参加することになる。
「明日、パーティーにはあの服装で行くの?」
「うん。お母様からこれを着ろと問答無用で押し付けられてさ。本当は僕も騎士団として警備の仕事したかったんだけどなぁ」
「ロナの家は王族に近い家系だからそうもいかないのは分かってるけど…俺も、一緒に警備の仕事したかったよ」
「先輩方にもお前だけずりぃって茶化されたけど…理解ある職場で良かった」
「王子とは……10年ぶり?」
「うん、そうだね。カーティス様は僕のことなんて覚えていないと思うけどね」
部屋のソファでウォーレンに抱き締められながら明日のパーティーについて話す。こうして部屋で2人きりのときは甘い空気に包まれ、安心して彼に身を委ねられる。試し行動さえなければ、本当に幸せだと思えるのに。
「分かってはいると思うけどお酒をすすめられても断るんだよ?1人にはならないでなるべくご両親と一緒にいて」
「もちろん。1人になってもどうしたらいいか分からないし。たぶんあちこち挨拶回りで終わっちゃうかも」
「変なお偉いさんがいたらすぐ俺を呼んでね。なるべくロナを視界に入れたまま警備するから」
「僕じゃなくて不審者がいないかきちんと目を光らせながら仕事して」
「こんな可愛い君から目を離すのは難しいな」
こめかみにキスを落とされながら2人で顔を寄せあってくすくす笑う。自然とその距離は縮まり、柔らかさを確かめるようにお互いの唇を味わう。
確かにこの空間は他の暗い影など寄せ付けず、かけがえのない大切な時間であり、何よりも幸せだと思えるものだった。
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