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誓いのキス
しおりを挟む母上が乗ってきた実家の紋章がついた馬車に揺られること十五分弱で、結婚式の会場である聖セントレス教会に到着した。
着くまでの間、騎士団内で虐められているんじゃないかと心配されたがそれは断固否定しつつ、今日の命令の真意については必死にはぐらかした。
教会周りは騎士団の警備が厳重にされているものの、参列者の姿は見えない。恐らく全員教会の中にいて式は順調に進んでいることだろう。
馬車の出入り門で、僕の母上だと分かっているだろうが念のため止められる。母上はカーテンを開けず、声だけで騎士団の警備を抜けた。カーテンを開けて中まで見られていたら僕は隠れようもなかったから、ホッと胸を撫で下ろす。
馬車が止まると、僕はカーテンの隙間から騎士団の人間が近くにいないのを確認すると静かに馬車から下りた。
僕が自宅待機命令を出されていることを知る騎士団員がどれくらいいるのか分からない。母上に伝えたのと同じく体調不良だと伝えられていそうだし、知るのは騎士団長と寮の門番係だけだと思うが念のためだ。
「式はもうだいぶ進んでいるみたいだわ。大事な場面になりそうだから音を立てず静かに横扉から入りましょう」
数々の結婚式に参列している母上は慣れているようで、騎士団が警備している教会の正面入り口ではなく、警備の目から死角になっている狭めの横扉をそっと開いた。
母上の後を追って少しだけ開いたドアの隙間から平べったい影のようにするりと中に入ると、そこは神々しい空間が広がっていた。
光を追求して造られているのが分かるほどに天井は高く、色鮮やかなステンドグラスが入った窓から差し込む陽の光は反射して不思議な色彩を放っている。
その光の真下で神父が聖書を手に持ち、彼を挟むように美しい白い装束に身を包んだ男女の後ろ姿があった。
―――ドクン。心臓が、嫌な跳ね方をする。
「ちょうど、誓いの言葉が始まるみたいだわ。ここに座りましょう」
僕にしか聞こえないくらいの小声で話す母上のされるがままに、腕を引かれて横扉のすぐそばの最後尾の席に座る。教会の中は広いため、誰も僕たちが入ってきたことに気付いていないようだった。
そんな広い教会の中に、神父の穏やかで慈愛に満ちた声が響き渡る。
「ウォーレン・コーク。あなたはセリーヌ・アーバントを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
―――あぁ、そうか。
どうして今日、僕は寮から一歩も出ないよう命令を下されたのか、今やっと分かったよ。
「セリーヌ・アーバント。あなたはウォーレン・コークを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
僕は、本当にバカだ。
ウォーレンも騎士団長も一生懸命僕から、これを隠そうとしていたのに。
僕をこの聖なる場所に、近付けないようにしてくれていたのに。
「それでは、誓いのキスを」
これを、僕に必死に見せないように、していたんだね。
―――ドクン、ドクン、ドクン。
新郎新婦が向かい合い、新郎が新婦のベールをそっと外す。シルバーブロンドを後ろで一つにまとめた恋人の横顔は、神々しいほどに美しかった。
―――ドクン、ドクン、ドクン。
あぁ……ウォーレン。
愛おしい僕の恋人。
君の言葉を信じて、何も知らないまま、何も見ないまま、あの部屋に閉じこめられていればよかった。
そして、僕の、恋人は。
神の御前で、僕ではない、別の人間に。
「おめでとう!!」
―――誓いの、キスをした。
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