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世界で一番美しい色
しおりを挟む『初めまして、俺はウォーレン・コーク。君の同室者だ。これからよろしくね』
『もっと腰を下に、右足をもう少し前に…顎は引いて目の前の敵に集中してみて』
『驚いたよ、そんなに小さな身体で大きなアイツを負かしたなんて』
『すごいな、ロナは。努力の天才だ。俺も君を見習って頑張らないと』
『あははっ!顔に泥がついたままになってる。拭いてあげるからこっちにおいで』
『将来は第一騎士団を目指しているんだ。父が目指していたけど怪我をして断念してね…父の願いでもあるんだ』
『…今日、ジョンと話し込んでたけど、いつの間に仲良くなったの?』
『そうだったのか、優しいなロナは。でもそういうときは俺を呼んでくれ』
『第一騎士団に…?自分が何を言っているか、本当に分かってる?』
『ロナは確かに体格不利をものともしない戦術と強さを持ってるけど、第一騎士団は危険な任務が一番多いんだよ。大男たちの集団で、小柄なロナがからかわれるかもしれないんだよ』
『……わかった。そこまで言うなら君の夢を俺も応援するよ。俺がそばにいて茶化すような奴は分からせればいいしね』
『すごいぞロナ…!本当に第一騎士団への入団が認められるなんて…!』
『ロナ…ジョンに告白されたって、本当?』
『俺はロナが好きだ。これからもずっと一緒にいたい。ロナも俺と同じ気持ちだと思ってるんだけど…違う?』
『よかった…!あぁ、ロナ…!俺も心から好きだ。これから第一騎士団でも寮でもずっと一緒にいよう』
『今日はロナのビーフシチューが食べたいな。大好物なんだ』
『俺が髪を乾かしてあげる。少し伸びたよね。今度の休みに散髪屋に行こう』
『見て、ロナ。この下着と制服を一緒に手洗いしたら色が移ってしまったよ…』
『俺もだいぶ料理が上手くなったと思わない?ロナが教えてくれたからってのもあるけど一番の隠し味は俺の愛だよ』
『明日は同じ休みだし、観劇を見にでも行かない?おもしろかったとご令嬢たちが噂してたよ』
『ロナ…触れたい。ダメ?』
『もっと君を感じたい。もっと君の乱れた姿を見たい』
『なに今の。ほっぺ押し付けるロナ、可愛すぎるよ。俺をどうするつもり?』
『どうしてほしい?言葉にしないとあげないよ』
『ほら、逃げないで。ロナももっと深くまで繋がりたいだろう?』
『欲しいなら、ロナからキスしてほしいな。そしたらお望みのものをあげる』
『あぁ……気持ちいい、最高だよ。ロナは本当に最高だ』
『愛しているよ。俺のロナ』
***
目が覚めると、夢の雰囲気から自分だけ追い出された冬の朝だった。夢と現実の境目があやふやで、ずっと夢の中にいたかった気もするし、早く現実に戻らなければいけない気もする。
そして次第に覚醒してきた頭で思い出したのは、眠りにつく前のカーティス様との会話で。僕は寝過ぎたことをはっきりと自覚し、ベッドから飛び起きた。
「おはようございます、ロナ様」
カーティス様の姿を探そうと部屋から出ようと扉を開けたところで、はかったように目の前にいたのは、今日も一つのシワもシミもないシャツと燕尾服姿の執事だった。
「お、おはようございます。どうやら僕は寝過ぎてしまったようで…カーティス様はどちらに?」
「よく眠られていたようで何よりでございます。カーティス様は昨夜からお出掛けになられております。カーティス様がお戻りになるまで、ロナ様は安心してお待ち頂くようにとの言伝てを預かっております」
「どこに出掛けたとか、いつ戻るとか仰っていましたか?」
「そこまではお聞きしておらず、申し訳ありません。ロナ様は昨夜から何も召し上がられていませんから、まずは朝食に致しましょう。氷水とタオルも準備した方がよさそうですね」
