【完結】恋人から試し行動され続けるけど僕の愛は揺らがない。

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究極の選択

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    一度は雲って霞んで見えなくなっていたウォーレンの愛がはっきりと浮き彫りになっていく。自分の心を守るためにウォーレンを愛する気持ちは少しずつ消化していかなければいけないと思っていたが、再び熱を帯び始める。
    しかしここで今すぐに僕一人で行動を起こすのは無謀だ。気持ちとしては今すぐに彼の元に駆けつけたいが、相手が相手なだけに慎重に動かなければいけない。勇気と無謀をはき違えてはいけない。

    僕に想いを寄せてくれているカーティス様に助けを求めるのは忍びないが、彼の助けなしでは王太子と騎士団長相手に手も足も出ない。だからカーティス様が帰ってきたら今日あったことを全て報告してこれからのことを相談しようと決めた。

「ちょっと待って…そしたらティスは、どうなるんだ…?」

    僕とウォーレンのことばかり考えてしまっていたが、よくよく考えたら王太子はとても物騒なことを口にしていた。
    僕がカーティス様の求婚を受けてラディス国に行けば、カーティス様の身は安全であり、恐らくウォーレンも解放される。しかし、もし僕が求婚を断ればカーティス様はビリンガム王国から出ないため王太子にとっては邪魔な存在となる。つまり。

『アイツの命を狙うしかあるまい』

    王太子の言葉を思い出し、背筋に冷や汗が流れる。彼の声色と声にのせられた執念の重さは、本気だった。しかし、騎士団長はそれを阻止したそうな口振りだったことも思い出して、気付く。

    騎士団長が、僕とウォーレンを別れさせようと仕組んだのは、僕とウォーレンに恨みがあるからとか王太子のためだからではなく、カーティス様の命を救うためだということに。

    僕が上司として尊敬し、これまでに騎士団で見てきた彼は、決して仲間を裏切ったり貶めたりするような人ではなかった。母上の話を聞いたときも半信半疑だったし、何のためにそんなことを、と思っていたからこれで合点がいった。

    騎士団長として、王太子による第三王子の暗殺計画を阻止しようとしているんだ。

    カーティス様の命と、僕とウォーレンの恋路を天秤にかけ、前者に傾くのは騎士団長として当たり前の話だ。王太子をお縄にかけたくないだろうし、暗殺未遂、最悪本当に暗殺があったら国民の不安を煽り王族の根底を揺らがす。
    とある恋人を別れさせるだけなら罪にはならないし、血も流れない。国家も揺るがない。万々歳だ。

    そこまで考えて、カーティス様の命とビリンガム王国の平穏のためにこのまま僕は求婚を受け入れ、カーティス様と共にラディス国に行くのが最善なのかもしれないと嫌でも気付く。
    今は監禁されているウォーレンも、僕とカーティス様がラディス国に行ったと分かれば解放される。逆に、求婚を受け入れずビリンガム王国に留まれば留まるほど、ウォーレンの監禁生活は長引くということだ。
    カーティス様のためにも、ウォーレンのためにも、僕はカーティス様と共にラディス国に行くべきなのだろう。

    でも、僕とウォーレンの気持ちは、どうなる?

    ただのちっぽけな騎士団の一員である僕の肩に、ずっしりと重い責任がのしかかってくる。
    今すぐにその重荷を振り払って、アーバント家に向かいたい。監禁されているウォーレンを助けたい。ウォーレンの胸に飛び込みたい。何も考えず、ウォーレンと二人だけで逃げ出したい。僕たち二人だけのことを考えたら、本当にそうしたい。

    けれど、そんなことは出来ない。
    これまで僕の気持ちに寄り添い、木綿でくるんだように大切に扱い、尊重し続けてくれていたカーティス様を置いて、彼の命を危険にさらすことなど出来ない。
    明るい快活な笑顔でラディス国でのことを話し、シッパに乗り、弓を教えてくれた彼を見捨てることなど出来ない。
     何より、僕と結婚したいと真摯に伝え、僕を子供のときから思い続けてくれていた彼には、幸せな未来を生きてほしい。

    ウォーレンとの未来も、カーティス様の命も、どちらも大切でどちらも手離したくないのに、どちらかしか選べない現状が苦しくてたまらない。

「どうしよう…どうしたら…」

    何の力もない僕にどちらも救うにはどうしたらいいのか。僕の両の掌の大きさ分しか掴めないっていうのに、こんなに小さな掌で何を掴めるというのか。

    ベッドの端に座り、頭を両手で抱えながら自分の無力さにうちひしがれていると。

「ロナ?帰ったぞ」

    はちみつ色の彼が、太陽のような笑顔で部屋に入ってきた。
    僕はその笑顔を見上げて、自然と視界がぼやけていく。鼻の奥がツーンと痛み、目の縁から涙が染み出てくる。ぼろぼろと、涙を流し始める僕のそばにぎょっとした顔で近付いてきた、この国の第三王子。

「ろ、ロナ!?どうしたんだ!?」
「ふぇ、うえぇん…!」

    胸がいっぱいいっぱいになって、僕は我慢が出来ずに思わず情けない声をあげながら泣き始めた。そんな僕の肩を抱きよせ、寒い冬の外から帰ってきたというのに体温の高い掌で背中をさすられる。その温かさが、余計に涙を誘った。

「俺のいない間に何があったんだ…?アザレア様がいらっしゃったと聞いたが何か傷付くことでも言われたのか?それとも使用人に嫌なことでもされたか?」

    子供に言い聞かせるような丸い声で問いかけてくる彼の言葉に、すべて否定の意味をこめて首をふる。僕一人では抱えきれない重大な事実を前に、隠し通すのは無理だと早々に諦め、ポツポツと今日の出来事を話し始めた。

    話がまとまらず文法はぐちゃぐちゃで分かりづらかったはずなのに、カーティス様は優しく頷きながら耳を傾けてくれる。ひっく、ひっくと息をしながら一通り話し終えると。

「そんなことが……ありがとな、最後まで話してくれて。ロナ、よく頑張った。辛かったな」
「うぇ、てぃす~~…」
「まさかウォーレンを監禁までするとは…アーバント家から騎士団に通っているという報告は丸っきり嘘だったってことか。どこからどこまで王太子と騎士団長の駒が紛れているか分かったもんじゃないな…俺も確認が甘かった。すまない」
「ティス…これから、どうしたらいい?どうすればいい?」
「ロナ、大丈夫だ。何も心配することはねぇよ。俺に任せとけ」

    大したことはないと言わんばかりの軽やかな表情と口調のカーティス様。これはすべて僕を安心させるための彼の気遣いだと分かっているが、彼が大丈夫だと言えば本当に大丈夫になりそうで、一気に肩の力が抜けた。
    気が緩むと泣きすぎたからか、ズキンズキンと頭が痛み始め、瞼も重くなってくる。これはまた冷やさないと腫れちゃうなと思いながら。

「大丈夫だから、もう今日は休め。おやすみ、ロナ」

    その言葉に誘導されるようにベッドに身体を預け、温かくやわらかい泥の中にずぶずぶと入っていくような感覚になりながら、僕は意識を沈めていった。
    完全に沈める直前、唇に優しく温かな感触が触れるのを、ぼんやりと感じた。

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