「あ…そう、でした。ありがとうございます」
「すぐにご用意致しますので、室内で着替えてお待ち下さい」
泣きじゃくった昨日の痕跡が残る腫れた瞼を恥ずかしく思いながら、そっと扉を閉めて室内に戻る。カーティス様と冷静になった今、話し合いたかったが、出掛けているなら仕方がない。
しかし昨夜から、ということは僕との会話の後に出掛けて杏の宮に戻ってきていないということだ。何かあったのか、それとも僕の話を聞いてすぐに動かなければと思ったのか…どちらにせよ、早く帰ってきてくれと祈ることしか出来なかった。
ちょっと遅めの朝食を終えて、昼食は軽くすませ、夕食の時間になってもカーティス様は帰らず、だんだんと不安で落ち着かない気分を掻き立てられる。身体を動かし続け、気を紛らわそうとしても、あまり効果はなかった。
「ホッジさん…カーティス様は、まだお戻りになられないんでしょうか?今日も帰ってこないなんてこと、あるんでしょうか?」
「ロナ様。お気持ちは分かりますが、今は信じてカーティス様をお待ち下さい」
「せめてどちらに行ったのか、分かりませんか?」
「それは…」
やけに落ち着きはらった執事の佇まいに、カーティス様がどこにいて何をしているのか、知っているんじゃないかと勘繰る。僅かに崩れた口元を見て、確信した。
「やはり、本当はカーティス様がどこに行ったのか、ご存知なんですね?お願いします、心配なんです。教えて頂けませんか」
切実な思いで執事のホッジさんを見つめる。彼は逡巡するような素振りを見せた後、一度ゆっくりと瞬きをしてから口を開いた。
「カーティス様は現在、王宮におられます」
「王宮に?王様から登城するよう、呼ばれたんでしょうか?」
「いいえ、カーティス様自ら、王宮に向かわれました。やらなければいけないことがある、と」
それを聞くや否や、嫌な予感がした。重くるしく、周囲の空気が急に固形体になって四方から身をしめつけるような、そんな嫌な予感だった。
「このことをどうしても、と聞かれたらお伝えしてよろしいとの事でしたが、ロナ様が杏の宮を離れることは決して許さないとの命令を承っておりますゆえ、ご理解下さい」
「王宮に…何をしに……でも、ホッジさんもこんなにカーティス様のお帰りが遅いのはおかしいと思いませんか?」
「いいえ。ロナ様、おそらくですが…カーティス様は…」
不穏な執事の口ぶりに、胸の中が暗いもやもやとした、不安の霧で満ちてくる。まるで、その言葉の先に、"帰らない"とでも続くような。
いても立ってもいられず、ソファから立ち上がり窓の外に視線を送る。まだ夕方とも呼べる時間帯なのに完全に日が落ちきった冬の空を、見つめる。
昨夜、すべてをカーティス様に打ち明けてしまったのが事の発端だ。彼に伝えたのは間違いだったのだろうか。いや、伝えなかった時のことは考えられない。せめて、泣き疲れて眠ってしまうような時ではなく、冷静な頭で話し合える時に話せていたら。
そんな後悔に苛まれながら、執事が静かに、しかし注意深く僕の動きを追っているのを感じる。僕は待つことしか出来ないのか、と再び自分の無力さに落胆していると。
窓の外から、複数の馬の蹄の音が微かに聞こえてきた。それは次第に大きくなり、明らかに杏の宮に向かってくるのが分かる。僕はカーティス様が帰ってきたのかと期待に胸躍らされながら窓に近付き、音の聞こえる方に視線を向けた。
冬の暗がりを背に、どんどん近付いてくる音と共に、次第にその姿が浮き彫りになっていく。はっきりと、その"色"を認識した途端、僕は、部屋から飛び出していた。
世界で一番、美しい色。
シルバーブロンドが、見えたから。
明日10/31に朝夜2話ずつ投稿して完結です。
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